ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方 作:amon
「闘気の……コントロール?」
「そうだ」
オウム返しで首を傾げるダイ少年に、俺はまた頷く。
「俺なりの解釈になるが、『空裂斬』は剣に闘気という攻撃的な“
この事は俺自身、ダイ少年からアバンの話を聞いて思わず「なるほど」と思った。恐らくアバンは、剣術における要点をパワー・スピード・闘気の3つだとして、それぞれを極める為の3つの技を編み出し、それらを纏めてアバン流刀殺法を作ったんだろう。
そして恐らく『アバンストラッシュ』はアバン流刀殺法の集大成と言うべき技なのだ。パワー・スピード・闘気のコントロール、この3つが完全に一体になった時、初めて完成する奥義なんだろう。さっきのダイ少年の『アバンストラッシュ』の変な軽さは、ダイ少年が『空裂斬』を、延いては闘気のコントロールを習得していない事で起きる不完全さの表れだった訳だ。
俺も『ギガスラッシュ』や『アルテマソード』など闘気と魔力を剣に乗せて相手にぶつける類の特技が使えるが、神様から貰ったチート故に、使う時にそういう事を意識した事はなかった。最近ちょくちょくそれらの特技を使う様になり、知らず知らずの内に俺自身もそのコントロールを身に付けていたのかも知れない。だから、ダイ少年の技の違和感に気付けたのかも知れない。
まあ、何にせよダイ少年の修業の方向性は決まった。アバン流刀殺法の完成――これが完了した時、ダイ少年はひとつの壁を破り、確実に強くなる。
しかも、不完全でも『アバンストラッシュ』が使えるからには、切っ掛けさえ掴めれば『空裂斬』の習得は割とあっさりいきそうな気がする。ならば、俺はその切っ掛けを掴む手助けをするのが役目だ。
「よし、一先ずダイ君の修業の方針は大体決まった。次はポップだが……」
「ん?何だよ?」
「いや、俺は呪文は一通り使えるが、専門の魔法使いじゃないから、指導するのは無理だと思ってな。どうしたもんかなぁ、と……」
と、俺が首を傾げた次の瞬間――
「だったら俺に任せな」
「うお!?」
突如背後から声が掛かり、思い切り吃驚した。慌てて振り返ると、そこには何とも言えない変な笑いを浮かべたマトリフ老人が立っていた。
「ま、マトリフさん……!驚かさないで下さいよ……!」
「ヘッヘッヘッヘッ、まあいいじゃねえか。そんな事より、その小僧の修業なら俺が見てやるよ」
「ええ?」
意外な提案に、俺はまた驚かされた。この老人は、余程のことがなければ他人に頼まれても動かない人だと思っていたからだ。
「それは、渡りに船というか……有難い申し出なんですが、何でまた?」
「なぁに、アバンの忘れ形見がこんなガキんちょの内に死んじまったら、アバンの奴も草場の陰で嘆くだろうと思ってな」
「な、何ぃ!?おい、爺さん!そりゃあどういう意味だよ!?」
マトリフ老人の発言に引っ掛るものがあったのか、ポップが噛み付く。
「ふん、どういう意味も何も、今のままじゃお前、近い内に死ぬぞ。アバンからどんな指導を受けてたか知らねえが、俺ぁお前みたいな弱っちそうな魔法使い初めて見たぜ」
「なッ、何だとこのジジ――うっ!?」
掴みかからんばかりに近寄って行ったポップだが、マトリフ老人が突き出した杖とその鋭い眼光にたじろいてしまった。
「だから、ちょっとでもマシになる様に、この世界一の大魔導士マトリフ様が鍛えてやろうってんだ。有り難く思いな」
「ぅ、く……!な、何を、勝手に――痛てててっ!?」
何とか気を取り直して反論しようとしたポップだったが、また途中でマトリフ老人が耳を引っ張った為に最後まで言えなかった。
「つー訳だからよ。こいつは預かってくぜ。じゃあな、『ルーラ』」
こちらの返答を待たず、マトリフ老人とポップは光の球になって何処かへ飛んで行ってしまった。
「だ、大丈夫かなぁ……ポップ」
「……まあ、大丈夫だろう……多分」
2人が飛び去った後を見上げて呟いたダイ少年に、俺は気休め程度にそう言っておいた。他に言える事もないし、何だかんだ言ってもマトリフ老人は悪人ではない。でなければ、わざわざ我々を気に掛けて、ポップの指導を申し出たりはしないだろう。寧ろ、マトリフ老人の様な無遠慮な人に厳しくシゴかれた方が、ポップの成長には良いかも知れない。
「ポップの事はマトリフさんに任せよう」
それより、こっちの事だ。残るはマァムだが……俺的には彼女が1番困りものだ。
「……マァム、君はどうする?」
「え?あの、どうするって……」
「敢えてハッキリ言ってしまうが……君はこのままだと強くなれない。そして、そう遠くない将来、足手纏いになるだろう」
「っ!?」
マァムの表情が強張る。
「そんなっ!マァムが足手纏いだなんて!そんな事ないよ!!」
「ダイ」
「っ、マァム……?」
俺に反論してくるダイを、マァムが押し留める。
「エイトさんは、私を貶める為に言ったんじゃないわ。エイトさんはそんな人じゃない、それはダイも分かるでしょ?」
「それは……そうだけど、でも!」
「いいの。とにかく、エイトさんの話を最後まで聞きましょう」
そう言うとマァムは、真剣な表情で俺を見てきた。さっきは少し気が引けていたが、マァムのこの表情を見る限り大丈夫そうだ。
「マァム、言っては悪いが今の君は酷く中途半端だ。僧侶戦士だっけ?僧侶と戦士、回復役と攻撃役、後衛と前衛……全く正反対の役割、それを両立させるのは極めて難しい。大抵はそれぞれの特徴が、お互いの長所を潰し合ってしまう。今の君が正にソレだ」
「っ……」
マァムの表情に陰りが出る。少し気の毒に思えてくるが、ここではっきり言っておかないと今後の彼女の為にならない。心を鬼にする。
「回復呪文は『べホイミ』がやっと、攻撃力もダイ君とは比ぶべくもなく。君は僧侶としても戦士としても半人前以下だ。これまでは何とかなったかも知れないが、この先は魔王軍も本腰を入れて俺達を潰そうと掛かって来るだろう。そうなれば、今のままの君では激化する戦いについて行けなくなる」
「……」
元々自覚があったのか、俺が言ってその事実に気付いたのかは分からないが、マァムの表情は深刻な事態に悩んでいる感じになる。
「……で、さっきの質問に戻る。マァム、君はどうする?」
「どうするって……急に言われても、私、どうすればいいか……」
「まあ、今すぐに答えを出せとは言わないよ。さっき俺が言った事を踏まえて、この機会にじっくり考えてみるといい。自分がこれからどの方向に進むのかをね」
「……はい」
マァムはやや沈み気味ながら真剣な表情で頷くと、訓練場から立ち去って行った。何とか彼女なりに答えを出してくれるといいが……。
とは言え、魔王軍はこっちの都合なんか考えてはくれない。いつ襲ってくるか事前に教えてもくれないのだから、余り悠長に構えている訳にもいかない。余り長々と悩んで決断できない様なら、マァムの戦力外通告も考えなければならない……。彼女自身の為にも、そうしなくて済む事を切に願う。
さて、気持ちを切り替えて、ダイ君の修業を始めよう――。
「さあ、ダイ君。人の事より自分の事だ、早速修業を始めよう」
「は、はい!お願いします!」
背筋を伸ばすダイ少年。素直な子は教え易くて助かるし、俺も気分が乗ってくる。
「さて、君にはこれからアバン流刀殺法の完成を目指し、『空裂斬』の習得を目標として修業してもらう。で、先ずはその極意である闘気のコントロールを身に付けるところから始める」
「でも、エイトさん……コントロールを身に付けるって言っても、おれ、まだイマイチよく分からないよ。一体、どんな修業をすればいいの?」
「俺も専門家って訳ではないから手探りみたいなもんだが、取り敢えずやってみよう」
そう言ってから、俺は頭に巻いているバンダナを外し、それで自分の目を隠した。当然、視界が閉ざされ何も見えなくなる。
「えっと……エイトさん、何やってるの?」
「まあ、いいからいいから。ダイ君、これから俺と鬼ごっこをしよう」
「え?」
「先ずは俺が鬼だ。俺はこの目隠しをしたまま、君を捕まえようと追いかける。君は、俺に捕まらない様に逃げるんだ。ただし、王宮の中には入らないでくれ。危ないからな」
「そ、そんな……いくらエイトさんでも、目隠ししたままじゃあ、おれを捕まえるなんて無理だよ」
「ふふん、そうかな?まあ、それならそれでいいじゃないか。捕まえられなければ、俺の事を『偉そうな事を言った癖に間抜けな奴め』と笑ってくれていいぞ」
「べ、別にそんなことは言わないけど、今は遊んでる場合じゃ……」
「いいからいいから。ほら、早く逃げた逃げた!」
「……分かったよ。じゃあ……!」
おっ、結構なスピードで走り出したな。数秒でもう10mは距離が開いた。
それでは、俺も追いかけるとしようか――。
「……!」
ダイ少年は俺が追いかけ始めたのを見て、右に曲がる。俺もそれを追って右へ曲がる。
「……!?くっ!」
おっ、ムキになってスピードを上げたな。なるほど、速い速い。しかし、付かず離れず追跡する。
「っ!?うおぉーーーーッ!!」
また速くなった。恐らく、全速力だろう。でも、逃がさない。
その後、ダイ少年はただ走って逃げるだけでなく、王宮の壁をよじ登ったり、屋根に飛び乗ったり飛び降りたり、時に物陰に隠れたり、あの手この手で俺の追跡を躱そうと試みた。しかし、今の俺の追跡から逃れるのは、今のダイ少年にはまず不可能。何処にいるのかは勿論、段々と次にどう動くかも手に取る様に分かる様になってきた。
「ハア、ハア!ど、どうして……見えてない筈なのにっ!?」
目隠しの俺を全く引き離せない状況に、焦りや疑問で混乱し始めるダイ少年。確かに、今の俺は目が見えないが、ダイ少年の“気配”はしっかり捉えている。寧ろ、目で見るよりずっと鮮明にダイ少年を捉えていると言ってもいい。
実は俺自身、この感覚に驚いている。まさか、昔見たトンデモ格闘漫画の修業法がここまで見事にハマるとは思わなかった。
ともあれ、この修業法が有効である事は身をもって分かった。なら、後はダイ少年にやってもらう事にしよう。
「ほい、捕まえた」
「うわっ!?」
瞬間的にスピードを上げてダイ少年を捕まえる。
「さっ、ダイ君。次は君が鬼だ」
そして、本格的に修業開始だ――。
『空裂斬』の極意に関しては、主人公独自の着眼と解釈という事でご容赦ください。