Fate/magi sister's 冬木の天秤   作:高島智明

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Episode.9 魔術師殺しの追想

「本名なんかとっくに捨てた。この名前は今の仕事の為の”皮”みたいなものさ」

 

聖杯戦争に参戦したマスターは、契約したサーヴァントの生前の記憶を夢に見ると言う。

衛宮切嗣はサーヴァント・セイバー、真名はアーサー王への理解を放棄すらする態度からか、自らその様な夢など見ない様に自己暗示をかけていたのか、代わって彼自身の追想を夢に見ていた。

 

切嗣の育ての親とも言って好く、そして彼に「魔術師殺し」を叩き込んだ人物、ナタリア・カミンスキー。

彼女に引き取られた幼い日には気付かなったが、成長した或る日に疑問をふと問うたことが在った。

 

スラブ系に於いて~スキーという姓は、実は男性形である。女性ならば~スカヤでは無いのか。

この疑問に対する回答は、先の通りだった。

確かに、魔術協会という魔術を知らない世間からは裏の存在の中で、その魔術の道からすら外道と成った外道の魔術師を狩るという更に裏の裏の存在。

そんな彼女ーナタリアが”皮”を被って生きているというのは納得が出来ない訳でも無かった。

 

そのナタリアは「死徒」と化した300名を乗せた旅客機もろとも、育ての子の対空ミサイルに撃墜された。

何故か、切嗣の見る夢の中のナタリアは微笑んでいた。

「ふざけるな!ふざけるな!馬鹿野郎!!」

という自らの叫びに切嗣は目覚めた。

 

その叫びを聞いた者は居なかった。

妻のアイリは屋敷の土蔵で静養しており、サーヴァント・セイバーは其のアイリに付き添っていた。

 

目覚めた切嗣は、自らが後悔して居ないと自らに言い聞かせようとするかの様だった。

「正義の味方」を追い求めて、だがしかし其の目的の為に犠牲を切り捨てる。

そうした矛盾も「魔術師殺し」の本質だった。

聖杯戦争の監督役、言峰璃正神父は困惑していた。

 

セイバー陣営、ライダー陣営、トレイター陣営からも通報された。

最初に脱落した筈のアサシンが出没している。

保護されているアサシンのマスター、言峰綺礼は本当にサーヴァントを失っているのか?

綺礼が璃正神父の実子であるだけに、この疑惑は面倒だった。

 

「父上。これ以上私が此の教会に居ては、父上の監督役としての中立性に疑いを持たれます」

実の処、裏では息子の魔術の師でもある遠坂時臣と結託しているのだ。

このままでは、それを見破られるかも知れない。

 

「師の元に身を寄せます。父上は、あくまでも中立の監督役を貫いて下さい」

そう言って、言峰綺礼は教会を出て遠坂邸へと向かった。

 

ところが、目的地を目前にして見付かってしまった。

遠坂邸の上空、アーチャーが「天翔ける王の御座」ででも出てくれば空中戦を覚悟して「神威の車輪」で待機していたライダー陣営。

ライダーの側には、綺礼を見逃す理由は無かった。

 

ライダーに狙われていることを悟った綺礼は「100貌のハサン」の残る数10体、アサシンの全ての残る分身を集結させた。

他のサーヴァントならば、この数の暴力に綺礼を取り逃がす不覚を取ったかも知れない。

だがしかし、ライダーは数には数で対抗した。

固有結界の中に「王の軍勢」を召還したのである。

 

ライダーの召喚した軍勢の方が数でも多い。その上に1人1人の戦闘力も英霊級だった。

分身と引き換えに1体ずつの戦闘力の落ちていたアサシンたちには対抗のしようも無かった。

 

次々と数を減らしていくアサシンたちを見たマスターの綺礼は残っていた分身を1人に合体させて、アサシン本来の戦闘力を取り戻させようとした。

けれども、それはライダーにトドメを刺す好機を与えた。

合体して1人に成ったアサシンを、戦車を引く神牛が踏みにじった。

衛宮屋敷の土蔵の魔法陣に横たわっていたアイリは、又1騎が聖杯に入ったことを知った。

綺礼にとってのせめてもの幸運は、遠坂邸が目前だったことだった。

アサシンが敗れる間に、綺礼は目前の遠坂邸に駆け込んだ。

 

「何だ?他の陣営の拠点に」

ライダーの戦車に同乗していたマスターのウェイバー・ベルベットには、咄嗟に意味が測り兼ねた。

「そう言えば、確か師弟関係だったな。遠くの教会よりは近くの師匠に泣きつくのか」

其れ以上の裏事情は、その時のウェイバーが知る処では無かった。

 

言峰綺礼が師である遠坂時臣とサーヴァント・アーチャーに迎え入れられた。

それが誰のどんな運命に繋がるか、この時は未来を知る者は居ただろうか。




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