Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
衛宮士郎が飛び込んだ柳洞寺の境内は、破壊の後しか残って居なかった。
その中に立ち塞がる灰色の巨人。そして、銀髪紅眼の幼気な少女。
「イリヤ、何てことを」
「お兄ちゃんは幸せだったでしょうね。キリツグに可愛がられて」
キャスターと葛木宗一郎が互いを庇い合う様に倒れ伏しているのも見付けられた。
「手古摺らせてくれたわ。
バーサーカーを何回も殺してくれて。
だけど、12回には届かなかったわね」
無邪気そうに笑うイリヤが、士郎には恐ろしくすらあった。
セイバーが不可視の剣を構える。
「イリヤスフィール、貴女がシロウを傷付けるならば、敵マスターと認識します」
「嘘吐きのセイバー。お母様を返してくれると約束したくせに」
その時、イリヤが何かを思い付いた様に笑った。
バーサーカーが片足を上げ、何かを何故かヤンワリと踏む。
「一成!」
「あらら、お兄ちゃんが知っている人。その方が、都合が好いや」
「止(や)めてくれ、イリヤ」
「そんな風に呼ぶな!ペシャンコにされたく無かったら、セイバーを下がらせて」
「セイバー!止めてくれ」
「シロウ!それ以上は令呪が発動します」
「頼む、セイバー」
セイバーが後退した瞬間、バーサーカーの腕が伸びて士郎を鷲掴みにした。
それから、ようやっと柳洞一成から足を外す。
「シロウ!」
「動いちゃダメよ、嘘吐きのセイバー。
今はバーサーカーが力を入れたら、お兄ちゃんはひと捻りだから」
最優のサーヴァントと言えども、マスターを手中にされては如何とも為す術が無かった。
*
この顛末を、柳洞寺の周辺に放っていた使い魔の耳目を通して知った士郎の父親は、決断を迫られていた………。
……。
…今夜も聖杯戦争の為に”出陣”しようとしていた遠坂姉妹に訪問者が居た。
「衛宮君の御父様ならぬ「魔術師殺し」の衛宮切嗣さん。何の御用ですか?」
「単刀直入に言う。今回だけ手を組んで欲しい」
何時もは姉の影に控えている桜が口を挟んだ。
「先輩は、どうされたんです?」
切嗣は、柳洞寺で起こった顛末を語った………。
……。
…そして、提案する。
「君たちにとってもバーサーカーは危険な筈だ。手を組まないか」
「ですが…」
凛は指摘する。
「貴方は、イリヤスフィールを、貴方の娘を撃てなかったでしょう」
「その通りだよ。だから、君たちに頭を下げている。
僕は、きょうだい喧嘩も止(と)められない父親だ」
あえて自分の弱みを見せる学園の同年の父親から、妹に視線を移した。
「桜は衛宮君を助けたいでしょうね」
「姉さん、私は先輩が好きです。ですが…今は姉さんと遠坂の当主をしています」
桜は、姉と視線を合わせられなかった。
しばらく考え込んで、凛は切嗣に視線を戻した。
「好いでしょう。今回だけ」
それから妹だけに聞かせたい声で、
「これも心の贅肉だわ」
そして、改めて切嗣に問い直す。
「それで貴方には、何が提供出来るのですか」
「先ずは案内するよ。当然だが、僕はアインツベルンの城への道を知っている」
只1回だけの共同戦線の戦いが始まろうとしていた。
切嗣の発言の中で「きょうだい」とひらがなに成っていますが、誤変換では無く意図的です。
『原作』で御存じでしょうが、士郎は”妹”と認識していますが、切嗣は実は”姉”だと知っています。
その辺りを暗喩しました。