老犬ミニチュアシュナウザークゥーの回想日記”是非読んでくれ” 作:クゥー男
俺の名前はクゥー。
今日は朝から調子がいい。
少し歩くこともできた。
麻里がものすごく喜んで褒めてくれたよ。
調子が悪いと麻里に心配させるから、いつもこの調子でいたいんだけど、なかなか難しい。
俺にとって家族を心配させることはとても悲しいだ。
来週、有名な動物病院に連れていかれるらしい。そこでどんな検査をされるのかが俺は
憂鬱になる。
俺は動物病院が嫌いだ。
信用していない。
でも仕方がないさ。
治るためなら俺はどんな検査でも我慢するよ
麻里が喜ぶんだったらね。
今日は昨日の話の続きをしようか。
麻里は毎日働く→博仁は借金をする→麻里が返す→麻里に暴力を振る
これの繰り返しが続いた。
俺は博仁に抵抗して鳴くしか手立てがない。
とうとうその日が来た。
麻里が離婚を決めたのだ。
周りの人からのアドバイスもあったが、麻里が言っていた。
”あの人は私の働いたお金だけ。私が働けなくなったらどんな扱いをうけるのか”
ってね。
その通りだよと俺は思った。
博仁がたまに麻里に優しくするのも自分の為。
それに麻里は爆弾を体に抱えていた。
持病があったんだ。
元々体が弱いうえに働き通しで、心臓の手術もしたし、精神的にも限界がきていた。
何より体力的に限界が来ていた。
だが、博仁は簡単には離婚には応じなかった。
でも、麻里の友人や博仁の友人が間に入り、麻里との離婚を了承するよう説得した。
しかし、博仁は今度は、寧々の親権の話をしだした。
離婚の条件は、この家は博仁のもの、寧々の親権も博仁の物。
親権を取るということは寧々と離れなければいけないということだ。
この時、寧々は中学校3年生だった。
博仁は寧々には暴力を振るわず、穏やかに接していたので、寧々も動揺していたが、中
高一貫性の学校に通っている関係もあり、麻里は泣く泣く同意した。
それには周りの人も
”いつか寧々ちゃんも本当のお父さんがどんな人がわかる時が来るから、その時必ず麻里
の所に帰ってくるから・・”
との説得があったからだ。
麻里は離婚をした。
そして、マンションに引越しした。
当然俺も一緒についていくことになった。
麻里は寧々を心配して、毎日泣いていた。
そして町で散歩していても寧々の同い年の子を見ては泣いていたよ。
俺はその時思ったね。
”人間の母親の愛情というのは無限なんだな。大きくなったからといってではなく、いつ
までも「子供」として愛情を注ぎ続けるんだ”
麻里はまだ働いていた。
その間俺は留守番だったけど、寂しいと思ったことはなかった。
とにかく、麻里が心配だった。
離婚して1年たった、
ある日、麻里が
”クゥーちゃん、ちょっと今日は飲み会があるから遅くなるから、ご飯遅くなるけど、ごめんね”
といって、出ていった。
なんだかわからないけど、遅くなるということなので俺は留守番をしていた。
麻里が帰って来て、なんだかすっきりした感じで、俺にご飯をくれながら、
”今日はなんだか不思議な人に出会ったのよ、なんか横にいるだけで落ち着くんだよ。思
わず色々なこと相談しちゃった。”
それから休日ごとに麻里は、時々数時間でかけるようになった。
”クゥーちゃん、いいお友達ができたわ。なんでも話せるんだよ、一度家に呼んで鍋パー
ティしようっていうことになったから歓迎してね。”
俺は麻里がこの頃精神的に落ち着いてきているので、うれしかった。
次の日曜日、麻里が鍋を作っていた。
チャイムが鳴った。
”いらっしゃい”
”こんにちわ”
その声を聴いたとき俺は凍り付いた。
男性だった。
大柄な男性が入ってきた。かなり若い。ような気がする。
”これが噂のくぅーちゃん、こんにちわ”
といって、俺の目をじっと見つめた。その瞬間、俺は何かを感じた。
俺と同じ感性の持ち主だ。
こいつは俺を認めている。
家族を守るタイプだと。
俺は、吠えてやろうと思っていたが、やめて様子をうかがうことにした。
そうすると、二人で俺を囲んで、鍋パーティーを始めた。
3時間ぐらい、しゃべっていたが、主に会話は寧々のことだった。
”そんな旦那さんと一緒にいさせては、やっぱりだめでしょ”
”引き取る方向を考えた方がいいんじゃない。”
とか、
俺の感想は、
”へぇ~”
だったね。
なかなかいい友達じゃないか。良い奴じゃないか。
それに麻里はよく笑った。
あんなに男性といて幸せそうな麻里は俺は初めて見た。
そのやつこそが”健二”だった。
それからしばらくして、麻里が寧々と会えることになった。
麻里は健二も一緒に遊びに行くことにした。
俺はお留守番になった。
寧々は博仁との生活が嫌らしい。
毎日愚痴ばかりだそうだ。
”お金がない”
”お父さんどうしたらいいかわからない”
とか寧々は愚痴ばかり聞かされて嫌気がさしていた。
そこで健二が大学に進学したら、親権はないも同じだから、大学で自活するということで家を出たらどうかと
寧々に提案をしたそうだ。
それで麻里と一緒に暮らしたらどうかと。
寧々は喜んでいたそうだ。
実際今のマンションはワンルームだし、寧々の高校からはかなり遠いし、一緒に暮らすことは難しい。
さすがの提案におれも感心した。
そうして、何回か麻里と健二と寧々は会っていた。
俺と一緒に河川敷でバーベキューしたこともあった。
楽しかった。
3人ともよく笑い、俺も美味しいお肉を食べ、幸せだった。
ある日、麻里が笑いながら帰ってきた。
”ねえ、クウーちゃん私もちょっといけてるかも・・
今日健二さんが結婚前提で付き合わないってさ、あり得ないでしょ。
だって14歳も年下だもん。”
俺はとっさに計算した。
麻里が40歳で14歳年下ということは26歳ということか・・そんなに若いとは思え
なかった・・
”寧々にも報告しようっと”
寧々に電話をした麻里は”うそぉ~、本当にそれ考えてるの?寧々はそうした方がいいと
思ってるの?”
電話を切った麻里は、急に考え込みだした。
”クゥーちゃん、寧々が、あの人だったらお母さんを幸せにできると思うから、私は賛成
だし、あの人なら私一緒に暮らせるわって言ったんだよ。私、真剣に考えていなかったわ”
そして、寧々の後押しの下、二人は付き合いだして、すぐにゴールインした。
麻里は健二やお医者さんの勧めもあり、仕事を辞めて、専業主婦になった。
結婚して10年になるが、俺は麻里が泣いたところを見たことがない。
いつも笑っている、
時には、ばかなんじゃないかというくらい、家族3人で笑いこけている時がある。
まあ、いいさ。俺がいる見守っている限り、家族は安泰さ。
だって、俺はクゥー。家族を守る男。だからさ。