第1話の誤字報告ありがとうございました!
「今夏の一番星は────────十王星南!!」
彼女のパフォーマンスを見た時、言葉を失った。
N.I.Aを制し、心のわだかまりもなくなった今。他の星々など眼中になくて。
一際強い光を放つ幼馴染の月村手毬と、最高の大舞台での一騎打ちだと思っていた。
それなのに、突如視界の外から煌めいた一番星にのみ込まれてしまった。
あぁ、負けるのは、とても、とても悔しい。
「申し訳ありません。俺の実力不足でした。まさかあの十王星南が、ここまで力をつけて望んでくるとは。」
そんな気持ちが零れていたのか、わたしの傍で歩いていたプロデューサーが私に謝罪をする。あなたが悪い訳では無いのに、むしろ────
「秦谷さん、明日はお休みの予定でしたが、MTGをしましょう。今日は解散にしますが、いつもの事務所でお待ちしております。」
「はい。分かりました。時間には必ず。」
別室で衣装からいつもの服に着替え楽屋に戻ると、プロデューサーが荷物をまとめてくれていたのでそそくさと関係者出入口から出ていく。
「さて、改めて今日はお疲れ様でした……秦谷さん?」
ライブ会場を出る。学園寮とプロデューサーの家は真反対なのでこの場で解散となる。寮は学園の敷地内故に、寮まで着いてくる必要はないと判断してのことだろう。わたしもそのつもりだった。
「今日は寮まで送ってくださらないのですか?」
「……お望みのままに。」
考えた事とは裏腹に、口から出たのは本心だった。彼は絶対に拒否しないと知りながら、また明日も変わらず会えると知りながら、もう少しだけ一緒に居たいと。
⬛︎
次の日、プロデューサーとのMTGの時間に間に合うよう事務所へ向かう。プロデューサーに早く確認したいこともあり、今日は遅刻せずに来た。
だが普段開いているはずのドアには鍵がかかっており、彼に何かあったのではと。途端に不安になる。
(探しに行った方が良いでしょうか……いえ、大袈裟ですね。)
時計を見るとMTGまであと15分ほどある。自分で考えているより早く事務所に来たようだ。大人しく座って待つことにする。
(重く受け止めていないと良いのですが……)
⬛︎
「……さん。起きてください。」
聞き慣れた男性の声にゆっくりと目を開ける。声の方を見ると、心底驚いた顔をするプロデューサーがいた。
「まあ、プロデューサー。おはようございます。」
「はい。おはようございます。もうお昼過ぎてますよ。それより、時間通りに来るなんて珍しいですね。」
「さぁ、何故でしょう。今日は早く来ないといけない気がしたのですが。まさかプロデューサーがいないとは…気のせいだったのでしょうか。」
「すみません。学園長に呼ばれていたので。」
学園長に?以前も呼ばれたことがあったような気がしますが、もし今回の結果が振るわなかった件で呼ばれていたら……と考えたが、聞けば特進コースの件だったらしい。
特進コースと言えば、成長が見込まれたアイドルとプロデューサーが2人1組で行うカリキュラム。そのアイドルとプロデューサーは学園側が決めることになっている。つまりわたしから浮気をすることと同義だ。
「素行不良でサボらず頑張ってればH.I.Fで優勝出来たかもしれませんし、特進コースでやる気のある子と走るのも手かもシレマセンネ。」
どうして、そんなことを言うのだろうか。初めて会った時の約束は……
「冗談ですよ。ちゃんと断るつもりです。」
心の底から安堵する。彼は嘘が下手だ。未だに鍵の1つも渡してくれないいけずな人。
「さて、秦谷さん。雑談はこの程度にして本題に移りましょう────」
彼はH.I.Fを終えてまず最初に、大丈夫ですか?と聞いてきた。むしろわたしはあなたの方が大丈夫なのか聞きたかったのに。
わたしはもちろん大丈夫だ。と自信を持っては言えない。悔しい、ものすごく悔しい。負けてしまったこと、期待に応えられなかったこと。あの時からずっと、大事に大事に貯めているこの感情を、涙を、見せる訳には行かなかった。だって皆さんに心配させてしまいますから。
そして、自分は大丈夫だと笑う彼の目はいつにも増して虚ろで、それは仕事に終われつつも熱意のこもる虚ろでは無かった。そんな状態の彼に、わたしのこれを分けてしまえば、壊れてしまうかもしれない。
でも、それでもいつか、プロデューサーにはわたしのこれを分けてあげたいと思う。きっと彼ならとても大事に、大切にしてくれるはずだから。
彼が元気になるまで、お世話してあげたい。
お世話の提案をいつも通り断られつつ、ふとスマホを見ると液晶に通知が表示されている。
《手毬、美鈴。今日いつものカフェに集合。遅れたら承知しないわよ。》
《分かった。用事終わったら行く!》
まりちゃん、りんちゃん、わたし。3人のグループチャットだった。いつもの場所に、時間は……丁度このMTG後らしい。
《分かりました。プロデューサーとのMTGが終わったらすぐに向かいますね。》
返信だけ飛ばし、プロデューサーとのMTGを続ける。今後の方針……と言っても、今回はヒアリングのみだった。丁度良い時間になったので、プロデューサーと別れ、いつものカフェへ向かう。
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「ちゃんと来たわね〜。じゃあはじめましょ!第1回、負け犬どもを嘲笑う会〜♪」
「まあ。ひどい。」
「りんはぁ〜!?」
時間通り来てみれば、開口一番にとんでもない会の開催を宣言。
「何よその顔。私の指導を受けておいてあのザマ、SyngUp!の恥晒しじゃないの。」
「ぐぐぐぐ……」
「本当に情けないったらありゃしない。」
口ではこう言うが、表情は柔らかい。本当に呆れているならそんな顔にはならないだろう。
「何よ負け犬2。そんなニヤけて。」
「いえ、りんちゃんは相変わらずだなぁ、と。」
「……そういうんじゃないわよ。まぁ、手毬にしてはよくやったと思うけどね。特訓の成果も出せていたと思うわ。負け犬の癖にね♪」
「燐羽、それ励ましてる?」
「言葉そのままの意味よ?」
「じゃあ次は勝ち犬になってやるから。」
「そんな言葉はありませんよ、まりちゃん。」
元SyngUp!の3人で、先のH.I.Fの反省会(?)を行う。励まされたり煽られたり。次のH.I.Fではあの先輩達を覆い隠せるようにわたしも少し、走ろうと思う。冗談でも彼が言っていたように。
「美鈴〜〜〜〜!!一緒にがんばろーねっ!!」
「じゃあ早速明日から特訓始めるわよ。美鈴もそれでいい?」
「はい。大丈夫ですよ。」
「んじゃ今日は解散にするわ。また明日……」
「あっ。待って燐羽。私から相談がある。」
席を立つりんちゃんを、神妙な面持ちでまりちゃんが引き止める。
「どうしたんですかまりちゃん。」
「まーた面倒事じゃないでしょうね?」
「えっとね、ここに来る前、校門で十王龍正って人が……将来100プロに入らないかって……」
「まりちゃん…その人は…!」
十王龍正。現100プロの社長がどうしてまりちゃんを……
「うん、100プロの人だよね、流石に知ってる。名刺を果たされた時、すごくびっくりした。」
「あら負け犬のあなたにそんな話があったのね。かく言う私もさっき同じ人からメールが届いてたわ。極月に転入したってのに図々しいと言うか食えないというか。 」
りんちゃんまで……?
「興味があれば先生を通して連絡して欲しいって言ってた。私と燐羽が同じタイミングってことは美鈴のとこにも来たの?」
「いえ、今日はプロデューサーとMTGをしてから急いで来たので、そういう話は……」
「もしかしたらあんたのプロデューサーには話が通ってるんじゃない?まだあなたが聞かされてないだけで。」
もし話が来ているとして、プロ所属の話なんて吉報をプロデューサーが話してくれない理由が分からない。そうせざるを得ない状況にあったりするのだろうか?
「そういえば、この話を受けると100プロのプロデューサーを付けてくれるって言ってた。いきなり高待遇だよね、」
「あんたを扱えるプロデューサーなんているの?」
「少なくとも美鈴のプロデューサーは私たち2人の面倒見てくれたよ」
「それは美鈴のプロデューサーがおかしいと思うわ。」
「わたしのプロデューサーを侮ってはいけませんよ、りんちゃん。彼は魔法使いなんですから。きっと所属の手続きをしてくれてるんだと思います。」
きっと手続きなどでまだ言える状態じゃないのだろう。まりちゃんたちも今日聞いたそうで、プロデューサーも、ごたごたしているのかもしれない。
「また明日、プロデューサーに聞いてみようと思います。」
「そうね、そうしなさい。私たちが元SyngUp!という経歴がある限り、たとえ解散したとしても同じ事務所なら3人での施策を打てる。SyngUp!ファンに向けた施策を独占できる。だから1人断るだけで全員への話が無くなる可能性だってあるわね。だからあなたたちが受けるなら……私も考えてやらないこともないわ。」
「りんは……!明日から頑張ろうねっ!!!」
⬛︎
次の日
心地良い雨音に、時折雷が響く悪天候。薄暗い校舎を1人歩く。りんちゃんのレッスンも終わり、いつも通り事務所へと向かう。眠い瞼を擦りながら扉に手をかける。
(話し声……誰か来ているのでしょうか?)
「おはようございます。プロデューサー。」
「おや、秦谷さん。今日は早いですね。」
目にクマを作ったプロデューサーがいつも通り迎えてくれる。そして────
「初めまして、かな。秦谷美鈴くん。名前だけは知っているかも知らないが、私が十王龍正だ。」
第2話も読んでいただきありがとうございます。
本業の都合もあり、更新が遅くなってしまいましたが年内完結目指してるので引き続きよろしくお願いします。
書いてて思ったんですが、冒頭の方よくよく考えたらお客さん出る前に会場出ることって無いですね。
お客さんが出てる間に他のアイドルに挨拶したりありますもんね。なんで早く帰らせたんや挨拶する時間取れよ小鳥遊くん。