トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる   作:あるてみす@二次創作

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8.闇からの囁き

 とても広い部屋。

 高い天井、大きな窓、立派な調度品、天蓋付きのベッド、それからドレス。お姫様の部屋だ、とセーヤは直感した。童話や絵本を読むたびに、本当の私はどこかの国のお姫様なんだ、と空想に耽っていたからだ。もちろん、そんなことはなかったのだが。

 白くて薄いカーテンが掛かった窓には、この部屋の主が佇んでいた。ドレスではないが、上質な布で仕立てのいい服を着ている少女だった。艶やかな長い黒髪が陽光で煌めき、整った容貌で目元は涼やかだ。水仕事どころか家事を一度もしたことがないであろう手は真っ白で、傷一つ付いていない。

 外見はヒューマンに似ているが別の種族らしく、額には一対のツノが生えていて、両目の端には菱形の模様が付いていた。ザブラクに近い特徴だが、彼らのような凄味はない。

「外を見ているの?」

 セーヤが興味本位で声を掛けると、少女は窓の外を指した。セーヤはそっとカーテンを捲ると、中庭にはローブを着た男と弟子の少年がいた。彼らの腰にはライトセーバーがある。

「ジェダイとパダワンだ」

 どこかで見たような、でも誰だっけ、とセーヤが目を凝らしていると、少女は背を向けた。

「予感がしていたの。誰かが私をここから連れ出してくれるんじゃないか、って」

「でも、ここはお城であなたはお姫様でしょ? 何を不満に思うことがあるの?」

 セーヤが不思議がると、少女は顔を伏せる。

「そんなの、いくらでもあるわ。自由なんてないし、望まれるように振る舞わなければ嫌われるし、いずれは政治のために結婚させられる……。宇宙はすぐ傍にあるのに、私はずっと閉じ込められたままなの。だから、ジェダイの話を聞いてから、ずっと思い描いていたの。私の不思議な力を認めてくれて、外に連れ出してくれるんじゃないかって」

 少女が手を翳すと、ドレスの裾が波打った。

「フォース!」

 セーヤが目を丸めると、少女は手を下げた。

「でも、そんなことはなかったわ。あの人達はジェダイだけど、私には会わずに帰ってしまうの。結局、私は特別でもなんでもなかったのよ」

「そんなことないよ、きっと迎えが来る」

 セーヤが少女の手を取ると、少女は恥じらいながらもセーヤの手を握り返してくれた。

「ありがとう。そう言ってくれたのは、あなたが初めてよ。よかったら、名前を聞かせて」

「私は……」

 セーヤは名乗ろうとしたが、少女の姿が消えた。そこでようやく気付いた。これはヴィジョンだ。けれど、未来予知とは感覚が異なる。だったら、どういうことなのだろう。セーヤはヴィジョンの意味を探ろうとするも、その前に意識が引き戻された。

 現実へと。

 

 

 手錠を掴まれた。

 セーヤがはっとすると、目の前にはケイ・ホークが立っていた。レーザーの格子は解除されていたが、傍らにいるテンノーは眠ったままだった。あの子は誰だったんだろう、とセーヤは疑問を覚えつつも、現状を把握することに努めた。

「起きろ」

 ケイは強引にセーヤを立たせ、引っ張った。

「着いたの?」

 セーヤが不安に駆られながらも問うと、ケイはセーヤの背中を押す。ブラスターの銃口で。

「ああ。それで俺の仕事は終わりだ」

 セーヤはテンノーを気にしながらも、ケイにせっつかれて歩き出した。どうやら貨物船を改造したガンシップらしく、剥き出しの配線と配管が壁を這い回っていた。タラップを降りると、その先で待ち構えていたのはアイソリアンの商人、ナザ・シーサイとその部下達だった。

「ご注文の品だ」

 ケイがセーヤの背中を押すと、セーヤはよろめいた。ナザはセーヤを見下ろし、曲がった首の根元にある二つ目の口を動かした。

「手間を掛けさせてくれたな」

「う」

 セーヤは言い返そうとするも、喉の奥で詰まった。理由はどうあれ、雇い主に逆らって逃げ出したことには変わりない。長年奴隷として生きてきたせいで、反発心よりも従属するべきだと体が反応してしまう。そんな自分が嫌になるが、言葉が出てこなかった。

「報酬だ」

 ナザがゴールドのクレジットを五枚差し出すと、ケイはそれを受け取る。

「上乗せされていないか?」

「ああ、それはスポンサーからだ」

 ナザが後方に目をやると、そこにはあの男が佇んでいた。黒いマントを纏った男は、影のように気配を消していたが、静かに歩み出した。

「御苦労、マンダロリアン」

 黒いマントの男はケイとナザには目もくれず、セーヤの手錠を掴んで引っ張った。

「来い」

「あんた、誰?」

 セーヤが戸惑うも、黒いマントの男の力は強かった。それだけではない、別の力に背中を押されている。フォースだ、とセーヤは気付いたが、どうすることも出来なかった。更に悔しさが募っていく。

 男の腰にはライトセーバーが下がっていた。

 

 

 部屋に連れ込まれた。

 セーヤが身構えていると、黒いマントの男は手を翳し、手錠の電子ロックを解除した。がちゃん、と手錠が床に落ちると、セーヤは不思議がる。

「なんで?」

「対等な立場で話し合いたくてね」

 黒いマントの男はフォースで椅子を引き寄せ、セーヤの後ろに置いた。男が腰掛けたので、セーヤはちょっと遠慮しながらも座る。

「会うのは二度目だな。俺の名はオード・キュー」

「セーヤ・ミットー」

 セーヤが素っ気なく名乗り返すと、オードはライトセーバーを掲げる。

「俺が何者か解るか?」

「ジェダイ……じゃないと思う。なんだか怖いし」

 セーヤが率直な感想を述べると、オードはライトセーバーを作動させた。真っ直ぐに伸びた光の刃は、鮮烈な赤に染まっていた。

「その通り。俺はシスだ」

「シス。暗黒卿?」

「生憎、俺はその高みには至っていない。だが、だからこそ融通も利く。役割を理解しているからだ」

「役割って何の?」

「解り切ったことだ。ジェダイ・オーダーが滅んだ今こそ、シス帝国を蘇らせる時なのだ」

「それはあの帝国とは別なの?」

「似て非なるものだが、通じている。しかし、シス帝国はより気高くも美しい世界を築く」

「は?」

 こいつは何を言っているんだろう。セーヤが呆気に取られると、オードは口角を上向ける。

「ジェダイの黴の生えた教義と息苦しい規則と煩わしい訓練で時間を浪費するよりも、ダークサイドを知り、学び、己を曝け出す方が素晴らしく生きられる。そうは思わないか?」

 オードはライトセーバーの赤い刀身を消し、セーヤに手を差し伸べてきた。その言葉は蠱惑的で、セーヤは両手をきつく握り締めた。

 思うようにフォースを扱えないし、ライトセーバーもなくしてしまったし、何よりも自分がジェダイに相応しくない。だったら、いっそのこと。

 けれど、自分に力があることが解り始めたばかりだし、ジェダイの訓練も同様だ。最初のうちから上手くいくはずがない。Xウィングの操縦もそうだった。だから、フォースの扱いも失敗して当然なのだ。

 いや、違う。フォースを扱うんじゃない、フォースの流れを感じ取り、それをほんの少し貸してもらう。こちらが力んでいては、フォースの方が遠ざかる。瞑想することで学んだことだ。

「思わない」

 セーヤは顔を上げ、オードを見据えた。

「なるほど、立派な心掛けだ」

 オードは肩を竦めたが、セーヤに手を翳す。

「マスターもいない、パダワンですらない身の上でよくぞその境地に辿り着いた。その点は褒めてやる」

「違う、私にはマスターの代理がいる」

 セーヤはオードから流れ込むフォースを拒むため、気を張った。自分の心の中に、自分のものではない感情や思考が流れ込んでくる。従った方が楽だ、ダークサイドこそが正しい、シスこそが本物だ、と。それはオードの意志であり、セーヤの意志ではない。

 けれど、相手が悪すぎる。セーヤがどれほど自分を強く保とうとも、オードはセーヤが生まれる前からフォースと共に生きてきた身であり、フォースを用いた洗脳にも慣れている。長時間は耐えられない。しかし、オードはそれを解った上で続けている。

 どうしよう。でも、どうにかしないと。セーヤは今にも崩れ落ちそうな心を支えながら、打開策を見つけようとするも集中出来なかった。嫌な汗が浮き、喉が干乾び、呼吸が詰まる。

「さあ、こちらにおいで。楽になれる」

 オードの甘言に、セーヤは心の奥底が疼いた。これ以上はもう、と目をきつく閉じて顔を背けた。すると、不意にヴィジョンが過ぎった。オレンジのマーキングの付いたXウィングがやってくる。

 もしかして、とセーヤは我に返った。セーヤの態度が変わったのでオードは訝ったが、手は下げなかった。直後、爆音が轟いて部屋が揺れた。

「なんだ?」

 オードがドアを開けて外に出ると、セーヤはその肩越しに見た。カミーノのXウィングが急接近し、レーザー砲を発射してシャトルを吹っ飛ばした後に離脱していく姿を。

「どうして……」

 ここが解ったんだろう、とセーヤが目を見開くと、オードは駆け出していった。

「邪魔をするな!」

 ナザは早々に逃げ出し、部下達が応戦しようとするも、ただのブラスターではXウィングに届くはずもなかった。Xウィングは一機だけでなく、複数の機体が見事な連携を取って飛行し、攻撃していく。立て続けに爆発が起き、対空砲や宇宙船が吹き飛んだ。

「役に立たない連中め!」

 オードは苛立ってナザの部下達をフォースで持ち上げ、一斉に壁に叩き付けた後、TIEインターセプターに乗り込んだ。爆撃を掻い潜りながら、TIEインターセプターが上空に消え去ると、ようやくXウィングの攻撃が止んだ。

「無事でしたか、セーヤ」

 名を呼ばれてセーヤが振り返ると、テンノーが歩み寄ってきた。

「テンノー、シャットダウンされたんじゃ」

 セーヤがテンノーに近付くと、テンノーは胸部装甲に手を添える。

「予備電源を使って再起動したまでです。それに、ケイ・ホークは私の回路を破壊しませんでしたから。売り物にするつもりだったようですし」

「よかった……」

 セーヤがテンノーにしがみつくと、テンノーはセーヤの背中を優しく撫でてきた。

「その後、カミーノに連絡を入れたのです。思った通り、飛んできてくれました」

「うん……」

「セーヤ。あなたは立派です。ですが、だからこそ学ばなくてはなりません。気高い魂の持ち主であるからこそ、経験を積み、己を見つめ、フォースと向き合う必要があるのです。やがて強い力を得た時、安易な道に屈してしまわないように」

 テンノーはセーヤの背中を何度も撫でてくれた。そのせいで気が抜けてしまい、セーヤは我慢していた分だけ泣いた。

 いつもそうだった。辛いこと、苦しいこと、嫌なこと、寂しいことがあっても、我慢すれば過ぎ去るのだと耐えてきた。けれど、そうではない。やり過ごしたと思っても、心の中に小さな傷や淀みが残り続け、それがやがて弱さになる。

 ようやく解ってきた。

 

 

 Xウィングが着陸した。

 転げるようにコクピットから出てきたカミーノは、ヘルメットを放り出して走ってきた。セーヤはまだ泣き止んでいなかったが、彼の気配を感じて顔を上げた。

「セーヤ!」

 カミーノはセーヤに飛び付き、腕を掴む。

「どこか痛いのか? それとも嫌な目に遭った?」

「大丈夫、だと思う」

 セーヤは涙を拭い、ちょっと気恥ずかしくなると、カミーノはパイロットスーツのポケットを探った。だが、ハンカチ代わりになりそうなものが見つからなかったようで、カミーノは襟からスカーフを引っこ抜いた。

「これ、やるよ」

「いいの?」

 セーヤが聞き返すと、カミーノはジャケットの下からライトセーバーを取り出し、セーヤの手にしっかりと握らせてきた。

「もう落とすなよ」

「……うん」

 セーヤはライトセーバーを受け取り、頷くと、カミーノは駆け出した。

「それから、まだ作戦の途中だから! ナザ・シーサイとその部下が逃げ出したから、追わないと! あいつら、密輸と密売の常習犯だから!」

 カミーノは再びコクピットに入ると、キャノピーを閉じて浮上し、あっという間に飛び去っていった。セーヤは呆気に取られていたが、白いスカーフを見下ろした。カミーノが来てくれたからか、Xウィングが巻き起こした風のせいか、すっかり涙が乾いてしまった。

「どうしよう、これ」

 セーヤがスカーフを握り締めると、テンノーが両手を上向けた。

「しばらくは預かっておきましょう。それから、使う前に一度洗った方がいいですよ」

「それで、今更なんだけど、ここはどこ?」

 セーヤが辺りを見回すと、テンノーが外を指した。宇宙空間が広がっていた。

「放棄された衛星基地です。ナザ・シーサイの商会が倉庫にしていたんですよ」

「だったら、私達はどうやって出ていけばいいの」

「それならご心配なく。退職金代わりにシャトルを拝借していきましょう」

 テンノーが示したのはラムダ級シャトルだった。恐らく、闇市場に横流しされたものをナザ・シーサイが買い取ったのだろう。

「操縦出来る?」

「私を誰だとお思いで?」

 セーヤの懸念をテンノーは受け流し、ラムダ級シャトルに乗り込んだ。密輸品や無駄な荷物を放り出してから、燃料の残量などの点検を済ませ、発進させた。「これからどこに行くの?」

 コクピットでセーヤが問うと、テンノーは答えた。

「ひとまず補給出来る場所へ。今後の身の振り方については、そちらでじっくり考えましょう」

 セーヤはカミーノがどこまで行ったのかが気になったが、座席に座った。シャトルの操縦方法はXウィングとは要領が異なるが、共通している部分も多いので、セーヤはテンノーの手元を見つめた。

 やがてハイパースペースに突入した。




※ザブラクとは種族名で、代表的なのはダース・モールです。

好きな登場人物は?

  • セーヤ・ミットー
  • テンノー(NO-10)
  • カミーノ・スターリバー
  • ヒル・スワンプ
  • ホープ・ハイライト
  • ナザ・シーサイ
  • ケイ・ホーク
  • マチルダ・グランベリー
  • エア・キャビー
  • サウス・ギ・ハーラ
  • ソウ・テッセン
  • ダース・シャハー
  • オード・キュー
  • クレイン・ミーネ
  • ショーナ・ディノ
  • ユマ・ハイライト
  • ヴィシャム
  • フマガ
  • サク・ラギーチョ
  • その他
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