筋肉三銃士が行く~筋肉は全て(の問題の7割くらい?)を解決する~   作:nocomimi

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スーパーシゴデキ聖女、騎士団長の心を完全に『粉砕』する

「お...お前は騎士団長!」

 

「お....お前は『剣折りのマルコ』!」

 

互いに顔と顔を合わせた二人の男たちは、次の瞬間目を丸くして叫んだ。

 

だが、先ほどまで女給マリアを口説いていた気障男は、その指先で前髪を横に流しながら侮蔑するような目でマルコ青年を睨んだ。

 

「フンッ!誰かと思ったら君か。馬鹿力だけが取り柄の剣士もどき....いや、失礼。一応『冒険者』『賞金稼ぎ』という肩書をお持ちかな?....その日暮らしのね」

 

それを聞いたマルコ青年はムッとして答えた。

 

「俺が何だろうが関係ねぇだろ」

 

彼は勘定をレジに置くと、相手に向き直った。

 

「確かアルブレヒトとか言ったな。....お前こそストーカーもどきみてぇなことして恥ずかしくねぇのか?」

 

「おぉやおぉや。僕(ボク)の美貌とファッションセンスと家柄と財力と地位と権力に嫉妬してその恋路を邪魔しようってのかい?まったく貧乏人のひがみはこれだから見苦しいよ。どうせ君の実家は一生うだつの上がらない一文無しの小作農なんだろ?」

 

騎士団長は再び前髪を横に流しながら言う。その瞬間マルコ青年の頭の中で何かがブチ切れた。

 

「てめぇ....やんのかこら?」

 

低い声で呟くようにマルコが言った瞬間、誰からが後ろから肩をつかんだ。

 

「マルコ、落ち着け。君が相手をするような男ではない」

 

ルーク修道士だった。それを聞いたアルブレヒトは目を剥いて叫んだ。

 

「誰かと思ったらアレクセイエフスキー、君までいたのか!はッ...この躾けの悪い野犬みたいな奴は君の仲間なんだろ?教育が行き届いていないじゃないか、しっかりしたまえ!」

 

それを聞いたマルコはますますいきり立つ。だがルークは万力のような力で彼を引き留めた。

 

「よせ。マルコ」

 

それを聞いた青年は荒々しく何度も深呼吸し、唾を飲み込み、目を閉じ、そして目を開いた。そしてやっと言った。

 

「了解っす、ルークさん」

 

だが騎士団長アルブレヒトはマルコの目の前に顔を近づけるとからかうように続ける。

 

「ふんっ...威勢のいいことを言っていた割には意気地がないな、ええ?Aクラス剣士?ASS HOLE(尻の穴)クラスの間違いじゃないのか?」

 

再び怒りに駆られたマルコが相手の襟首を掴み上げようとした。だがルークが再び素早く手を伸ばし、後ろから羽交い絞めにした。アルブレヒトはますます調子に乗った。

 

「ほぉら、教育のない奴はこれだからダメなんだよ。言い負かされたら暴れるしかないのか?そうか、お前の実家では普段は畑を耕す牛だけが友達だからな。そうだろ?人間の言葉喋るのは週に一回くらいか?いや、もっと少ないか?」

 

「耐えろ!マルコ。お前の敵は人間じゃないんだ。それを忘れるな」

 

ルーク修道士がマルコを押さえつけながら宥め続ける。

 

だがその瞬間だった。

 

「オホホホホホ....お久しぶりですわね、アルブレヒトさん」

 

上品な笑い声とともにマルコたちの後ろから近づいてくる者があった。

 

アビゲイル修道女だ。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * *

 

「二十年ぶりくらいかしら、アルブレヒトさん。わたくしのこと思い出していただけて?」

 

修道女は悠々とした歩調で近づいてきながら言った。だが騎士団長アルブレヒトは怪訝な顔をして呟いた。

 

「....誰だ君は?僕は修道女の知り合いなんかいないぞ」

 

そして彼は気障な手つきで前髪を横に流しながらこう言った。

 

「まっ...僕は社交界の貴公子でもあるし、僕が知らなくても相手は僕を知っているなんてこと山ほどあるからな。修道女さん、もしも僕とお近づきになりたいんだったらそれはそれで構わない。だけど、独身の誓いを立てた君が僕の魅力でメロメロになってしまっても責任は取れな....」

 

「お忘れ?アビゲイルですわ。アビゲイル・マリアンナ・ディートリッヒ・フォン・シュライバッハですわ」

 

修道女が微笑みながら腕を組んで名乗る。するとアルブレヒトは驚いた様子で口をポカンと開けた。

 

「...アビゲイル・シュライバッハ?」

 

「そ。そのアビゲイルですわ」

 

その刹那騎士団長の頭脳の中で何かが弾けたようだった。彼の顔面が蒼白になり、額には大粒の汗が流れ始めた。

 

「...アビゲイル?...アビゲイル...アビゲイル...アビゲイル...アビゲイル...だとぉッ!」

 

騎士団長の膝がガクガクと震え始める。

 

「あ...あの意地悪女....僕は忘れないぞ...僕の顔の前にカタツムリを突き付けた...」

 

「あぁら。やっと思い出して頂けたのね。嬉しいですわ。幼馴染として旧交を温めに参りましたのに、わたくしのことをお忘れになったままでは寂しすぎますもの」

 

「旧交だと?僕は君に用なんかないぞ!だいたい....だいたい....」

 

騎士団長は人差し指を上げると絶叫した。

 

「だいたいお前みたいな意地悪で屁理屈と毒ばかり吐いている女が神に仕える修道女なんて笑わせる!悪い冗談だ!」

 

「あぁら。あなたみたいなヘタレの臆病者が騎士団長なんて、それこそコメディ以外の何物でもないとわたくし思いますけども」

 

修道女は口を手に当てて余裕の表情でやり返す。するとアルブレヒトは食って掛かった。

 

「何を根拠にそんなことを!僕は団長として統率力を発揮し実績も残している!皆からも尊敬されているんだ!」

 

「あの...すいません。お客さんたち」

 

横で見ていた女給マリアがおずおずと口を出した。

 

「他のお客さんの迷惑になるし、外で...やってくんない?」

 

「...もっともなことですわね。マリアさん」

 

アビゲイルはにっこりと微笑むと言葉を継いだ。

 

「でも、マリアさん。わたくしから一言だけアドバイスさせていただいてよろしくて?」

 

「アドバイス?何のよ?」

 

相手が当惑した顔で尋ねると修道女は言った。

 

「このアビゲイル断言しますわ。この男だけはおやめなさい、マリアさん」

 

それを聞いたアルブレヒトは再び叫んだ。

 

「アビゲイル、いい加減にしろ。また僕に意地悪するのか!」

 

彼は自分の胸を指さしながら言う。

 

「僕は真剣に恋をしているんだ、邪魔は許さないぞ!」

 

「真剣に...恋をなさってるの、アルブレヒトさん?」

 

「そうだ!僕は本気なんだ!それの何が悪い?」

 

それを聞いたアビゲイルは含み笑いした。

 

「ということは、アルブレヒトさん。このマリアさんと将来を含めての真剣な交際をお考えなのね?」

 

「その通りだ。僕は彼女を幸せにしたいんだ!」

 

「じゃ、結婚も視野に入れて?」

 

「あ...いや...それは...」

 

アビゲイルの質問に騎士団長は突然口ごもった。修道女は素早く突っ込む。

 

「あら、さっきの勢いはどこへ行ったのかしら?何か問題でもあるのかしら?」

 

「さすがだなアビゲイル修道女」

 

マルコから手を離しながらルークが言った。

 

「男の情熱というのは熱しやすく冷めやすい。それを真の愛と信じた女性が振り回され、傷つけられる例は昔から枚挙にいとまがない」

 

「まさにその通りですわルーク修道士」

 

ルークを顧みて微笑んだ修道女は再びアルブレヒトに向き直った。

 

「もう一度お聞きしますわアルブレヒトさん。あなたはマリアさんをどうやって幸せにするおつもりなの?」

 

「そ...それは」

 

騎士団長は唾を飲み込むと言葉を押し出した。

 

「僕はきちんと責任を取る。彼女の衣食住全ての面倒を見る。それに....僕にはそれができる。その財力があるんだ。だったら何の文句もないだろう?」

 

「では...一生涯彼女ひとりにあなたの身を捧げるのですね?アルブレヒトさん」

 

「え...あ...それは...」

 

またも騎士団長は言葉に詰まった。

 

すると修道女はクワっと目を見開き、ドスの効いた声で一喝した。

 

「お聞きなさい、アルブレヒト・ヴォルフガング・フォン・ハインリッヒ」

 

いきなりの声音の変化に、その場にいた誰もが驚いて固まった。

 

「聖典にはこうありますわ。『夫たちよ。救い主が教会を愛し、教会のためにご自身をささげられたように、あなたがたも、自分の妻を愛しなさい』....また別の個所にはこうありますわ。『それゆえ、人は父と母を離れ、その妻と結ばれ、ふたりは一体となる』....つまり、結婚は造物主である神が定めた聖なる契約であり、夫はあたかも救い主がその教会に対してするように妻という一人の女性を愛さねばならない。そういう意味ですわ」

 

さっきまで迷惑そうな顔をしていたマリアまでが驚いて耳を傾けている。アビゲイルは続けた。

 

「聖典は男が女に情熱を抱くことをそのものを一概に否定はしませんわ。ですが、その場合には彼は神の前で厳粛な誓いを行い、そしてその妻ひとりを生涯愛すること。これが条件ですわ。そして、聖典の別の個所には『情欲を抱いて他人の妻を見る者は姦淫の罪を犯したのである』ともありますわ。つまりその誓いの外で女との関係を持つことは明確な『罪』ですわ」

 

店の客全員、そして厨房にいた料理人たちまでもが、何事かという目でこちらを見ている。アビゲイルは目を細めるとこう問いかけた。

 

「アルブレヒトさん、あなたは聖職者ではないにせよ、これらのことをご存じですわね?なにしろ教育がおありな方ですもの」

 

「あ...あぁ。知ってる....よ」

 

騎士団長は自信なさげに答えた。

 

「なら、あなたはどうしてさっきからわたくしの問いに対して口ごもっていらっしゃるのかしら?」

 

そう言って修道女はニヤリと微笑むと相手が答える前にまた口を開いた。

 

「―――それはあなたが、御三家貴族の嫡男が平民の娘を妻とすることがいかに困難か...いえ、不可能に近いということを知っているからではなくて?」

 

「い....いや..それは.....」

 

アルブレヒトは唾を飲み込みこう言った。

 

「そ..そりゃパパとママは最初はいい顔しないかも知れないけど、でも.....きっと最後は認めてくれる....と思う。....きっと...うまくいくと...思う.....んだ...」

 

だが彼の声はどんどん小さくなり、最後は聞き取れないほどになってしまった。そこにアビゲイルが被せるように畳みかけた。

 

「う・そ・を・お・っ・し・ゃ・いアルブレヒト・ヴォルフガング・フォン・ハインリッヒ」

 

修道女は仁王立ちになると相手に顔を近づけた。

 

「あなたはご存じのはずですわよ。貴族にとって結婚とは一族の勢力を維持し拡大することのみを目的とした事業。本人たちの意思とは全く別の原理で結婚相手が選ばれますの。それゆえ、御三家貴族の男たちは正妻とは別に多数の愛人を持つのがならいですわ。なにしろ現ハインリッヒ家当主、つまりあなたの父は正妻と七人の愛人を持ち十八人の庶子がおりますわ。わたくし、全て知っておりますのよ」

 

それを聞いたアルブレヒトは顔面蒼白になった。マリアは驚きと嫌悪感に顔をしかめながら呟く。

 

「それマジ?最っ低ぇじゃない?」

 

だが、騎士団長は頬を引きつらせながらも反論した。

 

「パパは....パパはそうかもしれないが、僕の生き方は違う!僕は同じことをするとは限らない....だろ?」

 

前半は勢い込んでも、後半は語気が弱い。アビゲイル修道女はそこで声音を穏やかに戻した。

 

「そう...かも知れませんわね。でも、あなたには自由に生きたくてもそうできない理由があるのではなくて?」

 

「な....なんだよ。その理由って」

 

相手が当惑すると、修道女はまた人差し指を上げた。

 

「アルブレヒトさん、あなた就職するとき『親カード』使いましたわよね?」

 

「えッ..アッ...それは....」

 

騎士団長は驚いて目を丸くしたがすぐ否定した。

 

「そ...そんなことはない!僕が騎士団に入ったのも、団長になったのも、すべて実力だ!」

 

すると修道女は背後に立つルーク修道士を指さした。

 

「あらそう?でもあなたの人事評価を知ってるお方がここにいてよ?どうかしら、ルーク修道士?」

 

「少なくとも入隊直後の話に限られるが...」

 

ルーク修道士は咳払いした。

 

「私はよく覚えている。どうしてここまでレベルの低い人材が入隊できたのだろうか、と思ったことを。当時の団長に尋ねても、『上からの指示』としか答えてくれなかった」

 

「ひいッ....」

 

アルブレヒトは引き攣った声を上げた。修道女は満足そうに彼に向き直った。

 

「どうかしら?あなたが本当にビリッケツ以下からトップに這い上がったっていう美談を捏造されるのは自由ですけど......それでも『親カード』の件、否定できませんわね?」

 

「だ...だからどうだと..いうんだよ。ちょっとパパに相談した...だけだ...ろ?」

 

もはや騎士団長の声は蚊の鳴くようなものだった。修道女は鼻を鳴らして結論した。

 

「『親カード』を使った以上、あなたには自由に生きるという選択肢はありませんわね。だってその親の意思を裏切ることは自分の立つ土台全てを否定するようなものですもの。親に逆らうことは全てを失うことですわ」

 

「い..いや、僕は親と彼女どちらを選ぶと聞かれたら...きっと彼女を...」

 

最後の抵抗のようにアルブレヒトは小声で呟いた。アビゲイルは今度は憐れみの籠った目つきで相手を見つめた。

 

「では、駆け落ちでもなさるの?その場合あなたは全ての地位を失い一文無し。衣食住の面倒どころではなくなるのではなくって?」

 

「..............」

 

騎士団長は完全に無言だった。数秒後、アビゲイルは咳払いした。

 

「従って.......」

 

まるで判決を下す裁判官のような口調で修道女は冷厳に告げた。

 

「あなたは口先では『幸せにする』と言いながら、その実将来を見据えたマリアさんとの交際など欠片も真剣に考えておらず、その場しのぎの口説き文句を並べ立てていただけですわ。もっと言えば..........」

 

次にアビゲイル修道女は目をクワっと見開いて、夜叉のような表情で相手を睨みつけた。

 

「あなたの『衣食住面倒を見る』は分かりやすく言えば『衣食住だけは面倒を見る』ですわね。だから二号、三号、あるいは四号かそれ以下の地位に甘んじていてくれ、と。ご反論があって?」

 

「ほんっと胸糞悪い。貴族の男って最っ低!」

 

たまりかねたようにマリアが叫ぶ。だが修道女は穏やかな声でこう付け加えた。

 

「誤解しないでくださいね、マリアさん。貴族全てがそうなわけではありませんわ。ただ、わたくしハインリッヒ家とはいろいろな面で付き合いがありますの。だから幼少期からそれこそ見なくていいものまでいろいろ見せつけられて....ま、あとはご想像にお任せしますわ」

 

それを聞いたアルブレヒトは茫然自失の表情になった。修道女はスッキリした顔でマルコを顧みる。

 

「さ、ご迷惑をおかけしちゃったですわね。マルコさん、お勘定はお済みになって?」

 

「え?あ....っす。終わったっす」

 

「じゃ、参りましょ?」

 

その瞬間だった。

 

アルブレヒトは奇妙な唸り声を上げた。全員が驚いて彼を見た。

 

騎士団長の目からは涙が流れ落ちている。そして彼は嗚咽していた。

 

「この意地悪女ぁ.....いっつも僕をいじめやがって!何が神だ!何が聖典だ!畜生!」

 

アルブレヒトは叫ぶようにそう吐き捨てると、手に持っていた花束を床に投げ捨てた。彼は踵を返して扉を開け、叩きつけるように出て行った。

 

その後ろに残された一同は顔を見合わせた。

 

だが、しばらくの沈黙のあと、少女ハンナがおずおずと呟いた。

 

「なんか...アビゲイルお姉ちゃんって....ある意味ルークおじさんより怖いかも」

 

「あら失敬ですわねハンナちゃん」

 

やや気を悪くした様子で修道女が腕を組む。

 

「わたくし、ルーク修道士みたいに乱暴に武器を振り回して物を粉砕したりはいたしませんわよ?」

 

「い.....いや、そうかも知れないが」

 

遠慮がちにルークが口を開く。

 

「アビゲイル修道女、きみはある意味完全に粉砕してしまったぞ。アルブレヒトのプライドや体面をな」

 

「あらそうかしら」

 

すました顔でアビゲイルはとぼけた。

 

「......ねえ、修道女さん」

 

するとマリアが言った。

 

「すごく勉強になったし、ありがたいんだけど....」

 

彼女は申し訳なさそうに付け加えた。

 

「そこどいてくんない?他のお客さんが通れないから」

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