Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
Episode.1 「天秤」の姉妹
聖杯戦争の御3家とされる魔術師の家系の1つにして、冬木のセカンドオーナーたる遠坂時臣は決断した。
第3次聖杯戦争から60年目に行われるであろう第4次聖杯戦争を数年後に控えて、遠坂家の次代に関して、である。
聖杯戦争の敗者と成れば、生きて戻れない可能性は小さく無い。
又、例え勝者と成り聖杯に願望が届けば其れは其れで、根源を求めて”この”世界を去るであろう。
何れにせよ、遠坂家の次代を誰に託すか。
魔術師の才に恵まれた子孫に恵まれないが故の悩みでは無い。恵まれ過ぎていた。
長女、遠坂凛。
5大元素全ての魔術に適性を示し、未だ幼いながら成長すれば遠坂家伝世の宝石魔術に於いても自分以上の魔術師に成長する期待が持てた。
そして、年子の次女、遠坂桜。
虚数魔術、という稀有な適性を持ち、これも優れた魔術師に成長する可能性が在った。
いや、例えば当主という後ろ盾が無ければ、稀有な適性だけに目を付けられかねない程だ。
魔術師の家系は1子相伝、選ばれ無かった子は魔術と縁の無い生涯を歩ませなければ為らない筈だった。
だがしかし、2人の娘は2人とも魔術師の才に恵まれ過ぎていた。
遠坂の当主を継げなければ、不幸が目に見える程に。
父として、そして当主として悩んだ末に時臣が思い付いたのは、遠坂家を継がせない何れか1人の娘を後継者に恵まれない魔術師の家へと養女に出すことだった。
1人、この考えに至った時臣は、自分の背中を押してもらう積もりか、とある人物に報連相をすることとした。
当時は健在だった自分の祖母にである。
「必要在りませんわ」
「は?!」
祖母の返答は、時臣を困惑させた。
「私の元の名前を忘れましたの」
遠坂ルヴィアこと旧姓ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトはフィンランドの魔術師、エーデルフェルト家の出身だった。
ちなみに、彼女の双子の姉の曾孫に、エーデルフェルト家には決して名誉であったとも伝えられていない自分の名が受け継がれていたとは、風の便りに聞いた。
エーデルフェルト家は「天秤」の家系と呼ばれる。
それは、魔術師の家系の多くに於いて1子相伝とされる当主の地位を、常に姉妹で受け継いできたことに因った。
若き日のルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトも又、双子の姉と姉妹でエーデルフェルト家の当主を務め、第3次聖杯戦争に姉妹で参戦していた。
「ですが、お祖母様」
時臣も聞いていた。
ルヴィアの代の双子当主は、エーデルフェルト家の歴史には珍しく姉妹仲が好ろしく無かったらしい。
第3次聖杯戦争に姉妹で参戦したにも関わらず、自陣営の仲違いも手伝って敗退した。
姉はフィンランドに逃げ帰り、妹はやはり参戦していた遠坂家の当時の当主の虜と成って其の子を産んだ。
これを屈辱としたエーデルフェルト家では、代々日本嫌いに成ったという。
ルヴィアも本家では、死んだことにされている位らしい。
「そんなエーデルフェルト家からの援助が、今更受けられるのですか」
「私は「天秤」の家系の当主を曲りなりにも務めたのですのよ。
どうすれば、姉妹の当主を育(そだ)てられるか、自分の身で知っていますわ」
「うっかり」が遠坂家の密かな伝統とは言え、時臣はうっかりしていた自分を認めざるを得なかった。
「それでは、お祖母様の御協力で、凛も桜も我が遠坂家で育(はぐく)むことが出来るのですか」
「試してみる価値は在る筈ですわ」
遠坂時臣は決断した………。
……。
…第4次聖杯戦争の時は来た。
遠坂時臣は”2人”の娘を母親の葵と共に妻の実家である禅城家に疎開させ、聖杯戦争に備えた。
この数年のうちに、次代への準備は可能な限り整えた。
自分に万に1つの場合が在ったとき、遠坂家代々の魔術刻印は姉妹に分かち合う、その準備も出来ている。
万に1つの場合が在っても、あの才に恵まれた娘”たち”が遠坂家を守り"60年後"に来たるであろう次の聖杯戦争に備えてくれるだろう。
この時、時臣も他の誰も知らなかった。
娘たちを「天秤」の姉妹として育んだ、その「蝶の羽ばたき」がどの様な「竜巻」を起こすのかを。
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