筋肉三銃士が行く~筋肉は全て(の問題の7割くらい?)を解決する~   作:nocomimi

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アンデッドを倒せ!知恵と筋力で突破せよ

マルコ青年は片手にカンテラをかざし、下水道の暗闇の中に足を踏み出していった。

 

その後ろには巨漢ヨハネ。アビゲイルとハンナが続き、ルーク修道士が最後尾を務める。

 

断面が円形の地下道は狭く、大柄なマルコは少し背伸びすると天井に頭が擦れそうだ。ヨハネは背を曲げるようにして歩いている。

 

だが、足元の水は浅い。悪臭が漂ってはいるが掃除をして間もないのかそれほど汚物が多くないのが幸いだ。振り向くと、少女ハンナは靴を汚したくないのか、高くなった通路の端を歩いている。

 

五人がそれぞれ手に持ったカンテラが周囲をぼんやりと照らす。マルコは時折足を止めて前方に耳を澄ませ、異状がないことを確認すると、最後尾で後ろを警戒するルークと目を合わせ、また前進を再開する。

 

それを繰り返しながら、分岐に差し掛かるごとにルークが方向を指示する。やがていくつかの角を曲がると修道士は言った。

 

「もうじき大学敷地内だ。地下とはいえ、魔物の出現も考えられる。いっそう用心してくれ」

 

「ねぇ...おじさん、なんで大学に魔物が出るの?」

 

マルコが頷いて前進を再開すると、少女ハンナがハンカチで鼻を押えながら尋ねた。

 

「かつてあった魔法学部が原因らしい」

 

ルークが短く答える。少女は目を輝かせた。

 

「魔法学部?魔法の研究するの?」

 

「ああ。だが不祥事を起こして廃止されたそうだ。そしてその後大学全体が移転した」

 

「なぁんだ。うち、学校は嫌だけど、自分で好きな研究ができる場所だったら行きたかったなぁ」

 

少女ハンナは溜め息をついてそう声を上げた。するとルークが用心深げに声を潜めながら補足した。

 

「まさにその研究が原因だったと聞く。様々な動物の死体を魔法で駆動する実験をしていたというんだ」

 

「ゲッ...。趣味悪いね。うちだったらそんなこと絶対しないよ。そもそもせっかくお墓で眠ってるのにまた引き摺り出されちゃうなんて、動物がかわいそうじゃん」

 

ハンナがそう答えた瞬間、マルコは左手を上げて停止の合図を出した。

 

「..どうした?」

 

「なんか...いるっす」

 

ルークの問いに答えると、マルコは背中からゆっくりと大剣を下ろした。だがすぐに気づいて舌打ちした。

 

「うまくないっすね。この地下道だとスーパードラゴンスレイヤーも思いっきり振り回せねぇ」

 

「斧...壁に当たる」

 

巨漢ヨハネも自分の武器に目をやると呟いた。

 

――――ピチャ...ピチャ...――――

 

青年が腰だめに大剣を構えながら動かずにいると、やがて前方から引き摺るような足音が聞こえてきた。

 

「皆さま武器が大きすぎるのですわ。ここはわたくしが前衛を務めさせていただくのはいかがかしら?」

 

アビゲイルが提案すると、ルークが言った。

 

「それは危険過ぎる。私が対処しよう。その剣を貸してくれ、アビゲイル修道女」

 

「あら、それは嫌ですわ。以前みたいに人から剣を奪い取ったうえご自分の技量を思いっきり見せつけるおつもりでしょ?」

 

修道女があからさまに不満を漏らす。だがマルコ青年が静かに言った。

 

「喧嘩してる場合じゃ...なさそっすよ」

 

片手に掲げたカンテラの灯りに照らされ、地下道の向こうから近づいてくる者たちが見えてきた。

 

襤褸を纏った人影。両手を前に出し、まるで幽鬼のように足を引き摺りながら歩いてくる。

 

接近するにつれ見えてきたのは、灰色に干からびて変色した皮膚と腐った肉。骨の露出した指先。口元は耳の下まで裂け、真っ黒な舌がだらりと垂れていた。

 

屍鬼(グール)だ。それも十体以上がずらりと並んで迫ってきている。

 

「クソッ...一体づつ突きでぶった切るしかねぇ」

 

マルコ青年が呟いた瞬間だった。少女ハンナが叫んだ。

 

「お兄ちゃん!その大剣、水の中に落っことして!うちが片付けるから!」

 

それを聞いた青年は驚いて振り向いた。

 

「なっ...どうやってだよ!」

 

だがそうしている間も、屍鬼(グール)どもはヒタヒタと近づいてくる。

 

「マルコ!ハンナ嬢に任せるんだ!剣を水に落とせ!」

 

その時ルークが叫んだ。訳も分からないまま、マルコは大剣を放り出しながら後じさりした。水面から水が飛び散るとともに、先頭の屍鬼(グール)が爪の伸びた手を伸ばしてくる。

 

「みんな水から出て!早く!」

 

少女ハンナが懐からミニチュア魔法の杖を取り出しながら叫ぶ。マルコたちは急いで通路の端に身を寄せた。

 

「雷槍(サンダー・ジャベリン)!」

 

ハンナが呪文を詠唱した。杖の先端から細い雷が飛び出し、それがマルコの大剣の柄に当たると、たちまちその刃の全面が雷で覆われた。

 

すると、近くまで迫り寄ってきた屍鬼(グール)たちが電流に撃たれ、両手脚をデタラメに振り回しながら倒れた。続いて進んできた魔物どもも、ハンナが再度雷槍(サンダー・ジャベリン)を撃つと大剣の刃を伝った電流に操られるように踊り始め、しまいに脚をもつれさせて転倒した。

 

後続の屍鬼(グール)が迫るたび、ハンナは雷を撃つ。やがて地下道の床は水面に突っ伏しながら蠢く屍鬼(グール)どもで一面に埋まってしまった。

 

「うまいぞ!行こう!」

 

ルークがそう叫ぶと前方に走り始めた。アビゲイルとハンナがそれに続く。

 

「お兄ちゃんも急いで!多分これ十秒くらいしか足止めできないから!」

 

追い越しざまに少女が叫ぶ。それを聞いたマルコは水から大剣を引き摺り出し、ヨハネに合図すると駆け出した。

 

だが早くも身体を起こした屍鬼(グール)が一体、手を伸ばして青年の脚を掴んだ。

 

「ゆっくり寝てろ!」

 

マルコは叫ぶとそいつの頭を大剣の柄で殴って吹き飛ばし、魔物どもの身体を踏み越えて通路の奥に向かった。

 

* * * * * * * * * * * * * * * 

 

「よし。異状なし。皆上がって大丈夫だ」

 

地下道から続く竪穴の梯子を登って先に地上に出たルークがそう声をかけてきた。修道士がマンホールの蓋を取り除け、マルコが続いて外に出る。アビゲイルとハンナが続き、最後に巨漢ヨハネが苦労して穴を抜けた。

 

「...ハンナ嬢。それにしても良い判断だ。鉄でできた剣を経由して水中に電流を流すとはな」

 

ルーク修道士は装備を背負い直すとハンナに微笑みかけた。アビゲイルも言った。

 

「わたくし予感がしましたわ。ああいう場所では皆さんの筋力よりハンナさんの頭脳のほうが役立つって」

 

「えへへ....そんなに?うち照れちゃうなぁ」

 

少女は赤面しながら頭を掻く。だがマルコ青年は混乱顔で尋ねた。

 

「...サーセン。俺だけいまだにわけわかってねぇんっすけど...鉄と水と雷って...なんか関係あるんっすか?」

 

「鉄と水ってどっちも電気を通しやすいの。で、うち昔『カエルの死体に電気を通して動かす』実験を本で読んだことがあったんだ」

 

少女ハンナはそう説明した。だが青年はそれでも理解できず口ごもった。

 

「で...でもお前子供なのにそんな難しい本読んでたのか?」

 

「うちね、よく盗んできた果物を孤児院の年上の子にあげて、代わりに教科書読ませてもらってたの。いつか孤児院から出て魔法使いになったとき役に立つと思って」

 

「なっ....」

 

ハンナの答えにマルコは絶句した。するとルークが心底から困った顔で呟いた。

 

「盗みは良くないが....はて、我々聖職者としてはどうしたものかな」

 

「ルーク修道士、ハンナちゃんが以前『もうしません』って言ったのをお忘れ?時宜を逸したお説教は恰好悪いですわよ」

 

アビゲイルが笑いながら言う。だがマルコは奇妙な胸の痛みに囚われしばらく言葉を失っていた。

 

「さあ、きみの出番だマルコ。ここでなら思う存分大剣を振るえるぞ」

 

修道士が言うのを聞いて青年は我に返った。

 

顔を上げると、四角いレンガ造りの建物が廃墟となって立ち並んでいる。通りに植わった木々も、どこか幽霊のような頼りないシルエットだ。空にはちょうど満月が浮かんでいたが、それが余計にこの世ならぬものの出現を連想させた。

 

* * * * * * * * * * * * * * * *

 

「でもやけに...静かっすね」

 

大剣を持ち直すと、マルコは呟いた。

 

「我々は地下からいきなり訪問したからな。彼らも歓迎の準備ができていないんだろう。だがそのうち来るさ」

 

ルークがメイスを構えながら答える。マルコは死角を作らないよう、男三人が女性ふたりを囲むような位置取りを作りながら尋ねた。

 

「骸骨っ...すよね」

 

「経験はあるか?」

 

「俺、アンデッド系自体あんまり....」

 

ルークの問いに答えると相手はニヤリと笑ってこう言った。

 

「すぐ慣れる。まあ戦いながら説明するよ」

 

「りょ...了解っす」

 

「お兄ちゃんガンバ!」

 

後ろからハンナが声をかけてくる。マルコ青年は肩越しに軽く微笑み返すと再び前を向いた。

 

遠くから野良犬の遠吠えが響いてきた。五つのカンテラの灯りに照らされる範囲には、魔物どころか鼠一匹見当たらない。

 

「なかなか来ない...っすね」

 

やや焦れたマルコがそう呟いた途端に、異変が起こった。

 

周囲の歩道や植え込みの土からガサゴソと音がする。下に目をやると、まるで土竜が出てくるときのようにあちこちの地面が盛り上がってきていた。

 

「....そうか。彼らも地下からおでましというわけだ。面白い」

 

それを見たルークが言った。青年は驚いて周囲を見回した。

 

「えっ...俺てっきり.....」

 

道の上にずらりと並んで迫ってくる骸骨の群れを想像していたマルコ青年は言葉に詰まった。

 

すると、数秒のうちに周囲の地面が一斉に割れ、中から何者かがむくりと身体を起こした。二体や三体ではない。百体以上だ。

 

「来るぞ!」

 

「りょ...了解っす!」

 

修道士の声に応えると青年は大剣を持ち直しながら叫んだ。

 

「アビゲイルさんとハンナは俺らの真ん中に!」

 

五人は地下から這い出てきた者たちにすっかり囲まれてしまった。

 

骸骨どもだ。その手にはひどく錆びついた剣やボロボロの棍棒が握られている。

 

いまや夜の大学構内見渡す限りに骸骨が立ち、ゆっくりとこちらに押し迫ってきていた。

 

「う゛お゛り゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!」

 

マルコは前に進み出ると大剣を横に薙ぎ払った。

 

―――ドシュッ..!ドシュッ..!ドシュッ..!ドシュッ..!ドシュッ..!―――

 

厚い鉄の刃がたちまち五名ほどの骸骨どもを身体の真ん中から両断する。

 

「ヨハネ!そっち頼んだぜ!」

 

もう一度大剣を振り上げながら叫ぶ。巨漢は頷き、目の前の魔物ども目掛け大斧を薙ぎ払った。

 

―――――スパスパスパスパスパスパッ...!―――――

 

同様に、六体ほどの骸骨どもが脊椎を切断されて吹き飛ぶ。

 

マルコとヨハネは武器を振り回し次々と骸骨どもを倒していった。

 

だが倒しても倒しても一向に数が減らない。

 

倒れた個体にふと目をやったとき、マルコは一瞬驚きに固まった。

 

切断された骨同士がまるでそれ自体が生きているかのように動いて再びくっつき、立ち上がってくるのだ。

 

「ま...マジかよッ!」

 

罵声を吐きながら、骸骨どもを蹴り飛ばし、距離を取り、大剣で薙ぎ払う。だが青年の背筋には冷や汗が流れ始めていた。

 

――――こ..これいつ終わるんだよ?こいつら何度でも復活しやがるのか?――――

 

「ぬ゛ぅ゛ン゛ッ゛!」

 

だがその時、背後でルークの気合いの声が響いた。巨大メイスのヘッドが空気を斬り裂いて唸る音もだ。

 

肩越しに振り向くと、修道士が武器を振り抜いたところだった。その周囲にいた十体ほどの骸骨どもの頭部が粉々に飛び散っている。

 

「マルコ!一瞬でいい!見ていてくれ!」

 

修道士が言った。薄明りのなか、頭部を失った骸骨たちが方向を見失ったかのようによろめいているのが見えた。

 

「ぬ゛ン゛ッ゛!ぬ゛ン゛ッ゛!ぬ゛ン゛ッ゛!ぬ゛ン゛ッ゛!ぬ゛ン゛ッ゛!」

 

連続する気合い。同時に砲撃でも受けたかのように路面が揺れる。ルークが振り下ろした武器により、骸骨が次々と全身木っ端みじんになっていった。

 

「粉砕するんだ!マルコ、きみは大剣の平を使え!ヨハネは斧を逆にするんだ!」

 

「了解っす!」

 

修道士が叫ぶのに答えながらマルコは大剣を振り回した。胴を斬られ倒れた個体を今度は大剣の平で叩き潰す。

 

だが横目で見ると、巨漢ヨハネは斧の柄そのものを逆に持っていた。刃側を手元にし、柄の先端で敵を叩こうとしている。

 

「違げぇよ!ヘッドの裏側を使え!」

 

青年は片端から魔物を叩き潰しながら注意した。ヨハネはしばらく試行錯誤した後ようやく指示の意味に気づいたらしい。斧を持ち直すとヘッドの裏側で骸骨の頭をぶっ叩いて粉砕し始めた。

 

次第に敵の数が減っていくのがわかった。

 

だが、ゴブリンやオークどもと違い、味方の数が減ったからといって怖気づく様子もない。ひたすら手を前に出して迫ってくる。

 

「クソッ...!マジでしつっけぇ連中だ!」

 

斬り倒しては叩き潰すを繰り返す。全身が汗まみれになったところでようやく最後の一体が粉砕された。

 

夜の大学構内に静寂が戻った。再び犬の遠吠えが聞こえる。

 

マルコは大剣を下ろすと両手を膝に当ててしばらく肩を上下させていた。ヨハネも額の汗を拭いている。

 

だがふと地面を見ると、一面に広がった骨の破片がまだカタカタと動いている。自分が本来結合するはずの相手を探しているかのように転げまわったり震えたりしている。

 

「やだ...。こ...これが死体を魔法で動かす...ってことなの?考えた奴サイテーだね」

 

それを見た少女ハンナは口に手を当てて呟いた。修道士が答えた。

 

「ひとは新たな技術を持つと使いたくなるものだ。禁断と言われようと...な。それが人間の弱さでもある」

 

「―――あの怖いおじいちゃんが言ってた『自分の魔力に溺れる』って...こういうことだったんだね」

 

ハンナは俯くと、誰にともなく言った。するとアビゲイルがやや神妙な口調で漏らす。

 

「その通りですわね。わたくし、ワクワクはいたしましたけど、やっぱり死人蘇生は神への冒涜だと思いますわ」

 

「あ..でもやっぱワクワクはするんっすね、アビゲイルさん」

 

マルコが突っ込むと修道女は慌てて十字を切った。

 

「あら、これはいけませんわね。悔い改めが必要ですわ」

 

その瞬間だった。

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

――――ドシン....ッ!――――

 

遠くから響く重々しい振動音。地面が軽く揺れた。

 

「いまの...なに?」

 

ハンナが顔を上げる。アビゲイルは彼女を庇うように立つと腰の剣を抜いた。

 

「ハンナちゃん、わたくしの傍にいらしてね。万が一のときはお守りしますわ」

 

「大ボスのおでまし...か」

 

ルークが武器を構え直しながら言う。マルコもまた警戒しながら尋ねた。

 

「ルークさん、ここの大ボスってどんな奴っすか?」

 

「私もあいまいな情報しか知らない。おそらくは.....」

 

修道士が答えかけたその刹那。

 

――――ドシン...ッ!ドシン...ッ!ドシンッ!ドシンッ!――――

 

振動音の間隔が次第に短くなっていく。そしてそれはみるみる近づいてきた。

 

「こっちからだ!」

 

マルコは叫ぶと、音が聞こえてくる方角に向き直った。

 

大学構内を貫く大通り。暗闇の中、月明りに薄く照らされてその何者かのシルエットが浮かび上がった。

 

「な...なんだありゃぁ.....?」

 

接近して来るそいつの異様な形状を目にした青年は一瞬言葉を失った。

 

超巨大な馬のような体躯。体中の筋肉が隆々と盛り上がっている。

 

そして頭部があるはずの場所には――――確かに頭部があった。しかし、それが四つ並んでいるのだ。さらに、背中にはこれまた巨大な翼がついていた。

 

「俺とヨハネで行く!ルークさん後衛頼みます!」

 

気を取り直したマルコは叫ぶと前に進み出た。

 

――――ドシン...ッ!ドシン...ッ!ドシンッ!ドシンッ!――――

 

接近してきたその怪物は、四つある頭部の口を大きく開くと、威嚇するように吠え声を上げた。

 

「―――キメラだ!」

 

ルークが叫ぶ。

 

その化け物は巨大な驢馬だった。そしてその四つの頭部は、それぞれがこれまた巨大な驢馬、犬、猫、鶏だった。

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