Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
キャスター討伐の為の休戦は終わった。第4次聖杯戦争は再開されることと成る。
*
討伐の功績はアーチャー陣営のものと成った。
マスターである遠坂時臣には、勧告通り1画の令呪が与えられた。
時臣にしてみれば、3画の令呪の1画を使ってアーチャーに意志を通じることも無く、合計4画の令呪を保持する結果に成ったことは満足すべきだった。
だがしかし、時臣には時限爆弾の様な隠し事が在った。
王と持ち上げながらも、最後には其のアーチャーすら聖杯の贄にして根源に至ろうとしているという野望を隠し持っていることを。
*
セイバー陣営にとっては、何にも成らなかった。
どさくさ紛れにランサーに槍を折らせて、ついでにセイバーの傷を癒していれば得るものが在っただろうが。
もはやランサーを倒すまで、セイバーは戦力として不完全だ。
その為「魔術師殺し」にしてみれば、ランサー陣営こそ優先的に倒すべきターゲットに成った………。
……。
…キャスター討伐から森のアインツベルン城に帰還したセイバーと衛宮切嗣を迎えたのは、メイド役のホムンクルスから告げられた、丁度キャスターが倒れた瞬間にアイリが寝込んだ、という知らせだった。
セイバーは素直に心配したが、アイリの夫は覚悟していた。
アイリスフィール・フォン・アインツベルンは聖杯の器と成るべく生み出されたホムンクルス。
その定めを承知の上で、最愛の筈の妻の犠牲の上に聖杯への願望をかける決意をしていた。
*
ランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは不機嫌だった。
キャスター討伐の功績はアーチャー陣営に奪われた。
自分の魔術師としての名誉にもマスターとしての威厳にも、何1つ寄与しない結果だった。
ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは許婚の不機嫌を横目に、恋情と狂気を秘めてランサーの様子を見詰めていた。
ランサーは討伐の役に立てなかったことを悔いていたが、その表情は騎士としての誇りを保っていた。
「……次は我々が動くべきだ、ランサー」
ケイネスは低く言った。
その声には「魔術師殺し」への警戒が滲んでいた。
キャスター討伐の混乱の裏で「魔術師殺し」が自分たちを狙っていることを、ケイネスは本能的に察していた。
ランサーは静かに頷いた。その瞳には、戦場へ向かう覚悟と騎士の誇りが宿っていた。
*
キャスター討伐の報せは冬木市内の民家のひと部屋にも静かに届いていた。
ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットは新聞を握りしめたまま、戦争が再び動き出したことを理解していた。
胸の奥が重くなる。自分が身の程知らずにも参戦してしまった戦場が、また近づいてくる。
対照的にライダーは豪快に笑った。
「ふむ、冬木の連中もようやく本気を出してきたか。ウェイバー、次は我らの番だぞ」
その声は明るい。
だがしかし、その瞳の奥には王としての冷静な光が宿っていた。
戦場の空気が変わったことを彼は誰よりも早く察していた。
ウェイバーはその視線に気圧されながら、自分が巻き込まれている戦争の「本当の重さ」を
改めて思い知らされていた。
*
言峰綺礼は第4次聖杯戦争開戦の早々、サーヴァント・アサシンの脱落に因って監督役に保護されたと称しながら、実は父親である監督役や魔術の師であるアーチャー陣営のマスターと裏で結託し暗躍していた。
実は第4次のアサシンは真名「100貌のハサン」100体の分身を擁する。
その1つを失っただけであり、他の分身を冬木に放っていた………。
……。
…冬木の夜気の中を影が幾つも、音もなく滑っていった。
アサシンはキャスター討伐の余波を遠くから見ていた。
戦場が再び動き出したことを誰よりも早く察しているのは、何時もこうした“影”の者たちだった。
言峰綺礼は教会の静かな自室で報告を受けていた。
表情は変わらない。
だがしかし、その沈黙の奥には戦争の行方を見据える冷たい光が宿っていた。
「……続けろ。冬木の全てを見張れ」
短い指示が影を更に散らせた。
綺礼はその背を見送りながら、胸の奥に生まれた僅かなざわめきを静かに観察していた。
*
第4次聖杯戦争は再び動き始めていた。
その行方を、未だ現在の誰もが知らない。