Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
「士郎、未だ決着が着いていない。聖杯が未だ残っている」
かつて第4次聖杯戦争の聖杯を破壊した「魔術師殺し」は、今度こそ聖杯戦争の決着を着けるべく、第5次聖杯戦争の勝者と成った筈のマスターとサーヴァントに決意を促した。
セイバー、衛宮父子そして遠坂姉妹の1行は、破壊と激突の後を残す柳洞寺の境内を通り抜け、大聖杯の魔法陣が在る洞窟へと向かうべく、山中に分け入った。
「ここだ」
切嗣が案内した洞窟の入口で、第4次聖杯戦争の勝者だった筈の「魔術師殺し」は、聖杯戦争の真相を語り始めた。
「聖杯は7体の英霊を生贄にして、初めて願望器として働く」
聖杯戦争は、最後には勝者の筈の勝ち残った1騎のサーヴァントまでも令呪で自害させて、只1人のマスターの願望だけを叶える、偽りの戦争だった。
あの英雄王が、最初のマスター遠坂時臣を裏切ったのは、その真相に彼なりに逆らおうとしたのだろう。
僕は、セイバーを騙してまでも「世界平和」などという自分の願望を叶えようとした。
だけど、冬木の聖杯は、何かが狂っている。破壊するしか無い物だった。
破壊しても尚、あの大災害を起こした。
それに、僕が前回、セイバーに破壊させたのは小聖杯に過ぎない。
「この地下に在る大聖杯の魔法陣を始末しない限り、聖杯戦争の決着は着かない」
語る間にも、1行は洞窟の奥に辿り着いた。
そこには巨大な魔法陣が存在し、その上の空中にイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが其の華奢な肢体を磔の様にしていた。
「イリヤ!」
衛宮父子はイリヤに駆け寄り、抱き下ろそうとした。
その時、魔法陣から何か泥の様なモノが溢れ出した。
イリヤを抱き下ろした父親の衛宮切嗣と、イリヤのきょうだいである衛宮士郎は、危うく其の泥から飛び退った。
「泥の中に何かが居ます!」
遠坂凛は妹の桜と手を取り合いながら、魔法陣から溢れようとする泥の中に蠢くモノを見付けた。
「お前は誰だ!」
士郎の詰問が届いたか、どうか。
泥の中の黒い影の様な何かは呻いた。
「わ…我は…アンリ・マユ…」
「アンリ・マユだと」
切嗣には思い当たることが在った。
「アインツベルンに残っていた記録で見たことが在る」
第3次聖杯戦争の際、必勝を狙うアインツベルンは、ゾロアスター教の「この世全ての悪」とされる邪神アンリ・マユをサーヴァント・アヴェンジャーとして召喚した。
だがしかし、呼び出されたのはアンリ・マユの名を擦り付けられて犠牲にされた亡霊だった。
結局、アヴェンジャーは第3次聖杯戦争の開戦から4日で敗退して、聖杯にくべられた筈だった。
「それが大聖杯の魔法陣の中に留まって、願望器を汚染させ続ていたなんて」
セイバーが切嗣に続いた。
「本来、聖杯からサーヴァントに与えられる知識のラインが教えてくれました」
現在の聖杯は、アンリ・マユの汚染に因って、恐るべき願望器に成っています。
願望をかければ、それを恐るべき結果に因って実現させようとする。
平和を願望すれば、全ての人を殺せば平和に成る、などと捻じ曲げて実現させるのです。
こんな…こんな聖杯では、私の願望をかけることは出来ない。
私が救済し損なったブリテンの救済、私が間違った王だったならば「王の選定」の遣り直し、そんな願望を此の聖杯に願っても、ブリテンは救われません。
「私は…私は、こんなものの為に、死後を差し出したのか」
愕然とするセイバーに寄り添う様に、衛宮士郎は傍らに寄り添った。
「セイバーいやアルトリア。君は、もう聖杯なんかから自由に成って好い」
それから、改めて決意した様に毅然とする。
「結局使わなかった令呪を、ここで使わせてもらう。あの大聖杯を破壊する」
セイバーも決意した様に顔を上げた。
「令呪を使うまでもありません。私の残る魔力を使い切って、大聖杯を破壊します」
セイバーは聖剣を構え、振り抜いた。
「約束された勝利の剣ー!」
聖剣から解放された光り輝きが大魔法陣に達し、溢れ出ようとしていた泥を蹴散らした。
大聖杯の魔法陣は破壊された。
泥は燃え上がり、そして次には収束して行く。
「我は…解放された…我は還る」
泥の中の黒い影が、天上か何処かに昇って行く。
それに続くように、聖杯にくべられていた英霊が座に還る様に昇って行った。
遠坂姉妹のサーヴァントだった英霊も見守る其々のマスターに微笑みかけた。
ライダーいや英霊メドゥーサが、
「桜、お姉様と仲好く」
と微笑んで、座に還って行った。
アーチャーいや英霊エミヤが、
「”この”世界の衛宮士郎は私の過去では無かった。だがしかし、私は答えを得たかも知れない。
大丈夫だよ、遠坂。俺もこれから頑張っていくから」
そう言って、衛宮士郎の面影を残す微笑みと共に座に還って行った。
姉妹は手を取り合いながら、見送った。
そして、セイバーは…
「私は還らないのか」
そこに居た。
「聖杯が最後に教えてくれました。
大聖杯の破壊に因って、私と世界の死後の契約も破棄されたと。
私は、あのカムランの丘に戻らないのか」
そのセイバーに、衛宮士郎が寄り添った。
「俺のエゴかも知れないけれど、セイバーいやアルトリアが残ったのは嬉しいんだ」
そんな息子と、今は解放された少女とを、士郎とイリヤのきょうだいの父親は見守っていた。
その父親の腕の中で、娘が瞼を開いた。
「キリ…ツグ」
「イリヤ、もう君は聖杯の器なんかじゃ無い。大聖杯が無くなった」
「私、生きてて好いの」
「そうだよ、僕の娘」
父親は、娘が自分の足で立てる様に、優しく抱き下ろした。
「命の長い短いは大切じゃ無い。自分の選んだ様に生きることが大切なんだ」
そして「かつての魔術師殺し」は1同に声をかけた。
「行こう。ここには、もう用は無い」
洞窟の外では、夜が明け始めていた。
*
戦場の余韻が漂うカムランの丘。
円卓の騎士ベディヴィエールは、聖剣エクスカリバーを湖の精霊に返還せよ、とのアーサー王の最後の命令を、ようやっと達成した。
そして、復命する為にカムランの丘に倒れているアーサー王の元に戻って来たのだが…
そこに王の姿は無かった。
「王よ。王は理想郷へと旅立たれたのですか」
答える者は居なかった。
そして、アーサー王はブリテンの伝説と成った。
この無謀と思いつつも執筆し続けて来た拙作も、遂に次話をもってLast Episodeと成るまで辿り着きました。
ここまで読み続けて頂いた皆様には、厚く御礼を申し上げます。
又、温かいご意見ご感想には、重ね重ねお礼を述べさせて頂きます。