筋肉三銃士が行く~筋肉は全て(の問題の7割くらい?)を解決する~ 作:nocomimi
「魔力核。これを多く保有するものこそが覇権を得る。そういう代物じゃ」
高速で走る馬車の客室内。スレイマン老人の説明に、そこにいた全員が耳を傾けていた。
――――だらしなく座席に身をゆだねて眠る巨漢ヨハネ以外は。
「覇権を得る.....ですか」
ルーク修道士が驚きと戸惑いを顔に浮かべながら反芻する。
「そうじゃ。比類ないほど強い魔力を個体に封入した物質。ただ魔力を保有し続けるだけではない。近年の研究では、そもそも異世界から湧出しこの世界に伝搬する魔力の中継装置ではないかとも考えられておる」
「な...異世界から?なんすか...それ」
マルコが驚いて呟く。だがスレイマン老人はそれを無視して続けた。
「よいか、細かいことはどうでもよい。お主らは残り二つのダンジョンを何としてでも制覇せよ。儂らはお主らのすぐ後ろから姿を消して尾行する。お主らが目標を倒したらばすぐに駆け付け、その体内から即座に魔力核を抜き取る。よいな?」
「閣下。それは依頼主である大公フリードリヒ閣下もご承知と考えてよろしいのでしょうか?」
ルーク修道士が用心深く尋ねる。すると老人は答えた。
「いや、大公は知るよしもない。そもそも王城内では儂以外誰もこのことは知らん」
老人は自分を指さすと続けた。
「そしてあれの扱い方を知っているのは儂以外にはおらん。かつてはダニエルも...いや、それはどうでもいいことじゃ。ともかくあれの扱いは儂に任せるんじゃ。それ以外に選択肢はない」
だがルークは念を押すように再び問う。
「閣下...。大公からの本来の依頼のご主旨は『潰せ』でした。ですから拙僧は大
「バカモンが。粉砕などしたところであれの力は消えはせぬ。破片を集めれば同じことじゃろが」
老人は即座に否定すると、溜め息をついてこう答えた。
「本来お主らは知る必要のないことじゃが、納得ゆかぬなら教えてやる。あれが貴族の悪戯や覇権争いに使われぬようにするには『封印魔術』が必要じゃ。それができるのは今は儂ひとりじゃ。これでわかったか?」
そう老人が答えると、ヨハネがふと目を開け呟いた。
「貴族とは...なんだ」
マルコ青年は座席の上で思い切りズッコケながら言う。
「今聞くとこじゃねぇだろ!」
するとハンナが老人に向き直った。
「ねえ、おじいちゃん。貴族の悪戯....ってなんなの?」
少女が興味深そうに尋ねると、老人はまた溜め息をついた。
「やれやれ、知りたいか、ハンナ?」
「うん。教えて、おじいちゃん」
少女が迷いなく尋ねると、老人は少し考えるように間を置いてから口を開いた。
「――――そもそもの始まりは三百年前開かれた全貴族会議じゃ」
全員が耳を傾けるなか、老人は続けた、
「『大魔物戦争』が王国の勝利に終わったその年。魔物どもが去ったあと、その本拠地であった『悪魔神殿』跡地から不思議な黒い結晶体が多数発見された。当時の宮廷魔術師メルリヌスの助言のもと、貴族会議での議論が行われた。その結果、各有力貴族家にその管理が任されることとなった。だがその後...」
老人はそこで切るとやや落胆した様子で言葉を継いだ。
「貴族どもはそれらを良く管理するどころか、好き放題なことを始めおった。自らのペットや動物を実験台にし、それを埋め込んでは取り出すことを繰り返したのじゃ」
「えッ.....やだ。動物虐待じゃん、それ」
ハンナが顔を歪めて口に手を当てる。老人は続けた。
「...最初はその結果動物がどのように変化するのかを観察するという口実じゃった。そして予想どおりそれによって巨大魔物たちが次々と生まれた。最初は飼育を試みたものの、事故や死者が続出した結果、大型魔物たちは野に放たれた」
「な...なんだって...それってつまり...」
それを聞いたマルコ青年は驚きの余り言葉を失った。
「じゃあ...あの大ボスたちは全部貴族どもが...」
「その通りじゃ」
そこで初めてスレイマンがマルコに頷いた。
「大
宮廷魔術師スレイマン老人はそう言った。
それを聞いた四人は息を呑んだ。窓の外に浮かぶ街路の灯りが高速で後ろに流れていくなか、客室の中を沈黙が覆う。
やがてマルコは言葉を押し出すように尋ねた。
「じゃあ...俺らが必死こいて戦ってたのって....」
「貴族の悪戯の後始末じゃ。これ以上の後始末はしたくなかろう。だから儂に任せるんじゃ」
スレイマンが言う。すると、ルークが遠慮がちに尋ねた。
「....では閣下。貴族たちは制御し切れなかったその『魔力核』を今更なぜ手に入れようとしているののでしょうか?」
老人はうんざりした口調で答える。
「やれやれ、面倒な話を全部聞かねば気のすまぬ輩のようじゃな」
彼は座席の下から別の本を取り出すと、それを開いて頁を示した。
「ルードヴィッヒ侯爵が残した実験記録じゃ。人間に魔力核を移植し、超人となる試み。侯爵はこのことのために数限りない村人たちを実験台とした」
その頁には、人体の解剖図とともに、日数を追うごとに異形と化していく被験者がスケッチされていた。
それを見た瞬間、ルークが大声を上げた。
「ま...まさか!」
「そう。アレクセイエフスキーよ、お主がダニエルとともに潜ったダンジョンのひとつから発見されたものじゃ」
老人は低い声で告げると、言葉を継いだ。
「侯爵は実験を完成させる前に自身が発狂し、転封させられた。ダニエルはその侯爵の狂気の実験の顛末を伝書梟で儂に報告するとともに、命を賭してダンジョン底部に置かれた魔力核を封印したのじゃ。だが...それが最後じゃった」
それを聞いたハンナは、目を大きく見開いたまま絶句している。ルークは首を振り、誰にともなく呟いた。
「....ダニエルは私にその話の半分も教えてはくれなかった....。知っていたなら底部まで探索を共にしていただろうに....」
「この内容は誰にも知られていないはずじゃった。だが、解雇されたルードヴィッヒ侯爵の使用人が大金に釣られ、他の貴族に話してしまったのじゃ。これが十日ほど前のことじゃ」
老人は続ける。マルコたちは生唾を飲み込むばかりだった。スレイマン老人は鋭い目で一同を見回しながら言った。
「これで誰も彼もがあれを追いかけている理由がわかったじゃろ。おぬしらも知っての通り、騎士団が動き始めている。じゃがあれは王家からの命ではなく、アルブレヒトの独断じゃ。父親が後ろから指示しておるのじゃろう」
「いやですわ。ハインリッヒ侯爵はその『魔力核』を使って何をたくらんでらっしゃるのかしら」
アビゲイルが呟く。すると老人は言った。
「ハインリッヒ家だけではない。お前の実家もそのうち動くじゃろう、アビゲイル。いや、御三家だけではない。全ての有力貴族家が動きつつある。のみならず過激派までがもがな。なぜなら.....」
間を開けるとスレイマンは皆の顔を見回したうえで断言した。
「あれを手に入れる者が.....最強の『魔神兵士』を手に入れる。そして今後王国の覇権を手にするからじゃ」
* * * * * * * * * *
「委細、承知しました。では...残り二つのダンジョンはなんとしてでも制覇します。ときに、閣下」
ルークが老人に向き直って確認する。
「魔術部隊はバックアップとして随行いただくということでしょうか?」
スレイマンは即座に首を振った。
「そんなわけがあるか。勘違いするでない。魔物討伐はあくまでお主らの仕事じゃ。魔術師ひとり育成するのに国費が何億ルピーかかると思っとる?」
「つ...つまり俺らは損耗前提の人員ってことっすか?」
マルコ青年が思わず言うと老人は珍しく全面同意した。
「うむ。無論じゃ。そのためのお主らじゃからの」
――――『うむ』じゃねぇだろ、ッたく――――
マルコは苦い顔をして溜め息をつく。
「じゃが......まぁ、なんだな。譲歩してやってもよいぞ」
すると老人がもったいぶって咳払いした。
「儂の部隊からひとり派遣してやってもよい。そしてハンナを儂に引き渡す。お主らは戦力倍増する。どうじゃ?」
それを聞いたマルコは即座に反応した。
「そ‥そりゃねえっすよ。なんでこいつをあんたに引き渡さなきゃなんねぇんだ?」
「うちも嫌!うちこのパーティ辞めたくない!辞めないもん!」
ハンナも叫んだ。不服そうに顔を顰めるスレイマン老人にルークが声を掛ける。
「閣下、恐れながら‥。ハンナ嬢はもはや頭脳・技術・機転すべてにおいてこのパーティの欠かせない存在です」
それを聞いたハンナは満面の笑みで鼻の下を擦りながら得意そうに胸を張る。ルークは続けた。
「お気遣いは感謝いたしますが、これは既に実績に裏打ちされていますゆえ」
「そのとおりですわ、スレイマンさま。ハンナさんは既にわたくしとも名コンビですの。さきほどもふたりして危機を乗り越えたばかりですわ」
アビゲイルも口を挟んだ。すると老人は忌々しげに鼻を鳴らすとこう答えた。
「ならよい。では、言いたいことはそれだけじゃ」
老人が手を挙げると、唐突に馬車が急停車した。
マルコたちは不思議に思って老人を見た。周囲はもはや市街地を抜け、真っ暗な平原だ。
「降りろ」
当然のように老人が言う。マルコと仲間たちはキョトンとしてスレイマンを見つめた。
「なにをしとる。降りろと言うんじゃ」
再び老人が促すのを聞いて、マルコは慌てて尋ねた。
「お‥おい待てよ爺さん。首都まで乗っけてってくれるんじゃなかったのか?」
「そんなわけがあるか。お主らを乗せたのは会話を盗み聞きされないためじゃ。儂はこれから執務もあるし仮眠もせねばならん」
老人は無慈悲にも言い放つ。
こうして五人はスレイマンの馬車から下ろされた。
だが道端に放り出されたのかと思いきや、後続の馬車が目の前で止まった。
「――――ハンナお嬢様。アビゲイルさま。どうぞこちらへ」
女性魔術師たちが扉を開けて手招きしている。ふたりは安堵の表情で馬車に乗り込んだ。
ところがマルコたちも続こうとすると、今度はスレイマン老人の声が聞こえてきた。自分の馬車の窓を開けてこちらを振り返りながら怒鳴っている。
「これ、男どもは囚人車じゃぞ!そもそもこれは特例じゃからな!」
すると、老人の馬車と女性たちの馬車が発車し、最後尾にいた犯罪者護送用の箱型客車が目の前で止まった。
「こちらへどうぞ」
男性魔術師が後部の扉を中から開けた。真っ暗で殺風景な荷台に縛られた刺客たちが転がされている。
「ま......放り出されるよりはよっぽどましっすね」
「まったくだ。居ながらにして首都に帰れるなどこれ以上の僥倖はない」
マルコはルークと話し合いながら乗り込んだ。最後に巨漢ヨハネが乗車すると、荷台は満員となった。
鉄格子の嵌った車窓から見上げると満天の星空が見える。人っこ一人いない街道の左右は見渡す限りの草原。
――――なんか...とんでもねぇことになっちまったなぁ――――
マルコ青年は壁にもたれかかって座りながらいつしかウトウトし始めた。
すると唐突に女の顔が頭に浮かんだ。
あの黒髪の女給マリアだ。
マリアと交わした何げない会話が思い浮かぶ。あのアルブレヒトとの奇妙な決闘も、今となっては良い思い出にすら感じられる。
――――マリア....。逢いてぇ....な――――
マルコ青年は大剣を床に置き、両腕を組むと目を閉じた。
* * * * * * * * * * * * * * *
一行は翌朝首都に到着した。
表通りで下車し、スレイマン一行に別れを告げると、宿屋に入り一日何もせず休憩した。そして疲労の抜けた翌日には、五人は首都を散策することにした。
「これで聖日の前に一日ゆっくりできますわ。上々ですわね、ルーク修道士」
「その通りだ、アビゲイル修道女。明日の説教が楽しみだよ」
にこやかに会話するアビゲイルとルーク。だが、マルコ青年は憂い顔だった。
―――『魔力核』?国中の勢力?いったい俺たちは何に巻き込まれたってんだ?―――
傍らの少女ハンナを見やると、いつもなら店のディスプレイや通りがかる売り子などに気を惹かれて騒ぎまわるはずの彼女も元気がない。
「....ハンナ。大丈夫か?」
何気なく声をかけると、少女は小さく頷いた。
「....うち、パパがそんな凄い任務をしてたなんて知らなかった。ずっとただの冒険者かと思ってたから」
「立派な...父さんだった..んだな」
青年も相槌を打つ。
「うちも...将来はパパみたいになりたいな」
少女がまた呟く。それを聞いたマルコは小さな驚きを感じ、改めてハンナを見た。そして微笑むと、彼女の肩を叩いてこう声をかけた。
「...きっと...なれるさ。ま、そのためには冒険だけじゃなく勉強もしなきゃあな」
再び少女が小さく頷いた。
「...勉強とはなんだ」
すると傍らを歩いていたヨハネが尋ねる。答えに詰まったマルコ青年はごまかした。
「そりゃ...頭を鍛えるってことさ」
「鍛えるとはなんだ」
「そりゃ...前はできなかったことに挑戦してできるようにすることさ」
「挑戦とはなんだ」
「できねぇかもってとか、怖いって思ったときにもやってみるってことさ」
そこまで説明すると、巨漢は何か納得したような顔になりそれ以上何も尋ねなかった。
表通りは昼飯時に近づいたせいかランチを求める通行人で賑わっている。
マルコは、ふと思い立って仲間たちに声をかけた。
「提案なんっすけど、昼飯がてらこないだの酒場行ってみません?」
「さんせい!うち、あのマリアお姉ちゃんに会いたいな。あ..でも今日はシフト入ってないんじゃなかったっけ?」
ハンナが叫ぶ。マルコは驚いて彼女を見た。
「お前記憶力いいんだな」
「そう?でもお兄ちゃん残念だったね!でも任務が終わったら逢いに行ってデートに誘ってみたら?」
「よせよ。大人をからかうんじゃねぇって」
他の三人も異論なしだった。マルコたちがあの酒場を探し出し扉を開けて入ると、マリアとは違う女給が出迎えてテーブル席まで案内してくれた。
――――ま、今日はいねぇ...よな。土曜だし――――
マルコが席に座りながら周囲を何気なく見回すと、カウンター席にこちらに背を向けて座っている黒髪の若い女がいる。
マリアだった。
青年の心臓がドクンと跳ねた。
「お兄ちゃん...いるじゃん!いるじゃん!ね、早く声かけてきなよ!」
すっかりいつものテンションを取り戻したハンナが囁きかけてくる。マルコは戸惑いながらも席を立ち、咳払いすると、服の襟を直し、髪を手で撫でつけてからマリアに近づいていった。歩きながらも深呼吸し、自分に言い聞かせる。
――――落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。――――
「――――ねえ!あれって『剣折りのマルコ』じゃない?」
その時、店内の落ち着いた空気を斬り裂くかのように、若い女の黄色い声が上がった。
「やだ!ほんとだ!実物超イケメンじゃない?」
「どうしよぉ!上がるゥ~!ねぇ、サインもらおうよ!」
流行りの服に身を包んだ女たちが三人ほど席を立って駆け寄ってきた。
「あのぉ....サインいただけますぅ?ファンなんですゥ!」
ひとりがニッコリと微笑みながら紙とペンを差し出す。他のふたりも同じようにせがんでくる。
「あ...あぁ。いいぜ」
思わぬ展開に困惑しながらも、マルコは鷹揚に返事をし、差し出された紙ナプキンに下手くそな字を綴った。全員に同じようにしてやると、若い女たちはようやく満足し、嬉しそうに顔を上気させながら席に戻っていった。
ふと視線を感じて顔を上げると、カウンター席に座っていたマリアがこちらを見ている。目が合うと、彼女は微笑みながら軽く首を傾げた。
「よう」
だが手を上げて近づくと、マリアはそのまま席を立ってどこかに行ってしまった。
――――えッ...――――
マルコは戸惑ってその場に立ち尽くす。だが、しばらくすると彼女は片手にビールのグラスを持って戻ってきた。
「はい。あたしの奢り」
差し出されたグラスを受け取りながらも、青年は言葉に詰まって口ごもった。
「え?あ...あぁ。悪りぃな」
「ほら、こないだサインのお礼に奢るって言ったのに、ゴタゴタしててあたし忘れちゃってたのよ」
マリアはそう言うと、再びカウンター席に腰かけた。そして自分の隣の椅子を軽く引くと視線で座るよう促した。
マルコがその椅子に座ると、マリアの席の前には教科書が何冊も積まれている。
「勉強中...みてぇだったな。邪魔したか?」
マルコが尋ねるとマリアは首を振った。
「ううん。ゼンゼン。むしろあんたみたいな有名人が話しかけに来てくれるなんて光栄よ」
だがその言葉に距離感を感じたマルコは胸に鈍い痛みを覚えた。
「有名人...?俺、そんなんじゃねぇつもりなんだけどな」
「もう....。知らないのは本人だけね」
マリアは溜め息をついて片眉を上げた。
「....町じゃ凄い噂になってるわよ?男の子たちにとってはスーパーヒーローだし、女の子たちにとっては『理想の恋人』ナンバーワンだって」
「はあ?なんだそりゃ?嘘だろ」
マルコはあまりのことに驚きを通り越して呆れてしまった。そしてもはや現実が現実ではないように思えて頭がクラクラしてしまった。
「あたしね、将来は自分の店持ちたいんだ。だからこうやって勉強してんの」
マリアは前を向くとそう続けた。マルコは不器用に微笑むとこう返した。
「そうか。いつか叶うといいな、その夢」
「....そう思う?」
マルコはチビチビとグラスを傾けながらマリアと他愛もない会話を続けた。だが心臓がどうしようもなくドキドキと鼓動する。だが青年は決意すると、改めて口を開いた。
「なあマリア」
「なに?」
教科書に目を落としノートに何か書きつけながらマリアが返事をする。
「...俺、あと十日もすれば任務が終わるんだ」
「そうなの?じゃあまた店に来てよ。打ち上げにね」
「ああ。それでなんだが...」
マルコは顔を上げると相手の顔を見た。マリアも何気なく顔を上げ、ふたりの目が合った。
「その後、ふたりで食事でもどうだ?」
マルコは言った。だがその心の中は、巨大魔獣の攻撃を搔い潜って大剣の一撃を振るう前の瞬間よりも緊張していた。
マリアは驚いたように青年をじっと見つめている。マルコの心臓は恐ろしい勢いで鼓動を続けている。店内の賑わいが遠くに感じられた。
無限の時間が経過したような気がしたが、やがて彼女は軽く微笑むと答えた。
「――――いいわよ。金曜以降ならね」