ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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第12話『豪魔軍師』

「『ベホマ』」

 

 パプニカ王宮の一室にて、ベッドに横たえられたレオナに『ベホマ』を掛ける。しかし、レオナが目覚める事はない……。

 

「……やっぱり駄目か」

 

『…………』

 

 俺の言葉で、室内に悲観的な空気が広がる。だが、俺は『ベホマズン』で回復しなかった時点で半分この事態を予想はしていた。

 

 アポロ達からレオナの身に起きた事は聞いた。王宮を襲撃してきた2人の敵、岩をも切り裂く茨の鞭を使う女魔族と不気味な髑髏の顔をした黒ローブの男……レオナを今の状態にしたのは黒ローブの男だとアポロが言った。

 

 奴は呪文で三賢者達とレオナを吹き飛ばし、気を失ったレオナに向けて黒紫色の水晶玉を翳し、聞いた事のない呪文を唱えたという。

 

『暗黒闘気・“ダッコン”魔術』

 

 暗黒闘気と言っている時点で碌な術ではないのは想像に難くない。そしてダッコン……響きから推測するに『脱魂』か『奪魂』だろう。どちらにしろ、魂を抜くか奪うかする術だと思われる。それなら、レオナが回復呪文を受け付けない理由も説明が付く。

 

 今のレオナは抜け殻同然、魂の無い肉体は生命活動を行わない。回復呪文を掛けても効果がないのだ。

 

「レオナ……レオナ、しっかりしてくれ!目を覚ましてよ!」

 

 ベッドの傍で、ダイ少年がレオナに必死に声をかける。

 

「ダイ……」

 

「……」

 

 そのダイ少年を2人の仲間――魔法使いのポップと僧侶戦士のマァムが心配そうに見つめている。彼らとは最低限の自己紹介を済ませた。ダイ少年も含めて3人とも、先代勇者アバンの教えを受けた『アバンの使徒』とやらで、ロモス王国で魔王軍六軍団の1つ『百獣魔団』を打倒したという。10代の少年少女3人で魔王軍の軍団1つを倒してしまうのだから、流石は勇者とその仲間と言ったところか。こんな時でなければ、盛大に歓迎も出来たのだが……。

 

「レオナ……折角会えたと思ったのに……!」

 

 悲しげな顔に悲しげな声……ダイ少年のレオナへの想いが窺える。

 

「エイトよ、そなたの力で何とかならぬのか……?」

 

「……残念ながら」

 

 縋る様な目で見てくるパプニカ王に、俺は首を横に振るしかなかった。手持ちの呪文や特技が効かない以上、現状では俺に打つ手はない。その上、魂が抜けた状態でレオナの肉体がいつまで保つのかも分からない。恐らく奪われた魂を取り戻せば良いのだとは思うが、取り戻そうにも敵の居場所が分からなければどうしようもない。八方塞がりだ……。

 

「あぁ……何という事だ……」

 

 パプニカ王が悲痛な面持ちの顔を両手で覆う。1人娘がこんな状態に陥れば、親としては当然だろうな。

 

「……こんな時、あの者が居てくれたら……」

 

 パプニカ王が俯いたまま呟いた。

 

「あの者?」

 

「うむ、かつて我が王家に仕えていた魔法使いでな……。彼ならば、レオナに掛けられた呪法を打ち破る事が出来たかも知れぬ……」

 

 そんな人物がいたのか。まあ、賢者の国パプニカならいても不思議ではないが。しかし、“かつて”という事は引退して今はいないという事だ。

 

「その人は今何処に?」

 

「分からぬ……彼は誰にも何も告げず、王宮を去ってしまったのでな」

 

「どういう事です?」

 

「……全ては、私の責任なのだ」

 

 表情を沈ませて、パプニカ王は昔あったという出来事を語った。

 

 当初、パプニカ王はパプニカ王国の復興と発展の為にとその魔法使いを王宮に招き、相談役の座に据えた。初めの内、魔法使いは的確な助言でパプニカ王を補佐しており、パプニカ王も魔法使いを重用していた。しかし、当時の家臣共が魔法使いを疎んだ。自分達を差し置いて、王の相談役と言う地位に抜擢された事に嫉妬したのだ。

 

 そして、陰湿な嫌がらせが繰り返された結果、魔法使いは王宮から姿を消した……。皮肉な事に魔法使いが消えた事を切っ掛けに、彼を追い出した奸臣共の無能さと醜悪な強欲さが露見し、王宮内で大規模な粛清が行われたそうだ。

 

「私がもっとしっかりしておれば、彼を傷付ける事もなかったろうに……全く、己の至らなさが悔しいわ……!」

 

「馬鹿共を粛清した後、その魔法使いを探したりはしなかったのですか?」

 

「勿論探したとも。しかし、彼の行方は一切掴めなかった……今は何処でどうしているのやら……せめて息災であってほしいが」

 

「そうですか……」

 

 悪いので口には出さないが、余り意味のない情報だったな。仮にその魔法使いが都合良く見つかったとしても、そんな仕打ちを受けて姿を消したからには王家に不信を抱いているはずだ。頼んでも協力などしてもらえないだろう。

 

「おれ、その人を探しに行ってくる!」

 

『ええ!?』

 

 唐突なダイ少年の宣言に、その場の全員が目を丸くする。

 

「ちょ、ちょっと待てよ、ダイ!探すったって、どこにいるのか見当も付かないんだぜ!?」

 

「分かってるっ!分かってるけど、このままじゃレオナはずっと目を覚まさない……。この先、どうなるかも分からないんだ……!何もしないでじっとなんかしてられないよっ!!」

 

 ポップの言葉に、辛そうな表情で答えるダイ少年。その気持ちは理解できるが、闇雲に探しても見つかるとは思えない。ホルキア大陸だけでも結構な広さがある上に、その魔法使いがこの大陸にいるとも限らないのだ。とは言え、ダイ少年に理詰めの説得は意味が無さそうだ……理屈じゃない、頭で分かっていても、居ても立っても居られない時はある。

 

 しかし、困った……レオナをこのままにしておけないのは分かっているが、ここでダイ少年が離脱してしまうとパプニカの守りが手薄になってしまう。唯でさえレオナがこの状態でパプニカ王国軍の士気が下がり気味、ヒュンケルも偵察に出たまま、三賢者はまだまだ力量不足……ダイ少年を除けば、軍団長レベルの敵と戦えるのは俺1人だけだ。ダイ少年はロモス王国にて百獣魔団の軍団長を倒しているのだから、少なくともそれだけの戦闘力を持っているはずだ。いつまた魔王軍が攻めて来るか分からない今、戦力の分散は出来る事なら避けたい。

 

 くそ、どうしたらいいんだ……?

 

「とにかく!おれは行く!!」

 

「あっ!?ちょ、待てよダイ!待てってば!」

 

「あっ!ダイ!ポップ!待って!」

 

 あっ!?しまった!頭を抱えている間に、ダイ少年が駆け出して行ってしまった!そのダイ少年を追って、ポップとマァムも出て行ってしまった……。

 

「ぅ……何て事だ」

 

 結構な素早さで行ってしまったので、止める間もなかった。これはかなり拙い状況だ、皆が焦ってバラバラに行動し始めると、統制が崩れて敵に付け入る隙を与えることになり兼ねない……とにかく、これ以上の分散を避けなければ!

 

「仕方がない、一先ずその魔法使いの探索はダイ君達に任せよう。俺達は、パプニカの守りを固める。また敵がいつ襲ってくるかも分からない。アポロとマリン、お前達はそれぞれ兵を指揮して、城の守りと町の人々の救助活動を頼む」

 

「承知!」「はい!」

 

「エイミはレオナを看てやってくれ。全く未知の攻撃だけに、いつ容体が急変するかも分からない。異変があれば、すぐに知らせてくれ」

 

「分かりました!」

 

 俺の指示に三賢者達は強く頷き、それぞれの任務に取り掛かる。俺も暫く城に詰めていなければならないな。敵はまた必ずやってくる……レオナの魂は謂わば人質だ。魔王軍の事だ、『レオナの魂を返してほしければ降伏しろ』とか、或いはもっとエグイ要求をしてくる可能性が高い。

 

 何にしても、近い内に向こうからのアプローチがあるはずだ。今は、それを待つ以外にない。

 

「陛下もお休み下さい。これから敵が動きを見せるまで、我慢の時間となりましょう」

 

「し、しかし……」

 

「根を詰めて、陛下まで倒れられてはパプニカは終わりです。守りは私に任せて、どうかお休み下さい」

 

「……分かった。そなたには、本当に苦労を掛けるなぁ……」

 

「何を仰られます、陛下。お辛いでしょうが、どうかお心を強くお持ち下さい。レオナ姫は、私が必ずお救いします故」

 

「ありがとう、そなたの言葉で私も勇気が湧いてきた。私も私の出来る事を全力でやろう。その為にも、今は暫し休ませてもらう。頼むぞ、エイトよ」

 

「お任せ下さい」

 

 何とか気持ちを持ち直してくれた様で、陛下は生気の戻った表情で俺の肩をポンと叩いてから、護衛兵を伴って部屋を出て行った。

 

 さて、俺も外で見張りに立たなければ。

 

「じゃあ、ここは頼んだぞ」

 

「はい!」

 

 エイミを残し、俺も自分の仕事に向かった――。

 

 

 

 その後、パプニカ王宮は厳戒態勢か敷かれ、俺も外で見張りに立ち敵の襲撃に備えたが、敵は一向に現れずただ時間だけが過ぎていった……。

 

 そうして日が暮れ、空が暗く星が見えるようになった頃……。

 

「エイト殿!」

 

「どうした?」

 

 見張りに立っていた俺の元に、兵士が駆け込んできた。

 

「ゆ、勇者ダイ様とお仲間の方々が戻られました!」

 

「何?」

 

 随分と早いな……?出て行った時の意気込みからして、件の魔法使いを見つけるまで戻って来ないと思ったが……まさか!?

 

「まさか、陛下が仰られていた魔法使いも一緒なのか!?」

 

「はいっ!ご一緒です!」

 

 マジで!?幾らなんでも都合良すぎじゃないか!?行って帰って来るまで6時間も経ってないぞ!?

 

「わ、分かった!俺もすぐ行く!」

 

「はっ!」

 

 色々とツッコミどころ満載だが、一先ず置いておく。今はレオナの命の方が大事だ。戸惑いを押し殺し、俺はレオナが眠る部屋へ向かった。

 

「おお、エイトも来たか!」

 

 急いで駆けつけて見ると、既にパプニカ王や三賢者も集まっていた。ベッドの方を見ると、ダイ少年とポップとマァム、それに見慣れない老人が1人……丸く大きな帽子を被り、杖を携え、古びたローブとマントを羽織っている。多分、あれが件の魔法使いだろう。眠り続けるレオナの額に手を当て、何かを探る様に意識を集中している。

 

「陛下、あの老人が……?」

 

「如何にも。魔法使いマトリフ、かつて勇者アバンと共に魔王と戦った仲間の1人だ」

 

 先代勇者アバンの仲間だったのか……なるほど、それで王家に招かれたんだな。そして実際に魔力も高く、知識も深いからこそ重用されていた訳だ。俺にも何となく、あのマトリフという老魔法使いがかなりの魔力を持っているのが分かる。レオナを治せるといいが……治せないまでも、せめて呪法の解き方だけでも知っているといいが……。

 

「……ふむ、間違いなく脱魂の呪法の症状だな」

 

 やがてレオナから手を離したマトリフ老人は、その容態を言い当てた。いや、ダイ少年達から聞いていて、事実を確かめたのか。

 

「マトリフさん!お願いします!レオナを助けて下さい!!」

 

 ダイ少年が必死に頼む。だが、マトリフ老人は渋い表情を崩さない。

 

「脱魂の呪法ってのは相手の魂を抜き取っちまう恐ろしい呪法でな。魂を戻さない限り、肉体が目覚める事はねえ。姫さんの魂が敵の手にある以上、いくら俺でも手の施しようがねえのさ。つまり姫さんを助ける方法はたった1つ、抜かれた魂を取り返して肉体に戻すしかねえ。しかも、抜かれてから24時間以内にな。さもねえと……姫さんは死ぬ」

 

「そ、そんな……!?」

 

 マトリフ老人が突き付けた残酷な事実に、ダイ少年を初めその場の全員の表情に絶望が浮かぶ。

 

 魂が抜かれてから24時間以内……正確には分からないが、敵襲があったのは昼過ぎで、今の時期は日没の時間が少し延びている事を考えると、タイムリミットまではあと17時間もないだろう。

 

 くそ、時間がない……!魔王軍め、来るならさっさと来やがれ……!

 

『キーー!!』

 

「「「ッ!?」」」

 

 焦燥感が高まっていた時、部屋の窓を突き破って蝙蝠のような灰色の生物が入り込んできた。

 

「な、何だ!あいつ!?」

 

「使い魔だ。魔王軍からのメッセージだろうよ」

 

 ポップの疑問に、マトリフ老人が答える。漸く来たか……。

 

『キェーー!!』

 

 使い魔は一際甲高く鳴くと、剥き出した目から壁に向かって怪しい光を放つ。すると、壁に光線で人影が映り始めた。輪郭だけなので色は分からないが、厳つい肩当とマントを着ており、逆立った髪に目付きの悪い顔、そして特徴的な尖った耳で魔族と分かる男だ。

 

『お初にお目に掛かる、パプニカ王国の諸君――』

 

 投影された人影が喋り始める。

 

『私は豪魔軍師ガルヴァス、近い将来ハドラーに代わり魔軍司令の地位に就く者だ』

 

 

 

 

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