筋肉三銃士が行く~筋肉は全て(の問題の7割くらい?)を解決する~ 作:nocomimi
「今度捕まりそうになったら火ぃつけてやるから――――」
アビゲイル修道女の助けで動く枝から逃れた少女ハンナがそう言った瞬間、一行の頭上に巨大な影がのしかかってきた。
途方もない大木だ。しかも、それが生き物のように動いている。そいつはギシギシと音を発しながら、無数の枝を威嚇するように広げて立っていた。
「あ...あれ...親玉っぽいっすね」
「そうだな。だがこの地域の大ボスではない」
大剣を拾い上げたマルコが驚きとともに呟くと、ルークが答えた。青年は更なる驚きに満たされた。
「まじぇっすか。あれで中ボスっすか?」
「魔植物はあくまでも魔植物だ。今回の討伐依頼では『ボスに至るまでの障害物』に過ぎないよ」
修道士は平然と言う。
大木は明らかに五人を認識しているようだった。そいつが伸ばした枝がこちらに向かっておいでおいでをするように靡いている。
「か...回避して進むってなぁどうっすかね?」
マルコが言うと、アビゲイル修道女が答えた。
「ご覧になって、マルコさん。どうやらあの一本が他の全ての指導者みたいですわよ」
そう言われて青年が周囲に目をやると、周りの木々も大木に倣うようにしてその枝を伸ばしてきている。だが先ほど切り裂かれて学習したのか、五人から距離を取って様子を伺うように蠢いている。それが余計に気味悪かった。
少女ハンナが呟いた。
「じゃあ...あいつを倒さないとこの森の中じゃどこに行っても安心できないってわけね」
「...悪い木...倒す」
すると巨漢ヨハネがズイと前に出る。だがマルコは慌てて引き留めた。
「おい、無暗に突っ込んでもお前が捕まるだけだ。作戦を考えようぜ」
その時、少女ハンナが何かを用意し始めた。マルコの背嚢からカンテラを取り出すと、その油入れの蓋を開けて、手拭いやハンカチに中身を振りかけている。
「お...おい何やってんだよハンナ」
「うち、いい案思いついたんだ」
ハンナは作業を続けながら顔を上げた。
「うちの身体にロープをつけて欲しいの。それでうちが囮になって前に出るから、捕まりそうになる寸前で引っ張ってくれる?」
「な....なぁ?囮だとぉ?一体何考えてんだ?」
仰天して青年が叫ぶ。するとルークが横から口を出した。
「内容を聞こう。だがあまり危険過ぎるようだったら囮役は大人がやるべきだがな」
「うち、捕まりそうになったらこれをあいつに握らせるから」
作業を終えたハンナは立ち上がると、油のしみ込んだ布の塊を幾つか手の上に乗せて示した。
「...で、後は言わないでもわかるでしょ?」
そうウィンクする少女に、青年は絶句するしかなかった。だが思い直したように首を振ると彼は言った。
「だ...ダメだ。危険過ぎる。囮は俺が...」
「でもうち以外の四人は全員武器持ってるでしょ?だとしたら捕まっても四人に助けてもらえるんだからうちが囮になったほうが安全じゃん」
理路整然としたハンナの言い分に、マルコは返す言葉がない。するとルークが頷いた。
「合理的だ。なら私がロープを引こう。マルコ、ヨハネそしてアビゲイル修道女が万が一の時枝を切って救出すればよいのではないか?」
数秒の沈黙の後、青年は苦々しい表情で頷いた。
「....わ...わかった。だけど成功より安全のほうが優先で。俺が合図したらすぐに引いて下さいよ、ルークさん」
「了解だ」
アビゲイル修道女とヨハネが油断なく武器を構えている間、残りの三人が準備した。ハンナの腰とベルトにしっかりとロープを結びつけると、マルコが大剣を構え、ルーク修道士がロープを握った。
* * * * * * * * * * * * * * * *
「お化けの木さん!お腹すいたんでしょ~!ここにハンナちゃんがいるよ~」
少女ハンナは両腕を大きく広げながら大木の前に進み出た。途端に大木の枝がピクリと反応し、少女目掛けて押し迫ってくる。マルコは目を皿のようにしてそれを見つめながら固唾を飲んだ。
「ほらほらどうしたの?恥ずかしくなっちゃったのかな~?」
大木の枝々は、しかし、先ほどの経験で懲りたかのようにハンナの身体の寸前で止まった。少女は手をヒラヒラと振りながら誘いかける。
だがその時、予想だにしないことが起こった。
大木の根元の地面が割れ、次々に根が盛り上がってきたのだ。
根の先がまるで触手のように伸び、少女ハンナの両脚に巻き付いた。
「ルークさん!引いて!」
マルコは思わず叫んだ。だがハンナが振り向くと叫び返す。
「まだ!もうちょっと!」
足止めされたハンナの頭上から無数の枝がのしかかるように伸びてきた。その枝先がみるみるうちに両手に絡みついていく。その手と腕が完全に枝で覆われてしまうと、少女は叫んだ。
「おじさん、今よ!」
「ぬ゛ぅ゛ん゛ッ゛!」
ルークが気合いの声とともにロープを引く。だが、少女の身体は頭上から伸びてきて彼女を持ち上げようとする枝と修道士の引くロープの両方で引っ張られることになってしまった。
「ハンナ!」
マルコは絶叫しながら突進し、宙づりになった少女の足元から伸びてきた大木の根を武器で薙ぎ払った。
その途端、ルークがやや優勢になった。アビゲイルも駆けつけ、左右から少女の身体を捕えようとする枝を剣で斬り裂いていく。
――――スポッ....!――――
その刹那、ハンナの身体が魔植物の枝から解放された。仰向けに地面に倒れると、滑りながらルーク修道士に引き寄せられていく。
だが、その姿勢のままハンナは何かを手に持って構えていた。
「
少女の手に握られたミニチュア魔法の杖の先端から、炎の筋が迸る。それが先ほどまで彼女を捕まえていた枝に命中した。
――――ボゥオワッ....!――――
勢いよく炎が立ち昇る。大木は、手を火傷してしまった人間のように慌てふためいた様子で枝を左右に振り始めた。
「お兄ちゃん!扇いで!」
少女ハンナは倒れたままの姿勢で叫んだ。ルーク修道士が少女を庇うように抱き抱える。だが彼女はそれを押しのけるようしながらもう一度マルコに向かって言った。
「早く!扇いで!その剣で!」
その声でマルコ青年は我に返った。大剣を持ち上げると、気合いの声とともに空気を斬り裂く。
「ぬ゛ぅ゛ぇ゛い゛ぇ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!」
――――ヴォンッ....!――――
巻き起こった風が炎上した枝を煽った。すると炎がますます激しく燃え盛る。化け物大木はもはや人間を狙うどころではなくなったらしい。パニック状態になったように身体を揺すりながら、燃える枝をどうにかしようと右に左に動かしている。
すると、巨漢ヨハネが重い足音を響かせながら前に走り出た。
「ぬ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ゛ッ゛ッ゛!」
唸り声が響き渡る。次の瞬間、その大斧の刃が激しい衝突音とともに大木の幹に食い込んだ。巨漢は何度も何度も大斧を振り上げ、叩きつける。魔植物は痛みに悲鳴を上げるかのようにギシギシと高い音を立てた。
巨漢の周囲の地面から大木の根が飛び出してきた。ヨハネの両脚に絡みつき引き倒そうとする。だが、巨漢はまったく動じることなく斧を振り続ける。一方でマルコ青年は全力で大剣を振り、ひたすら風を起こす。
「ぬ゛ぅ゛ぇ゛い゛ぇ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!」
――――ヴォンッ....!――――
パチパチという激しい炎上音。同時に、斧の刃が大木に叩きつけられる衝撃で地面が揺れる。やがて大木の幹の半分ほどまでに切れ込みが入ってしまい、魔植物はゆっくりと傾き始めた。
「みんな!下がれ!下がれ!」
マルコは叫んだ。ルークがアビゲイルとハンナを庇うように抱き寄せる。
――――ズズズズズズズズズズズズズズズ...ドスン...ッ!――――
耳を聾する大音量。地面が激しく揺れる。目を上げると、横倒しになった大木の手前で巨漢ヨハネが仁王立ちしている。
地面の振動が収まる。パチパチと燃える炎も、マルコが扇ぐのを止めると下火になってきた。だがその後も巨漢ヨハネはその目を一心に手の中の大斧に注いでいた。
「この斧...いい」
* * * * * * * * * * * * * * * *
「――――驚いたな、ハンナ嬢」
修道士は少女ハンナを助け起こしながら呟いた。
「...きみの戦いかたは父上にそっくりだ。まるで生き写しだよ」
「えっ...そうなの?」
少女は目を丸くし、その顔がみるみるうちに輝いた。
「そうだ。ダニエルもまた恐ろしく頭の良い男だった。魔法が上手いだけではなく魔法と他のものを組み合わせて戦うことを好んだのだ。彼の知恵には他のメンバーも舌を巻いたものだよ」
少女の頭を撫でながら、ルークはそう言った。だがその瞳には抑えきれない喪失感と寂しさが浮かんでいた。
「そうだったんだ...。おじさん、冒険が終わったらパパのこともっと話して?」
「ああ。約束する」
せがむ少女に修道士は請け合った。するとマルコが額の汗を拭きながら尋ねる。
「で...ルークさん。ここの大ボスってどんな奴なんすか?」
「鳥だ」
「鳥?」
修道士の答えを聞いた青年は素っ頓狂な声を上げた。
「...なんか...拍子抜けっすね。鳥がボスなんて...」
「いや..」
ルークがアビゲイル修道女を助け起こしながら付け加える。
「鳥とは言っても翼幅三十メートルくらいらしい。目撃情報しかないがな」
「ゲッ...」
マルコ青年が絶句する。すると修道女が尋ねた。
「魔女の森ってことは...さしずめカラスか何かかしら」
「ああ。数少ない証言では真っ黒な巨大鳥ということだ」
周囲に煙のくすぶるなか、マルコ青年は五人の隊列を再び整えた。彼は大剣を構え、森の奥に進んでいきながらもこう提案した。
「でも、この森自体もなんとかしなきゃっすね。親玉の木を倒しただけで全て解決とは思えねっすから」
「わたくしも同感ですわね。おそらく彼らを動かしているのは罪なき者の流された血の呪いではないかしら」
アビゲイル修道女が憂い顔で応じた。ルークが頷く。
「おそらくそうかも知れん。それを取り除くことまでは我々にはできないがな。だが大公閣下の依頼によるなら、ただ潰せばいいということだ。従って...」
「てことは.....ヨハネ。あとでお前の出番みたいだぜ」
マルコが振り向いて巨漢に言う。ヨハネは機嫌良く返事をした。
「出番とはなんだ」
「森の開墾だ。こないだみたいに派手に頼むぜ」
「.......」
巨漢が小さく頷く。一行は森の奥へ奥へと進んでいくと、周囲の木々はやはり魔植物なのか枝を広げては生き物のように揺らしている。だが親玉が倒れたことを知っているのか、遠慮がちに見守るようにしていて、五人には襲ってこない。
「見ろ。遺跡だ」
ルークが指さした。森のただ中に、レンガ造りの巨大な構造物がそのシルエットを現わし始めた。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
「なんすっかね、この建物は」
マルコは見上げながらも呟いた。巨大な構造物は、倉庫でもなければ教会堂とも違う。幅の広い二階建てで、屋根の上に途方もなく高い煙突がついている。
「....これについても確かな情報はないんだが...」
ルークが躊躇いがちに口を開いた。
「...魔女裁判で有罪になった者を処刑した場とも言われている」
それを聞いて少女ハンナが、続いてアビゲイルが息を呑んだ。修道女は首を振りながら忌々し気に言った。
「わたくし、その件には根深い女性嫌悪もあったのではないかと疑っておりますわ。女性が力を持つことに対する根源的な恐怖が」
「わからない。だが...今は討伐対象を探すことに集中したほうがいいのではないだろうか、アビゲイル修道女」
ルークが答える。マルコ青年が先導し、五人は廃墟の前まで歩いていった。
窓は全て割れ、壁があちこち崩れ、屋根もところどころ抜けている。だが分厚い構造そのものはしっかりと建っていた。
マルコは一通り建物を観察し終わると呟いた。
「でも...ボスはこの中にいるわけぁないっすよね。そんなデカさじゃ」
「無論だ。だが常に近くにいるらしい。気をつけよう」
修道士は油断なく武器を構えると周囲を見回す。
だが、一行は次の瞬間、異様な音を聞いて顔を上げた。
―――――ガア゛ァ゛ァ゛ァ.....ッ゛―――――
凄まじく野太い鳴き声。そして突風のような風圧とともに、目の前に聳え立つ廃墟の上に巨大な影が一瞬にして現れた。
一同は目を上げ、そして驚愕した。
それは超巨大なカラスだった。頭部だけでも荷車のように大きく、胴体は家屋のように巨大だ。
* * * * * * * * * * * * * *
「へッ...早くもお出ましか...?探す手間省けたぜ」
マルコ青年は額に汗が浮かぶのを感じながらも、大剣を握り直した。
「うそ...こんなのって...アリ?」
ハンナも驚きに引き攣った顔で呟く。
超巨大カラスは傲然とこちらをねめつけている。マルコたちの攻撃は自分には絶対に届かないと確信を持っているかのような表情だった。
しばらく睨み合いが続いた。だが、化け物は突如として羽ばたくと、高度を上げて旋回し始めた。
「攻撃が....来るぞ!」
ルークが低い声で言う。マルコは頷くと指示を出した。
「ルークさん、女性ふたりを頼んます!ヨハネ、俺と来い!」
建物の前の開けた場所に陣取る。すると、上空から超巨大カラスが高度を落とし降りてきた。まるで大木のような両脚を広げ、その足の先端に生えた鋭い爪を振りかざすように突き出してくる。同時に、怪物が巻き起こす凄まじい風圧で土埃と落ち葉が舞い上がった。
「クソッ...風と爪の同時攻撃か!」
風によろめき、視界を奪われそうになりながらも、マルコ青年は大剣を大きく振り回す。その刃が化け物の爪に当たって火花を散らした。だがめぼしいほどのダメージは与えていない。
「ヨハネ!」
マルコは援護を頼もうと相棒に叫んだ。だが、横を向くといるはずの巨漢の姿がない。青年は一瞬背筋が寒くなった。
――――消えた?敵に喰われたか?――――
風が吹きつけるなか必死で大剣を振り回す。だが、化け物をこちらに近づけなかった代りに、相手に傷を負わせることもできなかった。痛み分けだ。
やがて超巨大カラスは羽ばたいて再び高度を上げた。かと思うと横に大きく旋回し、高度を下げる。やがて彼は木々の間をすり抜けて突進するように突っ込んできた。
「チイッ....!」
化け物の巨体が急速に迫ってくる。その嘴は超大型破城槌のようだ。マルコは必死で横跳びした。相手はさらに足の鉤爪で追い打ちをかけてくる。地面を転がりながら避けると、青年は顔を上げた。
「ヨハネ....どこだ?」
周囲を見回しても、巨漢は影も形もない。
――――まさか....逃げた?――――
――――いや、あいつに限ってそんなことをするはずがねぇ!――――
マルコ青年は自分に言い聞かせると、大剣を構え直した。超巨大カラスはまた高度を上げて、こちらの隙を伺うように旋回している。
「お兄ちゃん!」
すると少女ハンナが駆け寄ってきた。マルコは思わず叫んだ。
「危ねぇだろ!ルークさんのところにいろ!」
「違うの!いい案があるから!うちにまかせて!」
少女は青年の傍らに来ると、手を伸ばしてその大剣の平に触れた。そして何事か呪文を詠唱し始めた。
「な...何するつもりだ?」
驚いた青年が尋ねるとハンナは答えた。
「お兄ちゃんの剣を依り代にするの。一瞬だけ魔法剣士になって。一瞬だけ」
少女はそう答えると、真剣な目で上空を仰いだ。化け物は再び高度を下げ始めている。次の攻撃まで時間がない。
「魔法剣士?なんだそりゃ?」
マルコが尋ねる。だが、次の瞬間驚くべきことが起こった。彼の大剣の刀身が薄っすらと炎を纏い始めたのだ。
「いい?今度来たらあいつに向かって剣を振って。でもじゅうぶんに引きつけないと、多分火が散って効き目がなくなちゃう。だから、こいつで強化するの」
少女はそう言うと、カンテラの予備の油入れを取り出した。
「うちがせえので投げるから、お兄ちゃんがこれを斬るの」
「...そ...そうすっとどうなるんだ?」
戸惑いながらもマルコは言った。超巨大カラスの羽音が次第に迫って来る。森の木々はみるみるうちに強い風で吹き荒され始めた。轟音の中、少女ハンナは叫んだ。
「燃料と火炎魔法の組み合わせ。絶対やっちゃいけないって言われてるヤツ!」
―――――バサァッ...!バサァッ...!バサァッ...!―――――
化け物の羽根が風を切る音が降下してくる。マルコ青年は汗の滲む両手で大剣の柄を握り直した。その刃は頼りなげな炎に包まれている。そのすぐ後ろで少女ハンナが身構えた。
―――――ゴォォォォォッ!―――――
巨大な化け物が木立の間を滑空してくる音が接近する。少女ハンナはカウントダウンし始めた。
「いくよ!さん....にい....いち......」
木々の群れの間に身体をこじ入れるようにして化け物カラスが突進してきた。巨大な影がみるみるうちに迫ってくる。
「行けェ!」
ハンナが叫ぶと、油の容器を宙に放った。マルコは気合いの声とともに大剣を振り抜いた。
「ぬ゛り゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛」
けたたましい音とともに容器が砕け散り、それと同時にマルコの武器を包んでいた炎が斬撃の軌道に沿った放射状に飛んだ。
その刹那、凄まじい現象が起こった。
爆発のような音とともに、今まさにマルコを襲おうと嘴を突き出した超巨大カラスの全身が火炎に包まれたのだ。
―――――ガア゛ァ゛ァ.....ッ゛!ガア゛ァ゛ァッ゛!ガア゛ァ゛ァッ゛!―――――
化け物は慌てたような鳴き声を上げると、突進をやめ、その場で羽ばたいて上空に退避しようとした。その身体中の羽根に火がつき、炎上している。しかも、羽ばたくほどに空気が当たり、ますます炎の勢いが増した。
―――そして次の瞬間またしても驚くべきことが起こった。
「ぬ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!」
巨漢ヨハネの唸り声。それがはるか上空から接近してくる。思わずマルコが上を見上げると、巨漢が斧を振りかぶりながら落下してくるのが見えた。
その背後には背の高い煙突。
―――――ヨハネ...!このために!―――――
青年は驚きに目を丸くした。
「ぬ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!」
炎上する超巨大カラスの上に落下しながら、巨漢が大斧を振り抜く。
だが、化け物は思いもかけない器用な動作で首を反らし、その致命的な打撃を紙一重で回避した。
―――――なッ....まさか!―――――
マルコは心の中で罵声を発した。だが巨漢は化け物の横を通過しながら、そのまま前転宙返りし、上を向くと、
その斧を思い切り投げつけた。
―――――ドス....ンッ!―――――
―――――ドス....ンッ!―――――
嫌な音が二度響いた。大斧の刃が化け物の首筋に深く食い込む音。そして巨漢が背中から地面に叩きつけられた音だ。
―――――ガア゛ァ゛ァ゛ッ゛、ガア゛ァ゛ァッ゛、ガア゛ァ゛ァッ゛!―――――
超巨大カラスは首筋から黒い血を大量に吹き出しながら、森の中に無様に不時着した。木が何本も倒れ、土埃が舞う。だが、化け物はそれでも頼りない動作で立ち上がり、両脚を動かしながら逃げようとした。
「逃がすかぁッ....!」
マルコはダッシュした。ここを先途とばかりに超巨大カラスに殺到すると、その脚を大剣で横薙ぎに薙ぎ払う。手応えとともに大量の血が噴き出した。
「マルコさん!ヨハネさんが!」
だがその時アビゲイルの声が背後から聞こえ、マルコは我に返った。振り向くと、他の仲間たちが倒れた巨漢を心配そうにのぞき込んでいる。
「...折れた」
マルコが駆けつけると、巨漢は力ない声でそう呟いた。青年は思わず大剣を放り出すとヨハネに言った。
「今回もお前がМVPだったな。さあ、アビゲイルさんに治してもらいな」
もう一度化け物のほうを見やると、片脚を引き摺りながらヨタヨタと森の奥に逃げていく。だがその動きからは、もはや先が長くないのは明らかだった。
「獅子奮迅の活躍だったな。ヨハネの治療が終わったら改めて追跡しよう」
ルークが提案する。マルコは同意した。
「....そっすね」
だが彼は一瞬、心の中でこう呟いた。
―――――俺の大剣...団扇以外の用途じゃ殆ど役に立ってねぇじゃん―――――