独占欲の強い幼馴染と恋人になった俺は、規則でがんじがらめの現代ダンジョンで成果を出して成り上がる。頭脳労働は任せたぞ ~双星の攻略者~   作:グラシアS

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第04話 お前ら全員不合格だ

 

「お前ら全員不合格だ」

 

 試験官と思われる男が、俺たちの前に立ちふさがっている。

 どうしてこんな状況になったのか――。

 

 少しばかり時を遡る。

 卒業から三、四か月ほど前の話だ。

 

 俺たちは新幹線で試験会場に向かっていた。

 今回受ける単独侵入資格試験・低層級は、東京でしか開催されていない。

 だが、ここをケチってはいられない。

 この試験に合格しなければ、ダンジョンに入ることすらできないのだから。

 

「あれ? 通常資格だと駄目な理由ってなんだっけ?」

 

 ダンジョンに入ることを認める資格は二種類ある。

 単独侵入資格と、通常資格の二つで、俺たちが受けるのは前者だ。

 

 しかし、この試験は合格率が非常に低い。

 反対に通常資格は、合格率が毎回九割を超えているというデータがある。

 通常資格では、ダメな理由があった気がするが、ど忘れしてしまった。

 

「通常資格は、五人以上が前提条件なのを忘れたの?」

 

「あ、そうだった……忘れてた」

 

 通常資格は、少人数での活動を許していない。

 あくまでも会社という法人に所属し、多人数での活動を前提とした資格だ。

 その最低人数は五人、それに対して、俺たちは二人しかいない。

 通常資格では、二人だけでダンジョンに入ることはできないのだ。

 

「緊張しているの?

 でも、あれだけ対策をしたのだから大丈夫よ。

 アタシたちなら必ず合格できるわ」

 

 そう言って、澪は俺の手を握る。

 少しだけ緊張が和らいだ気がした。

 

「受験者ですか?

 では、受験票をご提出ください」

 

 試験会場に到着すると、受付の人に受験票を渡す。

 すると受付の人は、腕に着けていた腕章を引っ張って見せた。

 

「この赤い腕章を着けている人が、試験官です。

 分かりましたか?」

 

 俺たちは首を縦に振る。

 すると、受付近くにいた試験官に、一つの部屋へと案内される。

 

 大学の教室に似た部屋。

 ここは既に試験区域の中だ。

 受験票に記載されていたが、指定された試験区域内は、ダンジョン内として扱われる。

 その中で起こす全ての行動が、採点対象となるのだ。

 

 既に試験は始まっている。

 

「よう、新人かい?

 緊張してそうだな、ほぐすためにジュースでもどうだい?」

 

 椅子に座った俺たちに、一人の男がジュースを勧めてくる。

 見え透いた罠だな……俺は、愛想笑いを浮かべながら、ゆっくりと前にあるホワイトボードを指さした。

 そこには『部屋内、飲食禁止』と書かれていた。

 

「おいおい、そんなルールを守るようなチキン野郎で、この試験が受かると思ってんのかい?」

 

「いや、ルールを守れない奴のほうが受からないだろ」

 

 他人を罠に嵌めようとする人種だ。

 こういうのとは、関わるだけ損をする。

 

「明確に足を引っ張りに来たわね。

 この手の輩もいる試験か……考えてみれば、受験条件はないものね」

 

「確かにな」

 

 この試験は難易度が高いことで有名だが、受験に条件はない。

 どうしてそうなっているのかは、分からないが随分と非効率に見える。

 

 もっとも、だから俺たちが受けることができている可能性もあるわけだが。

 

「それで、あれが注意事項か」

 

 俺たちは意識を前のホワイトボードに移す。

 そこには、他にも注意事項が書かれていた。

 

『受験者および試験官との私闘を禁ずる』

『試験官の指示には、必ず従うこと』

『筆記試験はこちらの指定した筆記用具を使うこと』

 

 これは覚えておいた方がいいだろう。

 そう思った瞬間、ホワイトボードの前に杖が突き刺さった。

 空気が張りつめ、静寂が空間を満たす。

 

「静かにしろ!!」

 

 杖に降り立つは、一人の男。

 男は角刈りで、厳つい顔つきをしていた。

 分厚い肩と太い腕を見る限り、相当鍛えているのは間違いない。

 

 その男は、腕に赤い腕章をしている。

 間違いなく試験官の一人だろう。

 

「お前ら全員不合格だ」

 

 瞬間、会場に動揺が広がる。

 隣を見ると、澪の奴もかなり険しい顔をしていた。

 

「ただの主観でしかねぇがな。

 お前らの中で、この試験に合格できる奴はいねぇよ。

 だから、今すぐに帰んな」

 

「は? いきなり出てきてなんだ!?

 合否は試験の結果で決まる。

 それが大前提だろうが!!」

 

 最前列に座っている一人が文句を言う。

 正直、かなり同感だ。

 それに対して、男は呆れたようにため息をついた。

 

「確かに現時点で、合否を下す権限は俺に無い。

 だが、いいか? 

 単独侵入資格ってのは、簡単に認められる資格じゃないんだよ。

 資格保有者のダンジョン内での行為は、基本的には全て自己責任だ。

 けど、事故が起きたらそんなのは関係なしに、こっちが非難される。

 

 そんな状況で、容易く合格者を出すと思うか?」

 

 基本的に通常資格において、資格者の安全管理義務は企業が負っている。

 だが、単独侵入資格は違う。

 安全管理は、資格者本人が行うことになっている。

 

 だからこそ、彼らはそう簡単に合格者を出さない。

 

「悪いことは言わない。

 ダンジョンで仕事がしたきゃ、関連の中小企業にでも就職して、通常資格を取得しろ。

 低層の労働者は、常に人手不足なんだからな。

 

 分かったか?

 身の程を弁えて帰るなら、今のうちだ。

 五分間だけ、待ってやる」

 

 数人がこの部屋から出ていく。

 だが、俺たちにはこの部屋から出ていくという選択肢はない。

 俺たちは、最高の冒険者になると誓ったのだから。

 

「言っておくが、この試験に安全の保証なんかねぇぞ。

 普通に怪我もするし、出すつもりはねぇが重傷者が出たこともある。

 

 これは忠告だ。

 身の程を弁えて、帰れ」

 

 試験官の男が言葉を吐くたびに、少しずつ人数が減る。

 男の発する圧力が、受験者たちの気力を奪っているのだろう。

 

 もっとも、俺たちにとっては屁でもないが。

 

 やがて五分が経過した。

 そのころには、既に残り人数は半分を切っていた。

 

「そうか……自ら茨の道に飛び込むか。

 ならば、今すぐにここで脱落しろ!!」

 

 そう言って男は赤い腕章を取り外す。

 同時に杖が浮かび上がり、尋常ではない魔力を放出した。

 

魔弾散華(まだんさんげ)

 

 大量の魔力弾が、空に浮かび上がり、受験生に向けて一斉に飛来する。

 だが、甘いな……先に刀を抜いたのはそっちだ。

 

魔弾散華(まだんさんげ)

 

 次の瞬間、全ての魔力弾が相殺される。

 澪が全く同じ魔法をぶつけて、完全に相殺したのだ。

 男は、目を見開いて澪を見た。

 

「マジかよっ!?」

 

 相殺されるのは、完全に想定外か?

 分かりやすいくらいに隙だらけだ。

 

 俺は即座に男に接近する。

 今の奴は赤い腕章を外している。

 つまり、試験官ではない。

 攻撃しても、何ら問題はないだろう。

 

 俺は、即座に男の持っている杖を握りつぶす。

 魔法使いにとって、杖は単なる飾りではない。

 明確な補助であり、これを失えば魔法の精度は著しく落ちる。

 

 男の意識がこちらに向くが、俺は即座に離脱した。

 敵視の誘導リレー……基本的なヘイト管理だからこそ、対処が難しい。

 

 男の全身に、魔力弾が大量に張り付き、その一部が小規模に炸裂する。

 やがて、男は舌打ちしながら、赤い腕章を再び腕に嵌めた。

 

 瞬間、張り付いていた魔力弾は、綺麗さっぱり消え去る。

 

「試験官に戻りましたか……

 さて、どう思いますか?

 これでも、アタシたちは不合格だと?」

 

 澪が魔力を滾らせながら、男を睨みつけた。

 先ほどの試験官とは比べものにならない、凄まじい圧力だ。

 

 俺も冷や汗をかきそうになる。

 実際、受験生の中には気絶している者もいた。

 

「はっ、はは、頼もしいもんだ。

 このふるいを突破する奴が現れたのは、何年ぶりだ?」

 

 ボロボロの試験官は笑った。

 なるほどな、今のも試験の一部だったわけか。

 おそらくはふるいにかけられたのだろう。

 

 単独でダンジョンに入るだけの覚悟と実力を、手っ取り早く確認するために行われた。

 試験には条件がなかったから、明確に不足している連中を落とす狙いがあったのだろう。

 

 その狙い通り、受験者は先ほどのやり取りだけでかなり減っていた。

 

「しかも、現役のBランクパーティーに所属するこの俺を、こうも容易く叩き潰すなんてな……

 試験官が、受験者にやられることは、ほとんどない。

 とんだ規格外だぜ……お前ら」

 

「褒めるのはもういいので、さっさと試験を次に進めてください」

 

 澪はそう詰め寄る。

 確かにその通りだ。

 俺たちはこの試験に合格するために、多くの対策をしてきたのだから、この程度は当然だ。

 

「はいはい、不本意だけど、しっかりと試験を行うよ。

 はぁ、このふるいで全員落とすつもりだったんだけどね。

 まぁ、仕方ないか」

 

 気だるげな声がする。

 赤い腕章……この人も試験官か。

 

 他の試験官と違って、この人からは圧というものをまるで感じない。

 寝ぐせのついたぼさぼさの黒い髪に、不健康そうな顔色が特徴的な女性だ。

 雰囲気としては、小夜さんにかなり近い。

 

 もっとも、一目見た感じでは社交性は小夜さんよりも下に見えた。

 こんなのが試験官なのか?

 

「だるいが名乗っておこう。

 我が名はエクリプス……君たちの大先輩さ」

 

 エクリプス……偽名か?

 本名とは、とても思えないが。

 いや、多様性という概念もあるし、単純に変わった名前の人なのか。

 

「さて、表向きは筆記試験を行うってなってたが、そんなものは採点が面倒なだけで、単独侵入資格に必要なものは何も分からない。

 だから、我が独断と偏見で試練を出し、それを採点する。

 合格したければ――

 

 ヘマをせずに、己を示せ」

 

 そう言って彼女は黒い霧となって消える。

 魔力で姿を覆い、その場から凄まじい速度で離脱したのだろう。

 見ただけで分かる。

 彼女は凄腕の魔法使いだ……まさに魔女と呼ぶにふさわしい存在だった。

 

「……筆記試験はないんですか?」

 

 他の受験者が、残った試験官に尋ねる。

 すると試験官はおもむろに溜息をついた。

 

「だから、EX(エクストラ)に試験官を任せるなとあれほど……」

 

 試験官たちもかなり困惑しているようだった。

 EX(エクストラ)

 一体なんだ……それは?

 

「……筆記試験を行わないわけにはいかない。

 エクリプスの試験を突破した者だけ、その後に筆記試験を行う。

 こんな形になってしまって申し訳ないが、理解してくれ」

 

 試験官が頭を下げてくる。

 よく分からないが、あのエクリプスと言う奴は相当厄介な地位にいるらしい。

 あれだけの暴走が事実上、許されているのだから、これは相当だろう。

 

「ああ、話が逸れちまったが、

 受験番号08番、31番、55番……お前らは失格だ」

 

「いや、あんたに……」

 

「いや、さっきの奴とは違って、オレには採点の権限がある。

 そして、お前は前提条件を満たしていない。

 即座に退出願おうか……」

 

 受験番号を呼ばれた三人が、試験官に囲まれた。

 一体どうして……そう思ってその三人を観察する。

 すると、俺たちの胸元に取り付けられているものが、彼らには見当たらなかった。

 

 それは、カメラだ。

 ダンジョンでは行動の責任を明確にするため、その持参が義務づけられている。

 だが、彼らは持ってきていない。

 

 しかも、持参するだけではダメだ。

 事前に運営側へ申請を行い、映像をリアルタイムで送信しなければならない。

 彼らはその前提を満たしていないため、ここで不合格を言い渡されたのだ。

 

「その他の受験生は、ここで待て。

 エクリプスの奴と連絡する」

 

 そう言って試験官は、不合格者を連れていった。

 当然だが、不合格者はかなり不満げだった。

 まぁ、こればっかりはしっかりと事前準備をしてなかった奴が悪い。

 

「彼女から連絡がきた……我々が試験会場に案内する」

 

 俺は残った受験生を確認する。

 人数は四十人程度だろうか……残り四割弱まで減っていたということだ。

 

 澪が、試験官の魔法を相殺していなければ、もっと人数は減っていただろうな。

 

「進、ありがとう。

 何の打ち合わせもしてなかったのに、しっかりと合わせてくれたわね」

 

「ああ、あの状況になったら、お前は動くと思ってな。

 構えておいた」

 

 俺は彼女に向けて笑って見せた。

 すると、彼女も優しい笑顔でそれに応えてくれる。

 やっぱり俺には彼女が必要だ。

 

「じゃあ、試験会場に向かいましょうか」

 

 俺たちは試験官の指示に従い、会場へと向かおうとした。

 その時、近くから大きな落下音がする。

 まるで巨大な鉄塊が落ちたような轟音が……。

 

 振り返ってみると、そこには一人の少女が頭から転けていた。

 いったい、どうしたというのか。

 

「だ、大丈夫か?」

 

『強大な魔力による影響と判断。

 プログラムを修正……完了しました』

 

 機械音声と共に少女が立ち上がり、こちらを見る。

 その顔はけっこう幼い……高校生、いや中学生か?

 

 外見からでは、とても先ほどのやり取りに耐えられるようには見えなかった。

 

「先ほどのバトルは見ていた。

 随分と目立つ奴だな。

 この試験が終わったら、ボクと連絡先をトレードしろ」

 

 彼女の瞳の奥で、幾重もの光輪がレンズの絞りのように収縮していた。

 その姿を見て、ようやく俺は理解する。

 彼女が転けた時、あれだけの轟音を発した理由を。

 

 間違いない――

 

 彼女は改造人間だ。

 

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