筋肉三銃士が行く~筋肉は全て(の問題の7割くらい?)を解決する~ 作:nocomimi
地方都市・ボンッのギルド支部は朝から賑わっていた。
特に、この町はファロンの森とそれに連なる遺跡群に近く、そこに所在する数々のダンジョンが賞金稼ぎたちの人気スポットとなっている。
そのせいで、カウンターの前には剣士やその他の冒険者たちが群がり、壁際に並んだソファも順番を待つ者たちで満席状態だ。
その室内に、マルコ青年と少女ハンナが扉を開けて姿を現すと、カウンターの周囲にいた剣士たちから声がかかった。
「よぉ、マルコじゃねぇか」
「なんだ、今日は子供づれか?お前いつの間にガキできたんだよ」
「あぁ。よう。久しぶりだな」
マルコはほとんど関心のなさそうな様子で挨拶を返すと、扉を開けたまま振り返り、外に向かって手招きした。
ヌッ........
室内にいた者たちは、皆会話をやめて黙った。文字通りそんな擬音がしたかと思ったからだ。
戸口を一杯に塞ぐ人影。
身長185センチのマルコよりもさらに一回り大きい。さらに異様なのは広すぎる肩幅と厚すぎる胸板。業務用大型冷蔵庫がそこに立っていると形容しても言い過ぎではない。
そして、その業務用大型冷蔵庫のような体躯の上にある顔はその一面が髭に覆われており、
灰色の瞳を持つ双眸の上にかかった極太の眉毛は、何かを訝しむかのように僅かに曲げられていた。
「ず...ずいぶんガタイのいい兄ちゃんだな、え?冒険者志望か?」
近くにいた皮鎧姿の剣士が一人、感心したように呟いた。だが、その業務用大型冷蔵庫男は僅かに首を曲げ相手を見たきり何も言わない。
その剣士はやや気を悪くした様子で言葉を継いだ。
「おい、新人。まずは挨拶だろ。この業界は年数とランクが物を言うんだ。覚えと....」
「挨拶とはなんだ」
大男は言った。まるで地鳴りのような迫力の声だった。
予想外のことにポカンと呆気にとられた顔の剣士に向かって、マルコ青年が取りなすように言う。
「悪ぃな、ルードヴィヒ。こいつはド田舎で育ったから都会の作法ってもんを知らねぇんだ。....おい、ヨハネ、こっちだ」
マルコ青年に導かれ、ヨハネと呼ばれた巨漢は奥に進んでいき、カウンターの前に立った。だがそこでも苦情の声が上がった。
「おい、並んでたのは俺が先だぞ!順番守れよ!」
しかし、ヨハネと呼ばれた大男は反応さえしない。そして、手にぶら下げていた袋をカウンターの上にドカンと置いた。
「お...お客さま。新規登録でしたらまず戸口横の整理券を....」
向こう側にいた職員が慌てて腰を浮かせる。だが、ヨハネは無言のまま袋の口を解き、中身をぶちまけ始めた。
ガラガラガラガラガラガラ....ッ。
極めて硬い何かがカウンターに次々と当たり、けたたましい音を立てる。それを見た職員の顔色がみるみるうちに青ざめていった。
ヨハネに向かって文句を言っていた男も、心臓が止まったかのような表情で口をつぐんだ。
その物体は、長さ五十センチほどの爪だった。全部でニ十本ある。
そして、袋の底から最後に転がり出てきたのは、太さ十センチほどの犬歯が四本。
ゴトッ.....。
これら全ての物を袋から出してしまうと、ヨハネは何事もなかったような様子で顔を上げた。
* * * * * * * * * * * * * *
「....ま...間違いありません。これはグラトニィ・ベアの爪と牙ですゥ....あわわわわわ」
職員は自らの目で見たものを信じられないといった様子で呟く。片手には手配書を持ち、何度も何度も目の前のものと見比べている。その背後からは、他の窓口を受け持つ職員たちまでもが顔を覗かせていた。一様に大きく目を見開き、額に汗を浮かべている。
「....で....倒したのは、どなたのパーティで...?」
「森荒す獣、倒す」
ヨハネと呼ばれた男は短く答えた。その横からマルコ青年が顔を出すと補足した。
「倒したのはこいつだ。間違いねぇ。俺も現場を見たからな」
「え?いや...その...おひとり....で?」
職員が尋ねると業務用大型冷蔵庫男は軽く頷き、マルコも同意する。
途端に室内にざわめきが広がった。
「...み..未経験の新人が..単独で大型魔獣討伐だって?」
「い...イカサマじゃないのか?」
「で...でもあの爪見ろよ。造りもんに見えるか?」
暫くの間ポカンと口を開けていた職員はようやく笑顔を浮かべると、言葉を継いだ。
「で...では...賞金受け取りのためにはまず冒険者登録していただく必要があります。こちらの書式にご記入を.....」
差し出された紙を前に、しかし、ヨハネと呼ばれた男は微動だにしなかった。
そのまま数秒が経過し、横にいたマルコ青年が見かねて口を出した。
「おい、簡単な書類だろ?別に考える必要はねぇよ。上から書いてきゃいいんだから」
「そ...そうです。まずはここにフルネームのご記入を.....」
同調した職員が手で欄を指し示した。するとヨハネが言った。
「フルネームとはなんだ」
その瞬間、職員の顔が固まった。まるで脳のどこか大事な部分が一瞬で停止したような表情だった。
数秒の後、職員はしどろもどろで説明を始めた。
「え...えっと...フルネームというのは...その...苗字と名前を...」
「苗字とはなんだ」
再びヨハネが質問を発する。マルコ青年もまた困惑に顔を引き攣らせていたが、気を取り直したように声を上げた。
「あぁ、きっとこいつ、苗字が無ぇんだよ。俺の先祖も確か三代前までは苗字が無かったしな。そうだよな、ヨハネ?」
「苗字...とはなんだ」
同じ言葉が返ってくる。その時、ハンナが後ろから近寄ってきた。
「どうお兄ちゃん?ヨハネおじさんの登録。進んでる?」
「い...いや。ちょっと時間がかかるみてぇだな。何しろ、こいつ苗字がねぇっていうんだ」
マルコ青年が顔に苦悩を浮かべながら呟く。するとハンナは明るい声で言った。
「じゃさ、『ファロンの森のヨハネ』で良くない?カッコいいじゃん?それに実際あそこに住んでるんだし」
「そ...そうだな、それで行こう」
青年は頷くと、ヨハネと呼ばれた男に言った。
「ほら、ここの欄さ。『ファロンの森...』って」
だがそれでも男は石像のように固まってピクリとも動かなかった。職員とマルコ青年は困惑して顔を見合わせ、そしてまた大男の顔を見た。
「なぁ...ヨハネ。お前、もしかして......」
胸中に悪い予感が急速に膨んでいくのを感じたマルコ青年はおずおずと尋ねた。
「お前...文字...書けねぇとかじゃ...ねぇよな?」
「.....文字とはなんだ」
それを聞いたマルコ青年の顔から血の気が引いた。ハンナは狐につままれたような表情でただ口を開けている。
ようようの時間が経ったあと、職員がようやく口を開いた。
「....あ...あの...なんでしたら書類は代筆でも結構ですので....」
* * * * * * * * * * * * * * * *
背伸びしてカウンターに顎を乗せたハンナが手早く書類の記入を済ませると、職員は奥の金庫から何かを取り出して持ってきた。
「ヨ...ヨハネさん。こちらが特定討伐指定魔獣の賞金になります。高額になりますので気を付けてお持ち帰りください」
カウンターの上に、硬貨が十枚ほど並べられた。どれも金色に輝いている。
「二十万ルピー金貨!うち生まれて初めて見る!」
ハンナの目が大きく開かれる。マルコは素早く手を伸ばして金貨をまとめると、ヨハネの魔獣なみに巨大な手のひらにそれを握らせた。
「おめでとさん。初めての賞金だな。....だが、お前の頑張り次第でこれからも一杯稼げるぜ」
「..........」
だが、ヨハネは無反応だった。何の感情も浮かんでいない目で、手に乗った硬貨をじっと見つめている。
「珍しいか。ま、そりゃそうだよな。俺でさえ単価百万超えの案件なんて年に一度あるか.....」
マルコがそう言った瞬間だった。ヨハネは金貨を一枚つまむと、迷わず口に持っていった。
ガリッ.....
凄まじい音がした。
「不味い」
大男は金貨を口から出すと、見つめながら呟いた。金貨には深い噛み跡がつき、もう少しで二つに分断されそうになっている。
「よ...よせ!喰いもんじゃねぇし...だいいち勿体無ぇだろ!」
マルコが慌てて制止する。職員も目を白黒させていたが、ハンナが気づいたように声を上げた。
「ねぇ。それはそうとヨハネおじさんのランクは?こんだけ実績作ったんだから、Bは固いよね?」
「え....ええと、規程によりますと...特別討伐指定魔獣を単独で倒した場合は特例によりAランクとなります...ただし...」
規程集を手にした職員が眼鏡を直しながら言う。
「まっじぇ!俺と同じかよ!」
「すごぉいヨハネおじさん!」
マルコは叫び、ハンナは両手を叩いた。職員は言葉を継いだ。
「ただし、最初の一年はソロでの高難度ダンジョン攻略はできません。必ずAランク以上の冒険者が率いるパーティで経験を積んでください」
「そりゃ任せとけ。俺が稼ぎ場に連れてってやるからよ。よろしく頼むぜ、ヨハネ?」
「うちのこともよろしくね!ヨハネおじさん!」
ふたりが笑顔で言うと、ヨハネは軽く頷いた。
だが、このヨハネという男は、さらに想像を絶する『規格外の存在』であったことを、このふたりは思い知ることになる。
* * * * * * * * * * *
翌日。
ファロンの森から数キロ離れた岩崖にあるとある洞窟の入り口。
ゴブリンの巣窟として知られるこの場所に、マルコ青年、少女ハンナ、そして大斧を抱えた巨漢ヨハネの姿があった。
「俺が先頭。ハンナは俺の後ろ。ヨハネは最後尾な」
「あいあいさー」
剣を抜いたマルコが指示すると、少女ハンナは予備の剣とカンテラを抱えながら敬礼し、ヨハネは軽く頷いた。
「よし、行くぞ!」
三人は突入した。曲がりくねった洞窟を急ぎ足で進んでいく。
やがて洞窟は広い場所に出た。カンテラの光の届かない奥のほうにはギラギラと光る眼がいくつも浮かんでいる。
「ほらおいでなすった。じゃ、稼がせてもらうとすっか」
マルコは足早に歩を進める。すると耳障りな喚き声とともにその光る眼が散開し始めた。
―――ギギッ....ギギッ....ギギッ....―――
カンテラの薄明りに照らされる魔物たち。オークよりやや小柄だが、曲がりくねった剣を持つゴブリンだ。
「ぬ゛ぉ゛り゛や゛!」
だがマルコ青年は問答無用とばかりに、相手が態勢を整えるヒマも与えず武器を振り回し始めた。剣がブチ当たった個体がたちまち致命傷を負って倒れる。
「ずぉ゛り゛や゛!」
ドシュッ......
「ずぉ゛り゛や゛!」
ドシュッ......
「ずぉ゛り゛や゛!」
ドシュッ......
青年が振り回す剣が通過した空間に居合わせただけで、ゴブリンの武器、頭、腕、身体が二つに分断される。魔物たちは狼狽し、後じさった。
バキィンッ........!
だが十体余りが倒れたところで、鋭い音が響く。剣が折れたのだ。
「マルコお兄ちゃん!二本目!」
すぐ後ろに控えていた少女ハンナが叫び、予備の剣を差し出す。
だが意外なことが起こった。青年は手を上げて制止したのだ。
「いや、いい」
「えっ...なんで?」
少女が目をぱちくりさせると、マルコはニヤリと笑った。
「ヨハネの奴にも見せ場を作ってやりたいだろ?」
そう言うと、マルコ青年は足元に倒れていたゴブリンの足首を掴んだ。
「ぬ゛ぉ゛り゛や゛!」
風の鳴る音とともに、『肉の棍棒』が残りの敵を襲う。一撃を受けた魔物たちがよろめいた。
「ぉ゛り゛や゛!ぉ゛り゛や゛!ぉ゛り゛や゛!」
マルコ青年はその手に掴んだものを遮二無二振り回した。打撃を受けたゴブリンが吹き飛び、あるいは床に打ち倒されて武器を放り出す。
別の世界の話になるが、●馬●一郎という人物はかつて敵兵の身体をヌンチャク替わりに振り回して敵軍を圧倒したという。だが、マルコ青年の技はそこまで洗練されたものではない。ただ筋力で振り回しているだけだ。
暴れまわる青年に圧倒され、やがて生き残ったゴブリンたちが洞窟の出口に向かって逃走し始めた。
だが、そこにはあの男が立っていた。
業務用大型冷蔵庫のような巨躯を持つ男。ヨハネだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
ゴブリンたちは一瞬静まり返った。まるで大木のごとくの大男が、斧を構えて目の前にずっしりと立っている。
「ヨハネ!頼んだぜ!」
「頑張って、ヨハネおじさん!」
マルコとハンナは洞窟の奥から声をかける。
だが、それでもヨハネは動かなかった。彼は極太の眉をしかめながら目の前にいる魔物たちを訝し気に見つめていた。
それも後から考えれば当然である。彼からしてみれば、ゴブリンなど幼稚園児にしか見えなかったであろうからだ。
だが、いつまでも動かないヨハネを目の前にして、ゴブリンどもはやがてきょとんと互いに顔を見合わせ、何事か囁き交わし、そしてクスクスと笑い始めた。
そしてとうとう、皆がこの大男を指さしてゲラゲラと笑い始めた。
「...ヨ...ヨハネ!どうしたんだよ?」
マルコが叫ぶ。ハンナも心配顔になってきた。これでは計画と違う。
やがてゴブリンどもはヨハネに近づくと、手に持った剣の先で大男をつつき始めた。
ヨハネはますます怪訝な顔をした。だが、それでも動かない。
とうとうゴブリンどもが哄笑し始めた。そして一匹が奇声を上げると剣を振り上げた。
「ヒャッハーッ!」
ザクッ.....。
刃が大男の脚に食い込む。他のゴブリンたちも次々に真似をし始めた。
ザクッ.....。ザクッ.....。
ヨハネの腕や脚に当たった。
魔物たちは調子づき始めていた。
いったい魔物というものは、相手が断固として抵抗すれば引き下がるが、相手が無抵抗なら調子に乗るというどうしようもない奴らなのである。
――――だが、その時だった。
「....ヒャッハーッとはなんだ」
地響きのようなヨハネの声が洞窟に響くと、途端にゴブリンどもはピタリと動きを止めた。
大男の目がギラリと光る。そこには明らかに何かの感情が浮かんでいた。
先頭に立っていたゴブリンは思った。
―――この男と相対したとき、何か違和感を感じていたのだ。―――
―――こいつは人間?いや、大木のようにも見える。―――
―――だが、それとも違う。巨大な岩のような。巨大な動物のような。―――
そして彼は突然悟った。
いずれにせよ自分は、絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に怒らせてはいけない存在を怒らせてしまった、ということを。
――――ブウンッ........!――――
斧の刃が空気を裂いて唸った。それと同時に、切断音が響いた。
スパスパスパスパスパスパッ.....!
ゴブリンの首が吹き飛ぶ。それもひとつふたつではない。六つも。
「なッ........一振りでまとめて六体かよっ」
心配顔になっていたマルコが、今度は賞賛と呆れの浮かんだ表情で呟いた。
――――ブウンッ........!――――
再び斧が唸り切断音が続いた。
スパスパスパスパスパスパッ.....!
ゴブリンの首がまるで球技のボールを籠からぶちまけたときのように洞窟の床に転がる。
「ヒ.......ヒエェッ!」
ゴブリンどもが声にならない声を上げて後じさる。
「...ヒエェとはなんだ」
大男ヨハネはズシンズシンと足音を立てながら迫ってゆく。その足音は、先日マルコが退治したオークの首領のものよりもさらに重々しかった。
「おぉっと俺のことも忘れてもらっちゃ困るぜ!」
ハンナからこの日二本目の剣を受け取って抜き放ったマルコが、洞窟の奥から進み出る。
完全に挟み撃ちにされた魔物たちはいよいよ進退窮まった。
――――ブウンッ........!――――
スパスパスパスパスパスパッ.....!
「ずぉ゛り゛や゛!」ドシュッ......
「ずぉ゛り゛や゛!」ドシュッ......
「ずぉ゛り゛や゛!」ドシュッ......
そして一分後、洞窟内のゴブリンどもは一匹残らず倒れていた。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
「お兄ちゃん...ヨハネおじさん怪我してないよ」
ハンナはほとんど茫然自失のありさまで呟いた。
洞窟から出た後、彼女はヨハネの怪我の具合を心配し、強いて彼を座らせて服を脱がせたのだ。そしてマルコが持参した膏薬を受け取り、それを塗ろうと手にとったときだった。
そこには一切出血がなかった。皮膚に傷さえついていない。
あまりにも毛深すぎて、刃が届かなかったのだ。
「....毛が天然の鎧ってどんだけだよ....」
呆れ笑いと、一抹の畏怖を感じながらマルコは首を振った。するとハンナが苦労してヨハネに服を着せながら言った。
「今日の稼ぎはゴブリン一体二万×四十だから八十万だよね?今日は剣一本しか折れてないから差し引き七十万。上出来ね!」
「あぁ..だな」
マルコも上機嫌で答える。すると彼女は青年の近くに寄り、手を後ろで組みながら上目遣いで見上げた。
「でね。お兄ちゃん...相談なんだけど」
「ぁ?なんだ?」
「....うちの取り分、2割にしてくんない?」
「ぁ゛ぁ゛ぁ゛?」
予想外の言葉にマルコは目を剥いた。そして気を取り直すと片眉をしかめて相手を睨みつけた。
「おいおいおいざけんな。たった2度目のダンジョンでいきなり昇給なんてありえねぇだろ。認めねぇ。お前は1割だ1割」
「ふぅん。わかった。無理にとは言わないけど......でもさ」
一旦は引き下がりつつも、少女ハンナは意味ありげな視線をチラリと送ってきた。
「もしうちが1割のままでよ?それで残りをお兄ちゃんとヨハネおじさんで均等に分けるんだったら4.5割づつってことになるよね?」
「ぁあ..それがどうした?」
「.....お兄ちゃん、小数点の計算、できるの?」
それを聞いたマルコは電流に撃たれたような衝撃を受けた。寺子屋にも学校にも通ったことのない彼にとっては、『小数点』など未知の概念だったからだ。悔し紛れに彼は呟いた。
「....っチッ。このガキが。いちいち痛いとこ突いてきやがって」
「それか、お兄ちゃん5割、ヨハネおじさん4割でもいいのかもしんないけど、それだと不公平感が生じてふたりの連携にヒビが入ったりしちゃわないかなぁ~......ッ?」
少女はにんまりと笑いながら畳みかける。青年は数秒考えた後、押し出すように言った。
「...クソッ...。わぁったよ。お前は2割な。その代わり次回はもっとこき使うから覚悟しとけよ」
「うん!うち、料理でも洗濯でもなんでもやるから!」
少女ハンナの顔がみるみるうちに輝く。そして彼女は鼻歌を歌いながら暗算し始めた。
「七十万の二割は十四万........うわぁ.....こんな大金初めて!いっそ魔法使いの杖、買っちゃおうかなぁ!」
ゲンナリとした顔でマルコ青年は溜め息をついた。出会ったときからこの少女には振り回されっぱなしだ。彼は服を着終えたヨハネに歩み寄ると、こう言った。
「てなわけだ。お前の取り分は四割でいいな?」
「...四割とはなんだ」
「...なんでもねぇ。こっちの話さ」
相手の返事を聞いたマルコはほっと安堵すると、巨岩のようなヨハネの肩を叩いた。そして、改まった様子で口を開いた。
「――――で、ところでお前ら。実は寄りたい場所があるんだ。付き合ってくれっか?」