トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
深く、昏く、静謐な空間。
ただ一つ灯るのは、ライトセーバーから滲み出る赤い光だけだった。それが照らしているのは、座して瞑想に耽る人影。漆黒のヘルメット、禍々しい形相のマスク、裾を引き摺るほど長い黒のマントを纏った者が闇に身を委ねていた。
マスクの内側のかすかな吐息と、フォースの流れが同調する。激情と欲望に荒れ狂う、ダークサイドのフォースが心身を掻き乱していく。それに伴い、黒衣の者の周囲では風が渦巻いていた。
フォースは万物の命に繋がり、過去と未来にもまた通じている。その流れにほんの少し陰りがある。小石のように些細で、針の一刺しのように僅かなものだが、それはやがて大きな力を伴うようになる。
その陰りを与えるのは誰なのか。今はまだ目覚めきっていないが、フォースによって導かれている。その姿は、三本のレックを持つトワイレックの少女。
「やはり……」
以前、見たものと変わっていない。黒衣の者はマスクを上げ、立ち上がる。マントを払って砂埃を散らすと、手を翳す。深紅のライトセーバーは赤い刀身を収めると、本体がグローブを填めた手中に戻る。
黒衣の者は我が身に宿るフォースを操り、体を浮き上がらせると、天井が独りでに開いていく。それはここがシスの寺院であり、この者はシスの暗黒卿だからだ。闇の力を宿した古き寺院は、闇を持つ者の意志に呼応する。
アウターリムからも更に離れた銀河の辺境に位置する惑星モルルは、シスの歴史からも忘れ去られた寺院があった。その上に建造されたのが帝国の離宮であり、帝国残党の新たな拠点である。
複数の天井を通り過ぎると、光が差し込んできた。黒衣の者はその先に至り、中庭に接した部屋に到着すると、声を掛けられた。
「ダース・シャハー、お戻りですね」
オード・キューだった。
「ああ」
ダース・シャハーと呼ばれた黒衣の者は、短く答えてからライトセーバーをベルトに提げる。
「依然として、あのヴィジョンに変わりはなかった」
「やはり、そうですか」
「賞金は懸けたか」
「無論ですとも。但し、賞金稼ぎに怪しまれない程度の価格で。あまり高額にすると怪しまれますので」
「結構」
ダース・シャハーは小さく頷いた。マスクを隔てた声はボイス・チェンジャーによって、電子的なノイズが加えられていた。
「皇太子殿下がお呼びです」
「解った」
ダース・シャハーは回廊に入り、進んだ。シスの寺院の上に建造された離宮は、建材だけでなく建築様式からして別物なので、どちらも馴染んでいない。回廊の繋ぎ目ではそれが顕著で、シスの過去と現在に大きな隔たりがあることを示すかのようだった。
離宮に入ると、ストーム・トルーパーや警備ドロイドが出入りしており、いずれもダース・シャハーが通りかかると足を止めて敬礼する。オード・キューはその様を満足げに眺めながら、黒衣の暗黒卿に続いた。
衛兵によって扉が開けられ、謁見室へと招き入れられた。玉座に座すのは、帝国の礼装を纏った若き皇太子だった。青白い肌のヒューマンの青年である。
「ヴィシャム皇太子殿下」
ダース・シャハーが片膝を突いて頭を下げると、オードもそれに倣う。皇太子、ヴィシャムは穏やかな声色で述べた。
「ダース・シャハー。オード・キューに何を命じた?」
「はい、皇太子殿下。いずれ帝国を脅かすであろう、フォースを宿した者を追わせるためです。先程も瞑想に現れたのです。その者が強き力を得る前に、先手を打たなくてはなりません」
「シス騎士団に招き入れたらどうだ」
ヴィシャムの言葉に、オードが顔を上げる。
「当初の予定ではそのはずだったのですが、予期せぬことが起きて逃げられたのです。ジェダイに仕えていたドロイドが手を貸したようで……」
「そうか。ならば、そのドロイドも捕らえよ。そして、余の前に差し出せ。帝国の再興を阻むのであれば、その時に首を刎ねてしまえばいい」
ヴィシャムが右手を差し伸べると、ダース・シャハーとオードは深々と頭を下げた。
「仰せのままに、我が主」
「下がれ」
ヴィシャムに命じられ、二人は立ち上がり、謁見室を後にした。オードの足取りは軽いが、ダース・シャハーはそうではなかった。マントの裾が翻るたび、フォースが漏れていた。
「あの娘がそれほど気になります?」
オードに問われ、ダース・シャハーは聞き返した。
「お前はどうなんだ」
「直に接した印象ですと、将来有望だとは思いますが、マスターを師事していないのであれば、期待しすぎると肩透かしを食らいますよ。だから、あまり警戒しすぎなくともよろしいのでは?」
「楽観的だな」
「賞金稼ぎを泳がせておけば、いずれは見つかりますよ。ナザ・シーサイにも言い含めておきましたから」
「まあいい。引き続き、私は例の作戦に力を注ぐ。あの娘の件はオードに任せる。手が足りなければ、シス騎士団を駆り出せ」
ダース・シャハーがマスクを向けると、オードは一礼する。
「そのようにいたします、ダース・シャハー」
では失礼します、とオードが去ると、ダース・シャハーはマントを翻して歩調を早めた。マスクの端に触れ、目元のモニターを作動させると、ホロの噴水が目立つ中庭の光景に映像が重なる。それに写るのは、三本のトワイレックを持つ奴隷の少女、セーヤ・ミットーの画像と個人情報だった。
ヴィジョンで見たものと一致していた。
カンナ星系、惑星ビッグシップ。
同盟軍基地にて、セーヤはパイロットの訓練と座学を受ける合間にフォースの訓練も続けていた。どちらも頭と体を使う部分がまるで違うので、切り替えるのが大変だったが、それも慣れるしかない。
飛行場と格納庫から離れた場所で、セーヤはテンノーの指導を受けながらテレキネシスを発現させようとしていた。心身をフォースに馴染ませ、フォースの流れを感じ、外側に向けて物体に作用させる。言うのは簡単だが、それを実行するのは難しかった。
「んー……」
セーヤは両手を翳し、唸った。視線の先にあるのは錆び付いたシャフトだったが、フォースを向けているつもりなのに微動だにしない。
「んんー……」
セーヤは集中しようとするが、やはりフォースが外側に出てこない。それどころか、上滑りしてしまう。
「力みすぎですよ、セーヤ」
テンノーに忠告され、セーヤはむっとする。
「解っているって」
けれど、力の抜き方が解らない。ただ、そこにあるものを感じ取って身を委ねれば、おのずと応えてくれるのだろうとなんとなく感じる。しかし、そのなんとなくから先が解らない。解ろうとしても、解ろうとした、という心持ちのせいで掴めなくなる。
「うー……」
ますます混乱してきた。セーヤが困り果てて両手を下げると、カミーノがやってきた。
「よお、やってるか?」
「あっ、カミーノ」
セーヤが振り向くと、カミーノはセーヤに果物を投げ渡してきた。熟れたメイルーランだった。
「わあっ、メイルーラン!」
セーヤがはしゃぐと、カミーノはにやつく。
「上物だぞ、感謝しろよ。この基地には滅多に入ってこないんだから」
「ありがとう! メイルーラン大好き!」
セーヤは朽ちかけた輸送車に腰掛け、メイルーランの皮を剝き、瑞々しい果肉にかぶりついた。甘くて果汁がたっぷりで、とてもおいしい。
「よかった、気に入ってくれて」
カミーノはセーヤの隣に腰掛け、メイルーランの皮を剝かずに齧ってから、皮だけをぺっと吐き出した。
「で、どうなんだ? ジェダイの方は?」
「全然。これなら、フライトシミュレーターの方が慣れるのが早いぐらいだよ。離陸の手順は覚えたし」
セーヤは手を動かし、Xウィングの離陸に必要なスイッチを入れる手順をしてみせた。
「一応、ジェダイのことはスワンプ大佐には秘密ってことになっているけど、それでいいのか?」
カミーノに案じられ、セーヤはメイルーランを食べてから答えた。
「クローン戦争の時に大勢のジェダイがやられちゃって、ジェダイの立場が微妙になっているから、ジェダイって名前を出すだけで嫌がる人もいるだろうから。スワンプ大佐もそうだけど、ここの基地の人達とは仲良くしたいし」
「そうか」
「うん」
セーヤが頷くと、テンノーが口を挟んだ。
「その心掛けは結構ですし、ジェダイの道を歩み始めたばかりですから、無闇に言い触らすべきではないですから、それらに関しては同意見です。ですが、パイロットの訓練にばかり時間を割いていては、いつまでたってもフォースの扱いに慣れませんよ?」
「色々とやることがあるの。雑用の仕事もあるし、Xウィングの操縦を覚えるためには座学も必要だし、そのための基礎学習だって……」
セーヤが言い返すと、カミーノが割って入る。
「セーヤは学校に行っていなかったんだから、勉強すること自体がまだ不慣れなんだ。でも、真面目に取り組んでいるからいずれは結果が出る。ジェダイにしてもそうだ、焦ることはないって」
「カミーノ。あなたは善良ですが、それでは本当の意味でセーヤのためにはなりませんよ。今だってそうです、ジェダイはフォースの影響で感覚過敏なんですから、メイルーランのように甘みの強い果物を食べるのはよろしくありません」
テンノーが首を横に振ると、セーヤは食べかけのメイルーランを遠ざける。
「やだ、全部食べる!」
「それもよろしくありません。執着はフォースを歪めてしまうのですから」
「何それ、ジェダイってつまんない」
セーヤはテンノーに背を向け、メイルーランの皮を剝いて残りの果肉を頬張った。
「つまるとかつまらないとか、そういうことではありません。ジェダイとはそうなのです」
テンノーがセーヤに詰め寄ろうとすると、カミーノがそれを阻んだ。
「そうやってぐちゃぐちゃ言うから、余計にセーヤが困るんだろうが」
「言語化しなければ伝わるものも伝わりません」
テンノーは譲らなかったが、セーヤも言い返した。
「大体、テンノーはドロイドなんだから、それはマスター・ギ・ハーラの受け売りでしかないじゃない。そりゃ言うのは簡単だよ、言うだけなんだから。実感を伴っていないの」
「セーヤは意外と口が達者ですね」
テンノーはようやく引き下がったが、それでも悔しげだった。カミーノはそんな二人を見、曖昧に笑っていたが、エンジン音を聞き付けて上空を仰ぎ見た。セーヤもそれに倣うと、宇宙船が降下してきた。
貨物船だった。
次々に物資が運ばれていく。
貨物船に搭載されていたのは食糧や日用品だけでなく、スターファイターの予備の部品、在庫管理ドロイド、プロトン魚雷と幅広かった。セーヤとテンノーとカミーノもそれを手伝い、倉庫に収めていった。
「これだけあれば当分は持つだろ」
カミーノは弾薬庫に入り、プロトン魚雷の山を見上げた。セーヤはちょっと背伸びをする。
「結構大きいね、これ」
「で、あっちが震盪ミサイル。敵機のシールドをぶち抜く時に使う」
カミーノが整然と並んだミサイルを指すと、セーヤは首を傾げた。
「えーと、プロトン魚雷よりも威力が低いけど震盪ミサイルの方が速度が出るんだよね?」
「その通り。だから、ブラスターで牽制してから震盪ミサイルで追いかけて、擦れ違い様にプロトン魚雷をぶち込むって感じかな。もっとも、どっちも装備していると機体が重くてスピードが乗らないから、爆撃機でない場合は片方だけになるんだが」
カミーノが答えると、テンノーは外を指した。
「次の倉庫に行きましょう。この基地の在庫整理ドロイドは仕事が遅いですから」
テンノーに促され、弾薬庫を出ると、ホロの納品書を手にしているヒューマンの女性が近付いてきた。
「カミーノ、元気してた?」
「ホープも。仕事は順調そうだな」
カミーノが歩み寄ると、作業着姿の女性はセーヤに気付いた。
「あれ、この子は新人?」
「みたいなものです。セーヤ・ミットーです、こっちのドロイドはテンノー」
セーヤが名乗ると、作業着姿の女性が名乗り返す。
「私はホープ・ハイライト、見ての通りの輸送業者。同盟軍はお得意様だから、よく来るのよ」
「カミーノとは友達なんですか」
「そりゃあね。この性格だもの、誰でも仲良くなっちゃうって」
ホープがカミーノを小突くと、カミーノは笑う。
「それは俺の美徳だ、父さんもそう言ってくれている」
「場合に寄るわ。でも、あなたの顔は初めて見た気がしないわ。どこで見たのかしら」
ホープがセーヤを見下ろすと、セーヤは戸惑う。
「えっ」
「そうね、確か……」
ホープは作業服のポケットを探り、がしゃがしゃと音を立てていたが、ホロコインを取り出した。
「私、情報屋も兼ねているのよ。だから、賞金稼ぎが次に狙う賞金首のことも把握しているの。その中に帝国残党がいたり、その関係者も含まれていることが多いから。でも、これはちょっと事情が違いそうだ、と思っていたんだけど……」
ホープがホロコインのスイッチを入れると、セーヤのホロが浮かび上がった、
「あなた、賞金首になっているのよ」
「え?」
セーヤは硬直した。誰が賞金を懸けたのかは察しが付く、ナザ・シーサイだ。賞金首がどうなるのかも知っている。腕利きの賞金稼ぎがやってきて、殺されるか、捕まるか、カーボン冷凍されて運ばれるかのいずれかだ。それは嫌だ、カミーノやスワンプ大佐に迷惑を掛けたくない、だけど、とセーヤは今後の身の振り方について考えざるを得なかった。
見つかる前に逃げるしかない。