Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
セタンタ2026
2026年のとある秋の日。
セタンタ・フラガ・マクレミッツは、とある日本の地方都市に足を踏み入れた。
マクレミッツ家は魔術師の家系である。
その家系に生まれて、当然の様に魔術師として成長したセタンタだっが、見たことの無い父のことは「アルスターの光の御子」だ、と母からは聞かされていた。
魔術師の母が魔術に因って、伝説の英雄を召喚して相棒にしていたのだと。
子供の頃は好い加減にも聞いていたが、魔術師として成長するにつれて、そんなことも在るかとも思える様に成った。
そのセタンタが、冬木という日本の地方都市を訪ねたのは、秘匿された魔術師としての理由が在った。
父母が決して長くない日々を共に過ごし、共に戦った其の地を訪ねてみたく成ったのだ。
出発に先立ち、魔術師としての学びの場だった時計塔で、冬木に所縁の人々に冬木のことを訊ねてみた。
時計塔の名物教授で、かつて父母より以前に冬木に戦ったと伝わる「ロード・エルメロイⅡ世」
そして「Ⅱ世」の教え子としては先輩で今は教える立場であり、冬木の魔術師としてのセカンドオーナーでもある、父母と同じ戦いに参戦した筈のリン・トオサカとサクラ・トオサカの姉妹。
尤(もっと)も「Ⅱ世」は、この戦いについて多くを語りたがらず、トオサカ姉妹に至っては、何故かセタンタに微妙な態度で、多くを語りたがら無かった。
結局、セタンタは、ある意味では「ぶっつけ本番」の様な心境で冬木に足を踏み入れた………。
……。
…先ず彼は、あの戦いの監督役が居たとされる教会を訪れた。
この教会は、教会の人ながら子孫を設けたコトミネという1家が3代にわたって司祭を務めたというが、今は代変わりしていた。
そのコトミネ父子が、あの戦いの監督役だと時計塔では聞いていたが、現在の司祭は何も知らない聖職者だった。
秘匿すべき、教会相手なら尚更な魔術について迂闊なこともしゃべれずに教会を後にしたセタンタは、別な場所を訪ねた。
あの戦いに重要な意味が在った場所というリュウドウジというテンプルにも、今は何も無かった。
手持ち無沙汰の様にリュウドウジの墓地に踏み込んだセタンタは、在る墓地の前で挨拶する人々を見付けた。
「美遊さん、何時も有り難う」
そう、1人の女性に頭を下げたのは、祖父らしい初老の男性と息子らしい壮年の男性と嫁らしい何故か金髪の女性と孫らしい若者。
「いいえ、イリヤは好い友達でした」
他と同じように日本風の墓石には、セタンタが辛うじて知る日本語では「衛宮家」と刻まれていたが、墓誌には何故かドイツ風の文字が刻まれていた。
「アイリスフィール・フォン・アインツベルン・エミヤ」
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン・エミヤ」
エミヤ?
聞いていた様な名前に、声を掛けようかと思った。
その時、彼と目の合った金髪の女性が、ひと言呟いた。
「ランサー…?」
その呟きに悟った。
そして名乗った。
「セタンタ・フラガ・マクレミッツ」
その名に、若者と客の女性を除いた衛宮家の人々は悟った様だった。
それ以上は語らず、瞬間だけ邂逅した両者は別れた………。
……。
…トオサカ家の邸宅で、留守を預かる姉妹の老母から歓待を受けながら、セタンタは想っていた。
現在の冬木は、日本の何処にでも在りそうな地方都市だった。
父母の戦いの面影を探すセタンタには不本意で無いとも言えない。
だがしかし、それで好い様な気もしていた。
この街と、この街に暮らす人々には、もう戦いとは無縁の日々が在った。
そして、1つのことだけは確かだった。
母は決して、父を忘れない。
それだけでも、好い様にも思えた。
ご意見ご感想をお待ちしております。