筋肉三銃士が行く~筋肉は全て(の問題の7割くらい?)を解決する~ 作:nocomimi
「ルークさん、あの超巨大蜘蛛の腹に切り創をつけたのっていったい誰っすかね?」
パンを齧りながらマルコが尋ねる。朝食というよりはもう既にブランチの時間帯で、五人が入ったカフェは空いていた。
修道士は慎重な語調で答える。
「これまでの経緯から考えれば騎士団...か...。だが確証は持てん」
「なんか...やりづらいっすね。誰かに付きまとわれながら仕事すんのって」
青年が呟く。すると、ルークは少し考えた後でこう言った。
「いっそのこと大公閣下に確認してはどうだろう。騎士団が王家の命であの奇妙な宝石を探しているのなら大公閣下もそれは認知されているはずだ。確認できれば今後似たような事態が起きても衝突を避けられる」
「でも...大公なんてそうそう会えるもんっすかねぇ?」
マルコが問うた。すると、スープを飲んでいたアビゲイルが顔を上げて無造作に言った。
「あら、会えますわよ?わたくし知り合いですもの」
「は....はぃぃぃぃぃ。サーセン、舐めてました。アビゲイルさんのコネ」
それを聞いた青年はテーブルに顔を伏せた。ルークも元気づいたように言う。
「よし、まずは動く前にそれだな。その後装備や武器の補給をしよう」
「斧...折れた」
三十本目のソーセージを齧りながら、巨漢ヨハネが呟く。その目は心なしか悲しげだった。マルコは彼の肩に手を掛けると励ました。
「大丈夫さ。あの鍛冶屋に行けばいい斧があるって。な?」
満腹になると、五人はカフェを出て表通りで辻馬車を捕まえ王城に向かった。
通りを首都中心地に向かって走ると、前方に尖塔の並び立つ巨大な城が見えてくる。
「すごぉい!お伽話のお城みたいだね!」
ハンナが後ろを向いて座席に膝を立て、車窓に顔を押し付けながら叫んだ。マルコは慌てて注意した。
「こら、座席が汚れるだろ。ちゃんと座れよ」
「大丈夫だよ。気を付けてるもん」
「じゃあせめて靴脱ぐとかしろ」
その会話を聞いていたアビゲイルが口に手を当てて笑い始める。
「オホホホ...本当に仲睦まじいですわね。本物の親子みたいですわ」
「まったくだ。マルコ、きみも養父が板についてきたな」
修道士が言うと青年は顔を赤らめる。
「もう、ルークさんまでからかわないでくださいよ」
「マルコお兄ちゃん、身体はゴツい癖して妙に細かいんだもん」
少女ハンナは頬を膨らませながらも車窓から離れ座席に座り直した。
王城の壮麗な門に近づくと一同は馬車を下りた。アビゲイルが門衛に何事か話すと、数分後一同はすぐに内部に通された。
* * * * * * * * * * * * * * * *
「魔物の腹から宝石じゃと?」
大公は怪訝な顔をして声を上げた。ルークが順序だてて説明する。
「はい。大
「儂はそんなものは知らん。アルブレヒトが勝手にやったことではないか?陛下からもそんな話は聞いておらんぞ」
大公は即答する。マルコは思わず仲間たちと顔を見合わせた。
「とにかく儂としてはお主らが残り四つのダンジョンを潰してくれさえすればよい。これからも頼んだぞ。では次の会議があるでの」
老人は慌ただしく席を立つと、執事に先導されながら応接室から出ていった。
あまりの呆気ない結論に、一同は皆ポカンと口を開けていたが、マルコ青年が最初に口を開いた。
「ど...どゆことっすかね、これ?」
「わからん...だが今後も同じ方針で動いても問題はなさそうだな。魔物を潰し、あの宝石も見つけたら潰す」
ルークが腕を組み顎に手を当てながら呟く。だがマルコが溜め息をついて言う。
「でも、もし次に騎士団が来たらどうします?アルブレヒトだけならともかく、百人の兵隊をハッタリで追い払うなんて....俺、そんなの一度っきりっしかできねっすよ」
するとルークは答えた。
「そういう時は依頼主である大公閣下の名前を出そう。国のナンバーツーなのだから間違いはない」
「本当にそれで済みますかしら?」
するとアビゲイルが用心深げに言う。ルークは当惑して尋ねた。
「どういう意味だ?アビゲイル修道女」
「大公閣下は王家にとっての広報担当みたいなものですわ。表向き国民に対して公表される事項は確かに大公さまの管轄ですけども....政治はそんな単純には動きませんもの」
修道女は人差し指を立てるとチッチッと舌を鳴らした。
「この国を動かしているのは王家のみではありませんわよ。貴族連中も交えた国の政治の動きの中には御前会議には一度も報告されないような事柄もたくさんありますわ」
するとハンナが怯えた顔で呟いた。
「....アビゲイルお姉ちゃん、説得力あり過ぎて怖い...」
「では...我々はまさにその権力闘争のただ中に放り込まれた、ということなのか?」
ルークが戸惑った顔で問うと、アビゲイルは事も無げに答える。
「そゆことですわね。今頃お気づきになって?わたくし最初に大公閣下が修道院にいらしたときからこういう面倒な事態になるって思ってましたわよ」
「アビゲイルさん、それにルークさん」
するとマルコ青年が口を開いた。
「なんにせよ、あの宝石は見つけたらぶっ壊すことにしませんか?魔物の身体から出たものが良いものなわけねぇって俺思うんっすよ」
「それは私も同感だな」
修道士が頷く。青年は手ぶりを交えて続けた。
「....で、ルークさん。潰したら、あいつらが追ってくる前に全速力で逃げるってのはどうっすか?なのでダンジョン攻略もできるだけサクっと済ませる。終わったら何もかもぶっ潰してすぐにズラかる」
「まるで現役時代の私のやり方みたいだな」
するとルーク修道士が苦笑いしながらも頷いた。
「了解した、マルコ。だが、潰すにしてもメイスを無くしてしまった。まずは武器調達に行かないか?」
「斧...欲しい」
ここで巨漢ヨハネが呟き、一同は立ち上がって応接室を出た。
* * * * * * * * * * * *
「ん?あのドラゴンスレイヤーが折れたじゃと?」
作業台の後ろにいたザカリア老人は顔を上げそう尋ねてきた。マルコ青年は赤面した。所狭しと製品が並べられた鍛冶屋の店内は空いていたが、作業台の奥に続く工房では数人の弟子たちが忙しく槌を振るって鉄を叩いている。
「サーセン。やっぱ折っちゃいました」
「ふん。そうじゃろうそうじゃろう。あんたは『剣折りのマルコ』じゃからな。無理もなかろう」
老人はそう笑った。それを聞いて青年はますます意気消沈した。いつもこのパターンでバカにされるのだ。
だが、ザカリア老人はやおら踵を返すと工房のほうに入っていった。しばらく待っても戻ってこない。怪訝に思って覗き込むと、若い弟子と二人がかりで何かをこちらに向かって運んできている。
「よっこいしょ...と。これじゃこれじゃ」
老人は掛け声をかけながらその巨大な物体を作業台に置いた。ハンナが不思議そうに呟く。
「なにこれ?風車の羽根?....でも鉄でできてる...」
「スーパードラゴンスレイヤー...じゃ」
ザカリア老人は手を打ち合わせると得意そうに顔を上げた。
「スーパー....ドラゴンスレイヤー?」
呆気にとられたマルコが尋ねると、老人は頷く。
「そうじゃ。お前さんがあの大剣を買っていったあと、なぜかインスピレーションが湧いてしもうての。それで思わず作ってしもうたのじゃ。今なら安くしとくぞ」
老人に促されるままに、青年はその太い柄を両手で握って持ち上げた。
前回買った大剣より、刃の幅が二倍ほども広い。刃の厚さも呆れるほど分厚つかった。
「これなら...折れねぇだろうな....」
マルコはその頑健そうな刀身を見て、一瞬で頼もしさと親近感を感じた。
「ほれ、剣の平を相手に向ければちょっとした矢襖くらいなら防げるぞ」
ザカリア老人が言う。試しに剣の平を前に向けて構えてみる。これで胴体をやや半身にすれば確かに盾代わりになりそうだ。
「でも...手の部分はどう守るんっすか?」
心に浮かんだ疑問をマルコが口にすると、老人は我が意を得たりといった顔をして頷く。
「いい事を聞いてくれた、若いの。そういうときはこいつを使うんじゃ」
老人は青年に一旦大剣を置かせると、店の一隅に連れていった。
「この店は防具屋に比べるとラインナップは少ないが、防具もいくつか扱っていての。このガントレットは全鋼鉄製。剣で叩いても壊れない冒険者折り紙つきじゃ」
展示されている籠手をザカリア老人が取り上げて渡してきたので、前腕に嵌めてみた。確かに鋼板が腕と手の甲、さらには指を覆う造りにになっている。
「一時間ほどもくれりゃあんたの腕に合わせられる。どうじゃ?これも買うか?」
老人が問う。するとルーク修道士が口を出した。
「買ったほうがいいと思うぞ、マルコ。これなら魔装具に頼らず防御できる。ハンナ嬢を危険に晒すことも減るだろう」
「わかりました。....か...買います」
やや躊躇いながらも青年は答えた。
「えぇ~っ!うちだって役に立ちたいのに!」
ハンナが不満顔になったが、マルコは笑顔を向けて宥めた。
「お前ならそれ以外にだっていくらでも役に立てるさ。....で、大将、値段はいくらっすか?」
「大剣が二百五十万ルピー。籠手が一つ百五十万ルピーで合計五百五十万ルピーじゃ」
「........................へ?」
「これでも大サービスじゃぞ。何しろこの大剣なんか鉄を確保するのにも一苦労じゃったからな」
マルコ青年は一瞬目が点になったが、老人は当然のように続ける。するとルークが頷いた。
「うむ、妥当な価格だ。特に鋼鉄板のみを曲げて造るガントレットは高度な技術が要る。マルコ、ここはケチらないほうがいい」
「で...でも...持ち金半分以上持ってかれるんっすけど..」
「思い出せマルコ。経費は王家持ちだ。後で精算できる。それにポイントマンを務めるきみは最も危険に晒される。防具に金をかけるのは当然だ」
修道士はそう言うと勝手に話を進めていった。ザカリア老人はホクホク顔で伝票を書くと、今度は後ろに立っていた巨漢ヨハネに声を掛けた。
「おい、そこの大きいの。あんたにもぴったりの商品があるんじゃ。ちいと見てみるか?」
そう言うと、老人が工房のほうに向き直って弟子たちに手招きする。すると今度は二人の若者たちがこれまた巨大な何かを抱えてやってきた。
ゴトリ.....と音を立てて作業台に置かれたのは、巨大な斧だった。驚くべきことに、その柄までもが鈍く光る金属だ。持ち手にはグルーブ加工が施されていて滑り止めになっている。
「全金属製削り出しじゃ。儂の息子ヨハネの会心作じゃよ」
老人が隣に立っていた若者の肩を叩く。若者ははにかんで頷いた。
「あんた、『カチ割りのヨハネ』じゃろ?噂になっとるぞ。じゃがあんたの体格ならきっと近いうち斧を折るじゃろうと予想しておっての。今日会ってみたら案の定じゃ。どうじゃ?買うか?同じ名前のよしみじゃし、安くしとくぞ」
皆の視線が自然と巨漢に向けられた。彼は何気なく両手を伸ばしその途方もなくゴッツい武器を持ち上げたが、次の瞬間驚くべきことが起こった。
なんと巨漢がニッコリと微笑んだのだ。
マルコは自分の目が信じられなかった。ハンナもまた驚いて目を丸くしている。
「この斧...いい」
巨漢ヨハネが呟くと、ザカリア老人はパンと両手を打つ。
「そうじゃろうそうじゃろう。これなら絶対に折れることはないからの。お前さんの怪力を心行くまで活かせるというもんじゃて...で...次は、と」
「頼んでおいた私のメイスの予備だ。できているか?」
ルークが尋ねると老人は忙しそうに奥に引っ込み、ヒイヒイ言いながら弟子と一緒に巨大なメイスを運んできた。
「火薬は入っとらんぞ。うちは大砲屋じゃないからの」
「いや、十分だ。助かったよ」
老人からメイスを受け取ると、ルークは礼を述べた。一同は金貨をジャラジャラと作業台に並べて精算し、老人が書いた領収書の束を受け取った。そして防具の調整が終わるとマルコがそれを受け取り、揃って店を出た。
「じゃあまたの。折れることはないと思うが、定期的な研ぎは必要じゃから持って来るんじゃぞ」
表通りまで見送りに出てきた老人が言う。大剣を担いで歩きながらも、マルコは自信なさげに呟いた。
「王家の予算....ってホントっすよね。伝票見せたら怒られたり...しないっすよね」
「大丈夫だ。大公閣下の言葉を信頼したまえ、マルコ」
ルークが力強く請け合う。
「でもやっぱルークさんって無欲っぽく見せかけて他人の金だとやたら気前良くないっすか?」
マルコが笑いながら際どい突っ込みをすると、修道士は涼しい顔で眉を上げた。
「金とはそもそも世を行き巡るものだよ、マルコ。それに君の冒険の第一の目的は生きて帰ることだろう?だとしたら装備は惜しまないことだ」
「そ...そっすね」
それを言われると、マルコは一気に現実に引き戻された。彼は思った。
―――――この任務を終えて、実家に金を持って帰る―――――
―――――お袋の病気を治し、兄貴の家計を助ける―――――
―――――ハンナには子供らしいまともな暮らしを―――――
「では早速銀行に行こう。報酬の受け取りと経費精算を....」
ルーク修道士がそう言った瞬間だった。
「止まれ!『剣折りのマルコ』!」
叫び声。表通りを行きかう通行人の中から悲鳴が上がる。
武装した男たちが人込みを掻き分け、駆け足で近づいてくる。
驚いたマルコは反射的に背後を振り返った。通りの反対側からも男たちが駆け寄ってきた。皆制服姿で、剣や槍で武装していた。
* * * * * * * * * * * * *
今や五人の周囲をびっしりと武装兵が包囲していた。押しのけられた通行人たちは何事かと好奇の目を向けてきながらも、危険を感じてか遠巻きに距離を置いている。
「『剣折りのマルコ!』武器を置いて投降しろ!」
男たちの間から士官らしき男が進み出て命じた。マルコは舌打ちをしながらも見回した。
「..クソッ.......騎士団か?」
「騎士団諸君。何か誤解があるようだ。我々は大公閣下の命を受けて活動しているのだ。非合法なことは一切していない」
ルークが前に出て大音声でそう言った。すると士官が答える。
「我々は騎士団ではない。王城直属近衛衛士隊だ」
士官はそう続けながら歩み寄ってきた。
「用があるのは『剣折りのマルコ』だけだ。貴殿らは行ってよい」
「そうは行かぬ。彼は我がパーティのリーダーだ。彼抜きで任務は遂行できぬ」
ルークは断固とした口調で抗弁した。すると今度はマルコが前に出た。
「ルークさん、俺が話しますよ」
青年は士官に視線を移すとこう尋ねた。
「どうせアルブレヒトに頼まれたんだろ?あいつが俺に文句があるのは知ってるよ」
彼は大剣を担ぎ直すとこう付け加えた。
「...タイマンしてぇってならいつでも相手になるぜ。そう伝えてくれ」
だが士官は機械的な口調で答えた。
「繰り返すが本件は騎士団とは無関係だ。お前に告訴状が出されている。すぐ来てもらおう」
「告訴状?」
「未成年略取誘拐の容疑だ」
「...み....りゃく...?なんだそりゃ」
訳も分からずマルコはその聞き慣れぬ言葉を繰り返す。
「さあ、早く来い」
ふたりの衛士が駆け寄ってくると両脇からマルコを引っ立てようとした。
「ちょっとお待ちになって、近衛衛士隊のみなさま」
すると今度はアビゲイルが声を上げた。
「刑事告訴といえども訴状に挙げられた訴えに対する誠心誠意の賠償を被告訴人が行った場合、示談に終わる例は多くありますわ。このわたくしアビゲイル・マリアンナ・ディートリヒ・フォン・シュライバッハが弁護士費用および示談金を肩代わりいたしますから.....」
修道女は余裕のある表情で腕を組むとこう言葉を継いだ。
「ここは穏便に示談で済ませてはいかがかしら。そのほうがあなたがたの仕事も楽になるのではなくって?」
アビゲイルの家名を聞いた衛士たちが一瞬だけ固まった。修道女は傍らにいた少女ハンナの肩を抱き寄せながら立て板に水の滑らかさで続ける。
「.....事情はだいたい読めますわ。このハンナちゃんの後見人が訴えを起こしたんでしょう?でもわたくしたち彼女を虐待するようなことは一切致しておりませんわ。ですからぜひ告訴人のかたとお話を.....」
「――――――告訴したのは儂じゃ」
その時、重々しい老人の声が聞こえてきた。一同の視線は一斉にそちらに向けられた。
衛士たちの間から進み出てきたのは、黒いローブを着て木の杖を持った白髪の老人だった。
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「――――――告訴したのは儂じゃ」
重みのある声。長い白髪と長い髭。その頬の落ち窪んだ顔はやはり長い髭で覆われている。彼はこう続けた。
「ハンナ。こんなところにおってはお前のためにならん。孤児院に戻るのじゃ」
「.....え?....おじいちゃん...誰?」
すると少女ハンナが怯えた声で呟いた。
「うち...知らない。会ったこともないよ。なんでおじいちゃん、うちのこと知ってるの?」
そう言いながら彼女は助けを求めるような表情で傍らのアビゲイルやマルコを見やった。だが老人が有無を言わせぬ調子で言葉を継ぐ。
「儂がお前の後見人じゃ。お前が産まれた時から知っておる」
「....あなたは...」
するとアビゲイルがやや驚いた表情で呟いた。
「宮廷魔術師スレイマンさま...ですわね?」
「いかにも。儂がスレイマンじゃ」
老人はそう答えるとハンナに手を差し伸べた。
「ハンナ・ベルテシャザルよ。お前が孤児となったとき、この儂が後見することとなったのじゃ」
「でも...うちおじいちゃんのこと、知らないよ。おじいちゃん、うちのパパとママを知ってるの?」
少女が問うと、スレイマンと名乗った老人は答えた。
「――――儂は、お前の父である魔術師ダニエル・ベルテシャザルの師じゃ」