Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
間桐臓硯ことマキリ・ゾォルケンは密かに失望していた。
間桐家の子孫を利用しつくし、戸籍までも乗っ取って来た。
だがしかし「息子」や「孫」と戸籍上では成っている現在の子孫たちは、既に魔術回路すら絶えている。
だがらこそ、遠坂家の娘の1人を得られるかも知れない、という申し出にはこの妖怪老人ですら期待した。
遠坂家の血統や本人の魔術師としての才だけでは無い。
「優れた魔術師を産む子宮を持った」禅城家の血統を引いた娘には、次代への期待をさせた。
けれども結局、遠坂家は遠縁のエーデルフェルト家に倣って、姉妹を次期当主とする選択をした。
次代だけでは無かった。
直近の第4次聖杯戦争に参加させる「手駒」が無い。
戸籍上の「長男」と成っている子孫には魔獣回路すら絶えている。
かろうじて魔術師の才が在った「次男」は魔術と間桐の家を嫌って行方知れずだ。
密かに旧姓禅城葵こと現在の時臣の妻である遠坂葵に懸想していたあやつならば、葵の娘を使って「手駒」に仕立てる手段も在ったかも知れないが、それも今と成っては虚しい。
それに、第3次聖杯戦争の結果からか、聖杯には異常が在るかも知れない可能性に臓硯は気付いていた。
それに代わる新たな「器」としても、遠坂と禅城の娘には期待していたのだが。
兎も角(ともかく)尽(ことごと)く思惑通りに行かなかった以上は、今回の第4次聖杯戦争は見送るしかあるまい。
とうせ、不死の自分には時間だけは在る。
”60年後”の第5次聖杯戦争までには、何とでもしようも在ろう。
元々、聖杯戦争に「令呪」というシステムを提供したマキリ・ゾォルケン本人である。
聖杯から与えられた令呪を他者に譲り渡せる様にするのは可能だった。
その令呪と、兎に角用意した英霊を招き寄せる為の「触媒」を、あっさりと魔術協会に譲ったのである。
*
時計塔。
そう呼ばれる魔術協会の本拠地では、喜んで間桐からの譲り渡しを受けた。
確実に聖杯を手に入れる為ならば、時計塔から参戦するマスターは多くて困ることは無い。
既に教授の1人が参戦の為の用意をしていた。
更に其の弟子の1人が何を思ったか、恩師の用意した触媒を強奪して日本に逃亡していた。
だがしかし、時計塔の上層部は師弟の何方が聖杯を手に入れても大同小異とみたか、黙殺していた。
そして”2人”だった時計塔からの参戦者が”3人”に成るチャンスが巡って来たことに成る。
そう成ると、参戦を申し出る野心を持った魔術師に不足はしていなかった………。
……。
…とある魔術師の魔術工房。
床に魔法陣が描かれ、間桐から提供された触媒が置かれていた。
あの円卓の騎士たちに所縁の触媒だという。
おそらくは、円卓に由縁の有力な英霊がサーヴァントとして呼ばれるだろう。
「ー抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
召喚の呪文が完成した。
魔法陣から魔力の光が溢れ、やがて人の形を取る。
現われたのは、漆黒の甲冑に素顔を隠した騎士だった。
「サーヴァント・トレイター。召喚に応じました」
「トレイター?聖杯戦争のサーヴァントにそんなクラスは無いぞ」
トレイターと名乗ったサーヴァントは返答した。
「聖杯からの知識が教えてくれました。
既に他のクラスは召喚されて埋まり、残っているレギュラー・クラスはバーサーカーだけです。
ですが、マスターは狂化の呪文を詠唱されませんでした。
その為に私の本質に因るクラスでの召喚と成りました」
成程。けれども、次の疑問が生じた。
「トレイター(反逆者)だと。お前は主に背いたのか」
もしもそうならば、例え令呪が在っても信頼し切れないかも知れない。
「私は確かに、生前に仕えた主に反逆しました。その罪に対しての罰として、召喚に応じました」
取り敢えずは、信じられるだろうか。
それに、もう召喚してしまった以上は遣り直しが効くとは聞いていない。
「お前は円卓の騎士の1人なのだろう。それが主を裏切ったと言えば…お前は誰だ」
「私の真名は…」