Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
監督役からの勧告を受けて、幾つかの陣営のサーヴァントたちが、遠坂家の幼い姉妹が目撃していた誘拐犯のアジトをキャスター陣営の拠点と見做して襲撃した。
すると…
何と、惨殺されていた子供たちの残骸が、魔物に変じて逆襲して来た。
この外道振りに憤慨しつつも、サーヴァントたちは魔物どもを返り討ちにしたが、その間に肝腎のキャスターとマスターには逃げられてしまった。
「何だよ「青髭の旦那」。あの滅茶苦茶強い連中。それに何で、俺たちを襲って来るんだよ」
この期に及んでも、尚、聖杯戦争などには無知な只の犯罪者だった。
「おお…ジャンヌ、ジャンヌ」
キャスターはキャスターで、ひたすらオレルアンの乙女に執着するばかりだった………。
……。
…それ切り、行方を眩ましたかに見えたキャスターとマスター。
その片や言峰璃正神父は、聖杯戦争の監督役としてのみならず、表の顔である教会の善良な神父としても当局に犯罪者のアジトのことを告発していた。
逃亡後のアジトに踏み込んだ警察関係者は、惨殺の痕跡に絶句していた。
それでも残った痕跡や証拠から、連続児童誘拐そして惨殺の犯人は、自らの家族の殺害犯として指名手配されている雨生龍之介と断定された………。
……。
…逃亡を続けるキャスターと雨生龍之介は、何時しか冬木市を流れる川の河口まで辿り着いていた。
「ああ、面白くねえ。「青髭の旦那」何とか「悪魔」らしく行かねえかな」
「ならば」
キャスターは魔術書のページを開いた。そうすると……
冬木の街に、濁った魔力のうねりが広がり始めた。
それは聖杯戦争の為の魔力では無く、子供たちの怨念が形を得たかの様な重く濁った気配だった。
その気配は、ゆっくりと冬木大橋の方角へと流れて行った。
そして川伝いに海へとその魔力が流れ込み、そして巨大な魔物が海面を割って出現して川を遡(さかのぼ)り出した。
まるで怪獣映画の中の様な光景。
巨大な魔物は、川岸に繋がれた船を蹴散らし、冬木大橋へと迫って行った。
「あーはっはっは!超COOLだよアンタ!」
雨生龍之介は逃げ惑う群衆の中に紛れながら、歓喜を覚えていた。
当然ながら、これだけ派手な真似に及べば、誰だって事態に気付く。
各陣営のサーヴァントとマスターたちも、冬木大橋の周辺に集まり始めた。
その中にセイバーも居た。
「この傷さえ無ければ…」
港の倉庫街でランサーから受けた手傷、ひと度ランサーの「宝具」である槍から受けた傷は、ランサーが座に還るか、ランサー自ら槍を折るまで癒えることが無い。
「…私の「宝具」を解放して、あの魔物を倒せるものを」
当然ながら、ランサー陣営にとっては、自ら勝利を投げ捨てるに等しい行為。
自らの拠点をビルごと爆破したセイバー陣営の為に、そこまでしてやるか。
ランサーのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが躊躇うのも当然だった。
その間に、巨大な魔物いや其の中に潜むキャスターに近寄る者たちが居た。
トレイター陣営のサーヴァントとマスターだった。
「聞いてくれ、聞いてくれ、青髯」
トレイターのマスター、オルレアン・ロングヴィルは必死に呼びかけた。
「お主は?」
キャスターの狂った脳裏に、それでも微かな記憶が蘇る。
「その面影…ド・デュノワか?」
「そうだ。私は君の戦友、ド・デュノワの子孫だ。君のことは御先祖の伝承で知っている」
初めて、キャスターいやジル・ド・レが雨生龍之介以外の相手に耳を傾けた。
「止(や)めろ、止めてくれ、ジル・ド・レ。あれはジャンヌ・ラ・ピュセルじゃ無い!」
「何を…我が、いや我らが聖女以外の何者だと」
ロングヴィルは瞬間だけ躊躇った。ことはトレイターの真名に関わる秘密だ。
だがしかし、祖先の戦友を止(と)めなければ為らない、との想いが勝った。
「あれは…ラ・ピュセルじゃ無い。アーサー王だ」
「円卓の騎士たちを従えた騎士王だと。我らが時代から遠い伝説の…馬鹿な…そんな馬鹿な!」
狂っていた筈のキャスターいやジル・ド・レが初めて動揺し始めた。
その無防備に成った瞬間を見逃さなかったものが居た。
上空に待機していたアーチャー、真名は全ての神話の原型ギルガメッシュ。
その「宝具」の1つ「天翔ける王の御座」から神話の武器の原型と成った剣や槍が雨あられと降り注いだ。
「うぐっ」
針鼠の様に伝説の武器を突立てられて、キャスターはサーヴァントとしても致命傷を負った。
第4次聖杯戦争に於ける最初の脱落陣営は、自分たちが聖杯戦争に参戦しているという自覚すら無しに脱落した。
あわや冬木大橋に迫ろうとしていた巨大な魔物が、今度は突然に消失した。
何も知らない群衆は、只あっけに取られていたが、その中で市民を避難させようとしていた警察官が不審人物を見付けた。
「ちぇっ、ちっともCOOLじゃねえよ」
雨生龍之介には、何故か自分の呼び出していた「悪魔」が消失したことが感じられた。
そのことに、瞬間だけ気を取られていたとき、何者かが彼を拘束した。
「緊急逮捕する」
密かに目を付けていた「魔術師殺し」も照準を外した。
聖杯戦争を自覚すらしていない、あの偶然の外れマスターは、もう2度と参戦はして来ないだろう。
それに、法の下に拘束されている相手を殺害などしたら、後がややこしい。
「魔術師殺し」は次の標的を求めていた………。
……。
…雨生龍之介は自らの家族殺し、そして連続児童誘拐と惨殺の罪に問われ、法の裁きを受けた。
刑の執行される瞬間、何故か愉悦を感じていた。
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