トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
夜中に部屋を抜け出した。
見張りのドロイドの目はテンノーに誤魔化してもらい、セーヤは練習用のXウィングに向かった。カミーノが所属しているオーク小隊の機体では、今のセーヤにとってはセッティングが過激すぎるからだ。なんとか飛ばせたとしても、まともに浮上する前に墜落するのが目に見えている。その点、練習機は武装が一切なく、スラスターの加速も今一つだが、初心者からすれば安全だ。といっても、操縦の半分以上はテンノーの力を借りる必要があるのだが。
セーヤはハシゴをコクピットに立てかけ、よじ登り、練習機のキャノピーを開けた。すると、そこで寝ていたのはカミーノだった。
「えっ」
セーヤがぎょっとすると、カミーノは身を起こす。
「どうせそんなことだろうと思ってさ」
「カミーノ。セーヤを引き留めたところで無駄ですよ、セーヤはあなた方のためを思って……」
テンノーは飛び上がり、機首に着地する。
「解っている。だが、セーヤが一人で出ていくと、それこそ騒ぎになる。俺が一緒なら、適当な言い訳も出来るってもんだろ」
カミーノは足元に置いていたヘルメットを取り出し、それを抱えて立ち上がる。
「俺は自分のXウィングで飛ぶ。先導するから、セーヤは追随してくれ。無許可で飛び出したとあっちゃ、防空システムが作動してミサイルに狙われちまうが、俺が一緒ならどうにでもなる」
「でも……」
セーヤが気後れすると、カミーノは少し笑う。
「俺にはフォースなんてちっとも解らないから、セーヤがどんな事情を抱えているのかは理解してやれない。でも、せめて先輩ぶらせてくれよ。それぐらい構わないだろ?」
「……どうして」
セーヤは震える手を握り締め、カミーノを凝視する。
「あなたはそんなに優しいの?」
突き放す方が簡単だ。厄介事を持ち込んだ奴隷崩れだ、と蔑まれて当然だ。奴隷だから根性が卑しい、ジェダイがどうのこうのと妄言を吐くドロイドに惑わされた愚かな子供だ、と嘲笑われてもおかしくないのに。
「そんなの決まってる!」
カミーノは身軽にコクピットから飛び降り、着地する。
「セーヤが可愛いからだよ!」
カミーノは手を振りながら、オレンジのマーキングが施された自分の機体に向かっていった。セーヤは呆気に取られていたが、思わず笑い出した。
「なあに、それぇ」
それではまるでナンパじゃないか。ひとしきり笑うと緊張が緩み、肩の力が抜けたので、セーヤは改めてコクピットに乗り込んだ。
「真に受けてはいけませんよ、セーヤ。カミーノは善良ですが軽薄なのです、誰に対しても同じ言葉を使うでしょう」
テンノーは発進するためのセッティングを行いながら、セーヤに忠告してきた。セーヤは計器類をチェックし、燃料計、高度計、コンパス、姿勢指示器、速度計、飛行方位計、旋回計、昇降計などを一通り指差して数値が安定していることを確認した。
「かもね。でも、ちょっと元気が出たよ」
セーヤはヘルメットを被り、三本のレックを収納してからシートベルトを締めた。実際の機体を飛ばすのはこれが初めてだが、テンノーが一緒だし、カミーノが先導してくれるのであればなんとかなる。
信じよう、自分の力を。フォースのことはまだ上手く感じ取れないし、思うように操れる気がしないが、Xウィングは多少は動かせるのだから。愛機に乗り込んだカミーノは手で信号を送ってから、キャノピーを閉め、発進させた。
訓練機も発進し、それに続いた。
無線が流れてくる。
カミーノのXウィングとセーヤの練習機の無線を同期させたからだ。練習機の目の前には、カミーノのXウィングの尾翼が見える。今は水平に飛行しているだけなのだが、セーヤが操縦桿を握る手に無駄に力が入っているせいでふらふらするのに対し、カミーノの飛び方は安定していた。
『こちらオーク4、ビッグシップ基地管制室へ。訓練生の特別講習だ、心配しないでくれ』
カミーノの声。オーク4はカミーノのコールサインである。
『こちらビッグシップ基地、オーク4、そのような申請は出されていない。直ちに帰投せよ』
管制室からの返答は尤もだった。そりゃそうだよね、とセーヤは気まずくなりながらも唇を結んだ。
『オーク4より管制室へ。ぐるっと一回りしたら戻ってくるだけだ、長くは飛ばない。それから、これは俺が強引に訓練生を連れ出したんだ。後できっちりお叱りを受けるし、始末書も書く。夜明け前までには戻る、それじゃ失礼!』
カミーノはすらすらと嘘を連ねてから、加速して機首を上げた。セーヤは操縦桿を引いてエンジン出力を上げ、カミーノの機体を追う。
『こちらオーク4よりオーク5へ、通信は切っておけ。地上からやいやい言われると気が散るんでね。トランスポンダーはビッグシップから離脱するまではそのままにしておいて、ハイパードライブに突入したら切ってくれ。練習機にはハイパードライブユニットは装備されていないが、俺の機体にはある。だから、機体を連結させればハイパースペースに入れる』
「こちらオーク5、でいいのかな。そこまでしたら、カミーノは……」
セーヤはカミーノに応答しながらも、肩を縮めた。いくらなんでもやりすぎだ。軍隊の規則はよく知らないが、場合によっては除隊させられるほどのことをやらかしているのではないだろうか。
『オーク4よりオーク5へ。セーヤのコールサインはまだ決めていなかったが、そのままでいい。俺だって、そこまで考えがあるわけじゃない。だが、賞金稼ぎが何らかの方法でセーヤの居所を見つけたとしても、ビッグシップから離れているのであれば多少の時間稼ぎが出来るだろ? そうすれば、セーヤはもっと遠くに逃げられる。俺のことは気にするな、スワンプ大佐からお叱りを受けるのは慣れっこだ。営倉にぶち込まれたこともあるんだから』
カミーノの口調は軽快で、ちょっとした冒険に出向くかのような雰囲気さえあった。
「オーク5からオーク4へ。あなた、いつもどんなことをしているの? さすがに呆れちゃう」
セーヤが肩を揺すると、カミーノは返した。
『オーク4からオーク5へ。なあに、大したことじゃない。スピーダーでポッドレースの真似事をしたり、Xウィングの曲芸飛行したり、夜中に食堂のオーブンを吹っ飛ばしたり、ブラスターを撃ち損じて倉庫の外壁を焦がしたり……』
その光景を一つ一つ思い浮かべ、セーヤは本格的に呆れた。落ち着きのない少年のようだ。立派な大人なのに、と言いたくなったが、カミーノの内面はまだ成熟しきっていないのかもしれない。いずれにせよ、スワンプ大佐とビッグシップ基地の面々は苦労が絶えないだろう。
『オーク4からオーク5へ、高度を上げて大気圏を突破する。準備しろ』
パイロットらしい冷静さを取り戻したカミーノの言葉を受け、セーヤはスイッチを切り替えた。大気圏から離脱するにはシールドを展開して、反重力装置を、と手順通りに変えていこうとするが、次はどれだったのかが思い出せない。セーヤが手間取っていると、テンノーが手を伸ばした。
「こちらです」
テンノーが残りのスイッチを手早く操作したので、セーヤはほっとした。
「ありがとう、テンノー」
これでビッグシップから離脱出来る。セーヤは苦い思いを抱きながらも、機首を上げるべく操縦桿を傾けた。すると、突如、警戒警報が鳴り響いた。
「ロックオンされています!」
テンノーがすぐさまセーヤの手から操縦桿を奪い、大きく傾けると、夜空から現れたスターファイターがレーザー砲を発射してきた。カミーノは上手く射線を回避したが、テンノーは僅かに間に合わず、翼を損傷した。途端に失速し、機首が下がり始める。
『緊急着陸しろ! どこでもいい!』
カミーノの叫びを受け、セーヤは地上を見下ろすと、砂浜が見えた。セーヤはテンノーから操縦桿を取り戻すと、着陸姿勢に入るために旋回した。謎のスターファイターからの攻撃を受けながらもランディングギアを出し、高度を下げ、減速する。
激しい衝撃を受け、何度かバウンドした後に練習機は停止した。途端にテンノーがキャノピーを開け、セーヤを抱えて練習機から飛び出した。直後、レーザー砲が練習機に命中し、爆発した。
「うわあっ」
セーヤとテンノーは吹っ飛ばされたが、テンノーはセーヤを決して離さなかった。砂浜に隣接している林に突っ込むと、ジェット噴射を繰り返して勢いを殺し、軟着陸する。
「セーヤ、無事ですか」
テンノーに案じられ、セーヤは頭を押さえる。
「さっきの爆発で……」
頭がくらくらする。それでも立たなくては、敵の正体を見極めなくては。セーヤはテンノーの腕を脱して立ったが、ふらついた。それでも、最後の意地でライトセーバーを握った。ろくに使えないが、丸腰で立ち向かうよりはマシだからだ。
砂を巻き上げながら、謎のスターファイターが着陸した。キャノピーが開いた途端、パイロットが単独で空に飛び出した。その背中からはアフターバーナーが走り、ジェットパックを装備しているのが見えた。そして、縦と横のスリットが特徴的なヘルメットと全身を覆うアーマーも。
「あ」
これは分が悪い、とセーヤは血の気が引いた。ナザ・シーサイの下で働いている際、耳にしたことがある。かつてはジェダイとも争っていた戦闘民族、マンダロリアンの話を。このパイロットの外見は、そのマンダロリアンに一致している。
なんでもいい、逃げなくては。セーヤはライトセーバーを灯し、頭上を取ったマンダロリアンが膝から発射した小型ミサイルを睨んだ。ほんの僅かだが、小型ミサイルの軌道のヴィジョンが見える。それならなんとかなる、とセーヤはライトセーバーを振り翳す。
小型ミサイルが緑の光の刀身に弾かれ、あらぬ方向に吹っ飛んで着弾する。新たな爆発を背に受け、セーヤはかすかな安堵を覚えるも、次のヴィジョンが見えてくる。今度はブラスターの軌道だ。
マンダロリアンはジェットパックを用いてセーヤの周囲を巡りながら、ブラスターを撃ち込んでくる。それがどこから来るのかが解る。だが、一発でも凌げなければ全ては終わる。セーヤは己の意志ではなく、体が動くままにライトセーバーを振るった。
その結果、十数発のエネルギー弾は一つ残らず逸らされ、砂浜を焦がすだけに至った。セーヤは極度の緊張と興奮で嫌な汗が浮き、口の中には血の味さえしてきた。マンダロリアンはジェットパックを止めて着地すると、ブラスターを向けてくる。
「へえ、やるもんだな。やっぱりジェダイだな」
「私は……」
まだジェダイじゃない、とセーヤは言い返そうとしたが、マンダロリアンはガントレットから前触れもなく火炎放射する。テンノーが割り込もうとしたが、それでは遅すぎる。セーヤはライトセーバーを突き出し、体の奥から湧き上がる力を放つ。
炎の塊が捻じ曲がり、退けられた。フォースをまともに使えた、という達成感よりも死に瀕した危機感が勝り、セーヤはライトセーバーを握る手にじっとりと汗が浮いてきた。
「セーヤ!」
Xウィングが砂浜に着陸し、コクピットからブラスターを携えたカミーノが現れたが、マンダロリアンは素早くカミーノにブラスターを向けた。
「引っ込んでいてくれないか、死にたくないだろ?」
セーヤは再び念じた。せめてマンダロリアンのブラスターを奪えれば、と睨み付けるが、フォースが思うように働かない。それどころか、意味もなく砂が巻き上がり、散らばるばかりだった。
「セーヤ……」
テンノーがセーヤを案じると、セーヤはフォースの反動でひどい目眩に襲われた。ライトセーバーを手放して両膝を突き、倒れると、マンダロリアンが歩み寄ってきた。
「これならカーボン冷凍を使わずに済むな」
マンダロリアンはセーヤを拾い、肩に担ぐ。カミーノはコクピットから飛び降りて駆けてきたが、その頃にはマンダロリアンはセーヤをスターファイターの後部座席に寝かせていた。
「セーヤをどこに連れていくつもりだ!」
カミーノが叫ぶも、マンダロリアンは答えずにキャノピーを閉めた。テンノーは全速力で駆け抜け、スターファイターのランディングギアに絡み付き、それが収納されると同時に機内に潜り込んだ。
成す術もなく、カミーノの前からスターファイターは発進し、宇宙へと飛び去った。カミーノは役に立たなかったブラスターをホルスターに戻し、己の無力さに苛まれていたが、砂にまみれているライトセーバーに気付いた。
セーヤの体温が残っていた。
振動で目を覚ました。
あれ、ここはどこだ。セーヤは手足を動かそうとしたが、何かに引っ掛かって阻まれた。目線を上げると、レーザーの格子に隔てられている。頭の芯に残る頭痛に辟易しながらも目を動かし、ぼんやりした視界が徐々に晴れていくと、状況を理解した。
手錠を掛けられている。そして、レーザーの格子の外側ではテンノーが機能停止している。セーヤはぎょっとして立ち上がろうとするも、まだ足腰に力が入らずに崩れ落ちた。
「なんだ、もう起きたのか」
レーザーの格子の外に立ったのは、あのマンダロリアンだった。ベスカーアーマーはネイビーに塗られているが、鷹の意匠がヘルメットに入っていた。
「テンノーは……」
セーヤが臆しながらも問うと、マンダロリアンはドロイドを見下ろした。
「シャットダウンしただけだ。年代物だがまだ動くし、買い手が付くだろうから壊さなかった」
「ここは」
「俺の船だ。行き先は解っているだろ?」
「ナザ・シーサイの……」
セーヤが俯くと、マンダロリアンは足を曲げ、セーヤを覗き込んできた。
「ライトセーバーも拾ってくるんだったな、あれも高値で売れる。惜しいことをした」
「う……」
何もかも私のせいだ。セーヤは猛烈な自己嫌悪と敗北の悔しさに襲われ、涙が滲んできた。カミーノが送り出そうとしてくれたのに、テンノーが助けてくれたのに、セーヤの力が足りなかったから捕まった。自分の無力さに腹が立つ。
何がフォースだ。何がジェダイだ。ちっとも役に立たないじゃないか。セーヤは床に突っ伏し、声を殺して泣いた。マンダロリアンは姿勢を戻す。
「俺はケイ・ホーク。見ての通りのマンダロリアンだ。あんたの名前はセーヤ・ミットーでいいんだな? あのパイロットもそう呼んでいたし」
セーヤがほんの少し頷くと、ケイ・ホークは踵を返した。泣くな、堪えろ、耐えろ。セーヤは自分にそう言い聞かせたが、感情の嵐には勝てなかった。
なんて情けない。
好きな登場人物は?
-
セーヤ・ミットー
-
テンノー(NO-10)
-
カミーノ・スターリバー
-
ヒル・スワンプ
-
ホープ・ハイライト
-
ナザ・シーサイ
-
ケイ・ホーク
-
マチルダ・グランベリー
-
エア・キャビー
-
サウス・ギ・ハーラ
-
ソウ・テッセン
-
ダース・シャハー
-
オード・キュー
-
クレイン・ミーネ
-
ショーナ・ディノ
-
ユマ・ハイライト
-
ヴィシャム
-
フマガ
-
サク・ラギーチョ
-
その他