Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
その朝も衛宮屋敷では、何時もの朝を迎えた様に見えたが、
「桜ちゃん、朝御飯を食べに来なく成ったね」
「藤ねえ…」
衛宮士郎は、隣家の孫娘であり、担任教師であり、そして、こうして毎朝押しかけて来る姉貴分である藤村大河に対して、何故、遠坂姉妹の訪問が途絶えているか、その真実を告げることも出来なかった。
「間桐も欠席し続けてるし、柳洞も入院しちゃったし、葛木先生までフィアンセと行方不明だなんて、どう成っているのだろうね」
何処まで聖杯戦争と言う真実を秘匿し続けることが出来るか、心もと無い。
それでも朝食を平らげた大河を送り出したのと入れ違いの様に、駆け込んで来た者たちが居た。
「セラ、リズ。イリヤはどうした」
衛宮切嗣が詰問調に成ったのも無理は無い。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの教育係のセラと護衛役のリーゼリット、主人の傍を離れる筈も無かった………。
……。
…その日の夜明け前。
森のアインツベルン城の上空から、何者かが襲い来た。
そのもの、黄金色の甲冑に身を固めた金髪の侵入者は、異変を知ったイリヤが霊体化を解かせたバーサーカーに正面から向き合った。
「王の財宝」
新たに出現したサーヴァントの背後の空間が揺らぎ、無数の武器が放たれた。
その1つ1つが宝具クラスの武器。それが無限に襲い掛かる。
12回殺さねば本当には死なないバーサーカーだったが、それでも有限、襲い掛かる武器は無限だった。
いや、12回倒れた末にイリヤの願いに答えたか、今ひと度だけ奇跡的に立ち上がったバーサーカーだったが、尚も放たれる武器は無限だった。
結局、何者かはバーサーカーの倒れた後のイリヤを拉致して何処かへ飛び去った、と言う。
荒らされた城に残されたセラとリズは、今更ながらと思いながらも、イリヤの父親にしか助けを求める相手を思い付か無かった………。
……。
…聞いた切嗣は、セイバーと見合った。
「話の通りなら、心当たりは在る。あいつが10年も…」
*
そして、その日も暮れて。
その夜も遠坂姉妹は、冬木市内を逍遥していた。
ふと、人気の途切れた街角で、姉妹の前に姿を現した人影。
「言峰、何の用」
言峰綺礼は見せびらかす様に、手の甲をかざして見せた。
「令呪?!でも、それは10年前の…」
言いつつも、姉妹は其々のサーヴァントに霊体化を解かせた。
その瞬間…
上空から無数に、宝具クラスの武器が降り注いだ。
「アーチャー!」
「ライダー!」
この不意討ちに2騎のサーヴァントは全身に何本もの宝具クラスの武器を突立てられて、よろめいた。
思わず手を取り合い立ちつくす姉妹の前に、黄金色の甲冑の見慣れ無いサーヴァントが上空から降り立った。
「ふん。この雑種は、我の物真似の様な面白い曲芸を使う。
その上に2騎掛かりとあっては、流石に我も慢心ばかりしておれんな。
そこの愉悦神父の策戦も、たまには役に立つ」
そのセリフを聞いた遠坂凛は妹の桜を庇う様に、言峰に向き直る。
「やっばり、アンタは中立の監督役じゃ無かったのね!」
「それで、どうする。お前達のサーヴァントはもう瀕死だ」
その時、瀕死の筈のライダーが「魔眼殺し」を放り捨てて、両眼を開いた。
見慣れ無いサーヴァントと言峰が硬直する。
「石化の魔女か!」
硬直で済んだのは、前回では対魔力の高いアーチャーだったおかげかも知れない。
「桜そして凛、今のうちに」
そこまでで倒れるライダー。アーチャーも膝をついていた。
ハッとした凛は、桜の手を引いて走り出した。
だがしかし、何処へ。
サーヴァントは失われ、もはや教会は安全な中立地帯では無い。
只1つしか思い浮かびはしなかった………。
……。
…衛宮屋敷では、衛宮士郎が父親と自らのサーヴァントに問いかけていた。
「親父とセイバーには心当たりが在ると言っているけれど…」
そこへ訪問者が来た。
駆け込んで来た遠坂姉妹の証言で、ほぼ確信した態度の切嗣とセイバー。
それに対して改めて士郎が問おうとした時、屋敷の結界が味方で無いサーヴァントの侵入を告げた。
庭に飛び出した1同を、天空の乗り物の上から、黄金色の甲冑のサーヴァントが見下ろしていた。