トワイレックの奴隷少女、ジェダイになる 作:あるてみす@二次創作
到着したのは交易ルートの倉庫だった。
ガス状惑星、ディーゴの第3衛星には物流倉庫が築かれ、大量の物資が目まぐるしく出入りしていて、輸送船や商船がひっきりなしに訪れ、その乗組員達は倉庫の上にある歓楽街へと吸い込まれていく。これだけ人の出入りが激しければ、盗品のシャトルが紛れ込んでも目立たない。
駐機場にラムダ級シャトルを停泊させ、その間にテンノーが仕事をしてくれた。シャトルの名義変更、トランスポンダーの交換、システムの改良などなど。セーヤは新しい乗り物を一通り見て回ったが、帝国式なので内装が簡素で必要最低限だった。本来、惑星と艦隊を行き来するためのものなので、居住用の設備は皆無だった。せいぜい、壁の中に内蔵されている簡易ベッドと宇宙空間用のトイレである真空チューブが用意されている程度だった。
「シャワーはないの? それから、ベッドの寝心地が最悪!」
セーヤは固い板でしかない簡易ベッドを叩くと、テンノーがぐるりと首を回転させた。
「ありませんよ、そんなもの」
「付けられないの?」
「後付けのシャワーブースですか? それでしたら、宇宙船の内装業者に注文すれば用意してくれるでしょうけど、浄水タンクと配管も増設する必要がありますね。ベッドのマットも手配しないといけません」
「そのためのクレジットはある?」
「いいえ。セーヤの生命維持に不可欠な物資と、シャトルの燃料を補給するだけで尽きました。元より、私はそれほど多くのクレジットを持ち合わせていないので」
テンノーが首を傾けると、セーヤは落胆した。
「なんだぁ……」
「それ以前に、ジェダイは利益を求めてはいけないのです」
「でも、生きるためにはクレジットが必要でしょ? それがないと、食べ物も水も手に入らないし。ジェダイだって、暮らしていかないといけないんだし」
「それはジェダイ聖堂の加護がありましたので」
「だけど、私はジェダイ聖堂に行ったこともないし、そもそもマスターもいないし。クレジットを稼ぐ方法を考えないと」
「いけません、セーヤ」
テンノーに咎められるも、セーヤは立ち上がった。
「テンノーは作業を続けて。私は仕事を探してくる」
「ああっ」
テンノーはセーヤを引き留めようとしたが、セーヤはシャトルを後にした。新共和国の役人の目が行き届いているなら、セーヤのような子供が仕事に就くのは許されないことだが、ここはアウターリムとミッドリムの中間に位置している。
外に出た途端、セーヤは立ち止まった。そういえば、レックの根元を隠すためのヘッドカバーを付けていない。踊り子の衣装を着ていた時は、ヘッドカバーの代わりにヴェールを被っていたからだ。しかし、それも捨ててしまったし、ビッグシップ基地ではトワイレック用の装飾品は手に入らなかった。それなら、とセーヤは思い立ち、カミーノからもらった白いスカーフを被り、レックの根元を覆った。
仕事を探さなくては。
日雇い仕事の紹介所に向かった。
管理ドロイドが労働者達に仕事を割り振り、内容を告げてから送り出していく。いずれも屈強な男達だったので、セーヤは彼らと同じ行列に並ぶ気にはなれず、他に何かないのかと辺りを見回した。すると、壁にはホロが浮かんでいて、いずれも日雇い仕事の求人だった。セーヤはそれを見上げ、考え込んだ。
「うーん……」
酒場の接客、パブのダンサー、歌手の求人は《トワイレックは歓迎》とあるが、その意味が解らないほどセーヤは幼くはない。その手の場所で働いたら、経営者や客に金を積まれて愛人にされてしまう。それは奴隷と似たようなものだしなぁ、とセーヤは他の求人を探すことにした。
すると、重なり合ったホロの下に変わった求人が隠れていた。セーヤがそのホロを引っ張り出してみると、首輪を付けたロズ・キャットの画像の下にこう書いてあった。
『この子を探しています ディーゴ3に寄港した時に迷子になりました 報酬は3000クレジット』
「ロズ・キャット?」
セーヤが首を傾げると、後ろから手が伸びてきて、そのホロを持っていかれた。
「そう、ロズ・キャット」
「あっ」
セーヤが振り返ると、そこには賞金稼ぎの女が立っていた。ヘルメットを脇に抱えていて、青い肌と赤い目が目立つ素顔を見せている。その容姿と装備には見覚えがあり、セーヤは身構える。
「あの時の!」
「あんた、生きていたんだ。よかったね」
賞金稼ぎの女が少し笑うと、セーヤは姿勢を戻す。
「うん、まあ、色々あって……。あなたこそ、どうしてここに?」
「そのロズ・キャット探しを請け負っちゃってね。ほら、見てごらん」
賞金稼ぎの女はホロコインを取り出し、見せてきた。首輪の付いたロズ・キャットが賞金首にされていて、報酬はやはり3000クレジット。
ペット探しにしては破格だが、賞金稼ぎが食いつくような仕事ではないのでは。セーヤが訝ると、賞金稼ぎの女はホロコインをベルトに付けたポーチに戻した。
「手伝ってくれるなら半額払うけど、どうする?」
「1500……」
セーヤが渋い顔をすると、賞金稼ぎの女は肩を竦める。
「普通の賞金首ならトラッキング・フォグがあるんだけど、ロズ・キャットだからね」
「シャトルに付けるシャワーブースが欲しいの。あと、ふかふかのマット。1500クレジットじゃ、ちょっと足りないような……」
セーヤが真剣に悩むと、賞金稼ぎの女は同意してくれた。
「シャワーはとても大事だよね、船乗り共には解らないだろうけど。シャワーブースの本体とそれに付随する装置だけで、設置するための費用を差っ引くなら、多少は値切れるんじゃない? 1200クレジットぐらいにはさ」
「テンノーが付けてくれるかな」
「ドロイドなら出来るでしょ、その程度のことは」
「よし、乗った」
後のことは後で考えよう、とセーヤは割り切ってから返事をした。賞金稼ぎの女はヘルメットを被る。
「そう言ってくれると思ったよ、パダワンだもんね。あんたのマスターには後で詫びを入れないといけないけど、ちゃんと話せば解ってくれるでしょ」
「えっ、あ、そうじゃないんだけど」
セーヤが否定すると、賞金稼ぎの女は聞き返す。
「えっ?」
「私、マスターがいないの」
セーヤが告げると、賞金稼ぎの女は僅かに固まったが、セーヤの手を掴んだ。
「私はマチルダ・グランベリー。あんたの名前は?」
「セーヤ・ミットー」
「ちょっとお茶でもしようか」
マチルダはセーヤの手を引いた。やけにジェダイに詳しいんだなぁ、とセーヤは不思議がりながらも、マチルダからは嫌なものを感じなかったので従った。少なくとも、オード・キューのような恐ろしさはない。
たぶん悪い人じゃない。
ブルーミルクを手渡された。
セーヤがカップ入りのブルーミルクを受け取ると、マチルダは湯気の昇るカフのカップを携え、歩き出した。ドリンクを売っていたドロイドから離れ、雑踏からも遠ざかり、人通りの少ない路地裏に移動した。
マチルダが太いパイプに腰を下ろすと、セーヤはその隣に座った。セーヤがマチルダを窺うと、彼女は熱いカフをそのまま飲んだ。
「砂糖もブルーミルクも入れないの?」
セーヤが案じると、マチルダはカップを下げた。
「大人になると苦い方がおいしく感じるのよ」
「そうかなぁ……」
苦いものは苦いだけでは、と訝りながらも、セーヤはストローを咥えてブルーミルクを啜った。
「それで、さっきの話の続きだけど」
マチルダに話を切り出され、セーヤはストローを口から外した。
「あっ、うん」
「マスターがいないなら、そのライトセーバーはどこで手に入れたの?」
「テンノーから渡された」
「あのドロイドが?」
「テンノーはサウス・ギ・ハーラってジェダイ・マスターに仕えていたんだけど、マスター・ギ・ハーラが戦死したから、その遺志を継いで私のことを探しに来たの」
「勤勉なドロイドね」
「それで、私がいつも見ていた幻が未来予知のヴィジョンだと解ったんだけど、それだけで。フォースの使い方もちっとも身に付いていないし、ライトセーバーだってそう。未来予知のおかげで体が反応するみたいで、ブラスターは跳ね返せたんだけど、自分の意志で使えるほどじゃなくて……」
セーヤは手を差し伸べ、路地裏の片隅に転がっている空き缶にフォースを向けた。つもりだったが、微動だにしなかった。
「だったら、ジェダイ聖堂に送り届けてもらうのが筋でしょう? なんでこんなところにいるの?」
マチルダに問われ、セーヤは首を捻る。
「さあ……? 私はちょっと前までは奴隷で、コルサントの下層区域から逃げてきたんだけど、その時にもなんにも言われなかったし。テンノーには考えがあるのかもしれないし、ないのかもしれない」
「そんなことじゃ、シスに狙われちゃうわよ」
「シスにはもう会った」
「はあ!?」
マチルダが声を裏返すほど驚いたので、セーヤは思わず仰け反ってしまい、パイプからずり落ちかけた。マチルダはセーヤの腕を引っ張り、座り直させる。
「ごめんなさい、あまりにも非常識だったから。シスに狙われるぐらいなら、尚更じゃない。ドロイドなんかじゃなくて、本物のジェダイ・マスターの助力を求めるべきよ。どんな事情があるにせよ、フォースユーザーを野放しにしておくことがどれほど危険なことか……。あなた、パダワン・ブレードもないものね」
「何それ?」
セーヤが聞き返すと、マチルダは自身の髪を指す。長い黒髪をきっちりと結い上げてある。
「毛髪のある種族に限るんだけど、パダワンは細い三つ編みを編むの。ジェダイ・ナイトに昇格する時に、マスターがライトセーバーで切り落とすの。セーヤはトワイレックだから、ヘッドカバーにパダワン・ブレードを付けるのが筋でしょうけど」
「マチルダはどうしてそんなに詳しいの?」
「そりゃあ……」
マチルダはちょっと言い淀んだが、赤い目を伏せた。
「私もかつてはパダワンだったからよ。でも、フォースを上手く引き出せなくて、ジェダイ・ナイトに昇格出来なかった。その後は色々あったんだけど、今は賞金稼ぎをしているわ」
「それなら、マチルダのマスターは?」
「エア・キャビーといって、優しい人だった。でも、私がジェダイ聖堂を去ってからしばらくしてから、クローン戦争が始まって、オーダー66が発令されて……。その時、私は感じたのよ。マスター・キャビーがフォースに還っていくのを」
マチルダは徐々に俯き、背を丸める。その横顔の険しさで、かつての師を失ったことを感じながらも何も出来なかった無力感と、ジェダイになれなかった悔しさと、自分自身への憤りが伝わってきた。
「そのことは、私はよく知らない。戦争が起きていた頃、私はもっと遠い星にいたから。その時の雇い主は独立星系の資産家で、その人の子供の遊び相手になるのが仕事だったから、一緒に連れていってもらったんだ。でも、帝国が倒れた影響で破産して、私はまた売られたから、その人達がどうなったのかもよく知らないけど……」
セーヤが語気を弱めると、マチルダは深呼吸してから姿勢を戻す。
「だから、ジェダイもシスもあなたを見つけられずにいたのね」
「たぶん」
「ライトセーバーの構え方は解る?」
マチルダに問われ、セーヤはパイプから降りた。
「えーと……」
セーヤはベルトに提げたライトセーバーを外し、緑の光の刃を伸ばすと、ライトセーバーの柄を両手で握り締めた。特に意識していなかったせいで、左手が上、右手が下になっていた。
「持ち手が逆」
マチルダに指摘され、セーヤはきょとんとする。
「えっ、そうなの?」
「シャイ=チョーだとしても、腰が引けすぎているし、重心も取れていない。そんなことじゃ、斬り付けたとしても表面を掠めるだけよ」
「しゃ……?」
聞いたことのない単語にセーヤが戸惑うと、マチルダはセーヤに手を伸ばす。
「貸して。久し振りだけど、体が覚えているから見せてあげるわ」
「あっ、はい」
セーヤが光の刃を引っ込めてからマチルダにライトセーバーを渡すと、マチルダは慣れた手つきでライトセーバーを作動させた。右手を上、左手を下にして柄を握ると構える。足を広げて腰を据える。
「私が得意なのはマカシだから、こう」
唸りを上げ、緑の光の刃が翻る。そこにいないはずの敵を斬り伏せ、貫き、払う。マチルダの動きには無駄がなく、太刀筋は重くも鋭い。セーヤのいい加減な構えとは懸け離れている。
「とまあ、こんな感じ」
マチルダは息も上げず、ライトセーバーのスイッチを切ってからセーヤに渡した。
「それから、いずれはセーヤ自身でライトセーバーを作るべきよ。これはマスター・ギ・ハーラのものであって、彼に合わせた大きさと出力だから、セーヤが扱うには重すぎるわ。推測だけど、シエンの使い手だったんじゃないかしら。相手の攻撃を弾いてカウンターを喰らわせるには、それ相応の力が必要だし」
「ライトセーバーって誰かが作っているものじゃなくて、自分で作るものなの? それから、その……それって何? マカシとかシエンとか……」
セーヤがますます戸惑うと、マチルダは再びパイプに腰掛けた。
「いいわ、教えてあげる。こんなところでフォースユーザーに出会えたのは、きっとフォースの導きだもの。でも、私はあくまでもパダワン止まりだから、そのつもりでいてね。教えられるのは基本中の基本だけだから」
「ありがとう、マチルダ」
「それから、ロズ・キャット探しも手伝ってね」
「もちろん」
セーヤが快諾すると、マチルダは少し冷めたカフを飲み干してからヘルメットを被り直した。
「とりあえず、例のドロイドに挨拶しないとね。セーヤの船まで案内してくれる?」
「うん」
セーヤも残りのブルーミルクを飲み干し、立ち上がる。通りすがりのゴミ収集ドロイドにカフとブルーミルクのカップを捨ててから、二人は駐機場に向かった。テンノーは驚くかな、困るかな、怒るのかな、とセーヤは彼の反応を思い描きながら、ラムダ級シャトルに戻って事の次第を説明した。
テンノーは驚き、困り、怒り、最後に呆れた。
※カフとはコーヒーのことです
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セーヤ・ミットー
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