ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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ここまでの魔王軍の動向を書いてみました。

※感想で、鬼岩城がどうやって移動したのか?という指摘を頂きましたので、その部分を少々加筆いたしました。ストーリーには全く影響しません。


幕間『魔王軍』

 魔王軍の居城『鬼岩城』にて――

 

「むぅぅぅ……バカな……!?」

 

 かつての魔王にして現魔軍司令ハドラーは、ある一報を受け、腰掛けていた石の肘掛を握り砕いていた。

 

「まさか……まさか、不死騎団が……!!」

 

 一報の内容は『不死騎団壊滅』……地底魔城は謎の死火山の噴火で全壊、軍団長ヒュンケルの消息は不明、パプニカ王国侵攻は完全に失敗に終わったというものだった。それも、侵攻開始からたったの2日というごく短時間の内に……。

 

「一体、パプニカ王国で何が……?不死騎団を初め、今の魔王軍の各軍団はかつて俺が率いた魔王軍にも匹敵する戦力があると言うのに……それがたった2日で壊滅だと!?まさか、あの国がそれ程の戦力を有しているとでも言うのか……!?」

 

 全くの予想外の事態に、ハドラーは混乱した。しかし、かつては魔王として、そして今は大魔王バーンより預けられた新生魔王軍の最高司令官として、その混乱をすぐに抑え込み、対策を考える方向に意識を切り替える。

 

「むぅぅ……これは、考えておかねばならんか。軍団長どもの緊急招集を……」

 

「失礼いたします!魔軍司令閣下!」

 

 1体のガーゴイルが司令室に駆け込んで来た事で、ハドラーは思考を一時中断した。

 

「何だ?騒々しい……」

 

「はっ!只今、各地に派遣した偵察隊から報告がありまして!ラインリバー大陸に派遣した偵察隊のガーゴイルが2体、南海の孤島デルムリン島を偵察中に消息を絶ったとの事です!」

 

「何?デルムリン島だと……?」

 

 ガーゴイルの報告にあった島の名前に、ハドラーは聞き覚えがあった。そこは、かつての魔王軍の生き残りのモンスター達が隠れ住む辺境の孤島であった。

 

 以前、そこにパプニカの王女が古い洗礼の儀式を受けに行くという情報があり、本格的な魔王軍の侵攻開始に先駆け、パプニカ王国の奸臣の野心を煽り、キラーアーマーの残骸を与えて王女を亡き者にする策を打った事があった。しかし、作戦は何者かに奸臣どもが敗れ失敗……。

 

 所詮、人間のする事……と、ハドラーもその時は大して気に留めなかった。

 

 しかし、今回の報告で再びその名前を聞き、ハドラーも微かに警戒心を抱く。

 

「ふぅむ……あの島に、何かあるのか……?」

 

「また、その後の調査によると、その島全体が光の魔法陣で封印されているらしく、島内に侵入不可能との事です!」

 

「何っ!?光の魔法陣だと!」

 

 瞬間、ハドラーはある確信を抱いた。

 

「フフ……グフフフフッ!そうか、そういう事か……!!」

 

 小さいとは言え、島全体を光の魔法陣で覆う程の魔法を操る……そんな事が出来る人間はごく限られている。ハドラーには、それが出来る人間に心当たりがあった。

 

「遂に尻尾を掴んだぞ……アバン!!」

 

 歓喜と愉悦を含んだ邪悪な笑みを浮かべ、ハドラーは立ち上がり、鬼岩城を飛び立った。

 

 この時、ハドラーの脳内で不死騎団の一件は片隅へと追いやられていた……。

 

 

 

 この後、ハドラーはデルムリン島にて先代勇者アバンと戦い、追い詰められたアバン決死の『メガンテ』で大ダメージを負い、更に今代勇者ダイの手で撃退され、命からがら鬼岩城に戻る事になる……。

 

 そしてデルムリン島の一件にて新たな勇者ダイの脅威を思い知り、その討伐をロモス王国攻略中の百獣魔団長クロコダインに命じる。またパプニカ王国の不死騎団の一件を思い出し情報収集を行うが、その僅か数日の内にクロコダインがダイに倒されるという事態が発生。

 

 これを受け、ハドラーは漸く各地の軍団長に緊急招集をかける。

 

 ヒュンケル、クロコダインを欠いた残る軍団長達が鬼岩城に集結したのは、魔王軍侵攻開始から1週間後の事だった――。

 

 

 

「……遠路遥々ご苦労……!」

 

 鬼岩城『左肩の間』――円卓に5つの席が置かれた会議室にて、上座に座ったハドラーが口火を切る。その姿は以前よりも精強さが増していた。一応はアバンを葬ったという事で、大魔王バーンより新たに強靭な肉体を与えられたのだ。

 

 その迸るオーラを、円卓を囲む軍団長達も感じ取っていた。

 

(うむ……ハドラー様はまた一段とパワーアップされたようだ……)

 

 氷と炎のエネルギー岩石生命体、氷炎将軍フレイザード……。

 

(全身から力が漲っている様じゃ……)

 

 老いた小柄な魔族、妖魔司教ザボエラ……。

 

(当分、魔軍司令殿の地位は安定という訳か……)

 

 精悍な顔つきの偉丈夫、竜騎将バラン……。

 

「…………」

 

 徹底した沈黙を保つローブを羽織った影の様に存在感が希薄な男、魔影参謀ミストバーン……。

 

 現存する軍団長達を見渡し、ハドラーは本題を口にした。

 

「諸君を急遽招集したのは他でもない、不死騎団の壊滅と百獣魔団の敗走について協議する為だ」

 

「「「「…………」」」」

 

 既に事前に悪魔の目玉という偵察や伝令、通信を主な任務とするモンスターによって事態は知らされている軍団長達は沈黙を保った。

 

 但し、不死騎団に関して、侵攻開始から2日での壊滅という情報はハドラーの命により伏せられていた。混乱が発生する事を憂慮しての情報操作であった。

 

「クロコダインを討った新たな勇者ダイ……そして、今のところ正体不明ながらヒュンケル率いる不死騎団を壊滅させた戦力を有するパプニカ王国……その2つの脅威が結びつこうとしている。どちらか一方であれば、全軍団の力を終結させて叩く策も取れたが、今となっては迂闊に手を出す訳にもいかん」

 

 敵を力で捻じ伏せる事を好む気質のハドラーではあったが、脅威の大きさに魔王軍が思わぬ痛手を被る事を、延いては自身の責任問題になる事を懸念し、多少慎重になっていた。

 

「そこで当面の方策として、鬼岩城に戦力を集結させつつ、パプニカを除いた各国の攻略を継続していく。特にカール王国は何としても落としておきたい。あの国はアバンの出身国、人間どもが団結する柱になり兼ねんからな」

 

 と、そこでハドラーはバランに視線を向ける。

 

「そこで、バランよ。ミストバーンの魔影軍団と交代して、カール王国を早々に墜としてもらいたい」

 

「承知した」

 

 そうしてバランへのカール王国攻略命令が下される以外、具体的にダイやパプニカ王国への対策は講じられないまま、即応態勢と各国攻略の継続という事で軍議は一時閉じられ、軍団長達も暫くは鬼岩城に駐留する事になった。

 

 しかし、その中で野心を抱く軍団長がいた……。

 

「こいつぁ……他の軍団長どもを出し抜いて、手柄を挙げるチャンスだぜ……!」

 

 氷炎将軍フレイザードは周囲に誰もいない通路を歩きながら、目をギラリと光らせた。その胸中にあるのは手柄への執着、自らの存在の誇示……ハドラーの呪法により生み出されたフレイザードは、自身の歴史の無さにコンプレックスにも似たものを抱いており、それを払拭する為に手柄を求めていた。

 

 そんな彼には、今の状況が千載一遇のチャンスに見えたのだ。

 

「ハドラー様が怖気づく程の敵を、この俺が1人で仕留めたとありゃぁ……これ以上ない手柄だぜ!!ヒャハハハハハハァーー!!」

 

 妄想の栄光に目が眩んだフレイザードは、ハドラーの命令を無視して部下を引き連れ、パプニカ王国へと出撃していった。

 

 

 

 そして、あっさりとエイトに返り討ちに遭い、鬼岩城に戻る事はなかった……。

 

 程なくフレイザードの敗北はハドラーの知る所となり、魔王軍に更なる混乱と緊張を呼ぶ事となる。

 

 

 

「う、うぅぅ……っ!」

 

 鬼岩城の司令室にて、ハドラーはその頭上にあるものを見て戦慄していた。

 

「じゃ、『邪悪の六芒星』が……3つに……!?」

 

 『邪悪の六芒星』とは大魔王バーンの力の象徴であり、新生魔王軍のシンボルでもある。ハドラーが見つめる先には、大魔王バーンのマークを囲む様に6つのオーブがはめ込まれ、それらが光線で結ばれ六芒星を形作る巨大なレリーフが掛けられている。

 

 そのレリーフの6つのオーブの内、3つのオーブが光を失っていた。

 

「今やヒュンケルが裏切り、クロコダインが失踪し、フレイザードが死んだ……!その為、邪悪の六芒星を形成する三角形が、1つ消滅してしまった……!」

 

 ヒュンケルがパプニカに寝返った事、ダイとの戦いで負った深手から蘇生したクロコダインが何故か姿を消した事、命令を無視してパプニカへ出撃したフレイザードが返り討ちに遭った事……それらの理由により、魔王軍六軍団も残すところ魔影・妖魔・超竜の三軍団を残すのみとなった。それが邪悪の六芒星によって示されていたのだ。

 

「こ、これは……!まさか、我が魔王軍の戦力が半減したことを意味するのでは……!?」

 

『フフフフフ……!』

 

「むっ!?誰だ!?この魔軍司令ハドラーを笑う者は何者だッ!!」

 

 突如響いた笑い声に、ハドラーは辺りを見回して叫ぶ。

 

『フハハハハハハッ!!』

 

 一際高らかな笑い声が響いた次の瞬間、稲光と共にその者は現れた。

 

「貴様は……豪魔軍師ガルヴァス!」

 

「ハドラー殿、ご健勝で何より。フフフフ……!」

 

「……ガルヴァス、貴様何のつもりだ?貴様は俺の影、俺の支配の及ばぬ場所に赴き、俺の代わりに影武者として働く……光ある所に出てはならぬ者ッ!!」

 

「ハドラー殿……いや、ハドラー。私はいつまでもお前の影でいるつもりはない」

 

「控えろッ!ガルヴァス!!」

 

「いつまでそんな口を聞いていられるか。長年、影に甘んじてきたがもう飽きた。ここらで表舞台に登場させていただく事に決めた!」

 

「何ぃ!?」

 

「お前が手こずっている若造共を倒し、大魔王バーン様に私の実力を認めていただく!」

 

「パプニカのエイトか……奴を侮って掛かると酷い目に遭うぞ」

 

「ご心配には及ばん。お前と私では頭の出来が違う。我々の為す事を指でもしゃぶって見物しているがいい」

 

「我々……?」

 

 ハドラーの疑問の言葉に取り合わず、ガルヴァスはハドラーを、その背後にある司令官の椅子を指差す。

 

「もうすぐそこの椅子には私が座る事になるだろう。フハハハハハハッ!!」

 

 高らかな笑い声と共に、ガルヴァスは姿を消した。

 

「ぬぅぅ、ガルヴァスめ……何という大それた事を……!しかし……」

 

 ハドラーはガルヴァスが自分の影武者に選ばれた理由を思い出す。

 

 実力はハドラーに譲るものの、それを補う様にどんな卑劣な策も平然と使う気質の持ち主……その狡猾さを買われ、大魔王バーンより魔軍司令代行として“影の六軍団”を預けられた男……ひょっとしたら、という事もある。

 

「……ふん、まあよいわ」

 

 しかし、ハドラーはある意味でこの状況をチャンスと見た。

 

 フレイザードの勇み足により、エイトの恐るべき戦闘力は既に知っている。ガルヴァスと影の六軍団、個々の実力ではエイトに勝つのは難しい……。しかし、総掛かりならば或いは……。まだダイ達もパプニカに到着していない今、仮にガルヴァス達が敗れてもエイトとパプニカ王国を消耗させる事が出来れば、そこへ間髪入れずに現在集結させている魔王軍の残存戦力をぶつければ、押し潰す事が出来るかも知れない。

 

 無いものとして考えていた戦力が勝手に動いて敵にダメージを与えるならば儲けもの……そう考えたハドラーは、ガルヴァスの行動を黙認する事に決めた。

 

「ふん、ガルヴァスめ……精々、魔王軍の役に立つがいい」

 

 ガルヴァスが消えた虚空に向けて、嘲笑うかのように呟くハドラーであった。

 

 

 

 しかし、この目論見もまた甘かったのだと、ハドラーは思い知る事となる。ガルヴァス率いる影の六軍団の壊滅の報……それもエイト1人の手による大敗の報によって……。

 

 

 

「ば、馬鹿な……!?こんな事が……!!?」

 

「…………」

 

 余りの衝撃に、1歩……2歩と後退るハドラー。そして、沈黙の仮面の下で鋭い眼光を放つミストバーン。悪魔の目玉に監視させていたガルヴァス達とエイトの戦いを目の当たりにして、エイトの余りに圧倒的な力に恐れ戦いていた。

 

 ガルヴァスの魔術により死の森へと変貌したベルナの森、そして不気味に聳え立っていたデモンズタワー、それら全てがエイトの術によって一瞬にして消し飛んでしまった……。幾らかの手順を踏み時間を掛ければいざ知らず、一瞬にしてこんな大破壊を行うなど、かつて魔王を名乗っていた自分にも到底不可能……。

 

「はぁぁ、ぅ、ぅぅ……!!」

 

 なまじ自身が強大な力を持つが故に、ハドラーはエイトの戦闘力をほぼ正確に把握した。そして、それが己を遥かに超えた力である事を悟ってしまった。その脅威は、未熟なダイとは比べ物にならない……。

 

(こ、この男は危険過ぎる……!!こいつを放置していては、我が魔王軍の世界征服はあり得ん……!このままでは、魔軍司令である俺の重大な責任問題に……!!?な、なんとかしなければ……!!)

 

 そうしてハドラーが、魔軍司令の座への固執と保身から焦燥感を募らせていた……その時。

 

『ピ~♪ピロロロロ~ン♪』

 

 鬼岩城内に、聞く者に悪寒を抱かせる様な陰気な音色が響く。

 

「このメロディーは……『死神の笛』の音……!?」

 

 ハドラーが戦慄と共に呟いた次の瞬間――

 

『キャーハハハハハッ!』

 

 笛の音色に甲高い笑い声が混じった。

 

『ね!ねっ!だぁから言ったでしょ!ハドラーの軍団はガタガタだって!!』

 

『フフフ……良い子だね、ピロロ。よくこのボクに教えてくれた……』

 

 話し声と足音を響かせ、その者は暗がりから姿を現す。

 

「……グッドイブニング!鬼岩城の皆さん……!」

 

 黒く薄ら笑いの仮面を被り、飾りはあれど何処か恐ろしさを含む黒衣に身を包み、身の丈ほどもある大鎌を携えた男……。

 

「しっ、死神……!」

 

「……キルバーン……!」

 

 ハドラーのみならず、ミストバーンまでがその名を口にする。

 

 その男の名はキルバーン……魔王軍の“死神”と恐れられ、大魔王バーン直属の殺し屋として、その意にそぐわぬ者を闇に葬ると噂される、ある意味で魔軍司令であるハドラーさえ権力的に上回る存在である。

 

(あの噂に高い男が……こいつか……!?し、しかし、何故この男が鬼岩城に……?)

 

「……誰か不始末でも仕出かしたかな……?」

 

「ッ!??」

 

 まるで心を見透かしたかのようなミストバーンの呟きに、ハドラーの心臓が跳ねる。

 

「……やあ、驚いたなぁ、ミスト……。君が話しているのを見るなんて何十年ぶりだろうね。全くキミときたら、必要がないと100年でも200年でもだんまりなんだからなぁ……」

 

「……フッ、貴様がおしゃべり過ぎるのだ……キル……」

 

「かもね……ウッフフフフ……!」

 

 ミストバーンの呟きを聞いて、くぐもり平坦な印象の声色ながらも親しげに話し掛けるキルバーン。ミストバーンもまた、普段とは違い親しげに対応している。

 

(な、なんだこいつら……!?顔見知りなのか……?)

 

「ところで……ハドラー君」

 

「っ!?」

 

「最近キミは戦績が優れない様だねぇ……」

 

「そうそう!て~んでだらしないんだよ~!」

 

 キルバーンの肩に座るとんがり帽子を被った小柄な一つ目ピエロ……使い魔のピロロが茶化す様に言う。

 

「パプニカのエイトってヤツには不死騎団、氷炎魔団、影の六軍団を次々と壊滅させられるわ、勇者ダイには百獣魔団を倒されてロモスを奪還されるわで、もうボ~ロボロ!魔王軍の軍団は残すところあと3つ、ど~するのかな~?キャーハハハハハッ!!」

 

「だっ、黙れッ!!」

 

「ヒャっ!」

 

 ハドラーの一喝に、キルバーンの背後に隠れるピロロ。そこで、キルバーンが仮面の奥の目を鋭くする。

 

「……本当かね?キミ」

 

「むぅ……げ、現在も抹殺計画は進行中なのだ!いずれ、必ず……!」

 

「だったら早くする事だね。バーン様はとても寛大な御方だけど……限度があるよ……。もし、またしくじったら……」

 

「……しくじったら、どうだと言うのだ……!」

 

「決まってるじゃない?コレだよ……」

 

 手を軽く首の前で横に振る動作……キルバーンが言わんとする事は、ハドラーも分かっていた。それが証拠に、ハドラーの顔は冷や汗が流れて止まらない。

 

「っ……フン!心配無用だ!!あんな小僧共など、すぐに始末してやるわッ!!この俺の手でな!!」

 

 自ら虚勢と知りながらも、弱気な態度を見せる訳にはいかないと、ハドラーはそう宣言した。

 

 その時――

 

「暫し待て……!」

 

「「「!?」」」

 

 鬼岩城にまた別の男の声が響いた。

 

「次にエイトらと戦う役目……この竜騎将バランが貰い受ける……!!」

 

 現れたのは、超竜軍団の軍団長バランであった。何故か、ザボエラを伴っている。

 

(ば、バラン……!まっ、まさか……早過ぎる!あのカール王国を、たったの5日で滅ぼしたと言うのか……!?)

 

 ミストバーンの魔影軍団と交代してカール王国を攻めていたバランであったが、難攻不落のリンガイア王国に続き、勇者アバンの出身国であるカールですら5日で攻め落としてしまう戦力に、ハドラーは戦慄する。

 

「わあ♪英雄バランだ!カッコイー!!」

 

「フフッ、なあんだ。かの竜騎将バランを切り札に取って置いたのか……。それなら一安心じゃないの……」

 

「む、ぅ……」

 

 キルバーンの言葉に、ふとハドラーは考える。バランならば或いは……と。しかし、ハドラーとしてはバランを戦いに出すのは都合が悪かった。

 

「ま、待てバラン!キルバーンが言う様に、お前は我が魔王軍の切り札!そしてエイトは侮れん敵だ!万が一の事があっては軍の士気に関わる……!ここは……」

 

「切り札と言われるならば、今ここで切らずして何とする?最早、魔王軍が世界を征する為には、何を置いてもパプニカのエイト打倒を急がねばならぬはず……侮れぬ敵とあらば、尚の事、私が行くべきでは?」

 

「そ、それは……」

 

 バランが言う事は正論……事実、バランは六軍団最強の軍団を束ねる最強の軍団長……実を言えば、ハドラーより戦闘力も上であった。現状、エイトを倒しうる可能性があるとすればバランを置いて他にはない……しかし、ハドラーはバランをエイトに……正確には、その傍にいるダイに接触させたくない理由があった。

 

 しかし、エイトを倒す重要度の高さに、ハドラーの心の天秤が揺れる。

 

(どうする……?バラン以外にエイトを倒せる可能性が無い以上、最早選択の余地はない……。これ以上、奴を野放しにしては、魔軍司令たる俺の責任問題に……!だが、そうしてしまえばバランがダイと接触してしまう恐れが……出来れば、それは避けたい……!避けたいが……ぐぅぅ……!)

 

 その時、ハドラーは閃く。

 

(そうだ……!エイトにバランをぶつけ、その隙に俺がダイを抹殺すればよい……!如何にエイトと言えど、バラン相手ならば苦戦は必至……何とかその隙にダイ達と分断出来れば……!ダイはまだ未熟、以前よりパワーアップしたこの俺ならば倒せるはずだ……よし!)

 

 考えが纏まった事で、ハドラーは落ち着きを取り戻した。 

 

「……分かった。魔軍司令として、改めて命ずる。竜騎将バランよ!貴様と超竜軍団の力をもって、何としてもエイトを抹殺するのだッ!!」

 

「承知した」

 

 波乱は避けられ、その場は一応の収拾を見た。そこへ、キルバーンが進み出る。

 

「話は決まった様だね……じゃあ、そろそろボクの要件を済まさせてもらおうかな……」

 

 そう言うと、キルバーンは懐からある物を取り出す。

 

「っ!そ、それは……!」

 

 キルバーンが取り出したのは、1本の鍵……大魔王バーンのシンボルが刻まれたその鍵に、ハドラーは見覚えがあった。それは『バーンの鍵』と呼ばれる鍵……ハドラー自身詳しくは知らないが、この鬼岩城の“ある機能”を起動させる為のアイテムとされている。

 

「裏切り者の軍団長がこの鬼岩城の場所を知ってるからね。ただちに移動せよとの、バーン様のご命令なのさ」

 

 キルバーンはその鍵を魔軍司令の椅子の後ろ、魔王軍のシンボルの中央にある大魔王バーンのマークの口に差し込み、開錠する様に回した。

 

 すると、鬼岩城が突如鳴動を始め、ガラガラと岩が崩れる音と共に、鬼岩城が立ち上がった――。

 

「ウフフフフッ……さあ、皆で楽しい世界旅行と洒落込もうよ……!」

 

 

 そして、山の様な巨人と化した鬼岩城はギルドメイン山脈から北西へ向かって歩き去って行った……。

 

 

 その数日後、世界の果てと呼ばれる『死の大地』に近い洋上にて、一隻の大型船が沈没する事件が発生する。

 

 生き残りの船員達は、恐怖に慄きながら、口を揃えて『海に巨大な人影が立っていた』と証言したという――。

 

 

 

 

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