Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
「会話の通じない相手は疲れるわね」
アイリスフィール・フォン・アインツベルンは溜息をついた。
港の倉庫街での各サーヴァントの初戦と顔見世の後、森のアインツベルン城へ向かって愛車を爆走させるアイリとセイバーの前に、キャスターが現れた。
戦う訳でも無く、只ひたすらセイバーを「聖女」と呼んで賞賛し纏わり付いた末に、突然に現れた時の様に突然に消えた。
セイバーには全く、心当たりなど無い。
そもそも彼女は王であって、聖女などに成った覚えは無かった。
*
その頃。
別の場所、つまりトレイター陣営の拠点では、マスターがサーヴァントを詰問していた。
「トレイター。何故、セイバーを無視した?」
サーヴァントは躊躇った末に答えた。
「あの御方は、私が反逆した王です。私には、あの御方に武器を向けることが出来ません」
「何だと」
マスターは其の意味を悟った。
「セイバーの真名がアーサー王だと。トレイターいやランスロット」
最悪だ。
アーサー王といえば、英霊中の最高の英雄だろう。
それが「最優」のクラスで召喚されている。
敵に回したら最悪の相手だ。
その上、トレイターはセイバーに対して戦意喪失する理由が在る。
最悪の上に最悪だ………。
……。
…森のアインツベルン城。
セイバー陣営、というよりも「魔術師殺し」は作戦を練り直していた。
その結果、当面の標的をランサー陣営と狙った。
*
言峰教会。
聖杯戦争の監督役である言峰璃正は決断を迫られていた。
未だにキャスター陣営は参戦を届け出て来ない。
そして、遠坂家から通告された連続児童誘拐そして惨殺の犯罪者がキャスターのマスターである疑惑は強くなって来ていた。
このまま、キャスター陣営が聖杯戦争に参戦する積もりも無く犯罪を繰り返していては、聖杯戦争そのものが破綻しかねない。
この問題を解決する為には、残る6陣営にキャスター討伐を呼びかけるしか無いかも知れない。
幸い、報酬としては、第3次聖杯戦争の際にマスターたちが使い残し璃正が預かって来た「令呪」が在る。
この令呪の1画を、キャスターを打ち取った陣営のマスターへの報償とする。
たった3回の切り札が4回に成る。
その価値に喜ばないマスターも居ないだろう。
*
ランサー陣営が拠点としているホテルに突如として警報が鳴り響き、陣営の者たち以外の全員に避難が呼びかけられた。
ランサーのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、これを敵陣営の挑戦とみた。
おそらくは、サーヴァントを従えたマスターが攻め込んで来るだろうと。
だがしかし「魔術師殺し」は、ビルごと爆破する積もりだった。
只、狙う標的以外を避難させたのが「魔術師殺し」が只の虐殺者とは違っていただけだった………。
……。
…這う這うの体で爆破されたホテルから逃げ延びたランサー陣営は、新たな拠点を設けなければ為らなかった。
*
遂に監督役は、キャスター陣営を除く6陣営から使い魔たちを集めた。
そして、勧告する。
キャスターの討伐と、その間の休戦を。
*
この勧告を受けた各陣営は、それぞれの思いを抱いた。
「魔術師殺し」などは休戦を、作戦立て直しの為には格好の時間稼ぎとみた。
片や、そのサーヴァントの方は騎士らしくキャスター陣営の非道に憤慨し、討伐する気満々だった。
決して、私怨などでは無い。
*
トレイター陣営では、マスターが微かに心当たりを覚えていた。
トレイターのマスター、オルレアン・ロングヴィルの家系は、ジャンヌ・ダルクの戦友だった軍人にして貴族、ド・デュノワを祖先とする。
その祖先、デュノワから伝承された戦友の所行「青髯」と呼ばれた祖先の戦友の1人がジャンヌを失ってからの所行に何かが引っ掛かっていた。
「まさか…だとしたら、キャスターいや青髯、ラ・ピュセル(中世フランス語で乙女=同時代に於けるジャンヌの称号)に顔向け出来ないことを繰り返すな」
万に1つ「青髯」がキャスターだったら、止めなくては為らない。ラ・ピュセルにかけて。