Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
城を駆け出し、車を捨てた位置まで森の隠し道を走る1行。
だがしかし、後方の城の方から灰色の巨人の咆哮が聞こえて来る。
「やはり、私たちが来た意味が在りそうだな」
アーチャーが何時もの様に、皮肉めいた笑いを漏らした。
「アーチャー、どういう意味だ」
セイバーの問いにも、その笑いを消さないアーチャー。
「誰かが、あのでかぶつを食い止めないと、ということだ」
「ならば、これは私のマスターを救出する為の退却戦だ。私が…」
「セイバーにはセイバーのマスターの御守が在るだろう。
それに、うちの姉妹のサーヴァントならば、未だライダーが居る」
その間にも、巨人の咆哮は次第に近付いて来る。
「行け!」
その時、脱出を促すアーチャーに衛宮切嗣が向き直った。
「待て。君には聞きたいことが在る。君は、僕の知っている誰かを思い出させる。君は誰だ」
アーチャーが答える前に、マスターの遠坂凛が反応した。
「私も知りません。アーチャーが何の英霊なのか」
益々笑みを皮肉そうにするアーチャーに、尚も切嗣は問いかける。
「もしも僕の感じた通りならば、君に此処で、こんな役目をさせる訳にはいかない。答えてくれ」
アーチャーは皮肉そうな、だがしかし、先程までとは異なる笑みに成って、
「やっぱり、爺さんは誤魔化せなかったか…そうだ。私は、この時代からは未来の亡霊だ」
「それじゃ、やっぱり君は」
念を押す様な、けれども何かを恐れる様な切嗣。
「そうだよ、爺さん。私は「正義の味方」に成ろうとした衛宮士郎の成れの果てだ」
何処か自嘲する様なアーチャーを見やって、その場の1同は其々に自分の知り人の面影を見て其々の2人称を呼ぶ。
先ず、遠坂桜が、
「先輩…」
凛も、
「衛宮君…」
セイバーが、
「シロウ…」
そして、衛宮士郎も、
「お…俺…」
1同が唖然としている間にも、巨人の咆哮が次第に近付いて来る。
「見ろ、もう時間が無い。この詠唱は時間がかかるが、やるしか無いか」
アーチャーは何かの呪文を詠唱し始めた。
体は剣で出来ているー
呪文の詠唱の間にも、巨人の咆哮は次第に近付いて来る。
だがしかし、迫る前に詠唱が完成した。
ーUnlimited Blade Works!
固有結界の虚空に歯車が浮かび、果て無き荒野に無数の剣が突き刺さっている。
その剣が、迫るバーサーカーに向かって放たれた。
「行け!」
アーチャーの叱咤に、1同はハッとした様に動き出した。
桜が士郎の手を取って走り出した。
他の1同も踵(きびす)を返す。
それを振り返ることも無く、アーチャーは剣を放ち続けた………。
……。
…又も、倒れた灰色の巨人が立ち上がって来た。
*
「きゃはは!バーサーカーを6回も殺せるなんて。でも12回には届かなかったね」
アインツベルンの城では、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、バーサーカーと繋がったラインを通して戦況を見やり、笑っていた。
*
「ここまでかな。けれども、連中は逃げ切った頃だろう」
アーチャーが1人かえりみた時、白い流れ星の様なものが空中を走り、バーサーカーの振り下ろす1撃の下からアーチャーを攫った。
「ライダー?!」
「貴方が衛宮士郎ならば、貴方を見殺しにしたら桜が悲しみます」
ライダーの天馬は、アーチャーを救い上げた其のままに、バーサーカーの目前を飛び去った。
*
1同は、車を乗り捨てて来た森の入口まで逃げのびた。
「士郎。セイバーに飛ばす様に言ってくれ」
切嗣が言うまでも無く、1同が乗り込んだ車は、急発進した。
「アーチャーとライダーも逃げました」
遠坂姉妹とサーヴァントたちとのラインを通じて、状況は察しられた。
*
「つまんない。お兄ちゃんたちに逃げられた」
アインツベルンの城では、イリヤが憮然としていた。
彼女の感情は複雑だった。
「お兄ちゃんの言ったことは本当なの?キリツグは私を迎えに来ていたの」
答えてくれるものは居なかった………。
……。
…車は衛宮屋敷に帰り着いていた。
「共闘は此処まで。ここからは、又、敵同士よ」
遠坂姉妹の姉は、妹の手を引いて立ち去って行った。