「カウントダウンか」
「タイムリミットは五分ね。いいわ、少しは手ごたえが出てきたじゃない」
「嬉しそうにするんじゃないよ……。仕方ない、二手に分かれよう。それぞれ資料を見つけた方が早い」
「あら、合理的ね」
「時間切れが何を意味するか分からないんだ。遊んでる暇はないよ」
「分かったわ。無様なところ見せないでね、店長さん」
「そっちこそ」
二人は廊下の分岐で左右へ別れた。
『04:31』
潯は手近な資料室へ飛び込み、棚を片端から確認していく。
ほとんどは備品や職員に関する記録。
だが、その奥に一冊だけ赤い帯の巻かれたファイルがあった。
『異象実験報告』
「……当たりか」
潯はそれを引き抜き、歩きながら頁をめくる。
特定のグループ関係者以外の閲覧を禁ずること。
外部への情報公開を禁止すること。
そして、その下には明確に『異象』を対象とした実験について記されていた。
「なるほど。病人の研究じゃなくて、最初からこっちが目的だったってわけか」
ファイルを抱え、そのまま次の部屋へ向かう。
一方。
『03:12』
残虹もまた別の区画を進んでいた。
「五分でこの広さ。二人一緒に歩いていたら到底間に合わないわね」
誰に聞かせるでもなく呟きながら、開いたオフィスへ入る。
机の上には職員のシフト表。
ざっと目を通しただけで眉が僅かに上がった。
「……人数が合わない」
勤務記録に記された人員と、研究区画へ配置された人数が一致していない。
残虹は紙を折り畳み、そのまま懐へ入れた。
『01:47』
廊下の向こうから潯の声が響く。
「残虹! 何か見つけたかい!」
「一つ!」
「こっちもだ! まだ探すよ!」
「ええ!」
それだけ確認し、二人は再び別方向へ走る。
『00:42』
研究区画の奥。
残虹が次の扉へ手を掛けたところで、電子音が急激に大きくなった。
『00:10』
「早すぎない?」
廊下の反対側から潯が走ってくる。
「残虹! 一旦戻るよ!」
「どこへ?」
「知らないよ! でもゼロまで待つ必要もないだろ!」
『00:05』
残虹は逃げず、壁の数字を見上げた。
「ちょっと待ってみましょうか」
「はぁ!?」
『00:03』
「時間切れになったら何をされるのか」
『00:02』
「調べるいい機会でしょう?」
「この性悪女――!」
『00:01』
残虹が楽しそうに笑った。
『00:00』
瞬間。
研究区画の照明が、一斉に消えた。
そして次に明かりが戻った時。
二人は三階のエレベーター前――研究区画の扉の外に立っていた。
壁のモニターには再び、
『05:00』
と表示されている。
しかし数字は減っていない。
「資料は?」
残虹が自分の持っていた書類を取り出しながら尋ねる。
潯も手にしたファイルを掲げた。
「ある。……包帯実体に捕まった時と同じか?」
「病院の入口まで戻されるわけではないけれどね」
残虹は手元の資料を軽く振った。
「私たちだけ所定の位置へ戻して、手に入れたものも探索した結果も取り上げない。似たようなものではあるわ」
「……あんたの言ってた“親切”の意味が分かってきたよ」
潯が研究区画の扉を見る。
「五分しかないなら、二人で同じ場所を調べるより別々に動いた方がいい。現にあたしたちもそうした」
残虹の口元が僅かに上がる。
「普通、時間制限を設けるなら探索を邪魔するためでしょう?」
「ああ。なのに時間切れになっても入口に戻されるだけ。拾った資料まで残してくれる」
「そう」
残虹は、にたりと笑った。
「この時間制限――私たちを追い出すためじゃなくて、散らすためにあるんじゃないかってことよ」
潯はしばらく研究区画を見つめた。
「二人で同じ資料を見るより、それぞれ別の資料を見た方が、一度に持って帰れる情報は増える」
「あら。随分察しが良くなったじゃない」
「誰かさんが、さっきから嫌味ったらしくヒントを出してくるんでね」
「何のことかしら」
残虹は涼しい顔で答えた。
潯はため息を吐く。
「ともかく、これで三つ揃ったはずだ。映写機へ行くよ」
「賛成。ここはまだ、深入りする段階じゃなさそうだもの」
二人はエレベーターで二階へ戻った。
映写室へ入れば、予想通りだった。
机の上には三本のフィルム缶。
先ほどまで二人が調べていた資料と、それぞれ対応する題名が付けられている。
「ほんっと、ご丁寧なことで」
「最後まで手順通りにやってほしいんでしょうね」
二人はそれ以上言葉を交わさず、三本のフィルムを映写機へ取り付けた。
すべての映写機が回り始める。
やがて三つの光がゆっくりと動き、一点へ重なった。
白い光が急激に強くなる。
残虹は目を細めた。
「さて――」
その隣で潯も光を見つめる。
「今度は、何を持って帰らされるんだろうね」
次の瞬間。
二人の視界が真っ白に染まった。