異伝ー名もなき病院ー   作:Kataparuto

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第四話 冷山病院という名前 ③

「カウントダウンか」

「タイムリミットは五分ね。いいわ、少しは手ごたえが出てきたじゃない」

「嬉しそうにするんじゃないよ……。仕方ない、二手に分かれよう。それぞれ資料を見つけた方が早い」

「あら、合理的ね」

「時間切れが何を意味するか分からないんだ。遊んでる暇はないよ」

「分かったわ。無様なところ見せないでね、店長さん」

「そっちこそ」

 

 二人は廊下の分岐で左右へ別れた。

 

『04:31』

 

 潯は手近な資料室へ飛び込み、棚を片端から確認していく。

 ほとんどは備品や職員に関する記録。

 だが、その奥に一冊だけ赤い帯の巻かれたファイルがあった。

 

『異象実験報告』

 

「……当たりか」

 

 潯はそれを引き抜き、歩きながら頁をめくる。

 特定のグループ関係者以外の閲覧を禁ずること。

 外部への情報公開を禁止すること。

 そして、その下には明確に『異象』を対象とした実験について記されていた。

 

「なるほど。病人の研究じゃなくて、最初からこっちが目的だったってわけか」

 

 ファイルを抱え、そのまま次の部屋へ向かう。

 一方。

『03:12』

 残虹もまた別の区画を進んでいた。

 

「五分でこの広さ。二人一緒に歩いていたら到底間に合わないわね」

 

 誰に聞かせるでもなく呟きながら、開いたオフィスへ入る。

 机の上には職員のシフト表。

 ざっと目を通しただけで眉が僅かに上がった。

 

「……人数が合わない」

 

 勤務記録に記された人員と、研究区画へ配置された人数が一致していない。

 残虹は紙を折り畳み、そのまま懐へ入れた。

『01:47』

 廊下の向こうから潯の声が響く。

 

「残虹! 何か見つけたかい!」

「一つ!」

「こっちもだ! まだ探すよ!」

「ええ!」

 

 それだけ確認し、二人は再び別方向へ走る。

 

『00:42』

 

 研究区画の奥。

 残虹が次の扉へ手を掛けたところで、電子音が急激に大きくなった。

 

『00:10』

 

「早すぎない?」

 

 廊下の反対側から潯が走ってくる。

 

「残虹! 一旦戻るよ!」

「どこへ?」

「知らないよ! でもゼロまで待つ必要もないだろ!」

 

『00:05』

 

 残虹は逃げず、壁の数字を見上げた。

 

「ちょっと待ってみましょうか」

「はぁ!?」

 

『00:03』

 

「時間切れになったら何をされるのか」

 

『00:02』

 

「調べるいい機会でしょう?」

「この性悪女――!」

 

『00:01』

 

 残虹が楽しそうに笑った。

 

『00:00』

 

 瞬間。

 研究区画の照明が、一斉に消えた。

 

 

 そして次に明かりが戻った時。

 二人は三階のエレベーター前――研究区画の扉の外に立っていた。

 壁のモニターには再び、

 

『05:00』

 

 と表示されている。

 しかし数字は減っていない。

 

「資料は?」

 

 残虹が自分の持っていた書類を取り出しながら尋ねる。

 潯も手にしたファイルを掲げた。

 

「ある。……包帯実体に捕まった時と同じか?」

「病院の入口まで戻されるわけではないけれどね」

 

 残虹は手元の資料を軽く振った。

 

「私たちだけ所定の位置へ戻して、手に入れたものも探索した結果も取り上げない。似たようなものではあるわ」

「……あんたの言ってた“親切”の意味が分かってきたよ」

 

 潯が研究区画の扉を見る。

 

「五分しかないなら、二人で同じ場所を調べるより別々に動いた方がいい。現にあたしたちもそうした」

 

 残虹の口元が僅かに上がる。

 

「普通、時間制限を設けるなら探索を邪魔するためでしょう?」

「ああ。なのに時間切れになっても入口に戻されるだけ。拾った資料まで残してくれる」

「そう」

 

 残虹は、にたりと笑った。

 

「この時間制限――私たちを追い出すためじゃなくて、散らすためにあるんじゃないかってことよ」

 

 潯はしばらく研究区画を見つめた。

 

「二人で同じ資料を見るより、それぞれ別の資料を見た方が、一度に持って帰れる情報は増える」

「あら。随分察しが良くなったじゃない」

「誰かさんが、さっきから嫌味ったらしくヒントを出してくるんでね」

「何のことかしら」

 

 残虹は涼しい顔で答えた。

 潯はため息を吐く。

 

「ともかく、これで三つ揃ったはずだ。映写機へ行くよ」

「賛成。ここはまだ、深入りする段階じゃなさそうだもの」

 

 二人はエレベーターで二階へ戻った。

 映写室へ入れば、予想通りだった。

 机の上には三本のフィルム缶。

 先ほどまで二人が調べていた資料と、それぞれ対応する題名が付けられている。

 

「ほんっと、ご丁寧なことで」

「最後まで手順通りにやってほしいんでしょうね」

 

 二人はそれ以上言葉を交わさず、三本のフィルムを映写機へ取り付けた。

 すべての映写機が回り始める。

 やがて三つの光がゆっくりと動き、一点へ重なった。

 白い光が急激に強くなる。

 残虹は目を細めた。

 

「さて――」

 

 その隣で潯も光を見つめる。

 

「今度は、何を持って帰らされるんだろうね」

 

 次の瞬間。

 二人の視界が真っ白に染まった。

 

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