改めてにはなりますが二次創作です。本編と違う点はある程度目を瞑って読んでいただけると嬉しいです。
「今夏の一番星は────────十王星南!!」
H.I.F。次代を担うアイドルの頂点を決める祭典。俺達はこの大舞台に立ち、負けた。
「わたしとまりちゃんの戦いだと思っていましたが、想定外でした。」
本戦会場の楽屋で画面に映る一番星・十王星南のステージを見ながら呟く俺の担当アイドル、秦谷美鈴。
「申し訳ありません。俺の実力不足でした。まさかあの十王星南が、ここまで力をつけて望んでくるとは。」
今回のステージ、”どのアイドルのライブが良かったか”と聞かれれば、迷いなく自信を持って担当のライブが良かったと言えるだろう。きっと、観客の中にもそれぞれが良いと思ったライブがあるはず。
だが、”誰が一番星に相応しいか”と聞かれれば、誰もが口を揃えて十王星南と言うそんなライブ。そこには良し悪しではない、なにかがあった。
「秦谷さん、明日はお休みの予定でしたが、MTGをしましょう。今日は解散にしますが、いつもの事務所でお待ちしております。」
「はい。分かりました。時間には必ず。」
今はまだ大丈夫だが、じきに会場にいるお客さんも一斉に帰宅し始める。その前に会場を出ておかないと道が混んでしまう。秦谷さんの寮も敷地内にあるので、準備が出来たら外に出て現地解散となる。
「さて、改めて今日はお疲れ様でした……秦谷さん?」
無事混雑に飲まれること無く外へ出ることが出来たが、突然隣を歩く秦谷さんが足を止めた。
「今日は寮まで送ってくださらないのですか?」
「……お望みのままに。」
彼女がそんなことを言うのは珍しいが、こちらを揶揄うような発言自体は珍しくない。なんであれ、H.I.Fで負けてしまったのだ。彼女の方が応えているはず、俺にできることなら全て叶えてあげたいと思う。
彼女を自宅に送り、自身も帰路に着く。
普段ならライブ後はお客さんの反応をエゴサすることが多いのだが。どうせ一番星の話題で持ち切りだろう。それに……
「アイドル業界での我々は、褒められるような態度をしていないからな。プロデューサー科の方々に何を言われるか。」
だがそれは担当アイドルにも言えることだろう。むしろ表舞台に立っているのだから、心無い言葉も人一倍受けるはず。だから少しでも同じ罪を背負いたいと願う。
♪〜
茜色の空が夜の闇に飲まれる頃。ポケットに入っていたスマホから着信音が鳴り響く。
「はい。
通話ボタンを押し、耳に当てると、スピーカーからはよく知る女性の声がした。
「もしもし、小鳥遊くんですね。まずはH.I.Fお疲れ様でした。残念な結果になってしまったかと思いますが、気を落とさず頑張ってくださいね!」
声の主は自身の担任である、根緒亜紗里先生。プロデュースのやアイドルに関する相談にも乗ってもらっている。
「ありがとうございます。こんな所じゃ止まれませんよ。俺も秦谷さんも。です。しかし、こんな時間にどうしたのでしょうか、明日でも良いのでは……?」
「それがですね……以前話したこと、覚えていますか?」
「どのことでしょうか……?」
思い当たる節は幾つかある。
・秦谷さんがレッスンに全然来ない(Voトレ)
・授業中に校庭で寝てる生徒がいる(一般生徒)
・気付いたら生徒会室にいるし消えている(副会長)
・秦谷さんがレッスンに来ない(Daトレ)
・秦谷さんがレッスンになかなか来てくれない(Viトレ)
あとは……
「特進コースの件です。」
「………以前お断りしたはずですが。」
「それが、大人の事情というものがありまして……明日、13:00頃に学園長室に来ていただけると……」
あさり先生もかなり困っている様子だ。だが学園長の無茶振りなど今に始まったことじゃないだろう。
権力には逆らえないなぁ、とため息をこぼす。
「分かりました。直接話して納得させてみせます。」
通話を終了し、項垂れるように手が降りた。
特進コース、か……。
⬛︎
次の日、午前のカリキュラムを終え昼食をとる。いつもなら秦谷さんが弁当を渡してくれるが、H.I.Fの直後まで作ってもらう訳には行かないと、事前に断っておいた。
購買で買った味の濃いパンを貪り、空を仰ぐ。
人の心も知らない天は、清々しいほどに快晴で嫌気が差す。
「そろそろ時間か。学園長室に向かおう。」
初星学園の校舎内に1つ、立派な両扉が存在する。学園長が滞在するに相応しい装飾のその扉の前に立ち、ノックする。
「プロデューサー科
すると中から力強い声で返事が帰ってくる。
「小鳥遊くんか!入って良いぞ!」
「失礼します。」
部屋に入ると窓際で外を見る老人が1人。この学園の学園長、十王邦夫その人であった。
「H.I.Fの直後にすまんのぉ。君のアイドルも見事なパフォーマンスであったぞ。」
「恐縮です。まぁ、あなたのお孫さんに叩き潰されてしまいましたが。」
かなり評価していただけるのは感じる。
だが叩き潰してきた相手がこの人の孫である以上、皮肉として感じてしまうのは正常だと思いたい。
「1年生であの実力。末恐ろしいのぉ!さらに聞けば秦谷くんだけでなく、あの月村くんまで君がサポートしていたと!」
「そこで!1年生を2人も抱えつつ、N.I.Aでは優勝、夏のH.I.Fでも素晴らしいパフォーマンスを発揮するにまで至らせた君の腕を見込んで、儂は君に特進コースへの編入を強く推薦したい!」
「前もお話しましたが、遠慮させていただきます。」
「理由を聞いてもいいかの?」
プロデューサー科の特進コース。アイドル科にもデビューしたアイドルが所属する3組というものがあるらしい。
元々優秀な成績、経歴を持つプロデューサー志望の学生のみ受けることの出来る特別カリキュラム。
もちろん授業内容やサポートの質も通常より遥かに良いものが受けられる。だが1つだけ、絶対に飲み込めない条件があった。
「俺は最後まで秦谷さんと歩くと決めています。カリキュラムとはいえ、学園側で決められたアイドルをプロデュースするのはお門違いです。」
特進コースに進んだプロデューサーは、原則学園側が決めたアイドル科の生徒と組むことになる。このカリキュラムは組むことで互いに成長が見込めるペアになるとされているが、実情は分からない。
「むむむ……そうは言ってものぉ。実は他にも理由があるのじゃよ……」
「他の理由、ですか?」
何を言われようと、彼女とした約束を曲げる気はない。俺が彼女が歩く道を、トップアイドルまでの道を整備すると。
「そろそろ来ると思うんじゃが……お、来たかの。」
重いドアが叩かれ、ゆっくりと開く。
「話し中失礼する。立て込んでいて遅れてしまった。」
「100プロ現社長であるあなたがどうして……?」
予想もしていなかった来客に、思わず声をあげてしまう。
「君が小鳥遊くんだね。噂は聞いている、その齢に見合わぬほどの敏腕プロデューサーだと。」
十王龍正。大手アイドル事務所100プロの現社長である業界きっての大物。十王星南の実父にして、目の前にいる学園長の息子にあたる人物だ。
「名前を認識していただけるだなんて恐縮です……!それに敏腕プロデューサーなどと……」
「いや、君は学生なのにかなり腕が立つ。自信を持っていい。学園を卒業したら是非囲いたいと考えている。」
アイドル事務所の社長に褒められている。これほど光栄なことは早々無いだろう。だが、頭を下げる俺の額には汗がつたっている。
「小鳥遊くん。龍正が来たのには理由があってな。」
「私から直接お話させていただいても?」
龍正さんがそう言うと、学園長は頷き、自身の椅子に座る。嫌な予感しかしない。
「単刀直入に言えば、君の担当していた秦谷美鈴及び、月村手毬を100プロにスカウトしたい。」
「……理由をお伺いしても?」
「ふむ…N.I.Aでの活躍もそうだが先日のH.I.F、優勝せずとも素晴らしいパフォーマンスだった。そこに光るものを見出した、とだけ言おう。」
「秦谷さん達はまだ1年生ですが。」
「あぁ。そうだ。だからスカウトを受けるとなれば、3組への編入となるだろう。」
「彼女はかなり問題児ですよ。」
「承知している。100プロに在籍しているプロのアイドルにも癖の強い者はいる。才能あるが故なのかもしれんが。」
秦谷さん達がプロの事務所に囲ってもらえる。共にトップアイドルを目指す者として、これほど嬉しいことは無いだろう。だがそれには……
「そして、プロデューサーも私の事務所からプロの者をつける予定だ。君には1度外れてもらい、君自身のプロデューサーとしての経験を養って欲しいと考えている。」
「俺は秦谷さん以外のプロデュースを担当する気はありません。元々月村さんのプロデュースも、秦谷さんの為でしたから。」
あくまで意思は曲げない。相手が誰だろうとここで走る訳にはいかないと、睨むような心構えで発言する。
「私も君の気持ちを尊重したいが、君に任せるにはどうしても経験不足だ。何より、君は今回のH.I.Fを経て誰よりも痛感しているだろう。」
「それは……」
事実その通りだと思う。十王星南のライブまでは、自身が育てた2人のアイドルの一騎討ちだと、信じてやまなかった。他のアイドルなど眼中に無いとタカをくくって送り出して。結果は今の一番星が示しているとおり。
「それこそ、今の君に必要な経験だ。成功も失敗も全て積み上げ、1人前のプロデューサーになっていく。君は成功しすぎた。学生のうちに問題や壁に多く当たることを推奨したい。」
「繰り返すが、私は君を高く評価している。君がプロデューサー科を卒業したなら是非迎え入れたい。だからこそ先輩としてアドバイスをしているつもりだ。」
それは冷静で現実へ目を向けた話で。無名だったアイドルをほんの数ヶ月で一番星にするなんて夢とはかけ離れていた。いずれアイドル業界へ飛び立つ者としてはこの誘いを飲まない理由は無かった。きっとこれは秦谷さんのためでもある。
「秦谷さん達にはもうお声掛けをしたのですか?」
「いや、これからだ。私も今多忙な身でね。今日はたまたま顔を出すことができたが。いずれ私の口から直接話すつもりだ。」
「だから今すぐ答えを出せとは言わない。君も特進コースの件を含めて、じっくり考えてくれると嬉しい。君や君の担当アイドルにとって、何が最善なのかを。」
「はい。ありがとうございます。」
「少し長話をしすぎてしまったようだ。要件だけですまないが、私はこれで失礼する。」
考えればずっと立ち話をしていた。かなり多忙なのだろう。椅子に置いていた鞄を手に取り、早足でドアへ向かう。
「うむ。ご苦労じゃった。」
「小鳥遊くん。色良い返事を期待している。」
場を荒らすだけ荒らして去って行ってしまった。
扉が閉まった後も見つめたまま、呆然と立ち尽くしてしまう。
「君が特進コースに行くことで今在籍する生徒にとっても良い刺激になると考えてる。今一度、検討してみてくれ。」
「はい、そうさせていただきます。担当アイドルとのMTGがあるので、失礼します。」
⬛︎
そろそろ伝えていたMTGの時間になるので、廊下を走らぬよう急ぎ足で事務所として使用している教室へ向かう。秦谷さんのことだ、どうせまたお昼寝でもして遅刻してくるだろう。と、ドアに手をかけると……鍵が開いている。
(馬鹿な……!)
扉を開けると、秦谷さんがパイプ椅子に姿勢正しく座り眠っていた。MTGに時間通り、遅刻していないだと?かなり今回の敗北が響いていたのだろうか。あまりにプロデューサーとして不甲斐なくなる。あなたが歩く道を整えられなかったことを。
「秦谷さん、起きてください。」
「まあ。プロデューサー。おはようございます。」
声を掛けただけで目を覚まし、ゆっくりとした動きでこちらを見る。未だに警戒心が強いのか弱いのか分からない人だ。
「はい。おはようございます。もうお昼過ぎてますよ。それより、時間通りに来るなんて珍しいですね。」
「さぁ、何故でしょう。今日は早く来ないといけない気がしたのですが。まさかプロデューサーがいないとは…気のせいだったのでしょうか。」
「すみません。学園長に呼ばれていたので。」
学園長に呼ばれていると言った時、微かに彼女の表情が動いた。今なおいつも通りに柔らかな微笑みを浮かべているはずの彼女が。
「……H.I.Fの件でしょうか?」
「いえ。むしろ逆で特進コースの件ですよ。前も勧誘があったとお話した気がしますが、H.I.Fに出たこと自体を評価されました。」
「まあ。特進コースということは、プロデューサーは他のアイドルと浮気するのですね。」
その場の空気が彼女の圧に負けて重くなる。まだ最後まで話していないというのにこの威圧感。嬉しいような嬉しくないような。信頼されていないのかな……
「素行不良でサボらず頑張ってればH.I.Fで優勝出来たかもしれませんし、特進コースでやる気のある子と走るのも手かもシレマセンネ。」
「…………!」
圧に押されてばかりなのでこの際揶揄ってみる。自分ではかなりわざとらしく言ったつもりだが…
彼女の反応を見るにかなり間に受けていそうだ。これはまずい。
「冗談ですよ。ちゃんと断るつもりです。」
「……!ぷぃっ」
表情は明るくなったがそっぽ向かれてしまった。早々に機嫌を直さなければMTGが進まない。
「秦谷さん機嫌直してくれたら俺の家の鍵を……やっぱり遠慮しておきます。」
「わたしで遊んでいませんか……?」
家の鍵を出した途端目の色を変えたので言うのをやめた。頬を膨らませる俺の担当アイドルはなんだかんだ可愛いのだ。
「さて、秦谷さん。雑談はこの程度にして本題に移りましょう。我々はH.I.Fに負けました。大丈夫ですか?」
本題へ移った途端、秦谷さんの顔付きも変わる。だとしても、H.I.Fの大舞台で緩やかに積み上げたものが崩れた直後に、平静を装っているのではないかと、心配になる。
「大丈夫……ですか?心配してくださっていたのですね。嬉しいです。」
予想とは裏腹に随分と余裕そうだった。
「プロデューサーの方こそ、大丈夫でしょうか?」
「俺ですか?」
「はい、わたしたちは日頃から褒められた振る舞いをしてきていません。きっと今回の結果も、ずっと努力してきた方からは疎まれて。プロデューサーであるあなたにまで、きっと心無い言葉が降り掛かっていないでしょうか。あなたは真面目な方ですから、心配です。」
「ハハ…なるほど。」
担当アイドルに心配されてしまうとは……と乾いた笑いがこぼれる。もちろん周りのプロデューサーからの陰口は増えた。傲慢故の代償だと、彼女と歩くとなれば背負わねばならない罪だと割り切っている。
「正直に話すのなら、周りの反応は冷たいです。ですがそれは嫉妬でしかありません。秦谷美鈴の才能への。」
「まあ。」
「あなたはきっと、1度も転ばず、つまづかず、たまに高い壁にぶつかって、遠回りをしてでも歩いて超えていく。少し心配しすぎましたかね。」
「そんなことはありませんよ。とても、とても嬉しかったです。」
そう、彼女は俺が思ってるよりもずっと強い。これからも今まで通り歩いて全てを塗り潰す。彼女に心配をかけているようではまだ、駄目だ。
「秦谷さんのメンタルケアをするつもりが逆に心配されてしまうとは、プロデューサー失格ですね。」
「ふふ、もっと甘えてくださってもいいのですよ。」
「プロデューサーどころか男として失格になりそうなので遠慮しておきます。」
その後は取り留めもない話をして解散した。H.I.Fの敗北を経て、彼女の話をあまり聞くことは出来なかったが…未だに自信を持って彼女に信頼されていると言えるのか、分からない。今は通用しても、プロの世界に飛び立った時。俺は彼女の隣を歩けるだろうか。
「もうこんな時間ですね、プロデューサー。この後まりちゃんとりんちゃんと約束があるので、お先に失礼しますね。」
「はい。お気をつけて。」
彼女が教室のドアを閉める音がする。俺の手にはスマホが握られており。その画面には学園長から貰ったあの人の連絡先が表示されていた。
「もしもし。小鳥遊です……」
ここまで読んで頂きありがとうございます。
秦谷美鈴の思い出衣装をライブ配信8時間キャッチアンドリリースで進行しているのでそろそろ配信で愚痴られてそう&刺されてもおかしくない藤田Pです(!?)
秦谷さんに刺されるならなら本望泣いてくれるか藤田……(歪んだ願望)
吐き出したいことは最終話に吐き出しますね。
次回からは秦谷さん視点がメインになります。よろしくお願いします。
余談
名前が無いとプロデューサーくんプロデューサーさんで物語感薄れるかなと思いつけてます。30秒くらいで決めました。
小鳥遊 涼人 たかなしりょうと