筋肉三銃士が行く~筋肉は全て(の問題の7割くらい?)を解決する~   作:nocomimi

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第二章: 筋肉三銃士+スーパーシゴデキ聖女+自称魔法少女(←微妙に違う)奮闘す
大ゴブリン砦の攻略


翌朝。

 

一行は宿を出ると、ルーク修道士の先導で鍛冶屋に出向いた。

 

「おぉ?誰かと思ったらルカの旦那じゃねぇか!」

 

所狭しと武器が置かれた店内に入ると、奥の作業台に向かっていた老人が顔を上げた。

 

「しばらく見ねえうちに変わっちまったなぁ、坊主になったってのは本当だったんだな?」

 

老人はエプロンで手を拭うとルーク修道士の手を握った。すると修道士は言った。

 

「ザカリヤ、紹介するよ。こちらは新しく私のチームのパーティリーダーになった剣士のマルコだ」

 

「ども」

 

マルコも手を差し出した。ザカリヤと呼ばれた老人は握手しながらも何かを思い出すように上を向き、そして唐突に声を上げた。

 

「若けぇの。あんたもしかして巷で噂の『三本剣のマルコ』か?いや、それとも『剣折りのマルコ』だったか」

 

「どっちでもいいっす」

 

青年は軽く頷くと内心溜め息をついた。どちらも美名ではなく、むしろ蔑称だ。

 

だが気を取り直すと彼は言った。

 

「剣、二本ほど欲しいんっすけど」

 

「ははぁ。早速折っちまったってわけだ。ちぃと待ってな」

 

老人は奥に引っ込んでいった。するとルーク修道士が口を出した。

 

「マルコ氏。費用は王家持ちなんだ。どうせならもっと良い剣を買ったらどうだ?」

 

「良い剣っ....すか?」

 

「そうだ。君が今使っているのは軍の汎用品だろう。品質は悪くないがやはり消耗を前提に設計されているのは否めない」

 

会話していると、老人がやってきて数本の剣を作業台に並べた。

 

「若けぇの、お前さんの体格なら今背負ってる奴より大きい剣でも十分振れるだろ。例えばこいつは...........」

 

老人はひと際長いものを取り上げた。

 

「ツヴァイヘンダー。このリカッソっていう部分を使って持ち替えりゃ振りやすくなる」

 

ザカリヤと呼ばれた老人は次々に説明する。だが、マルコ青年は自分の心を悩ませる心配が抑えきれず、口にした。

 

「ザカリヤさん。あの........」

 

「なんじゃ、若けぇの」

 

「折れない剣ってないっすかね?」

 

「折れない剣じゃと?」

 

老人は顔を上げた。だがマルコは言ってすぐ赤面した。そんな厨二病的な言葉を発してしまった自分が猛烈に恥ずかしい。

 

「ふん。わかった。ちぃと待ってろ」

 

だが老人は意味ありげに鼻を鳴らすと、再び奥に引っ込んでいった。

 

「差し出がましいことを言って恐縮だが、マルコ.........」

 

するとルーク修道士がまた口を開いた。

 

「剣の損傷は戦場では避けられない現実だが、一方でそれを防ぐ効率的な戦い方というものも存在するんだ」

 

「効率的...っすか」

 

「どうだろう。これを機会に剣の振り方を見直してみては?」

 

「でも.....俺不器用だし剣術習ったことすらねぇんっすよ..」

 

そんな話をしていると老人が巨大な何かを抱えて戻ってきた。

 

「よい...しょっと」

 

掛け声をかけ、重々しい音を立てながら作業台の上にそれを置くと、ザカリヤ老人は両手を打ち合わせながら得意げに胸を張った。

 

「ドラゴンスレイヤー...じゃ」

 

「ドラゴンスレイヤー?」

 

マルコとルーク修道士は同時に声を上げた。

 

見ると、その剣は刃の幅が異様に広く、厚さも厚い。しかも、両手剣相応の長い柄は、鍔がついていない独特の形状だ。

 

「数年前に造ってはみたが、重すぎて誰も振れず買い手がつかんかった。だが、頑丈さは折り紙付きじゃ」

 

老人は眼鏡の奥から光る眼でマルコを見上げた。

 

「どうじゃ。今なら十五万ルピーで売ってやるぞ」

 

「なっ.....まじっすか?」

 

驚いた青年は声を上げた。そしてその剣に手を伸ばし、持ち上げてみた。

 

「デケぇ....でも振って振れねぇこたぁなさそうだ」

 

手に持ったその刀身は、仕上げが粗いのか刃から発せられる輝きは鈍い。だがその重さと厚さがかえって安心感を与えた。

 

「...買います」

 

「よしっ毎度あり」

 

老人は嬉しそうに手を叩く。マルコ青年は料金を払って領収書をルーク修道士に渡した。そして振り返ると仲間たちに声をかけた。

 

「待たせたな。じゃあ行..........ええッ?」

 

振り返ると、アビゲイル修道女が展示されていた商品の剣を手に取って抜き放ち、その刀身を恍惚とした表情で眺めていた。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * 

 

「使い込んだ剣の味わいも捨てがたいですが、やはり新品の剣の輝きというのは格別ですわね.........」

 

修道女は手に持った剣の刀身を見つめたまま呟いた。

 

「この鏡のような磨き。そしてこの樋の彫り込み。何よりもこのエッジ.......痺れますわ」

 

彼女はそう言うと剣の峰に指を這わせた。少女ハンナは呆れ顔でその姿を見つめ、ヨハネはと言えばその後ろで斧を物色している。だが巨漢は一本取り上げるたびに首を振ってそれを戻す。

 

「....小さい。大斧、ない」

 

「あ......あの.....アビゲイルさん。お待たせっす。もう終わったっすから....」

 

声をかけたが、修道女は全く聞いている様子もなく語り続けた。

 

「わたくし、幼い頃は弟と剣士ごっこばかりしていましたわ。でも親から厳しく言われましたの。女は剣士になどなるものではないって......」

 

彼女は眉を寄せ、ハァと溜め息をつくと悲し気に言葉を継いだ。

 

「だから、剣士の夢は諦め修道院に入りましたわ。でもそれでも度々熱い望みが蘇ってきますの。剣を手にとって、それを我が道に......って」

 

「あの...アビゲイルさん?もしもーし」

 

マルコ青年は彼女の目の前で手を振った。だが全くその様子に変化はない。

 

「あぁ...わたくし、どれほど剣士になりたかったことか....」

 

「あの...アビゲイルさん。俺、剣買ったんでもう出発できるっす」

 

「剣?剣を買われたんですの、マルコさん?」

 

その言葉を聞くと修道女は目をクワッと見開き顔を上げた。

 

「あ.....これっす。ドラゴンスレイヤーっつってやたらデケぇっすけど頑丈そうだから...」

 

「うむ...最初私もどうかと思ったが、きみの膂力ならば使いこなせるかも知れないね」

 

青年が言うと、隣でルーク修道士が腕を組み、顎に手を当てて独りごちた。

 

「ではマルコさん!あなたが今背負っておられる剣はもう不要ですわね?」

 

修道女は突如熱の籠った表情になると、青年に押し迫ってきた。

 

「え......は.....はいぃ?」

 

「わたくしに下さいな!その剣!だって二本も必要ないですもの。そうですわね?」

 

あまりの剣幕に押されたマルコ青年は反論も出来ないまま背中の剣を下ろすと相手に差し出した。

 

するとアビゲイル修道女は喜々として鞘のストラップを腰に巻き、ポンとそれを叩いて顔を上げた。

 

「あぁ..なんと嬉しいのでしょう。これで長年の夢がかないましたわ!」

 

そして、彼女は突如剣を抜き放つと、青眼に構えた。

 

それを見たマルコは驚きに捕らわれた。

 

その姿勢は明らかに経験者のそれだ。重い剣に引っ張られず、かといって無理に背を反らしもせず、肩、肘から手首そして握りまで自然に力が流れている。

 

「あ....ごめんあそばせ。つい調子に乗ってしまいましたわ」

 

数秒すると、修道女は我に返ったように赤面した。だがマルコは尋ねた。

 

「あのぉ...アビゲイルさんってもしかして剣術習ったことあるんっすか?」

 

「えぇ。ありますわ。幼少の頃からレッスンは欠かしませんでしたわ。親はバレエをやれとうるさかったんですけどどうしてもこれだけはって我儘を通しましたの」

 

彼女は剣を鞘に納めながら答えた。マルコ青年は何かに気づいたかのように顔を上げた。

 

「そういや....ルークさんって...騎士団にいたこともあるんっすよね」

 

「ああ。そうだが、それがどうかしたかね?」

 

「じゃあ、ルークさんも剣術得意っすよね」

 

「ああ。あの頃は毎日朝から晩まで修練したよ」

 

修道士は何気なく答える。マルコ青年は打ちのめされたかのように呟いた。

 

「じゃあ...剣術素人って俺だけじゃないっすか......」

 

* * * * * * * * * * * * * * 

 

一行は馬車に戻り、食堂に立ち寄って食事を済ませると街道に入って郊外に向かった。

 

石畳の街道を疾走する客車に揺られながら、マルコ青年は窓の外を眺めた。

 

――――俺なんかには絶対パーティーリーダーなんて務まらない――――

 

同じ思考が何度も何度も脳裏をよぎる。傍らにいる少女はハンナはその悩みなど気づかない様子で鼻歌を歌っていた。

 

「あと二時間ほどで到着するはずだ。マルコ氏、地図を確認して作戦を練ろう」

 

ルーク修道士の言葉で我に返り、マルコは地図を取り出した。修道士はそれを覗くと言った。

 

「大ゴブリン砦――――何度掃討してもゴブリンが湧いて出る難物だな」

 

「潰せって言われたからまぁ潰すとして、そっからどうしますかね?」

 

「昨日も言ったように私はトンネルの存在を疑っている。だから掃討後それを見つけ出し埋めるのはどうだろう」

 

「...えッ...?でも俺ら土木工事の道具とかは持ってないっすけど......」

 

「いや、その点は大丈夫だ。任せてもらいたい」

 

ルーク修道士は自信ありげに言った。それを聞いたマルコは思い出した。

 

メイスを振るって巨岩を一撃で粉砕した修道士の姿。

 

「あとは傾斜が問題だ。この等高線を見たまえ」

 

修道士は平地からなだらかに登っていく地形を示した。砦の印はその上にある。

 

「下から攻めるのって不利っすよね。まあ相手がゴブリンならなんとかなりそうっすけど」

 

「だが上からのアプローチは地形上困難だ。三人だけならともかく、女性陣を連れては厳しいな」

 

話し合いの結果平地から進入し攻め登ることに決まった。一同は馬車を降りると里から山岳地帯に足を踏み入れた。

 

一時間ほど歩くと、やがて山の中腹に張り付くようにして建てられた真っ黒な建物が見えてきた。砦だ。

 

* * * * * * * * * * * * * * * *

 

一行は物陰に隠れてじっと観察した。

 

建物の中からは時折汚らしい喚き声が聞こえる。また、人影のようなものが時折動くのも見えた。

 

「間違いない。彼らはご在宅だ。.....だが数が少ないな」

 

「っすね。ギルドの情報では剣で装備した五十匹と首領が一匹........」

 

ルーク修道士の言葉に応えて言いかけたあと、マルコは慌てて付け加えた。

 

「....って話だけど信用できるかはわかんねぇってことっすよね?」

 

「本当はもっと多いかも知れない。だが逆に今はあまり姿が見えないな」

 

「略奪に行ってるんじゃないっすか?」

 

「そうだな。手薄な時にまず建物を叩き潰すのも手だ」

 

「建物...って建物ごと潰せる...んですか?」

 

「あぁ。それは大丈夫だ。任せてほしい」

 

またもルーク修道士は自信ありげに言った。マルコは首を捻りながらも振り返って仲間たちを顧みた。

 

「じゃフォーメーションを決めるっす。俺が一番右。俺の後ろにハンナ。真ん中がヨハネ。左翼がルークさん。ルークさんはアビゲイルさんを守ってください」

 

「妥当な陣形だ、マルコ氏」

 

「心強いですわね。Sクラス冒険者がボディーガードしてくださるなんて」

 

修道士が頷き、アビゲイルが微笑む。

 

五人は物陰から出ると前進を始めた。

 

身を低くして傾斜を登っていく。左右に広がる木立に身を隠し、上から見られないように位置取りしていった。

 

だが、ルーク修道士が足を止めて囁いてきた。

 

「妙だと思わないか、マルコ」

 

「どうしたんっすか?」

 

マルコも足を止める。修道士は眉をひそめた。

 

「静か過ぎる。鳥や虫さえも動かず身を潜めているみたいだ」

 

「それって........」

 

「魔物が...近くにいるかも知れんぞ」

 

その途端、汚らしい喚き声が上がると、左右の木立の奥から何者かの群れが溢れ出るように押し寄せてきた。

 

――――ギギッ....ギギッ....ギギッ....――――

 

ゴブリンどもだ。木陰から飛び出してきたそいつらは、粗末な剣や棍棒を振りかざしていた。ギラギラした黄色い眼がたちまち周囲を包囲する。総勢五十匹はいた。

 

「待ち伏せしてやがった!......俺が先陣切ります!」

 

マルコは叫ぶと、剣を構えて突進していった。

 

「ぬ゛ぉ゛り゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!」

 

青年は敵の群れに飛び込むと勢いよく大剣を振り回した。

 

ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!

 

馬鹿でかい刀身が当たり、三匹ほどのゴブリンが致命傷を負って倒れた。

 

「はッ...こりゃいいや!」

 

新調した剣の予想以上の威力に、マルコ青年は歓声を上げた。だがその横をすり抜けていったゴブリンの群れが後続の仲間たちに襲い掛かる。

 

「ヒャッハーッ!」

 

数匹のゴブリンが曲がりくねった剣を振りかざす。

 

だが、巨漢ヨハネがズンと足音を立てて前に出た。

 

「...ヒャッハーとはなんだ」

 

巨漢の目がギラリと光る。その刹那、巨大斧の刃が空気を裂いて唸った。

 

――――ブウンッ........!――――

 

スパスパスパスパスパスパッ.....!

 

一度に六匹分の首が宙を舞い、斜面に落ちたかと思うとゆっくりと転がっていった。それを見たマルコは含み笑いした。

 

「へっ、ヨハネ。お前は相変わらずだな!」

 

「ヒイぃぃぃぃぃッ!」

 

相手の思わぬ手強さにゴブリンどもは狼狽した顔で進軍を止めた。

 

だがその時、ルーク修道士が声を上げた。

 

「二人とも悪くない。だが、もう少し位置取りと振り方を工夫してみてはどうかい?例えばこんなふうにだ」

 

そう言うと、修道士はわずかに前傾姿勢になって地面を蹴った。

 

――――ドヒュッ....!――――

 

土煙が上がり、空気が震える。修道士は既にその場所にいなかった。

 

目で追うと、彼はいつの間にか敵の群れの真っ只中に飛び込んでいる。

 

「ぬ゛ぅ゛ん゛ッ゛!」

 

唸り声とともに、メイスのヘッドが空気を裂いて唸りを上げる。

 

―――ドガガガガガガガガガッ!―――

 

風圧で斜面に生えていた草が吹き飛び、土埃が舞う。凄まじい衝突音とともに十匹ほどのゴブリンが吹き飛ばされて倒れた。皆、頭部を粉々に打ち砕かれていた。

 

「なッ...一振りで十匹って...バケモンかよ!」

 

もはやマルコは賞賛も忘れ、茫然として呟いた。背後にいたヨハネが言う。

 

「...バケモンとはなんだ」

 

「いや、それお前がしていい質問じゃねぇから!」

 

マルコ青年は近くの敵を斬り倒しながら叫んだ。

 

戦闘開始から数秒で半数近くの敵を失ったゴブリンどもは急速に勢いを失い、斜面の上の砦に向かって撤退を始めた。

 

「皆さま!一兵も残らず討ち取るのですわ!」

 

アビゲイルが剣を抜き放つと叫んだ。だがルーク修道士が戻ってくると宥めるように言う。

 

「焦ることはない、アビゲイル修道女。我々がこれから砦ごと攻略するから」

 

「でも、逃走する敵に追い打ちをかけるまたとないチャンスではなくって?」

 

頬を上気させながら修道女が言う。マルコ青年は呆れ顔で呟いた。

 

「あんた、本当に聖女なのかよ.........」

 

だがその瞬間だった。傾斜の上の砦から何者かの声が聞こえてきた。

 

* * * * * * * * * * * * * 

 

「わっはっはっはっはっはっはっ....ご苦労だったな、冒険者の諸君」

 

割れ鐘のような汚い笑い声が斜面に響く。目を凝らすと、でっぷりと太った巨大なゴブリンが腰に手を当てて砦の上に立っていた。

 

「あれは...通称グロブリン卿。二百歳生きるゴブリンの大王だ」

 

ルーク修道士が真顔になって呟く。大ゴブリンは続けた。

 

「冒険者どもはいつも我々のスイートホームに攻めてきては乱暴狼藉を繰り返すのが常じゃ。ひとつ、今日はその報いを受けてもらおう」

 

「寝ぼけたことをおっしゃらないで?あなたがたゴブリンがいつも農民から略奪していることはお忘れかしら?」

 

興奮も冷めやらぬ顔でアビゲイル修道女が叫び返した。

 

「ふん、強欲な人間どもから少し分け前をもらったところで何が悪い!それはそうと、貴殿らにはとっておきの『死』を用意してやった。これを見よ!」

 

ゴブリンの王が叫ぶと、砦の影から一斉にゴブリンどもの隊列が姿を現した。皆弓矢を携えた弓兵だ。

 

「人間どもめ、哀願しながら果てるがいい。我らの恨み思い知れ!」

 

号令とともに弓兵どもが一斉に弓に矢をつがえ弦を引き絞った。その数は百近い。

 

「お兄ちゃん!うちの後ろに!」

 

その途端にハンナが叫び、マルコ青年の前に立った。

 

――――ドヒュヒュヒュヒュヒュヒュッ!――――

 

矢が一斉に放たれた。空を黒く染める雲のような数の矢。それが放物線を描いて迫ってくる。

 

「ハンナ!無茶すんな!」

 

「大丈夫!任せて!」

 

マルコは反射的に剣を頭の上にかざして防御した。

 

――――カカカカカカカカッ.......!――――

 

だが、矢は目の前まで来ると硬いものに弾かれたかのように脇に逸れた。矢の連射が終わると、マルコは顔を上げた。

 

少女ハンナは無事だった。魔装具の腕輪を頭上に高く掲げている。

 

「間に合った.......高いお金払っただけはあったね!」

 

彼女は振り向くとⅤサインした。だが、マルコは横にいた巨漢ヨハネに目をやると絶句した。頭部こそ斧の刃で防御され無傷だったが、その他は身体中に矢を喰らっている。

 

さらに視線を移すと、ルーク修道士もまたアビゲイル修道女を庇うように立ち、矢を多数受けていた。

 

「ヨハネ!ルークさん!」

 

マルコは叫んだ。

 

「ふぁっはっはっはっはっ....見ろ!まるでハリネズミではないか!」

 

ゴブリンの王が哄笑し、手下どももケタケタ笑った。

 

だがその時だった。

 

「ぬ゛ぅ゛ん゛ッ゛!」

 

ルーク修道士が気合いの声を発する。身体中に刺さっていたはずの矢がそれを合図にしたかのようにポロリと抜け落ちた。

 

「えッ........なにそれ!」

 

ゴブリン王が目を丸くする。

 

すると、今度はヨハネが掲げていた斧を下し、目をギラリと光らせた。

 

「.....ハリネズミとは、なんだ」

 

「えッ.....なんで?なんで効かないの?」

 

大ゴブリンは素っ頓狂な声を上げた。だが彼はすぐに気を取り直し叫んだ。

 

「ええぃっ..なら倒れるまで射てやるわい!」

 

その瞬間、ヨハネは腰に提げていた小斧を抜き放つと思い切り投げた。

 

その武器は回転しながら凄まじいスピードで飛行し、真っ直ぐ大ゴブリンに向かっていく。

 

「え.....?あ.....ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいこっち来るこっち来るこっち来る」

 

ゴブリン王は催眠術にかかったかのように茫然として呟く。傍らにいたゴブリン兵が叫んだ。

 

「ギギッ!ギギッ!(王さま!逃げて!)」

 

だが遅かった。

 

スコーンッ!

 

小斧の刃がゴブリン王の額にモロに喰い込む。哀れ大ゴブリンはゆっくりと寄り目になり、次に白目を剥いて、最後にバッタリと仰向けに倒れた。

 

首領を失ったゴブリンは総崩れになった。ヨハネはまるで昼食後に鼻毛を抜く中年男性のような無造作な手つきで自分に刺さった矢を引き抜くと、ドシンドシンと足音を響かせながら逃げるゴブリンを追いかけていった。

 

「な...なんなんだよこのパーティ.............」

 

巨漢が斧を振るって一方的に魔物を狩るのを眺めながらマルコ青年は呟いた。

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