筋肉三銃士が行く~筋肉は全て(の問題の7割くらい?)を解決する~ 作:nocomimi
「あの....ルークさん」
岩壁を登り終わったマルコ青年は装備を背負い直すと、先に登攀を終えていたルーク修道士に尋ねた。
「なんだ、マルコ?」
「あの....さっきヨハネが倒した蜘蛛って....Aクラスを目指す冒険者が挑むやつっすよね?」
「いや、正確に言えば、あいつを倒せるパーティは上級ダンジョンに挑む資格があるということだ」
ルーク修道士は額の上に掌をかざし、前方を見やりながら言った。天気は快晴だ。だがそれにもかかわらず、今立っている岩棚の周辺には不穏な空気が流れていた。鳥の鳴き声一つ聞こえてこない。
「じゃあ、普通はソロじゃなくってパーティで...ってことっすよね」
「そうだ」
マルコが尋ねるとルークは答えた。すると少女ハンナが恐々とした調子で尋ねる。
「ねえルークおじさん...じゃあさ....」
彼女は後ろを振り向くと、ヨハネのほうを見やった。巨漢は、聞いているのかいないのか、自分の髭についた朝食のパンの欠片を摘まんでは口に放り込んでいる。
「寝起きであいつの牙と脚を引っこ抜いてそのまま寝るヨハネおじさんって...」
「規格外だ。いや、究極生物とでも言ったほうがいいかも知れんな」
ルークが言うと、ヨハネは自分が話題になっていることを今さらながら気づいたように顔を上げた。
「究極とはなんだ」
「誉め言葉だよ。お前、威張っていいんだぜ?素手で大型タランチュラを倒したってな」
マルコが巨漢の肩を叩きながら微笑む。すると巨漢は不思議そうに尋ねる。
「威張るとはなんだ」
「そりゃ...なんつうか...『俺つええ』って胸を張る...っていうか?」
「つええとはなんだ」
「そりゃ....なんつうか」
苦闘するマルコの背後で、アビゲイル修道女が神妙な顔をしながらこう漏らした。
「なんにしてもヨハネさんが無事で良かったですわ。何かあったらわたくしの落ち度ですもの」
「でもさ、アビゲイルお姉ちゃん...なんかヨハネおじさんってあのままでも助かった説....ない?」
ハンナがいまだ去らぬ畏怖の表情を浮かべながら修道女に言う。
「頂上までもうすぐだ。あと岩棚をひとつ越えるだけだ」
だがルーク修道士が呟くと、マルコは巨漢に対する根源的な概念説明を止めて真顔に戻った。
「じゃあ大ボスに遭遇する可能性....大ってことっすよね」
「ああ。警戒が必要だ。目撃情報によれば奴は足音を立てないのだそうだ」
「でも身体はバカでかいんっしょ?」
「そうだ。そこが難物だ。背後からいきなり襲ってくるらしい」
「了解っす....」
マルコは数瞬考えると、口を開いた。
「フォーメーション決めるっす。俺が一番手、次ヨハネ。真ん中に女性陣で最後尾がルークさん。んでアビゲイルさんとハンナは左右を警戒。どうっすか?」
「合理的だ。戦闘力はなくとも視力と聴力は同じだからな」
ルークが頷く。
「いちいち戦闘力のことを言われるのは癪ですけれど...せいぜい目と耳を使って貢献いたしますわ」
アビゲイルは珍しく修道士に突っかからなかった。
一行はマルコを先頭として前進を再開した。
最後の岩棚の足元に辿り着くと、マルコが修道士のやり方に倣って登攀した。
「俺が登り切るまでみんなそこにいてください。万が一登攀中に奴が来たら俺飛び降りて合流しますから」
登攀しながら言うと、ルークが答えた。
「了解だ。誰かを孤立させないのが優先だな」
マルコが登攀を終えると、ヨハネが続いた。その後、三人の男たちが岩棚の上と下とで最大限警戒する中を、ハンナとアビゲイルが登攀する。最後にルーク修道士が登ってきた。
「...っと。ここまでは順調っす...ね」
周囲を見回しながらマルコが呟き、肩から大剣を下ろした。
岩山の頂上は差し渡し百メートルほどの平地となっている。草木の一本も生えていない不毛な場所だ。出発した時には快晴だったのに、いつの間にか雲が周囲を取り巻き始めている。
「奴はこの辺りを根城にしているのは確からしい。まるでこの山の所有権を主張するように、な」
ルーク修道士もメイスを肩から下ろしながら言う。するとマルコが尋ねた。
「でも、人里は襲いに行かないんっしょ?それが変っすよね」
「私もそう思う。だがこの行動パターンは長年変わらないのだそうだ。人間が岩山に足を踏み入れた場合にのみ襲ってくるらしい」
「山のヌシっ....って感じっすね」
マルコは真剣な顔になると、こう言葉を継いだ。
「奴が戻ってくるのを待ちましょう。俺ら五人で全方向を警戒って感じで」
「やはりそれが最善だろうな」
ルークも答えた。五人は岩場の真ん中に陣取るとそこに装備を置いた。
だが、しばらくすると少女ハンナがおずおずと口を開いた。
「あ.......あの...おトイレ....」
するとアビゲイルが言う。
「あらまあ、じゃあわたくしが付き添いますわ。端のほうに参りますから殿方たちはみんな向こうを向いていてくださいまし」
「む、これは迂闊だったな」
ルークは眉を曲げると、言葉を継いだ。
「だがアビゲイル修道女。女性陣だけになるのは危険だ。後ろを向いているから我々のうちの誰かが付き添おう」
「ルーク修道士、あなたわかってらっしゃらないわ。女性の尊厳というものを何と思ってらして?」
するとアビゲイルが顔をしかめながら腕を組んで言った。
「しかし.....」
「用足しの音を殿方に聞かれるなんてどれほどの恥辱と思われて?いくら安全配慮のためとはいえ到底受け入れられませんわ」
ルークが抗弁しようとするのを畳みかけるアビゲイル。だが少女ハンナはモジモジとしながら言う。
「もう我慢できない...」
「さあ、ハンナちゃん。わたくしが連れてってあげますから....」
アビゲイル修道女は背嚢から天幕の布を取り出すとハンナの手を引いて岩場の隅に連れていった。
「マルコ。彼女らには申し訳ないが、我々も行こう」
「えっ....でも....」
ルークが言い出すのを聞いてマルコは驚いた。
「魔物は最も弱い者から先に狙う。たとえ警戒していてもあの状態で奴が二人を狙って襲ってきたらひとたまりもないぞ」
「りょ...了解っす」
マルコは巨漢に声をかけるとルークに続いた。だが岩場の隅で天幕の布を広げてハンナの姿を覆っていたアビゲイルは振り向くと叫んだ。
「ルーク修道士、いったい何を考えてらっしゃるの?まだ終わってはいませんわよ!」
「しかし、アビゲイル修道女..やはり安全面を考えると....」
「もぉ...もう終わったからいちいちケンカしないでよぉ、ふたりとも大人なんだからさぁ」
ルークがオドオドとした口調で言うと、少女ハンナはズボンを上げて立ち上がり、修道女が広げた布の上端から顔を見せた。
だが、次の瞬間だった。
ルーク修道士の顔を睨みつけていたアビゲイルの顔が、途端に凍り付いた。
異変に気付いたルークも後ろを振り向き、マルコも何気なく振り返った。
そして驚愕に息を呑んだ。
反対側の岩場の端に、『そのもの』はいたのだ。
* * * * * * * * * * * * * * * *
想像もしなかったほどの巨大な顔。そいつは前脚を岩場に引っ掛けながら崖の端から顔を覗かせている。
いくつも横に並んだ目は砲丸よりも巨大だ。その口の左右に生えている牙も恐ろしく大きい。
「俺とヨハネが行く!ルークさんはふたりを守って!」
マルコは大剣を構えると叫んだ。するとそれを合図としたかのように、化け物が自分の身体をゆっくりと岩場の上に引き上げた。
それを見たマルコは驚きと衝撃で呼吸を忘れた。
胴体の大きさが二階建ての家ほどもある。その脚は全てが大木のように太い。しかも動くときにほとんど音を立てていない。
「クソッ...馬鹿デケぇにもほどがあるぜ....!」
マルコ青年は罵りながら大剣を握り直した。その手に汗が滲むのがわかった。
「行くぞ!」
マルコが突進し、大斧を構えたヨハネが後ろから続いた。
「ぬ゛ぅ゛り゛ゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!」
走りながら大剣を下段に構える。間合いを詰め、踏み込んでから超巨大蜘蛛の前脚に斬りつけた。
―――――ガキィンッ....―――――
鋭い衝突音。両手にも激しい衝撃が伝わる。だが目を上げたマルコ青年はギョッとして息を呑んだ。
―――――き...斬れて...ねぇ...?―――――
途端にもう片方の前脚が襲ってきた。咄嗟に大剣を掲げて防御する。まるで破城槌で殴られたような衝撃だった。マルコは吹き飛ばされて岩地に叩きつけられた。
だが、重い足音が響いたかと思うと、巨漢ヨハネが大斧を振り上げて化け物に斬りかかっていく。
「ぬ゛ぅ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ゛!」
大斧が空気を震わせ唸る。その刃が超巨大蜘蛛の前脚に命中した。またしても激しい衝突音が響く。だが徹らない。
「ま...マジかよ?」
それを見ていたマルコ青年は必死で身体を起こしながらも信じられない思いで呟いた。
「ぬ゛ぅ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ゛!」
だが巨漢ヨハネは再び大斧を振り上げ、今度は一歩踏み込んで敵の顔面に斬りつけた。
―――――ガッ....―――――
まるで馬車ほどもある超巨大蜘蛛の顔面に、僅かに刃が食い込んだ。だがそこまでだった。
化け物は両の前脚で巨漢ヨハネを弾き飛ばすように叩いた。巨漢はたまらず吹き飛ばされ、後方にいた仲間たちのほうに転がっていった。
「ヨハネ!」
マルコは叫んだ。巨漢はすぐに身じろぎして身体を起こした。だが彼はその手に持っていた大斧に目をやった瞬間固まった。
柄がポッキリと折れ、斧の頭がなくなっている。
「くそぉッ!」
マルコ青年は立ち上がると再び突進した。超巨大蜘蛛に接近すると、前脚が襲ってきた瞬間に前転し回避した。そのまま敵の顔面に縦斬りを浴びせる。
―――――ガッ....―――――
やはり、刃が食い込んだ感触がした。そう思った瞬間、敵は牙を大きく広げて噛みついてきた。不意を突かれたマルコは思わず大剣を突き出した。
刃が超巨大蜘蛛の口の中に深く突き刺さった。嫌な音とともに、黒い血が飛び散る。
―――――行ける....―――――
そう思ったその刹那、風が唸る音とともに別の前脚が上から襲ってきた。大剣は敵に刺さったままだ。動けない。やられる。
思わず目を閉じる。だが、次の瞬間に来ると思っていた致命的な打撃は来なかった。
目を上げると、そこに巨漢ヨハネがいた。
素手だ。両手を上げ、超巨大蜘蛛の前脚を下から持ち上げている。
「ぬ゛ぅ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ゛!」
巨漢は顔を真っ赤にしながら、上から潰そうとする超巨大蜘蛛の力を押し返していた。
マルコ青年は気を取り直すと、大剣を敵から引き抜いて振り上げ、顔面に斬りつけた。
「ぬ゛ぅ゛り゛ゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!」
―――――バキィ....ン.....ッ....!―――――
だが無情な音が響いた。大剣が真っ二つに折れ、その破片が岩場に落下してけたたましい音を立てる。
その刹那、超巨大蜘蛛がもう片方の前脚でヨハネを弾いた。巨漢はまたも吹き飛ばされ、十メートルほど背後の地面に落下して転がった。
「ヨハネ!」
大剣を失ったマルコに、超巨大蜘蛛の前脚が襲い掛かる。必死で横跳びして避けると、青年は全速力で走り仲間たちのところに戻った。
「大丈夫か!ヨハネ!」
「....痛い」
巨漢を助け起こすと、ヨハネは口から血を吐きながら呟き、胸のあたりを押さえながら続けた。
「....折れた」
「マルコさん!わたくしの剣を....!」
アビゲイルが自分の剣を抜くと、それを地面に置いて滑らせるようにこちらに押しやった。マルコ青年が剣を取って立ち上がると、ヨハネもまたヨロヨロと身を起こし、腰につけた小斧を片手に持った。
――――て...撤退...か?――――
マルコ青年は忙しく頭脳を働かせた。だが岩場にロープを固定して降下している間に、残りは喰われてしまう。なら誰を先に助ける?
青年の胸を、形容しがたいような酷い痛みが抉った。
ハンナだけは絶対に死なせたくない。だが、だからといって他の仲間たちも犠牲にしたくはない。
超巨大蜘蛛はこちらを追い詰めたことをよく理解しているのか、ごくゆっくりとした歩調でこちらに近づいてくる。
それに呼応するように五人はじりじろと後ろに下がっていく。だが、マルコ青年が最後の突撃を仕掛けようと剣を握り直したとき、それは起こった。
ルーク修道士が前に出てきたのだ。
* * * * * * * * * * * * * *
「マルコ、ヨハネ。女性たちを守っていてくれたまえ。私が行く」
「えっ....でも....」
ルーク修道士は肩越しに振り向きながら言う。マルコは絶句した。そして慌てて言葉を継いだ。
「俺とヨハネでもダメだったん...っすよ?」
「私に任せたまえ」
修道士は短く言うと敵に向き直った。
彼は手に持ったメイスを下段に構えた。修道士服の裾が風になびいて音を立てる。
―――――いくらなんでも....無茶だろ.....?―――――
マルコがそう思った瞬間だった。
ルークは地面を蹴り、走り始めた。超巨大蜘蛛までの距離は二十メートルほどだ。
足音の間隔が狭まってゆく。修道士は前傾姿勢で敵に殺到した。
だが超巨大蜘蛛の前脚が横から襲った。
その瞬間、修道士は跳躍した。そして敵の前脚を踏み台にしてさらに高く跳んだ。
化け物の頭部の上に到達すると、彼は空中前転しながらメイスを振り下ろした。
「ぬ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ン゛ッ゛!」
―――――ド..ゴォッ....!―――――
まるで巨岩が衝突したかのような音が響く。衝撃波のような空気の圧が、後方で見ていたマルコたちをも襲い、皆が思わず手を前にやって顔を庇った。
目を上げたマルコは驚愕した。
超巨大蜘蛛の頭部に亀裂が生じ、その間から体液が飛び散っている。化け物は痛みを感じた様子で後じさりを始めた。
着地したルーク修道士は、メイスを振り上げると立て続けに相手に叩きつけた。
「ぬ゛ぅ゛ン゛ッ゛!ぬ゛ぅ゛ン゛ッ゛!ぬ゛ぅ゛ン゛ッ゛!ぬ゛ぅ゛ン゛ッ゛!」
そのたびごとに響く凄まじいい衝撃音。化け物の顔面がみるみるうちに傷だらけになっていく。メイスのヘッドについた棘が突き刺さったのか、超巨大蜘蛛の目や顔に細かい穴が開き始めていた。
―――――キ゛シャ゛ア゛ッ゛....!―――――
初めて超巨大蜘蛛が鳴き声を上げた。修道士を一撃しようと前脚を振り上げる。
「ぬ゛ぅ゛ン゛ッ゛!」
だが修道士はメイスを跳ね上げた。鋭い衝突音とともに、化け物の前脚が跳ねのけられる。
ルークはラッシュを再開した。立て続けに顔面に打撃を受けた超巨大蜘蛛は少しづつ後退し、岩場の端に追い詰められていった。
「た....タコ殴りじゃねぇか.......」
マルコ青年は自分の剣を構えるのも忘れて呟いた。
勝てないことを悟ったのか、超巨大蜘蛛は抗うのを止めて身体の向きを変えようと脚を動かし始めた。だがその刹那、ルーク修道士はメイスを突き出した。
―――――ズボォッ...!―――――
棘だらけのメイスのヘッドが化け物の口の中に無理やり捻じ込まれた。
―――――キ゛シャ゛...キ゛シャ゛...キ゛シャ゛...―――――
超巨大蜘蛛は嫌々をするように頭を左右に振った。だが修道士はまるで蛭のようにしつこく相手に取りつき、ますますその武器を深く捻じ込む。
そして次の瞬間、彼は奇妙な動作をした。
懐から円筒のような装置を取り出すと、メイスの柄の先端に捻じ入れて装着したのだ。修道士はその装置から出ていたピンを引き抜いた。
たちまち煙と火花がその装置から噴き出す。
「伏せろ!」
ルーク修道士はそう叫びながら武器から手を放し、地面に身を投げた。
マルコは反射的にハンナとアビゲイルを守るように覆いかぶさった。
空気を凝縮したような凄まじい爆発音。
激しい耳鳴りに襲われ、青年は思わず顔をしかめた。だが、十秒ほどが経過して爆発音のこだまが消え去ると、彼は恐る恐る顔を上げた。
そして、戦いの行く末を確かめようと前方に目をやったマルコは思わず口をポカンと開けた。
化け物の頭部に巨大な穴が空いている。そこから煙がもくもくと上がっていた。
超巨大蜘蛛は、やがてずり下がるように岩場の端から落ち、姿を消した。
―――――ドンッ.....ドンッ.....ドンッ.....ドンッ.....―――――
その途方もない巨体が岩壁に叩きつけられながら落下していく音が響く。だがやがてそれも聞こえなくなった。
* * * * * * * * * * *
「皆、生きてるか?」
ルーク修道士が立ち上がると近づいてきた。
顔中に汗をかき、肩を上下させている。その服は魔物の返り血でべっとりと汚れていた。
「メイスのヘッドに爆薬を仕込んでおいたんだ。古い火薬に火がつくか心配だったが、なんとかなったな」
相手に返す言葉もないまま、マルコ青年は頷いた。だが、やがて青年の胸の内から乾いた笑いが込み上げてきた。
「ハ...ハハッ....ハハッ....ハハハハハハハッ....」
目から涙が込み上げる。ひとしきり笑うとマルコ青年は手で涙をぬぐって上体を起こした。ルークは彼に歩み寄ると手を貸して立ち上がらせた。マルコはそこで口を開いた。
「......ルークさん。ひとつ言っていいっすか?」
「なんだ、マルコ?」
修道士が応じると、青年は言った。
「やっぱこの三人の中でいっちゃんイカレてるのって、ルークさんっすよね」
それを聞いた修道士は眉をひそめ、気を悪くした様子で反論した。
「それは失敬だな、マルコ。私はただ皆を守ろうと............」
だがそこにアビゲイル修道女が割って入った。
「ルーク修道士。あなたやっぱりわかってらっしゃらないわ。私が通訳して差し上げると、今のセリフ『一番尖ってて最高に恰好いい』って意味ですわよ」
「そ...そうなのかアビゲイル修道女?」
ルークが尋ねると、彼女は焦れったそうに身を捩らせながら相手の背を叩いた。
「もぉ!ルーク修道士!そもそもこんなことを教えて差し上げないといけないようでは、この最高のブロマンスの瞬間が台無しですわよ!」
「ブロ....マンス?それは一体...?」
戸惑う修道士に対し、アビゲイルは人差し指を上げて言い聞かせる。
「本来ならですわよ、こういう場合の正しい答えはこうですわ!わたくし実演して差し上げますのでよぉくご覧になっていてください」
そして修道女は眉をしかめて苦み走った中年男性のような顔を造ると、ボソっと呟いた。
「『ふっ....そうかも知れんな、マルコ』」
岩場の上を風が吹き抜ける。いつの間にか、周囲の空を覆っていた雲が消え去り青空が見えてきた。
「....なんかアビゲイルお姉ちゃんって演技も上手いんだね。今ほんとにルークおじさんに似てた」
ハンナが言うと、修道女は得意そうに腕を組む。
「そうかしら?まぁわたくしの脳内ではこういったブロマンスの情景が常時自動再生されてますから、これくらいの演出指導はわけないことですわね」
「ま...待て!アビゲイル修道女。君は修道者だろう?『主の教えを喜びとし、昼も夜もその教えを口ずさむ』のではなかったのか?」
驚いて修道士が叫ぶと、アビゲイルは片手を軽く振っていなす。
「そんなのは建前ですわよ。た・て・ま・え」
「くっ...断言するのか、アビゲイル修道女!」
驚愕の面持ちでルークが呻く。その時、ヨハネが脇腹を押さえながら小声で言った。
「...痛い」
すると我に返ったアビゲイルは慌てて彼に駆け寄った。
「ご...ごめんなさいませ、ヨハネさん!今治療して差し上げますわね!」
「もぉ、アビゲイルお姉ちゃんってばブロマンス語りしてる場合じゃないじゃん」
「失礼しましたわ。わたくしとしたことが.....」
大騒ぎする仲間たちに背を向け、マルコ青年は遠くに広がる山々を眺めながら自分に言い聞かせた。
「あと...ダンジョン四つ......か」