ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方 作:amon
「ん……?」
目を開けてみると、そこは森の中だった。
「転生したのか……」
少し辺りを見渡してから、自分の両手を見る。
服が変わっていた。全身をざっと見た限り、シンさんは俺の注文通り、ドラクエⅧの主人公の服装にしてくれた様だ。オレンジ色のバンダナに青いシャツ、黄色いベストコートに肩掛けカバン……まるでコスプレをしている様な気がして、少し照れる。
「剣は……おおっ!正しく『竜神王の剣』だ!」
背中に掛かっていた剣を外してみると、ゲームでテレビ画面越しに見ていた『竜神王の剣』その物だった。日本刀の様な反身で片刃の刀身、赤い竜の衣装が施された鍔と柄……なんて格好良く美しいんだ……胸が高鳴る。
背中だと、何となく取り難そうだ。腰のベルトに差しておこう。
「さて……身体の方はどうかな?」
何となくその場で数回、拳を繰り出してみる。すると、『シュッ!シュッ!』という拳が空気を切る音が鳴る。
シャドーボクシングなんかで、それを行うボクサーが自分の口で鳴らす音を、今の俺は何となくで繰り出した拳で鳴らせた……これはつまり、俺が育てたドラクエⅧの主人公のステータスがきちんと反映されているという事だろう。
恐らく、ステータスの『力』とスキル『格闘』が影響している。ボクシングを初め、格闘技なんてやった事もない俺だが、見様見真似のパンチや単なる腕力だけでは今の音は出ないだろう事は分かる。
もう1つ、試してみよう。足元に落ちていた石を拾い上げ、正面に向かって投げる。
「ッ!」
素早く石を追い越して対面に回り、自分で投げた石を右手でキャッチ――したと同時に、俺の手の中で石は砕けた。
「おお~……!」
手を開いて、砕けた石を見て少し感動を覚える。投げた石は剛速球と言って良い速度だった……それを軽く追い抜き、動きを完全に捉え、簡単にキャッチしてしまった。しかも、握り砕いた時に手に感じた石の感触は、まるで角砂糖の様に脆かった。
これらは、『素早さ』と『身の守り』の影響と見た。しかも、さっきのはまだまだ序の口も序の口……本気を出したらどれ程強く、速く、堅くなるのか……考えると少し恐ろしい。これは簡単に相手を殺せてしまう力だ……自分で願っておいて今更だが、過剰戦力だったかも知れない。
更に、俺にはドラクエⅧの主人公の呪文と特技に加えて、他のドラクエシリーズの呪文と特技が全て使える……はずだが……これも試してみよう。
ここは森の中だし、火事になったら拙い……使うのは『冷たい息』にしよう。
「ふうッ」
近くの木に向かって意識して息を吹きかけてみる。すると、俺の口から白い冷気が出て木の幹に当たり、その表面が少し凍った。
普通の人間に、冷気の
例えば氷結呪文『ヒャド』と火炎呪文『メラ』――これで空気中の水分を氷結させて、出来た氷を融かして水を作る事も可能。ゲームシステムによる制限が無いおかげで、こんな生活に役立つ使い方も出来る様だ。
他の呪文や特技に関しても、戦闘にも日常生活にも活かす応用法が頭の中にある。勿論、どうやっても戦闘にしか使えない呪文や特技もあるし、どっちにも使えないモノだってある。威力やその効果故に使えないモノも多い……特に『メガンテ』や『メガザル』『メガザルダンス』の様な自己犠牲系の呪文・特技は絶対に使えない、ていうか使わない。
あと『マダンテ』や『ビッグバン』といった破壊力が強過ぎる呪文・特技も、滅多な事では使えない。今の俺の能力で使ったら、どれ程の破壊力を生むか分からない。
ここまで思考を巡らせてから気付いたが、頭の回転が信じられないくらい早くなっている。考え込んでいた時間は恐らく0,1秒にも満たない……こういう事も感覚的に分かってしまう。これがレベル99の主人公の……そして今の俺の『賢さ』か。地球にいた時にこれがあったら、テストとか楽勝だっただろうなぁ……。
ともあれ、シンさんは約束をちゃんと守り、俺が願った途方もないチートを授けてくれた様だ。
「荷物はどうかな?」
今度は肩に掛かっているカバンの口を開く。多分、これが“ふくろ”なんだと思うが……。
「え……?」
カバンの口から中を覗くと……そこには、青白い渦巻……え?何だコレ?
「……『旅の扉』……?」
それは、ドラクエシリーズ初期に登場するワープポイント『旅の扉』にしか見えなかった。シンさんが俺の注文通りにしてくれているとすれば、この“ふくろ”に相当するカバンには地球丸々1個分の容量があり、物を自在に出し入れ出来て、入れた物の品質を1000年保持してくれるはず……その入れ口がコレという事は、此処に物を入れれば収納空間に収納でき、手を突っ込めば入れた物を取り出せるという事か?
「…………そうだ!」
1度全部出してみよう。カバンを逆さまにして、軽く上下に振ってみる。すると、ある意味予想通りで、ある意味予想外の結果になる――幾つかの物が出てくる事は予想していた。だが、中から大量のコインが滝の様に流れ出てくる事など予想してなかった。
あっという間に鈍い金色の小山が出来上がり、俺も膝下まで埋もれてしまった。
「これって……もしかして、ゴールドか?」
小山から数枚コインを手に取ってみる。コインの表面に多少の装飾と中央に数字が刻まれている。見た限り、コインの種類は1・5・10・50・100・500の6種類……それぞれの大きさも大体日本円と殆ど同じだ。
きっとこの量の関係上、この地球1個分の容量があるカバンに収納してあったんだろう。俺が最後にドラクエⅧをプレイした時点で、ゴールドを幾ら貯めていたか正確に覚えていないが……確か数千万ゴールドはあったはずだ。
これは数えるのが面倒なんてもんじゃないぞ。それに……これ全部、手でカバンに入れなきゃならないのか。面倒だが、このままじゃ他の持ち物が確認できないから仕方がない……諦めて、大量のゴールドをカバンに戻していく。
こんなところでも『素早さ』が役立った。数分でゴールドの山を収納し終え、その下に埋もれていた他の持ち物が見えた。
装飾のついた槍、鈍い銀色のブーメラン、鳥の意匠の鍔が付いた細身の剣、指輪が2種類1個ずつ、液体の入った小瓶が1本……分かるぞ、それぞれ『英雄の槍』『メタルウイング』『隼の剣・改』『ゴスペルリング』『アルゴンリング』『エルフの飲み薬』だ。
思い出した、確かにこれは最後に持たせていた……ラプソーンを倒した後の主人公に残ったアイテムだ。
ステータス、呪文・特技、“ふくろ”、ゴールド、持ち物は確認できた。残すはあと1つ……。
前……よし!右……よし!左……よし!後ろ……よし!
周囲には人間どころかモンスターもいない。では……!
「コホン……来い!鎧達よ!」
掌を空に向けて右手を真上に掲げ、叫ぶ。すると、俺の頭上に赤白い光の渦が現れ、その中から鎧のパーツが続々と飛来する。そして、吸い付く様に次々俺の身体に装着されていき、鎧が完成すると左腕に盾が、頭に兜が装備された。
「お、おお~~……!!」
再び感動――思い付きでやったポーズと厨二臭い台詞の後、俺は赤い鎧騎士……いや、武者の方が感じ的に合っているか。とにかく、格好良い鎧姿に早変わりだ。これは良い……良いぞ!
少し感動に浸った後、今度は無言で鎧を還し、元の格好に戻る。還す時は無言で出来たのだから、きっと呼び出すのも無言で出来るだろう。
これで確認すべき事は全て確認したな。
「さて……これからどうするかな?」
何をするにも、やっぱり1度町に行きたいな。この世界の現状と地理、文化などを知りたい。何をするかは、それらを知ってからじっくり考えればいいか……幸いにして、資金は潤沢だし。
よし、一先ず町を探そう。早速、特技が役に立つ。
「『鷹の目』」
現在位置から最寄りの町や村を探す特技――使ってみて驚いた。急に視界が急上昇を始め、周囲の地形が確認できるほどの高さで止まり、すぐに村の姿を捉えた。実際に使うと、こういう感じなのか。
方角は北北西、距離は凡そ5km……結構小さな農村の様だ。一先ず、この村に行ってみよう。
俺は村がある方角に向かって歩き出した。
初めの村に付くまでには1時間と掛からなかった。畑と羊や山羊の小屋に農家、典型的な農村で商店もよろず屋1件と小さな宿屋1件という規模……ここでは情報に期待が出来ず、俺はよろず屋で食料を仕入れるついでに店主に大きな町の事を尋ねるだけに留めた。
結果、更に西の方に『カール王国』の城下町があるという話が聞けた。距離は、徒歩で2日ほど……正確には分からないが、多分、今の俺がその気になれば半日と掛からずに辿り着ける距離だ。そのくらいの脚力と体力が、今の俺にはある。
その町は『カール王国』の首都であり、大きな図書館もあるとよろず屋の店主は言っていた。しかも、約7年前に世界を脅かしていた“魔王”を打倒した“勇者”の出身地でもあるとか。これは行くしかない。
そして俺はすぐにその城下町を目指して村を後にし、少々道に迷いつつもその日の内にカールの城下町に辿り着いた。
「おお~」
異国情緒、という奴か。俺は日本から出た事が1度もないから、外国の事は雑誌に載っている写真ぐらいでしか知らない。そんな俄か知識だが、カールの城下町の風景はヨーロッパの街並みに似ている気がする。
少し海外旅行の気分だ。飛行機にも船にも列車にも乗らず、自分の足だが……。
足と言えば、今更だが我ながら恐るべき脚力と体力だ。1度の休憩も挟まずに自動車顔負けの速さで走り続け、ここに着いた時に息切れもしなかった。これなら交通手段が発達していなさそうなこの世界でも、移動にそう時間は掛からなくて済みそうだ。1度行けば、あとは『ルーラ』でいつでも来られる。
「さてと」
余り街並みに見惚れていて“お上りさん”と思われても恥ずかしい。さっさと図書館へ行こう。
「すみません」
町に入ってすぐの道の脇に立っていた兵士のおっさんに声をかける。
「何だね?」
「この町には図書館があると聞いたんですが、道を教えてもらえませんか?」
「おお、図書館か。それならこの道を……」
兵士のおっさんは丁寧に道を教えてくれた。
「どうもありがとう」
兵士のおっさんに礼を言って、教えてもらった道を歩く。町中では流石に俺が走ると危ないから走らない。
それに、急ぐのは勿体ない。折角だから、観光気分で辺りを見物しながら行く。流石に一国の首都だけあって、人も多く、商店も多い。
食材を扱う店、宿屋、レストラン、花屋、本屋、宝石店……武器屋と防具屋が普通にあるのは、流石ドラクエ世界と言ったところか。それに道行く人の格好も独特だ。普通の格好の人は勿論だが、鎧姿の戦士やとんがり帽子の魔法使い、筒状の帽子を被った僧侶なんかもそれなりの数が歩いている。しかも、同じ職業と思しき人間でも、それぞれ格好に個性があり中々面白い。これなら、俺も鎧兜でいても大丈夫だったかもな。
そうして街並みと人を見物しながら10分ほど歩き、俺は図書館に辿り着いた。
「へえ~、こりゃ凄い」
中に入ってすぐに、その広さとシックな内装に感嘆の声が漏れた。何というか、大美術館の美術品と本棚を入れ替えたような感じだ。この世界の事を勉強するつもりで来たが、本当に観光旅行の気分になってきた。
図書館内にも結構人がいるが、流石に静かだ。どの世界も、図書館で静かにするのは共通のルールの様だ。
俺も静かに、色々と調べ物をするとしよう。
館内を歩き、必要と思う内容の本が集められた棚を探す。必要なのは……近年の世界史、世界の地理、各国の文化や特徴……一先ず思い付くのはこのくらいか。あとは色々と目についた本を物色していくか。
目的の棚はすぐに見つかり、必要な資料も見つかった。ここでまたステータスの恩恵を実感した。自分で異常だと分かる程、凄まじいスピードで文章を読む事ができ、しかも内容を一瞬で覚えてしまう。超速読術と瞬間記憶……以前の俺には絶対出来なかった芸当だ。
おかげで、時間を掛けずにこの世界の様々な知識を吸収できた。ドラクエのゲーム知識がそのまま通用する事もあれば、この世界独自の事も色々とあり、中々面白かった。勉強が面白いと思ったのは、(前世も含めて)生まれて初めてかも知れない。
「さて、そろそろ行くか」
調べ物はほぼ終わり、俺は図書館を出た。
すっかり日が暮れた……面白くて様々な分野の本を読み漁っていたらすっかり遅くなってしまった。何処かで夕食を取って、適当に宿屋を探して落ち着こう。
明日からは、世界一周の旅だ。ついでに何処か住み良い町を探して、そこで何か商売でも始めてみよう。まだ確固たるプランはないが、今の俺なら1人で暮らしていく分くらいは余裕で稼げるはずだ。ゴールドは一生遊んで暮らしても余るほど持っているが、それをやったら人間お終いな気がするし、慣れれば仕事も楽しいと言う人もいる。
この世界はもう平和な様だし、俺もそんな平和で適度に張りのある楽しい生き方を目指したい。
明日からの事をあれこれ想像しながら、俺はレストランと宿屋を探しに町へ向かった。