独占欲の強い幼馴染と恋人になった俺は、規則でがんじがらめの現代ダンジョンで成果を出して成り上がる。頭脳労働は任せたぞ ~双星の攻略者~ 作:グラシアS
「雑魚のくせに、生意気なんだよ!!」
下品な怒鳴り声が聞こえてくる。
太っちょで厳つい男が、細身の研究員風な男を脅しているようだった。
「あんなのも冒険者をしているのか?」
ここはダンジョンの入り口がある場所。
大きめの駅にある改札口といった印象を受ける。
大学を卒業した次の日、ようやく単独侵入資格・低層級の資格証が届けられた。
これさえあれば、いつでもダンジョンに入ることができる。
俺と澪は、さっそくダンジョンに入ることを目的に、この場所を訪れた。
そして、出入り口に到着して、早々に暴行の現場に遭遇している。
「……何があったのか知らないが、少し落ち着かないか?
人間への暴力は、ダンジョン内でも普通に犯罪だ」
よく見ると研究員風な人の顔には殴られたような傷があった。
間違いなく、この太っちょな男に殴られた傷だろう。
「はっ、坊主……これは教育だよ。
魔物一匹も倒せないような無能が、ちょっとガラクタ弄りがうまいからって、俺よりも時給が五百円も高いんだぜ?
世の中の不公平さに嘆いちまうよ。
だから、俺はこいつを殴ってもいいんだよ。
悪いのは、不当な評価をする社会の方さ」
そう言って太っちょの男は、研究員風な男を笑っている。
完全に見下されているようだった。
個人的にぶん殴って制裁したいところだが、それをしたら今度は俺が資格を剥奪されるだけだ。
ここは穏便に済ませるべきだろう。
そう思った時、騒動を無視して受付に行っていた澪が戻ってきた。
「受付の不具合……直らないから、証明書を目視で確認するって」
その言葉を聞くと、太っちょの男は研究員風の男に唾を吐きかけて、ダンジョンの出入り口の方に向かっていった。
受付の不具合か……入り口前に多くの人がたむろしているのは、おかしいと思っていた。
ダンジョンの出入り口は、完全に機械制御されており、スムーズな入退出を可能としている。
ホームページでも、それを売りにしているくらいで、どうしてこんなところで人がいるのか分からなかったが、不具合があったのなら自然な流れか。
「澪、どうして先に行くんだよ。
まぁいいけどさ、そんなことよりもティッシュある?」
「……助けるの?」
「当たり前だろ?」
「……覚えていないのか、それとも気づいていないのか、あるいは気にしていないのか」
「なんだ?」
「なんでもないわ。
それよりもティッシュよ。
先に行ったのは、謝るわ。ごめんなさい。
まさか、助けようとするとは思わなくて」
澪からティッシュを受け取った俺は、研究員風の男にかけられた唾を拭いてやる。
放置するのは、普通に汚いからな。
「大丈夫か?
やられっぱなしだったなお前……」
そう言いながら、俺は改めて研究員風の男を観察する。
よく見ると、彼は右脚が義足のようだった。
しかも、かなり古いタイプで、これでは魔物との戦闘はできないだろう。
「高瀬進……」
小さな声で確かにそう呟いた。
その顔は、とても悲しそうに見える。
「なんだ……俺を知っているのか?」
「……いや、知らない。
手を差し伸べてくれて、ありがとう」
そう言って、彼は出入り口の方へとよろよろ歩いていく。
どうやら先ほどのやり取りで、義足が歪んでしまったようだ。
俺は息を吐いて、彼の体を支える。
「俺たちは初めてダンジョンに来たから、低層のこと……少しばかり案内してくれないか?」
「……分かった。
いいぞ、俺がこの低層のことを教えてやる」
俺たちは出入り口に向かい、係員の指示に従い受付をする。
「っ!? 単独侵入資格……か」
「やっぱりすごいか?
取るのに結構苦労したんだぜ」
そんな軽口を交わしながら、俺たちは出入り口からダンジョンへと入る。
出入り口から入って、最初にたどり着く場所……そこが低層と呼ばれる場所だ。
「分かっていたけれど、この光景……ただの工場ね」
「澪……いうな。
夢とロマンがなくなっちまうだろうが……」
宝箱がリポップした瞬間に、機械のアームによってこじ開けられ、中に入っていた回復薬がベルトコンベアによって運ばれ、地上へと送られている。
それだけじゃない。
魚や肉、草木に至るまで、低層で出現するあらゆる資源や道具が、自動で回収されては、地上に送られているのだ。
「ダンジョンに存在する資源は、文字通り無限だ。
一定周期でリポップ……つまり再出現する。
当然、機械で自動的に回収する仕組みを作れば、最短時間で確保できる」
低層では、重火器のような広範囲で高い火力を出せる攻撃手段は、すべて禁止されている。
理由の一つは、回収機材を破壊する可能性があるためだ。
日本では、既に低層に存在する約八割の資源を、最高効率で回収する仕組みを作り上げていた。
これは既に社会の基盤となっている。
仮に何かしらの理由で停止することになったら、責任問題にまで発展しかねない。
「これが低層のマップだ」
そこには大きなモニターがあり、大きく地図が映し出されていた。
どこにどんな機械があって、どんな資源や道具が回収されているのか。
機械に現在問題が発生しているか、などの状況が表示されている。
「これはリアルタイムで更新されていて、担当場所で問題が起きれば、技術者と戦闘担当がすっ飛んでいく」
ここが管理地区と呼ばれている場所だ。
既に完全に安定しきっていて、俺たちの出る幕はない。
「……放棄区画は何処にある?」
「やはり、放棄区画が目当てか。
簡単だ。このモニターで不自然に途切れているその先に、放棄区画はある」
「ありがとうな」
放棄区画とは、何かしらの理由で管理が放置された区画のことだ。
有用な資源がない、魔物の巣が近くにある、通信障害が多発するなど様々な理由で、採算が合わないと判断された場所だ。
俺たちはその放棄区画で、何かしらの問題を解決し、実績を作る必要がある。
そうでなければ、低層よりも下にある中層に入るための資格を取得できない。
「なんだ?」
ちょうどその時、大きなモニターの一部が赤く染まり、けたたましい警報音が鳴り響いた。
モニターから聞こえてきたのかと思ったが、どうやらこの研究員風な男がもつスマホからのようだった。
「……どうやら、俺の会社が担当している区域の機械に問題があったようだ」
そう言って、研究員風な男はゆったりとした動きで、問題のある場所に向かおうとしている。
だが、その動きはひどく鈍重だ。
歪んだままの義足では仕方ないのだろうが、このままでは間に合わないだろう。
「……もしかして手を貸すの?」
「ああ、低層でどんな問題が起きるのかも知っておきたいし、大きな問題が起こってるなら、それを解決することで実績になるだろ?」
澪は、おもむろに溜息をついた。
「実績になるような問題が、早々に起こるわけがないわ。
それに、問題を解決したところで、それがそのままアタシたちの功績になると思えない。
最悪、越権行為で処罰されても不思議じゃない」
俺たちは資格を取得して、単独でダンジョンの低層に入れるようになった。
だが、何でもしていいわけじゃない。
基本的に企業が行う通常業務には、干渉するなと釘を刺されている。
「でも、放っておけないだろ。
それに、こいつ一人で解決できそうな問題なら、首は突っ込まないよ」
そう言うと、澪はあからさまにため息をついた。
「お人好しね……まぁ、低層の状況を知っておくのは、悪いことじゃないか」
俺たちは研究員風な男を連れて、問題が発生した地点に向かった。
一体、何が起きたのか。
そう思いながら問題の発生地点に到着すると、そこでは先ほどの太っちょな男が機械にもたれかかっていた。
その影響で、自動採掘が停止してしまっているようだ。
なんだ……強い魔物が出現したとかじゃないのか。
「おい!
そこにもたれかかるな!!
機械が止まってんだろうが!!」
研究員風な男は、声を張り上げる。
それに対し、太っちょな男は気だるげに首を傾げた。
あ……これは、騒動になるな。
「ふふっ、メンテナンス職員様が俺たちに偉そうに説教だとよ。
機械様のご機嫌取りは、テメェら高給取りの役目だろうが!!」
そう言って、太っちょな男は研究員風な男の首根っこを掴んだ。
これはもう完全に暴力行為だ。
俺が止めに入っても問題ないだろう。
そう思って、俺は研究員風な男を、太っちょの男から引きはがした。
「……あ? さっきの奴?」
「……
あいつは単独資格の保有者だ。
やりあったら、まず勝てませんぜ」
太っちょな男の周りにいた一人の男が、奴に対して進言している。
さっきはいなかったが、どうやら太っちょな男の腰巾着らしい。
「チッ、繊細な機械様のご機嫌をしっかりと取っておけよ!!」
そう言って太っちょな男は去っていった。
随分と冒険者の質が低い……低層では、あんなのしかいないのか?
「ありがとう。
だがもういいよ。
俺はこれから、こいつのメンテナンスに入るし、お前たちは自分の目的に戻れ」
「そうは言っても、またあいつが来るかもしれないし、低層の冒険者についても聞いておきたいし、もうちょっとだけいるわ」
「……好きにしろ」
研究員風な男はそう言って、工具を取り出して機械のメンテナンスを始めた。
どうやら今の義足でも出来る作業らしい。
「それで、この低層の冒険者ってのは、あんな感じの奴らばっかりなのか?」
「低層は、かなり自動化が進んでるからな。
上が言うには、『低コストで合理的なダンジョン運営』だそうだ」
確かに想像以上に自動化が進んでいる。
まさか宝箱まで、自動で開封し、その中身を自動で運んでいるなんて思ってもなかった。
「だから、自然と人件費は減らされる。
人件費の低下は、人員の質を低下させるからな。
俺を含めて、まともじゃない奴のほうが多くなる。
――まぁ、あそこまで極端な奴らは、そう多くはないがな」
「だから、虐めようって輩が出てくるのか」
俺の冒険者イメージは、Aランクだった両親とSランクだった澪の兄である玲司さんだけだ。
低いランクの冒険者が、どんな状況なのか。
実際に目の当たりにすると、かなりイメージとのズレを感じる。
なら、俺たちはどうするか……
それを考えていると、澪が研究員風な男を睨みつけた。
「因果応報ね……これまでやってきたことのツケが回って来たんじゃないかしら?
覚えがあるでしょう?
は?……彼があの虐?
俺が中学生だったころに、ガキ大将だった奴だと?
いや、こればっかりは澪の勘違いだろう。
確かに似ていると言われたら、そうかもしれない。
だが、あいつの顔はもっと性格の悪さが現れていたし、何よりもこういった職業を見下していたはずだ。
低層でこの仕事に従事するわけがない……俺はそう思ったのだが――
「気づいていたのか……」
「ええ、大嫌いな奴のことは、自然と覚えてしまうものなのよ」
男は否定しない。
どうやら澪の指摘通り、研究員風な男の正体は平等虐だったらしい。
「お前……脚はどうしたんだ?」
俺がそう尋ねると、虐の奴は自らの義足を押さえた。
「澪の奴のいう通り、因果応報って奴さ。
お前に負けて、特別入学できなかった俺は、それまで以上に荒れた。
望んだ高校に行けなかったからと不貞腐れ、思いつく限りの非行をした。
結果として、警官に脚を切断されたんだよ」
俺の知っている虐は、性格は悪かったが、優秀な奴でもあった。
多くの魔法を習得し、実際に特別入学枠の候補に上がるほど。
だからこそ、警官も奴を止めるために、相応の手段を取ることになったのだろう。
普通の拘束では、止めることができないから。
「全てを失った今……当時の俺が抱いていた自尊心ほどくだらないものはないと気づいた。
だから、今はこうして、当時見下していた職業をやっている。
脚を失った今の俺ができる、もっとも給料の高い仕事だ。
これで、俺を見捨てないでいてくれた両親に、恩返しをしているんだ」
そう言って奴は笑った。
こう評価するのはどうかと思うが、随分と変わったな。
そう思っていると、虐の奴が深く呼吸をした。
何か、決心を固めているように見える。
「なんだ?」
虐の奴が、俺のほうをじっと見てくる。
そして、勢いよく頭を下げた。
「今更かもしれないけど、中学の時のこと……謝る。
俺が悪かった。
本当に……申し訳ない」
俺は思わず笑ってしまう。
今の彼となら、仲良くやっていけそうだ。
そんなことを思っていると、虐が持つ端末が鳴り響いた。
この音……どうやら、また問題が起きたようだ。
ここの機械は直せたようだし、早急に次の機械に向かうべきだろう。
「じゃあ行くか」
そう言って、問題が発生した地点に虐と共に向かう。
するとそこには、機械に腕を突っ込んで重傷を負っている太っちょの男の姿があった。
「な、何してんだ?」
「アアアアアアアアアアアアアアアアア
死ぬぅ、死ぬぅ、誰でもいいから早く助けろォ!!!!!」
それを見た虐は、即座に機械を停止させて、太っちょな男を助けた。
止血された太っちょな男は、タンカに乗せられて、ダンジョンの外へと運ばれる。
これは後から聞いた話だが、今回の事故は、太っちょの男が機械を破壊しようとしたことで起きたらしい。
自分よりも役立たずに見える男が、自分よりも高い給料で働いているのが気に食わなかったから、仕事を増やしてやろうと思ったらしい。
結果として、太っちょな男は腕を失うことになった。
まさに因果応報と言えるだろう。
「ここから先が、放棄区画だ。
頑張れよ」
太っちょな男がタンカで運ばれて行ったあと、虐は予備の義足に付け替えて、俺たちを放棄区画の一歩手前まで案内してくれた。
既に危険な領域だというのに、着いて来てくれるとは、本当にいい奴になったな。
「お前こそ、親孝行もいいが、自分への投資を忘れるなよ。
義足……今の時代だったら、もっと性能のいい物がある。
良ければ、たぶん、専門家と呼べる奴と会わせてもいい」
全身を機械に改造したホライゾンなら、義足についても何か力になれるかもしれない。
「ああ、ありがとう。
お前らも死ぬなよ。
低層と言っても、放棄区画はかなり危険なんだからよ」
そう言って、虐の奴は業務に戻っていった。
「……本当に変わったのかしら?」
虐の奴の姿が見えなくなった瞬間、澪がボソッと呟いた。
「なんだ……ずっと黙っているかと思えば、虐の奴が気に食わなかったのか」
「……ええ、そうよ。
中学時代のあいつがした虐めは、到底許されるべきものではないわ。
アンタだけじゃなく、多くの被害者がいたのだから」
「でも、今はそんな奴じゃなくなった。
なら、もうそんな気を張りつめる必要はないんじゃないか?」
「……そうね。
いつまでも過去にこだわるなんて、私らしくなかったわ」
そう言って、俺たちは放棄区画の入り口を見る。
入り口は、テープでふさがれていて、その前には立入禁止の看板が置かれていた。
だが、単独侵入資格の保有者なら、自由に出入りすることができる。
「さぁ、行ってみようぜ。
多くの人が匙を投げた、放棄区画って奴によ」