Fate/magi sister's 冬木の天秤   作:高島智明

20 / 21
Episode.20 狂えるヘラクレス

「もう召喚したの、お兄ちゃん」

銀髪と赤い目の幼気な少女は、衛宮士郎に対して無邪気そうに話しかけた。

それに対して応答する前に、後ろに居た父親の衛宮切嗣が声を出した。

 

「イリヤ、やはり君か」

「親父?知っているのか」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、僕とアインツベルンから宛がわれた妻との子だ。

やはり今回アインツベルンが派遣したのはイリヤだったのか」

「親父の子?だから、俺のことを「お兄ちゃん」なんて」

 

その時、イリヤと呼ばれた少女はセイバーに気付いた。

「セイバー、貴女なの、お兄ちゃんが呼んだのは」

「貴女はイリヤスフィールなのですか」

「セイバーの嘘吐き。お母様を返してくれると約束したくせに」

「イリヤスフィール。アイリスフィールは…」

 

幼気な少女の無邪気そうな微笑に、何らかの残酷さが加わった。

「裏切者は纏めて殺してあげる。やっちゃえ!バーサーカー」

イリヤの全身のシルエットに魔術回路の現出が重なり、灰色の巨人が現れた。

セイバーも武装姿に変化し、不可視の剣を構える。

バーサーカーが巌の様な武器を振る度に、暴風が巻き起こった。

 

ここで、立ち去りかけていた遠坂姉妹が振り返った。

「アーチャー、出て来なさい!桜もライダーを。

あいつはヤバいわ。3騎掛かりで潰せるチャンスが在るなら、今よ」

1VS3の乱戦が開始された………。

 

……。

 

…バーサーカーが巌の様な武器を振る度に、暴風が巻き起こる。

それを掻い潜ってセイバーが不可視の剣を、アーチャーが双剣を、ライダーが鎖の短剣を振るい、隙を伺う。

 

その激突の暴風の中で、切嗣が1歩進み出た。

「イリヤ、君は知っている筈だ。この起源弾は君の魔術回路を破壊出来る。

だがしかし、君にそんなことをしたく無い。バーサーカーを退かせてくれ」

「甘くなったわね、キリツグ。「魔術師殺し」のキリツグなら警告無しで撃っているのに」

 

その間も暴風は続く。

「アーチャー!矢を放ちなさい」

マスターの命令にアーチャーは飛び下がって間合いを取り、双剣が巨大な弓矢に変化して、バーサーカーに突き刺さった。

続いて…

「壊れた幻想!」

爆発した。

 

流石に倒れた、と思われた灰色の巨人が又も立ち上がった。

「あはは!バーサーカーを1回でも殺せるなんて。

だけど、バーサーカーは12の試練を乗り越えた英雄よ。

12回殺さなければ本当には死なないわ」

イリヤの笑いに悟った。

「まさか。バーサーカーの真名はヘラクレスなの。

ギリシャ神話最高の英雄をバーサーカー・クラスの狂化スキルで更に底上げしているなんて」

化け物だ!バーサーカーの敵対陣営たちは戦慄した………。

 

……。

 

…尚も、暴風の激突は続く。

 

その間も、離れ離れだった父と娘の筈の両者は対峙していた。

「魔術師殺し」だった筈が、起源弾を突き付けたまま撃たない。

「イリヤ、確かに僕は、君の母親を、妻だった彼女を犠牲にした。

だけど、もう分かっている筈だ。

アインツベルンは君までも……」

「もう、好いわ!」

突然、イリヤは幼い少女らしくも無いかも知れない感情を現した。

 

「何だか、詰まらなく成っちゃった。帰ろ、バーサーカー」

灰色の巨人は、巌の剣のひと振りで3騎のサーヴァントを飛び引かせると、幼いマスターを肩に乗せて姿を消した。

後には、荒らし放題な墓地が残された。

 

「俺、何も出来なかった」

衛宮士郎は立ちつくしていた。

「そんなことは無いさ」

息子を励ます父親の言葉にも無力感は消えなかった。

 

「これが聖杯戦争。これが…」

士郎は尚も独白していた。

「俺は、こんな戦いを止められるのか。

さっきの教会では犠牲者を出さない為に参戦する、なんて言ったけれど、俺に、そんなことが出来るのか」

「士郎、悩むがいい。僕は、何時でも士郎の味方だよ」

 

その父子に姉妹が今ひと度だけ歩み寄った。

「先輩。私は姉さんと戦います。ですが、先輩のことは何時でも心配しています」

そんな妹の片思いを見守って来た姉は、姉らしく寄り添った………。

 

……。

 

…遠坂姉妹と衛宮父子は、その晩は道を違えた。

聖杯戦争は開戦したばかり、誰と誰が敵味方と成るかは、未だ未知だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。