筋肉三銃士が行く~筋肉は全て(の問題の7割くらい?)を解決する~   作:nocomimi

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筋肉三銃士(+聖女+魔法少女)、宗教的理由でスケジュールが過密になる

「ダニエルは....かつて私のパーティーのメンバーだった」

 

ルーク修道士は顔を伏せながら言った。一同はその意外な言葉を処理し切れず、数秒の間呆気に取られていた。だがルークは言葉を継いだ。

 

「私が....私が彼を....死に追いやったのだ」

 

「死.....に....?」

 

当惑したマルコは意味も分からず呟いた。すると修道士は突然少女ハンナの前に跪き、苦悶の表情でこう続けた。

 

「ハンナ嬢....赦してくれ。私はリーダーでありながらきみの父上を守ることができなかったのだ」

 

「おじさん....どういう..ことなの?」

 

ハンナは驚愕の面持ちで相手を見つめるばかりだ。修道士は押し出すように言った。

 

「あの頃.......私は完全な心得違いをしていた。敵を粉砕する力さえあれば、どのような危機も退けられる、と」

 

彼は息を継ぐと、こう続けた。

 

「だが、彼は私が粉砕できなかったものを封じるためダンジョンの最奥部に降りていったのだ。そして...戻らなかった」

 

忙しく通行人が行きかう表通りで、五人のいる場所だけは帳で覆われたかのように沈黙で包まれた。

 

「赦してくれ....ハンナ嬢」

 

ルーク修道士は俯くともう一度言った。その目には涙が滲んでいた。

 

「お...おじさん....でも...」

 

ハンナは戸惑いながらも答える。その目からも涙が溢れ、彼女は手でそれをしきりに拭いながら言葉を継いだ。

 

「赦すもなにも...ないよ。だっておじさんが...あの岩山でうちらのこと守ろうとして必死で戦ってくれたあとで....おじさんを責めるなんて...うちにはできないよ」

 

彼女は小声でそう言ったあと、顔を上げてルーク修道士を見た。

 

「でも...うちに教えてほしい。パパってどんなひとだったのか。どんな魔法使いだったのか。うちに教えて?」

 

ルーク修道士は少女の顔を見つめていたが、やがて頷いた。

 

* * * * * * * * * * * * * *

 

「ダニエルはもともと冒険者ではなかった。彼は魔法研究者と形容したほうが相応しい人間だった」

 

ルーク修道士は言った。揺れる馬車の中で少女ハンナは一心に耳を傾けている。

 

「だが、王家特命案件で彼は王家側から任命されたメンバーとして派遣されたのだ。私は最初.....」

 

彼は苦笑しながら呟くように言った。

 

「私は最初、彼のことを見て内心小馬鹿にしたものだ。細身で、眼鏡をかけ、色白の彼を。こんな男に冒険ができるのか、とね。だがそれは私の先入観だった。彼は優秀だったよ。一緒に働いているうち技術、知識、胆力全てにおいて一流の人材と判った」

 

「...どんな任務だったんっすか?」

 

膝の上に地図を広げていたマルコも、俄然興味を惹かれて尋ねた。ルークは数秒間の沈黙のあと、静かに口を開いた。

 

「ベッセン地方に点在する古城群の探索だ。元々領主が戦時の避難場所として建造したものだ。だがその領主が転封となり、主を失った城は荒れ始め、やがてダンジョンと化した」

 

「よく聞く話ですわね。でも...わたくしならこう疑っちゃいますわ。その領主が元々ろくでもないことをしていたのがダンジョン化の原因なんじゃないかしらって」

 

アビゲイルが口を挟むと、ルークは驚愕した顔で彼女を見た。

 

「...なぜそれがわかったのだ、アビゲイル修道女?」

 

「あら、だってそれが古来からのパターンですもの。だいたいダンジョンとか魔物の多い地方って、歴史的に領主の乱倫とか乱脈経営が目立ちますわ。調べればわかりますわよ」

 

アビゲイルが平然と答える。ハンナも驚いて呟いた。

 

「あ...アビゲイルお姉ちゃんまた怖いこと言ってる...」

 

「ごめんなさいねハンナさん。あなたの歳でこんなこと知る必要はなかったかもしれませんわね...。でもわたくし幼い頃から王族貴族の暗部ばかり聞かされて育ってしまったの。それも修道女になった理由のひとつですわ」

 

修道女が少女を優しく抱き寄せながら言う。ルークは続けた。

 

「実際立ち入ってみると、それらの城塞群にはいくつか奇妙な点があった。外部からの攻撃に対する防備施設が考えられないほどおざなりなのに、内部には何重にも鉄格子が設えられていた。それはまるで.....」

 

そこまで言うと修道士は目を細め、少し間を置いた。

 

「内部にあるものを閉じ込めるため...に設置されたようだった」

 

「その城の領主はどなたか覚えていらして、ルーク修道士?」

 

アビゲイルが尋ねると修道士が答える。

 

「ルードヴィッヒ侯爵家だ。城は全てその時の当主が建てたと聞いている」

 

「御三家に次ぐ有力家ですわね。だけど、ある時を境に当主が乱心して転封されましたわね。そもそもお家騒動が絶えない家柄でしたわ」

 

すると修道士は咳払いし、話しを続けた。

 

「当時、我々もそれ以上のことは知らなかった。だが、城の地下に降りた時、我々は発見したのだ。奇妙な牢獄をな。それに手枷足枷や壁に繋がれた鎖を」

 

いつしか皆が聞き入るなか、ルークは淡々と言葉を継いだ。

 

「それ自体は珍しいことではない。だが手枷も足枷もありえないほど巨大で、鎖は城門を吊るす鎖よりも太かった」

 

「まさに....内部にある『何か』を閉じ込めてた...ってわけっすね」

 

マルコは地図のことなどすっかり忘れて相槌を打つと新たな疑問を口にした。

 

「で、中にはどんな魔物がいたんっすか?」

 

「実際に遭遇した魔物といえば、最初の三つの城はごくありきたりなものだった。ゴブリン。オーク。グールの集団が出てきた場所もあった。だが数は多かったが我々の敵ではなかった。しかし問題は四つ目だ」

 

そこでルークは声をひそめた。

 

「そこで我々は多頭蛇と遭遇した。普通なら水の多い場所にしか生息しない魔獣だ。どうにか犠牲を出さずに倒すことはできたが、我々は頭を抱えたものだよ。なぜそんな魔物が城の内部に、とな」

 

もはや口を開く者は誰もいない。馬車の車輪が軋む音だけが聞こえてくる。

 

「そんな時、ダニエルが言い出したのだ。魔力源が城のどこかにある、と。」

 

馬車はいつしか首都を抜けて田園地帯に入っていった。昼下がりの陽光が車窓から射し込んでくる。だが、ルークが語っている事柄の性質が性質だけに、とても寛いでドライブを楽しむ気にはなれない。

 

「私は魔力源と聞いてもピンと来なかった。そんなものが存在することすら知らなかったからね。魔物は魔物で、狩れば終わり。そうとしか考えていなかった。だがダニエルは教えてくれた」

 

修道士は言った。

 

「世の中には魔力を高密度で封入した物体がある、と。それは単に魔力を秘めているだけではなく、魔物を呼び寄せるものらしい。魔物たちもまた魔力を餌にして生きている側面があるからな」

 

「餌....」

 

その言葉で巨漢ヨハネが顔を上げた。狼狽したマルコが言った。

 

「ヨハネお...お前まさか...!もう腹減ったってわけじゃねぇよな」

 

「大丈夫だろう。彼はただ単に知っている言葉に反応しただけだと思う」

 

ルークはそう結論するとこう締めくくった。

 

「いまはここまでにさせて欲しい。ハンナ嬢、きみの父上のことはおいおい話す。だが一度に全てではないほうがいいと思うんだ。それでいいかい?」

 

それを聞いたハンナは少し考えていたが、やがて小さく頷いた。そこでマルコは頃合いを見計らって切り出した。

 

「走りながらになるっすけど、次の目的地はテューリンゲンッ地方の『魔女の森の遺跡』でいいっすよね?」

 

「ああ。そのことなんだが....」

 

ルークが顔を上げた。

 

「マルコ。無理を言うようで申し訳ないが、聖日に礼拝に出席することを最優先にしたスケジュールを組んでくれないか?」

 

「...は....ぁ...?...礼拝....出席...っす...っか?」

 

耳に入った言葉の群れを脳が処理しきれないまま、マルコが繰り返す。だが修道士は繰り返した。

 

「やはり、礼拝には万難を排して出席したいのだ。冒険の最中とはいえどもね」

 

「わたくしも同感ですわ。やっぱり礼拝に出ずには何事も始まりませんもの」

 

するとアビゲイルが同調する。だがマルコは呆気にとられたまま言葉を探すしかなかった。

 

「...で...でも今...俺たちって王家の命令でダンジョン攻略してるんっす..よね?まずそれをやんないと...」

 

「いや、それとこれとは別だ」

 

ルークが何の躊躇いもなく言い放つ。

 

「これは魂の健康に関わることだからぜひ考慮して欲しい。それに君たちのためにもなるはずだ」

 

「お...俺たちのため...っすか?」

 

ついていけないままマルコが呟くと、アビゲイルが説明した。

 

「地方の教会はメンバーでないと聖体拝受をさせてくれないところもありますわ。あのクラウデオ司祭みたいに大らかに対応してくれるところばかりではないのが実情ですの。それを考えると、皆が聖体を受けるには週一で首都に戻る必要がありますわね」

 

「そういえば、ハンナ嬢。君ももしかすると聖体を受けたのはあの首都の教会が初めてのように見えたが、どうだね?」

 

ルークが突然少女に尋ねる。面食らいつつも、ハンナはこう答えた。

 

「...そもそもうち、礼拝中にパンなんかもらったことないし。お説教が終わると『お前は先に部屋に帰ってろ』って言われてたから」

 

それを聞いたアビゲイルが溜め息をついた。

 

「するとハンナちゃんだけ締め出されていたわけですわね。教会の魔法使い嫌いもそこまで来ると滑稽ですわね」

 

「うむ。やはり、移動含め六日間でダンジョンを攻略し、七日目には教会に戻る。このサイクルで行く必要があるな」

 

最後にルークが断固とした口調で言う。マルコ青年はその論理構成に何一つ追い付くことができないままに頷いた。だが彼の脳内では、最初の頃に感じたのとは別の意味で驚きと困惑が渦巻いていた。

 

――――――トホホ....。いったいなんなんだよこのパーティは.......――――――

 

* * * * * * * * * * * * 

 

移動しつつの作戦会議の結果。一行はテューリンゲンッ地方の『魔女の森の遺跡』を攻略後、急いでニーダーズクセン地方の『幽霊大学』に向かうことに決めた。

 

「うむ、いい計画だ。この週に二つ攻略しておけば残りは腰を据えて取り組める」

 

ルークは納得した顔で腕を組んだ。

 

「あのぉ...中休憩一日しかねっすけど....」

 

だがマルコは不安げに言う。すると修道士は提案した。

 

「どうだろう、『幽霊大学』は都市部にあるからアビゲイル修道女とハンナ嬢には宿で休憩していてもらったらどうだ?我々三人で攻略できるだろう」

 

「えぇ~仲間外れ?ズルいよそんなの」

 

「わたくしも嫌ですわ。これは女性差別ですわよ」

 

ハンナとアビゲイルが一斉に抗議する。侃々諤々の議論の末、結局疲労の具合を見つつついて来れれば来てよいとルークが妥協し、ことは収まった。

 

日が暮れ始めた頃、馬車は山間部の田舎町に着いた。そこで一泊すると、翌朝一行はさらに進んだ。山々の間を抜けると、やがて広々とした森が広がる場所に出た。

 

魔狼(ワーグ)の森のように霧が立ち込めているわけでもなければ、木立の色が暗いわけでもない。だがその森が奇妙なのはひと目見てわかった。化け物のような大木がそこらじゅうに生えている。

 

「なんか...木ぃ...デカくないっすか?」

 

馬車から降りながらマルコが言った。傍らに降りたルークがメイスをトランクから引き出しながら答える。

 

「枝の張り方が異常だろう。ここは昔から噂になっていた場所だ」

 

「ルークさんも初めてですか?」

 

青年が問うと修道士は答えた。

 

「そうだ。本来あまり稼ぎにならない場所だからな」

 

「どうしてっすか?」

 

「魔物がほとんどいないからだ」

 

「―――え?どゆことっすか?」

 

マルコが面食らうと、修道士は説明し始めた。

 

「ここで行き会うのは殆どが魔植物だ。魔植物は駆除しても賞金の対象にならないのだよ」

 

「それで長い間放置されてきたんですわね」

 

アビゲイルが馬車から降りて伸びをしながら呟いた。

 

「ねえ、アビゲイルお姉ちゃん。魔女の森って魔法を使う女の人がいっぱいいた場所っていう意味なの?」

 

続いて降りてきた少女ハンナが顔を上げて尋ねる。すると修道女は首を振った。

 

「いいえ、そうではありませんわ、ハンナちゃん」

 

「じゃあなんなの?」

 

問われるとアビゲイルは軽く溜め息をついた。

 

「―――民間医学を実践した女性たちが教会により魔女と断定され迫害された場所ですわ」

 

「え...?どういう意味?」

 

ハンナは目を丸くして聞き返す。大斧をトランクから取り出してヨハネに渡したルークが引き継いだ。

 

「古来から伝承されてきた薬草や呪文による治療行為が異端とされたのだ。有害なものは取り締まらなければならないが、それを勘案してもなお弾圧は過剰かつ苛烈だったようだね」

 

「有害なものばかりではありませんわ。有益なものも含まれていたのに、それまで潰してしまったのだから、私は教会の汚点だと思いますわ」

 

アビゲイルが反論する。

 

「尋問・拷問・処刑。正義のためとはいえ神の名の元に行われるにはあまりに惨たらしいと思わなくて、ルーク修道士?」

 

「うむ...それは確かにそうかも知れんが...」

 

「うそでしょ?そ...そんなヒドいことしてたの?」

 

ハンナが驚いて言葉に詰まる。アビゲイルは悲し気に首を振った。

 

「数百年も前とはいえ残念ながら事実ですわ。教会は何度も何度も過ちを犯してきましたわ。それも嫌というほどに」

 

「....じゃあ...アビゲイルお姉ちゃん、なんで修道女になったの?」

 

不思議そうに少女が尋ねる。アビゲイルは少し黙った後こう答えた。

 

「...わたくし、それでも教会を捨てることはできませんわ。だってわたくしに自由を与えてくれる唯一の場所ですもの」

 

「自由?それって...どういうこと?」

 

ハンナが呟くと、修道女は笑顔になって少女の肩にそっと手を置いた。

 

「いずれ説明しますわ。さ、行きましょう」

 

五人は馬車から離れると、鬱蒼とした森に分け入っていった。

 

* * * * * * * * * * * * * 

 

「ルークさん、その...魔植物ってやつの特徴教えてもらえますか」

 

森に入ると、頭上に異様にゴツゴツした枝が広がっている。太陽の光が遮られて暗い。マルコは用心深く周囲に目配りしながら修道士に尋ねた。

 

「枝を伸ばして人を捕らえるんだ。そして絞め殺して自分の肥やしにする」

 

何のてらいもないルークの説明を聞いてマルコは冷や汗が背筋を流れるのを感じた。

 

「そ...そいつぁ随分気の利いた連中っすね。木だけに...」

 

青年は肩から大剣を下ろすと、ハンナに手招きして自分のすぐ後ろを歩かせた。ルークを二番手にしてアビゲイルを守らせ、巨漢ヨハネを最後尾に配置する。

 

「お兄ちゃん、全然面白くないよ」

 

「わかったから傍にいろ。捕まったら洒落になんねぇからな」

 

少女に突っ込まれながらも青年はそう言い聞かせ、前を向いた。

 

「洒落とはなんだ」

 

ヨハネが久しぶりの質問を発する。いつでも大剣を振るえるように構えながら青年が答えた。

 

「洒落っていうのは...悪りィ。今説明する余裕がねぇ。後で....」

 

だがふと振り返ると、巨漢の両腕と両脚には既に無数の枝が絡みついていた。巨漢はそれを引き摺りながら強引に歩いている。

 

「お....おい!ヨハネ!」

 

マルコは大剣を放り出すと、慌てて巨漢に近づき、その四肢に絡みついた枝を掴んで引きちぎった。ちぎられた枝は蛇のようにのたうちながら木の上に引っ込んでいく。

 

「...歩けない」

 

「当然だろ!お前話聞いてなかったのかよ!」

 

だがその途端に鋭い悲鳴が響いた。置いていかれた少女ハンナが動く枝に襲われている。枝は動物の触手のように動き、みるみるうちに彼女の全身に絡みついていった。

 

だがその時アビゲイルが剣を抜き放って突進し、鋭い太刀筋で薙ぎ払った。横斬り、縦斬り、そして袈裟斬り。ハンナを捕えようとしていた枝を完全に断ち切ると、修道女は慣れた手つきで剣を血払いし少女に手を差し伸べた。

 

「ハンナちゃん、大丈夫かしら?」

 

「ありがとうアビゲイルお姉ちゃん....」

 

やっとのことで立ち上がった少女にマルコも駆け寄った。

 

「す...すまねぇハンナ。俺がついていながら....」

 

「マルコさん。自分だけで全ての仕事をするのが良いリーダーではありませんわよ」

 

申し訳なさそうに青年が言うと、修道女が油断なく剣を構えながらもそう応じた。切り裂かれて痛みを感じたのか、木の枝は蠢きながらも五人を遠巻きにしていた。

 

「は...はい...アビゲイルさん」

 

「うちは大丈夫。お兄ちゃんは前に集中して」

 

ハンナも気を取り直すと、こう付け加えた。

 

「今度枝に捕まりそうになったら火ぃつけてやるから――――」

 

だが彼女がそう言った瞬間、一行の頭上に巨大な影がのしかかってきた。

 

途方もない大木だ。しかも、それが生き物のように動いている。そいつはギシギシと音を発しながら、無数の枝を威嚇するように広げて立っていた。

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