Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
アーチャーこと英雄王ギルガメッシュが無数に投げ付けながら、円卓の騎士ランスロットが投げ返していた武器が、遂に英雄王自身に突き刺さった。
「おのれ…おのれ、雑種どもが」
*
そのアーチャーの危機がラインを通じてマスターに伝わった。
この状況に動揺する言峰綺礼。その瞬間の隙を「魔術師殺し」が見逃さなかった。
魔術師には必殺の効果を発する起源弾が撃ち込まれた。
本来なら魔術回路の全てを破壊し、肉体的にも廃人同然にする起源弾。
だがしかし、偶々この瞬間に4画の令呪を「外付けの魔術回路」としていた綺礼の本来の回路は完全には破壊されなかった。
傷ついた身体を引き摺って逃げようとする綺礼に対してトドメを刺そうとした「魔術師殺し」だったが、綺礼との戦いの中で「固有時制御・4重加速」まで加速した反動が衛宮切嗣の身体に此処に来て出た。
それだけなら、体内に埋め込んだ「全て遠き理想郷」が癒してくれたが、瞬間だけ逃亡を許した。
直ちに、後を追う。
*
ランスロットに投げ返された数種類の武器を身体に受け、尚も円卓の騎士たちに車掛かりの様に攻撃されて、流石に英雄王もよろめいた。
騎士王の檄が飛ぶ。
「皆、下がれ。宝具を解放する」
不可視の剣を隠してきた風を払い除け、露わに成った聖剣に魔力を溜める。
「約束された勝利の…」
その時、アーチャーは取り巻く円卓の騎士たちを振り切る様に、奥に安置されていた聖杯を背にした。
「どうだ、セイバー。聖杯までも破壊するか」
「卑怯な。それが英雄王とまで称した王者の振る舞いか」
「言え。我も慢心していたと認める。かくなる上は…」
(こやつ、シュメールの軍勢でも召喚するか)
セイバーが疑った時、言峰綺礼が駆け込んで来た。それを追う衛宮切嗣。
「キリツグ!」
セイバーも期待した。マスターの到着は状況を変えるかも知れない。
その時、異変が始まった。
既に7騎のサーヴァントの内4騎を飲み込んでいた”汚れた”聖杯が、遂に泥を吐き出し始めたのだ。
その泥は至近に居たアーチャーを飲み込み、その3騎分ともされる霊力を吸収したか、更に激しく聖杯は泥を吐き出し、流れ出て行く。
その異変に其の場の誰もが唖然としていたが、切嗣はハッとした。
愛妻を犠牲にし、愛娘をアインツベルンに置き去りにして、それでも聖杯への願望を追い求めて来た。
だがしかし…あれは自分が求めていたものでは無い。
「セイバー!あの聖杯には異常が起きている。聖杯を破壊しろ。令呪を持って…」
「キリツグ!!」
セイバーは初めて、ハッキリとマスターに反抗しようとした。
その間にも聖杯が吐き出した泥は流れ出して行こうとする。
「ここまでだ!最後の令呪を持って命じる。聖杯を破壊しろ」
「……約束された勝利の剣ー!」
聖剣から解放された魔力の光が、汚れた聖杯を打ち砕いた。
だがしかし、既に吐き出された泥が流れ出て、更に燃え上がり出した。
切嗣も綺礼も、もはや戦うどころでは無く、這う這うの体で其の泥と炎から脱出した。
この世界線の彼らは知らない。
聖杯が泥を吐き出し始めた時、英霊ランスロットが聖杯の外に居た為に聖杯から吐き出される泥が少しだけ遅れた。
その結果として、切嗣や綺礼が危うく泥に飲み込まれずに助かったなどとは………。
……。
…冬木市民会館は既に炎に包まれ、周辺に類焼しつつあった。
その地獄絵図の中で、もはや戦いの終わった「かつての魔術師殺し」は1人でも救助しようと駆け回っていた。
既にセイバーも円卓の騎士たちも姿は無い。
全ての令呪を使い切った今、英霊の座に戻ったのだろう。
今は只1人、炎の中を彷徨っていた。
そして泥に飲み込まれたアーチャーは、どう成ったか。言峰綺礼の姿も見失っていた。
その時、切嗣は1人見捨てられた様な瀕死の幼い少年を見付けた。
迷うこと無く切嗣は、自らの体内から分離した「全て遠き理想郷」を其の少年の体内に埋め込んだ。
少年が蘇生したことに、切嗣は安堵した。
…この少年が”10年後”の第5次聖杯戦争の物語の主人公に成るとは、誰が知っていただろう。
第5次聖杯戦争の物語からすれば前日譚。
その物語のZeroの瞬間に向けてのCount Downは終った。
*
アーサー王はカムランの丘に戻っていた。
自らが滅ぼしてしまった祖国の救済を求めて、自らの死後を差し出した。
その結果、瀕死ながらも生者でありながら死者の様に聖杯戦争の英霊として召喚された。
そして、聖杯戦争が終結すれば又この丘に戻って来る。
だがしかし、未だに休息は訪れなかった。
またしても聖杯が呼ぶ力が感じられる。
時空を超えて第4次聖杯戦争より”10年後”の世界に、サーヴァント・セイバーは召喚されようとしていた。