独占欲の強い幼馴染と恋人になった俺は、規則でがんじがらめの現代ダンジョンで成果を出して成り上がる。頭脳労働は任せたぞ ~双星の攻略者~   作:グラシアS

2 / 6
第02話 今度は俺がお前の力になる

 

『お掛けになった電話番号は、現在、使われておりません』

 

 澪と同じ高校へ進学した俺は、高校卒業後も彼女と同じダンジョン系の大学へ進んだ。

 就職先も、澪と同じ大手企業から内定をもらっている。

 

 現在は大学四年の秋。

 卒業まで、あと半年という頃だった。

 

 ここ最近、澪の様子がおかしい。

 以前よりも苛烈に訓練を行うようになった。

 それだけなら変ではない。

 問題は、その疲労が授業にまで影響を及ぼしていることにある。

 

 澪に直接尋ねても、教えてくれなかった。

 だから、兄である玲司さんから情報を得るしかない。

 

 そう思ったのだが、返ってきたのは本人の声ではなく、無機質な案内音声だった。

 

「は?

 どういうことだ……」

 

 電話番号が解約されているのか?

 一体なんで、何のために……。

 

「とにかく情報を集めねぇとな」

 

 最初にいくところ……それは玲司さんの職場だ。

 彼は八洲開発の名古屋支社で働いていたはず。

 俺は、大学に欠席の連絡をして、電車に飛び乗った。

 

 少しの時間を経て、会社に到着する。

 

「ここが、玲司さんの勤めている会社か……」

 

 ダンジョンに入る者たちは、冒険者と呼ばれている。

 だが、実際には会社員と変わらない。

 会社に帰属し、会社の命令でダンジョンの仕事を行う。

 

 一部の例外を除けば、現実なんてそんなもんだ。

 

「すみません。

 私、天城玲司さんの知り合いで、用事があるので、取り次いでもらえないでしょうか」

 

 俺は会社の受付に用件を伝えて、玲司さんに会わせてもらうように頼んだ。

 しかし……

 

「天城玲司さんは昨日付けで退職しています」

 

「は? 辞めた?

 Sランクの冒険者を辞めたんですか?」

 

 玲司さんは、最高ランクのパーティーに所属する冒険者だった。

 だが、パーティーとは会社に帰属するもの。

 会社を辞めれば、当然そのパーティーにも所属できなくなる。

 

 どうして辞めてしまったのか。

 普通ではありえない。

 

「はい。残念ながら、個人情報が関わってくるため、これ以上はお伝え出来ません」

 

 どうやら澪の不調の原因は、兄である玲司さんにありそうだ。

 彼を中心に何かが起こっている。

 

「だが、どうやって情報を集めたもんか……」

 

 会社を退職した……この事実から推測できる彼の目的は、独立だろうか。

 ダンジョンに入るには、関連の企業に就職するのが手っ取り早い。

 だが、単独でダンジョンに入れるようになる資格は、一応ある。

 

 もっとも、試験が非常に高難易度で、一流企業に入ったほうが手っ取り早いはず。

 少なくともSランクパーティーを辞めるほどのメリットはない。

 

「……悩んでいても仕方ないな。

 とりあえず、管理団体のところに向かうか」

 

 可能性は低い。

 だが、今の俺には、ほかに玲司さんの足取りを追える場所がなかった。

 

 俺がこの会社を出ていこうとした時、声をかけられる。

 反射的に振り向くと、そこには一人の女性がいた。

 

 目の下の隈とゴスロリ風なファッションが特徴的な女性で、彼女の名前は久世(くぜ)小夜(さよ)

 玲司さんと同じパーティーで活躍していた人で、俺も澪の家で何度か顔を合わせている――

 

 よくこの服装が認められているな。

 

「進くん……もしかして、君も玲司の奴を嗅ぎまわっているの?」

 

 こちらから要件を聞く前に、玲司さんの話題がでた。

 やはり何かが起きているのは、間違いない。

 

「何かあったんですか?」

 

「……知らないんだ。

 なら、言う事はないかな。

 情報規制も出てるし」

 

 そう言って彼女は手に持ったあめ玉を口に運びながら、ゲートから会社の中に入ろうとする。

 まずい……あのゲートを超えられたら社員証を持たない俺では、入ることもできなくなる。

 

「待ってください!

 澪の様子が変なんです!!

 絶対に玲司さんのことが、関係しているはずです!!!」

 

「服を引っ張るな!

 澪ちゃん本人に聞けばいいでしょ……」

 

「本人に聞いても、答えないから調べ回ってるんですよ!」

 

 彼女は立ち止まり、睨み付けてくる。

 かなり怖いが、ここで臆してはいられない。

 

 やがて、あめ玉が噛み砕かれる音がした。

 

「仲間になにも言わずに、海外にいこうとするスリル中毒者のことなんか知るかぁ!!」

 

「海外……?」

 

 俺が呆然と呟くと、彼女は顔を青くした。

 

「えっと、いまの……聞かなかったことにしてね」

 

 そういってゲートの向こう側へと消えていった。

 海外への移籍……それが玲司さんのやろうとしていることなのか。

 

 でも、それの何が問題なのか。

 スポーツ選手なら、一流ほど報酬の良い海外へ移籍することもある。

 どうして情報規制まで出ているのか。

 

 だが、肝心の玲司さんがどこにいるのか、それすらも分からない。

 何か手掛かりがないか調べようと、携帯を取り出した。

 

 その瞬間、誰かから電話がかかってくる。

 まさか玲司さんが……そう思った俺は、反射的に電話に出た。

 

『30分後に、一人で中部空港近くのみたけ公園に来い。

 ただし、他に誰もつれてくるな。

 他の人間がいれば、お前と接触することはない』

 

 録音された自動音声によるものだ。

 何があったのかを知りたいなら、ここに行くしかない。

 ここからなら時間ぎりぎりになる。

 

「急げ……」

 

 およそ30分後、俺は指定された公園にたどり着いた。

 そこには、玲司さんの姿がある。

 

「来たか……

 まず大手企業への内定、おめでとう。

 澪の奴から聞いたよ。

 推薦であいつと同じ企業に行くらしいな」

 

 褒められて悪い気はしないが、今はそんなことを話している場合じゃない。

 今は……澪が焦っている理由を突き止めるのが、最優先事項だ。

 

「どうして会社を辞めたんですか?

 海外に行くためですか?」

 

「ああ……知ってたのか?

 ああ、そうだ……ここだけの話、アメリカから好条件でスカウトを受けてな」

 

「だから、会社を辞めたってことですか?

 でも、それなら電話番号を解約する必要はなかったんじゃ……

 説明もなしだと澪も心配しますし」

 

 俺がそう言うと、玲司さんは思いっきり笑い始めた。

 

「言うわけねぇだろ。

 お前……最高ランクのパーティーメンバーが海外に移籍する。

 その意味を理解してねぇな?」

 

「意味?」

 

「俺の移籍が露見すれば――

 

 あの一家は誹謗中傷の嵐に叩き込まれる」

 

 背筋に嫌な冷や汗が流れ落ちた。

 澪たちが誹謗中傷されることになる……それは一体どういうことなのか。

 

「分からねぇって顔してんな。

 単純だよ。

 国家事業であるダンジョン開発の最前線にいた人間が金で引き抜かれた。

 この事実は、売国奴と見られてもおかしくねぇ行為だ」

 

「売国奴……そこまで?」

 

 考えろ、今の国の状況と、玲司さんが言おうとしていることを。

 

 ダンジョンには、文字通り無限の資源が存在する。

 だからこそ、国はダンジョンへの投資を積極的に行ってきた。

 

 もし最高ランクパーティーの一員だった玲司さんが、他の国に移ればどうなるか?

 すなわち、この国が集めてきたダンジョンでの知識が、他の国に流出することに他ならない。

 

「どうやら理解したらしいな」

 

「……分かっていて、移籍するつもりなのか?

 最高ランクの待遇はかなり良かったはずだ!

 ニュースでも政治家と食事だなんだと、まさに国の英雄扱いだったじゃないか?

 それなのに、どうして移籍するんだ?」

 

「そうだなぁ、まぁ待遇面だなんだと、言い訳を付けることはできる。

 実際、政治家の奴にはそういった理由を言ったしな。

 だが、お前に対しては、本音で語るとしよう――

 

 やってみたかったからだ!!」

 

「ど、どういうことだ?」

 

「いちいち聞くな。深い意味はない。

 移籍してみたかった……まずは、それだけの話さ」

 

「それで澪たちが不幸のどん底になろうとも?」

 

「はっ、人の本能そのものさ。

 ダンジョンが世界中に出現したとき、人は興味本位で足を踏み入れた。

 俺はそれと同じことがしたいだけだ」

 

 ああ、玲司さんは……いや、玲司は澪のことなんか少しも考えていない。

 ただ自分の欲望のためだけに動いている。

 

「なら、どうしてその話を俺に聞かせた?」

 

「ダンジョンが好きなんだろう?

 なら、一緒に来ないか?」

 

 玲司に勧誘された。

 少し前までなら、これほどうれしいことはなかっただろう。

 だが、今は違う……こいつは自分勝手な行動で、澪や家族に泥を塗るような行為を平然とする人間だった。

 そんな奴に勧誘されても、嬉しくなんかない。

 

「断る」

 

「即断即決か……まぁいい。

 俺と接した中で一番可能性が高そうだったから誘っただけだ」

 

 そう言って、玲司は動き出した。

 おそらく、空港に向かうつもりだろう。

 

「だが、必ず後悔するぞ。

 向こうは自由だ。

 こちらのように危険だなんだと、足を引っ張るような奴らはいねぇ」

 

「後悔はしねぇよ。

 俺は、ずっと澪の隣に立つためにやってきた。

 海外に行ったら、それができねぇだろうが!!」

 

 玲司をこのまま行かせれば、海外移籍は現実になる。

 そうなれば、こいつが言った通り、澪たち誹謗中傷の嵐に叩き込まれるだろう。

 

 俺に玲司を拘束する権利なんてない。

 それでも、黙って道を譲ることだけはできなかった。

 

「随分と惚れてやがるな。

 その行動も澪のためか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「はっ、悪くねぇ。

 なら、チャンスをやろう」

 

「チャンス……だと?」

 

「ああ。

 この近くの演習場を押さえてある。

 そこで俺と戦って、一発でも当てられたら、海外移籍を取りやめてやってもいい」

 

 相手は、完全に格上の冒険者。

 僅か一発とはいえ、かなり厳しい戦いを強いられることになるだろう。

 その凄さを身近で見てきたから、なおさらに。

 

 だが、ここで負けるわけには行かない。

 全ては気の迷いだった。

 ただそれだけで終わらせるために――

 

 やがて太陽は沈み、演習場には冷たい照明が灯る。

 この日、俺は玲司に負けた。

 

 

 澪の兄である玲司が、アメリカに移籍してから一月が経過していた。

 奴が自らマスコミへ情報を送りつけたことで、その移籍は大々的に報道された。

 

 結果、澪たち天城家は、玲司の言った通り誹謗中傷の嵐に飲み込まれている。

 自宅には無言電話が相次ぎ、家の前には天城家の様子を撮影しようとする人間まで現れた。

 澪も学内ですれ違うたび、売国奴の妹だと囁かれている。

 

 もちろん、海外へ移籍する自由は人権として保障されている。

 政治家たちも、家族への誹謗中傷はやめるよう声明を出していた。

 

 だが、人の感情は正しさだけじゃ止まらない。

 

「澪……俺は、お前の支えになってやりたい」

 

 俺にできることはないのか。

 最近はそればっかり考えている。

 

「今日は澪の家だったな」

 

 俺は、家の呼び鈴を鳴らす。

 すると、澪が俺を出迎えた。

 

「来たわね。

 続きをやりましょう」

 

 あの事件をきっかけに、俺たちは授業が終わると遊ぶようになっていた。

 どちらかの家に寄り、ゲームをしている。

 重火器を使って、協力しながら敵を倒すゲームだ。

 

「あはは、良いわね。

 訓練や勉強に時間を当ててたから、あまりこういうのはできなかったし……」

 

 そういって彼女は楽しそうに笑った。

 ゲームを楽しんでいるのは事実だろう。

 それが、空元気に見えてしまうのは、俺だけなのか。

 

「もう、夢を叶えるための努力はやめたのか?」

 

 彼女の夢は、玲司と同じSランクの冒険者となることだったはず。

 けれど、海外移籍の件があってから、彼女はそのための自主練を行っていない。

 もう、諦めてしまったのか……俺はそれが知りたかった。

 

「……やめた」

 

「やっぱり、大手企業の内定が取り消されたのが理由なのか?」

 

「そりゃね……流石に堪えるよ」

 

 彼女は今回の騒動で、決まっていた企業への入社が白紙となっている。

 

 その企業への入社には、国の安全適性認定が必要だった。

 だが、玲司の海外移籍によって認定は取り消され、再認定が必要となる。

 

『期日までに安全適性認定が再度下りなければ、内定は取り消される』

 

 会社の事務職員から、電話でそう説明されたらしい。

 だが、再認定にも通常、一年程度かかる。

 

 入社まで、あと半年。

 どう考えても間に合わない。

 条件を満たせなかったという形になるが、実質的には入社を拒否されたようなものだ。

 

 認定を必要としない企業からも内定は得ている。

 だが、決して彼女が満足できるような就職先ではないだろう。

 

「じゃあ、もうSランクは目指さないのか?」

 

 そう聞くと、彼女はじっと俺の顔を見つめてくる。

 こちらも見つめ返すと、数秒で彼女は目線をそらした。

 

「人生は、このゲームと同じよ。

 目標に向かって、ステータスを毎日積み上げて……今がある。

 でも、ステータスを上げることに、意味がなくなったら?」

 

「意味がない……って、冒険者になれなくなったわけじゃないだろ?」

 

「ええ、そうね。

 おそらくCランクまでは行けるでしょうね。

 逆に言えば、それ以上は不可能に近い」

 

 澪がいうには、就職する会社によって、冒険者ランクの上限は実質決まっているらしい。

 ランクを上げるには、試験だけでなく、相応の仕事を経験する必要がある。

 

 だが、中堅や零細企業では、危険度の低い場所で単純作業を任されるだけ。

 上位ランクへ上がることは、ほぼ不可能と言っていい。

 

「私は、そんな人生のために頑張ってきたわけじゃない」

 

 Cランクに価値がないわけじゃない。

 だが、Sランクになるために全てを注いできた澪に、それで満足しろとは言えなかった。

 

「現実でもゲームでも、ステータスを上げ続けるには目標が必要なの。

 絶対に達成したいと思える目標がね」

 

 彼女の瞳には、悲しみはないように見える。

 あるのは、諦めと僅かな疲れ……できれば、こんな彼女は見たくなかった。

 

「だから……まぁ、ダンジョンの仕事は最低限にするわ。

 これからは趣味を充実させて、人生を謳歌するつもりよ」

 

 確かにそれも一つの選択だろう。

 けど、俺は――

 

「なぁ、お前なら諦める以外の道が見えてるんじゃないか?」

 

 彼女の体が僅かに震えた。

 たぶん、何かが思いついている。

 

「……確かに道がないわけじゃない。

 大手企業に頼らず、自分たちで実績を作る。

 

 けれど、それはいばらの道。

 安全圏にいる人間から『そこへ進め』と言われるほど、腹の立つことはないわね」

 

 ああ――それもそうだ。

 俺は、まだ彼女が行きたかった企業へ入社することができる。

 なら答えは簡単だ。

 

 俺は、彼女の前で内定承諾書を破り捨てた。

 

「何のつもり?」

 

「俺が高ランクを目指しているのは、両親を探すためだ」

 

「……知ってるわ」

 

「だがな、俺はお前の力がなければ、両親のところにはたどり着けないと思っている。

 それだけ、頼りになる奴だ……お前は」

 

 俺は、これまでたくさん助けられてきた。

 遠回りをしていた俺に、努力の方向を正してくれた。

 苦手な科目でも、最低限の点数を取れるように、勉強を教えてくれた。

 

 もしも、彼女がいなければ、こんな一流大学で、自らの力を磨けることはなかったはずだ。

 

「だから、今度は俺が、お前の力になる。

 頭脳労働は任せたぞ。

 その代わり、俺が最前線で体を張る。

 お前の夢に協力させてくれ」

 

 俺が、真剣な表情でそう言うと、彼女は笑い始めた。

 

「大手企業の内定を捨ててまで、私を選ぶと?

 なら、それだけじゃ足りない……

 今ここで、この道に人生の全てを捧げる。

 そう、誓えるのなら、アタシもその覚悟に応じよう」

 

 彼女は俺に向けて、手を差し伸べてきた。

 もう、俺の答えは決まっている。

 

 俺は迷うことなく、その手を取った。

 

「迷いなく手を取ったわね。

 後悔することになるわよ?」

 

「もう覚悟はできてるさ」

 

 澪は、俺の顔をじっと見つめる。

 やがて、納得したのか、ゲームの電源を落とした。

 

「さて、なら最初にすることがあるわね」

 

「……何をするんだ?

 かっこいいこと言っておいてなんだが、手段自体は何も……」

 

 そう言うと彼女はさらに笑った。

 仕方ないだろう。悪知恵は働かない方なんだ。

 

「決まっているでしょう?

 アタシたちが成長するために、うるさいのを黙らせましょう」

 

 澪の奴にやる気が戻ってからは早かった。

 天城家への誹謗中傷の中でも、住所の拡散や脅迫など、明らかに一線を越えた連中を選び出す。

 そいつらに対して一斉に発信者情報の開示請求と訴訟を仕掛けた。

 

 天城家が本気で反撃を始めたと知れ渡ると、あれほど騒いでいた連中は、目に見えて口を閉ざしていった。

 玲司が持ち出さなかった大金を使い、澪は悪質な連中をまとめてねじ伏せたのだ。

 

「これで随分と誹謗中傷は減ったな」

 

「ええ、とっても清々しいわ。

 できるなら怒りのままに魔法を叩きつけたいところだけど、これで我慢するわ」

 

 彼女はそう言って笑っていた。

 ダンジョンがあろうとも、法律はしっかりと機能している。

 社会に生きる者として、最大限に有効活用すればいいだけの話だ。

 

「なぁ、玲司はどうして、あんな大金を置いていったんだ?」

 

 裁判には多くの現金が必要となるが、澪にその資金はない。

 だが、不幸中の幸いか……玲司は家の中に、かなりの量の現金を乱雑に放置していた。

 合計で、およそ一千万円。俺から見ても、正気とは思えない。

 

「金なんてどうでもいいと思っているんでしょ。

 実際、金だけなら日本でもそれなりに稼げていたはずだし」

 

 澪曰く、玲司は昔から現金には興味を示さなかったのだという。

 妹である彼女にも、玲司の考えは理解できないらしい。

 

 彼が本当は何を求めているのか、今の日本ではそれが得られなかったのか。

 袂を分かった今でも、俺たちには分からない。

 

「兄のことはもうどうでもいいわ。

 それよりアンタよ。

 アンタとアタシはもう一蓮托生……

 どちらかが死ぬ時、それは両方が死ぬ時でもある。

 

 さぁ、ともに最期まで足掻きましょう」

 

 不安はある。

 安定した就職を蹴ってまで、することじゃない……多くの人はそう思うだろう。

 けど、これが俺の選んだ道だ。

 なら、後は腹を括るだけ。

 

 澪と一緒に、この世界でダンジョンを攻略する。

 そこに全てを捧げるのだ。

 

「父ちゃん、母ちゃん……待ってろよ。

 澪と一緒に、ぶん殴りに行ってやる」

 

 この時の俺は、澪の言う「一蓮托生」を、同じ目標を追う仲間になったという意味でしか捉えていなかった。

 数日後、彼女から一枚の紙を差し出されるまでは――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。