ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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※2015/12/17 主人公ステータスの下方修正に伴い、微調整しました。


第3話『王女来店』※調整

「いらっしゃいませー!『双頭のドラゴン亭』へようこそー!」

 

『いらっしゃいませー!』

 

 元気のいい女性店員の声に続き、俺を含めた従業員全員の復唱が響き渡る。俺の店『双頭のドラゴン亭』は、今日も大盛況だ。

 

 

 この世界に転生して早くも10ヶ月余り――そして『双頭のドラゴン亭』をオープンしてから約4ヶ月が過ぎた……。

 

 

 店は俺の予想を大きく上回り大繁盛した。初めは新しい店という事で物珍しさから客が入り、レストランで俺が出した洋食メニューが人気を呼んだ。そこから口コミが広がり、外国からも客が来る様になった。

 

 宿屋も部屋がほぼ常時満室の状態……予約ですら数ヶ月先まで埋まっている。まさかここまで繁盛するとは思っていなかった。

 

 忙し過ぎて従業員達のシフトを回す為に、俺がほぼ休み無しの全力で動き回る羽目になった。レストランでは厨房で次々と来るオーダーを呪文・特技も駆使して全力でさばき、食洗器も真っ青な超高速で皿を洗い、時には俺自身で料理を運び……身体能力に物を言わせて動き回っていた所為か、従業員のみんなに「オーナーが何人もいる様に見える」と言われた事がある。そんな事すら余裕でこなせてしまう、今の俺の能力――元はレベル99のドラクエⅧ主人公の能力――は凄まじいものだ。

 

 だが、そのおかげで日々楽しく過ごさせてもらっている。

 

「はいっ!ハンバーグセット上がったよー!」

 

「はーい!提供いきまーす!」

 

 いやはや、今日も忙しいな。だが、そろそろピークを過ぎる時間だ。従業員のみんなに賄いに何を食べるかを考えておいて貰わないと。

 

「あの、オーナー……」

 

 そんな事を考えていると、ホールスタッフの女の子がキッチンに入ってきた。

 

「どうした?……まさか何かクレーム?」

 

 こういう商売だと、客が何かしらクレームを付けてくることが時々ある。こっちが悪い場合は賠償も考えるんだが、難癖つけて値切ったりタダにしろとか言うヤクザな客だと面倒だ。明らかに不当な事を言ってくるなら、力尽くて叩き出すが……。

 

「いえ、違います。なんか、王宮からの使者だっていう方がいらしてるですけど……」

 

「は?」

 

 王宮から使者だって?なんでそんなもんがウチに?税金はちゃんと納めているし、何も問題を起こした事なんかないはずだが……。

 

「どうしましょう?」

 

「……一先ず、事務所の方へお通しして、お茶でも出しておいて。残りのオーダーをすぐ片付けて、俺が対応するから」

 

「はい、分かりました」

 

 ホールスタッフの娘が外へ行くのと同時に、俺は再び全力で料理に取り掛かる。残りのオーダーはあと少し、本気でやれば5分でさばける。

 

 しかし、何だって王宮から使者なんか……全く身に覚えがないんだが……。

 

 

 予想だにしなかった事態に頭を悩ませつつ、俺は料理を超速で仕上げ、後の事をキッチンのスタッフに任せ、王宮の使者が待つ事務所の方へ向かった。

 

 

「お待たせしてしまい申し訳ありません。当宿のオーナー、エイトと申します」

 

 事務所に入り、テーブルを挟んで使者と思しき人物の対面に座り自己紹介をする。使者はやや古ぼけた鎧を着た白髪の爺さんだった。威厳を演出している感の漂う顰めっ面で俺の事を見ている。

 

「いや、忙しい時に態々時間を作っていただき忝のうござる!申し遅れたが、わしはパプニカの王女レオナ姫のお付きの兵士バダックと申す」

 

「これはご丁寧にどうも」

 

 頭を下げられたので、俺も頭を下げる。

 

「それでバダック殿、この度当店にお越しになった理由は一体何でしょうか?」

 

 ここで身に覚えがないだの、ウチは真っ当な商売をしているだのと指摘される前に言い訳のような事を言ってはいけない。それは逆に疚しさの表れ、何も疚しいところがなければ堂々としていればいいのだ。

 

「うむ、実はエイト殿。わしは国王陛下の命を受け、貴殿に頼みたい事があって参ったのじゃ」

 

 バタック老人は表情を和らげ、1週間後にレオナ姫が誕生日を迎えるので、そのお祝いパーティーの料理を作って欲しいと話した。

 

「姫様は前々から、この店の料理を食べたいと言っておってのう。何度となくお城から脱走を企てたのじゃ。その度、わしや他のお付きの者達で何とか阻止してきたのじゃが……見兼ねた国王陛下が、今回の誕生日の祝いにこの店の料理を用意すると申されてから、姫様は誕生日の日が来るのを楽しみにしておるのじゃよ」

 

「なるほど」

 

 そういう事だったか。取り越し苦労だったな。

 

「そういう事なら喜んでお引き受けしますよ」

 

「おおっ!本当かね!?」

 

「ええ」

 

 ウチで出している洋食メニューをパーティー仕様にすればいい訳だし、作る量が少し増えるだけで大した手間ではない。誕生日のパーティーならケーキなんかも作れば喜ばれそうだ。

 

「いやあ、有難い!これで姫様も大喜びじゃ!」

 

「いえいえ。で、パーティーで出す料理の事ですが……」

 

 そのまま、バダック老人と打ち合わせに入る。レオナ姫は何が好きで何が嫌いか、パーティーの規模はどのくらいか、食事は何人前の用意がいるのか、食材・食器等の手配はどうするか……等々、必要事項を話し合い、プランを詰めていく。

 

「……では、その方向で準備を進めておきます」

 

「うむ、宜しくお願い申す!これでわしも、国王陛下に良い報告が出来るわい!かっかっかっ!」 

 

 30分ほどの打ち合わせである程度話が纏まり、バダック老人は意気揚々と帰って行った。

 

 思いもよらず舞い込んだ大仕事……夕方の混む時間帯までの暇な時間に従業員達を集めてその事を伝えると、みんな驚いていた。俺だって多少は不安だが、それ以上にやり甲斐のある仕事だと思う。

 

 

 

 それから俺は、日々の営業をこなす傍ら、レオナ姫の誕生パーティー用メニューの考案に時間を割いた。それなりに大人数が集まるパーティーなので、ウチで出すメニューの大半を出す事になる。パーティーは舞踏会の様な感じで、料理は踊りを踊る空間を囲む様に配置される。

 

 各地を飛び回って食材を調達したり、何度か王宮に足を運んで調理場の状態を確認してから調理手順を考えたり、バダック老人とパーティーについて調整をしたり、パーティーに連れていくスタッフを選考したり……。

 

 大忙しも大忙しで、1週間はあっという間に過ぎていった――。

 

 

 

「どんどん盛り付けていくぞー!出来た料理から会場に運んでー!!」

 

『はい!』

 

 パーティー当日――俺は5人のスタッフを連れてパプニカの王宮を訪れ、厨房で激闘を繰り広げていた。パーティーの開始時刻は午後6時……開始まで、あと20分を切っている。全ての料理を出来るだけ熱々状態でパーティーを開始して貰う為に、開始ギリギリの時間に料理を仕上げる様に調整したのだ。

 

 湯煎による保温が出来る器に盛り付けているから、少し早目に作っても良かったのだが、やっぱり料理は出来立てに近い方が美味いというのが俺の持論――スタッフのみんなには少し負担を掛けてしまうが、有難い事にみんなは俺のこだわりに理解を示して精一杯動いてくれている。

 

 パーティーさえ始まってしまえば、少しは落ち着けるはずだ。

 

「オーナー!料理、全部運び終えましたー!」

 

「オッケー!そしたら、そこのケーキを運んで一旦終了だ!それは俺が行くから!みんなは洗い物終わらして休憩しててくれー!」

 

『分かりましたー!』

 

 俺は1度手を洗い、用意しておいた台車を押して会場へ向かう。台車に乗せているのは白い箱を被せておいた俺の特製ケーキ――長方形に作ったイチゴのショートケーキで、生クリームで真っ白にコーティングしてイチゴやラズベリーやブルーベリーや各種彩りのフルーツで飾り付けた自信作だ。

 

 事前の打ち合わせで、初めに俺がケーキをレオナ姫の前に運び、姫にロウソクの火を吹き消してもらって、パーティー開始となる手筈になっている。それが終れば、俺も少し休憩出来るだろう。疲れてはいないが、一息吐きたい気分ではある。さっさと持って行って、さっさと引っ込んでこよう。

 

 俺は台車を押して会場へ向かった――。

 

 

 

「おお!エイト殿!」

 

 会場に続く扉の前でバダック老人が待っていた。

 

「バダックさん、ケーキの入場はまだですか?」

 

「うむ!先ずは来賓の方々に向けた国王陛下の挨拶からじゃ。それが終わればすぐに出番じゃぞ。姫様が今日を楽しみにしておられたのをご存じじゃから、陛下も挨拶は手短に済ますじゃろう。ここで少し待っていてくれい」

 

「分かりました」

 

 そうして会場の入り口で、出番を待つ。すると、中から男性の声が聞こえてきた。

 

『皆の者!今日は我が娘レオナの誕生日を祝いに来てくれた事、パプニカの王として、またレオナの父親として心から感謝する』

 

 どうやらこれがパプニカ国王の声らしい。王様らしく威厳のある落ち着いた声だ。

 

『今宵の宴の主役は我が娘故、私からの挨拶は手短にさせてもらう。では、宴の初めに娘のバースデーケーキに入場してもらおう』

 

「よし!エイト殿、出番じゃ!」

 

「了解です」

 

 バダック老人が扉を開き、彼の先導で俺は台車を押して会場へ入る。着飾った多くの貴人・貴婦人の視線を全身に感じてやや緊張しながら、俺は主賓の位置に待つ白金に近い金髪の少女の方へ真っ直ぐ歩いて行く。

 

「……っ!」

 

 少女は俺を、正確には俺が押す台車の上の物を爛々とした目でじぃぃっと見つめている。身を乗り出すどころか、今にもこっちに走って来そうな感じだ。間違いなくあの娘が、このパプニカ王国の王女レオナ姫だろう。失礼のない様にしないとな……。

 

「御尊顔を拝謁出来たこと、誠に光栄に存じます。パプニカ王陛下、レオナ姫殿下。『双頭のドラゴン亭』オーナーシェフのエイトと申します」

 

 レオナ姫の前まで来たところで、俺はすぐにコック帽を取り、パプニカ王とレオナ姫に深く頭を下げる。

 

「そなたが町民達の間で有名な『双頭のドラゴン亭』の主人か。これほどの若者とは思わなかったな。その若さで見事な料理の数々、大したものだ」

 

「はっ、恐縮至極に存じます」

 

「ねえお父様!そんなお話は後にして!早くケーキ!」

 

 俺とパプニカ王の会話をぶった切るレオナ姫。そりゃそうか、幼い彼女にしてみれば難しい会話で楽しみを延ばされるのは嫌だろうからな。

 

「おお、すまんすまん。エイトよ、娘もこう言っておる。早速、バースデーケーキを娘に見せてやってくれ」

 

「畏まりました」

 

 パプニカ王の言葉に頷き、コック帽を被り直してケーキのケースに手を掛ける。

 

「それでは、姫殿下。ご覧下さい、姫殿下の為のバースデーケーキでございます」

 

 そう言ってから、ケーキのケースを上に引き上げケーキを披露する。

 

「わああぁぁ!!綺麗~!!美味しそ~~!!」

 

 ケーキを目にしたレオナ姫の輝く笑顔に、ほっと安堵する。苺にラズベリーにブルーベリー、それに桃やメロンなどの果物とミントの葉で出来る限り絢爛豪華に盛り付け、自分なりに会心の出来のつもりではあったが、果たしてレオナ姫が気に入るかどうかは分からなかったので不安だった。

 

 だが、レオナ姫が気に入ってくれたなら一安心。苦心した甲斐があったというものだ。

 

「ねえねえねえ!!早く切って切って~!!」

 

「コラコラ、待ちなさいレオナ!その前に乾杯だ。皆の物!杯を取れっ!」

 

 パプニカ王の一声で、会場内のパーティー参列者が各々飲み物が入ったグラスを片手に持つ。

 

「この乾杯を以て宴の始まりとする。皆、存分に楽しんでほしい。我が娘、王女レオナの誕生日を祝して……乾杯っ!!」

 

『『『乾杯っ!!』』』

 

 王の音頭と参列者の乾杯斉唱により、パーティーは開始された。俺はレオナ姫にケーキを切り分け、残りのケーキも食べやすいサイズにカットする事で会場での仕事は終わり。参列者への飲み物や料理の給仕は、会場内のボーイやメイドによって行われるので俺はパーティー会場を後にした。

 

 その後、厨房に引っこんでからはゆっくりと過ごす事が出来た。ウチのスタッフと一緒に料理の後片付けを済ませ、途中数回料理の追加を会場に運びつつ、空いた時間で王宮の専属料理人達と談笑したり、パーティー料理の残り食材で賄いを作って食べるなどして休憩を取った。

 

 そうして数時間が経ち、パーティー終了の時刻が近づいた頃、俺達には一足先に帰宅の許しが出たので、城を出て今日の労をねぎらってからスタッフの皆をそれぞれ帰らせ、俺も『双頭のドラゴン亭』への帰路についた。

 

 

 

 翌日――

 

 

 

「おじさん!ごはん作って~!」

 

 ランチタイムに何故かレオナ姫が、心底申し訳なさそうな顔のバダック老人を伴ってご来店した。

 

「すまんのう……昨夜のパーティーで満足されたかと思ったんじゃが、『美味しいのが分かったから、今日こそお店に行って食べる!!』と言って聞かなくてのう……」

 

「はぁ、それはまた……」

 

 バダック老人が疲れて萎んでいる様に見える。レオナ姫が、相当強固に駄々を捏ねたと見た。

 

「おじさん、早くごはん!」

 

「は、はい、畏まりました。バダックさんもご一緒に如何です?」

 

「そうね!じいやも一緒に食べましょうよ!」

 

「はっ、では僭越ながら、このバダックも姫様のご相伴に預からせて頂きまする!」

 

 

 

 その日は、ウチの店の常連にパプニカの王女が加わった――。

 

 

 

 

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