・独自設定・独自解釈を含みます
・設定整理・誤字脱字確認・文章推敲の補助として一部に生成AIを使用しています。本文は全て作者本人が執筆しています
・pixivにも同作品を投稿しています
ズキズキと痛む足を懸命に動かして坂を登る。はやく、はやく、はやく。背後にはどろどろと音を立てる黒い壁が迫ってきており、恐怖に涙を流しながらひたすら高いところを目指す。
倒壊した家々の
だが。瓦礫地帯を抜け出す寸前、飛び出ていた木材に足を取られる。さらに運の悪いことにバランスを崩して転倒し、顎を
全身が冷たいものに一瞬で覆われた。途端、激しい衝撃が体を打ち、小さな体を地面から浮かせる。濁流は止まることなく、凍るように冷たい水、その中にあった木材や車のドア、大小様々な瓦礫に体を打たれ、意識が遠のいていく──────
「……………………っっ!」
息を飲みながら私は飛び起きた。呼吸は荒く、鼓動が頭に鳴り響いている。悪寒に包まれながら闇雲に両手を振り回すと、ふわりと温かい何かが右手に触れた。無我夢中でそれを引き寄せ、腕の中に抱きとめる。
優しい温かさを全身で感じようとしていると、次第に悪寒は薄れていった。それでもまだ震えは止まらず、何度も深呼吸を繰り返す。
ここに来てから、久しぶりにあの夢を見た。最近はかなり頻度も減っていたのに。……自分が呑まれるところを感じるのは初めてかもしれない。……あの時の恐ろしい記憶が、今も自分の心の片隅で
呼吸が落ち着いてきたのを確認し、そこでようやく、自分が何か温かいものを抱き締めているのに気がついた。そっと腕の中を確認する。
きつく抱かれた腕の中には、弱々しく青紫色の光を発する大切な親友───ランプラーのノクスがいた。
「わっ……ご、ごめんノクス」
慌てて組んでいた腕を解くと、ノクスはぽとりと膝の上に落下したあとにふらふらと浮き上がった。
「……ラァン」
「ごめんってば、いきなり思いっきり抱き締めちゃって……痛いところない?」
「ルゥ……!」
恨みがましい視線を向けてくる親友にぺこぺこと頭を下げていると、階下から声が聞こえてきた。
「マオー、起きたー? 朝ごはんできてるから一緒に食べよー! 今日はちょっとお出かけだよー」
九年前のあの日の後から私を育ててくれている、ユウリさんの声だ。
「……はーい、今行きまーす!」
そう答え、頭を強く振って悪夢の残滓を振り払う。今日はもう一人の親代わり、マサルさんのバトルを見に行く日だった。ちゃんと見に行けるのはこれが初めてで、前々から楽しみにしていたのだ。……せっかく楽しみにしていたのに出鼻をくじかれてしまったような感覚があるが、いつまでもあの日に引きずられていてはいけない。
「……行こっか、ノクス」
「ラァン」
ようやくこんらんから回復したらしいノクスを連れ、私は部屋を出て階段を降りた。
リビングへ向かうと、食卓ではユウリさんが待ちきれないというふうにそわそわしながら座っていた。既に今日の準備に出ているのか、マサルさんの姿はない。
「おはよう、ユウリさん」
「おはよ、マオ! 早く食べよ、お腹すいちゃった! ノクスはこっちね、スボミーちゃんはもう食べ始めてるよ」
彼女の足元では、野生のはずのスボミーがマゴのみを小さな口で
「……お庭にいたスボミー、捕まえたんですか?」
ノクスに好物のチーゴのみを渡し、自分もパンを取りながらユウリさんに聞いてみる。
「んーん、朝お料理してたら窓から入ってきちゃったの。追い出すのもかわいそうだからマゴのみあげといたんだ」
早速一枚目のパンを食べ終えたユウリさんが、二枚目に手を伸ばしながら答える。
「絶対調子乗って居座っちゃいますよ……もう何匹うちにいると思ってるんですか」
そう話す私の視線の先には、花壇に体を収めてすやすやと眠る、別のスボミーの姿があった。それも一匹ではなく三匹も。
「大丈夫、その時はマサルがちゃんと育てるから! まだボックスにはいっぱいいるし」
思わず手持ち六匹全てがスボミーになったマサルさんの姿を想像してしまう。頑張れマサルさん、と心の中で応援しながら朝食を食べ進める。
数分後、その細い体のどこにそれだけの量が収まるのかと問いたくなるような
リビングに戻ると、ユウリさんがにこりと笑って言った。
「マオの準備が終わったら、私達も行こっか。ちょっとだけど歩かなきゃだからね」
「分かりました、すぐ着替えてきます!」
言い終わる前に階段を駆け上がり、いつも着ている動きやすい服装に着替えて超高速で玄関まで戻る。皿洗いを終えて玄関にやってきたユウリさんが、私の姿を見て少しだけ
「マオぉ、またその服なの?」
ちらりと自分の服装に目をやる。確かに最近は今着ているのともう一セットを着回している気もするが、特に気にしたことはない。視線を戻し、肩を
「だってこれが動きやすいんだもん。ユウリさんだって、私と同じくらいの時は似たような服だったみたいじゃないですか」
「私の服はもうちょっと可愛かったですぅ。……ていうか誰から聞いたのそれ」
「え、えーと……誰でもいいじゃないですか! ほら早く行きましょ、遅れちゃう!」
ユウリさんの背後からめらりと炎が立ちのぼるさまを
私達が住む町ハロンタウンは、豊かな自然に囲まれた農耕の町だ。のんびりとした雰囲気に惹かれて訪れる人もいるし、最近はチャンピオンを二代続けて
その人混み、ポケ混みをかわしながら道を下り、一番道路に入る。ゆったりと草を食むウールーや木の実を集めるために駆け回るホシガリスを眺めつつ、ユウリさんとお喋りしながら歩いているうちに、目的地であるブラッシータウンに到着した。
ハロンタウンより少し大きいくらいのブラッシータウンは、さらに大勢の人でごった返していた。この町にはブラックナイトの解決に深く関わったソニア博士とホップ博士の研究所があり、普段なら研究者の姿が多いのだが、今日はそれを遥かに上回る数の一般人で溢れている。理由は明白、人の波が流れていく先にある、町の一角に最近建設されたポケモンバトル用のスタジアムだ。流れに逆らわず、私とユウリさんもスタジアムに入って観客席へ向かう。
それほど大きくない観客席は人とポケモンで埋まり、上の方では立ち見の客がひしめいていた。チャンピオンの家族ということで通された、フィールドが見えやすい席に座ってノクスを膝に乗せる。そのままうずうずと開始を待っていると、やがて司会らしき男の人がフィールドに現れた。観客席をぐるりと見渡して、マイクも使わずに
「レディ──────ス、ア──────ンド、ジェントルメ──────ン! 本日はお集まりいただき、ありがとうございます! 今回フィールドに立つトレーナーは、皆様既にご存知でしょう!
今年初の試み! ジムチャレンジ開幕を前に、ガラルが誇る現チャンピオンと元チャンピオンによるスペシャルマッチ! かつてこのガラルの頂点に十二年もの間君臨した男と、その背中を越えて
司会の見事な煽り文句によって、会場の熱気が否応なしに高まっていく。湧き上がる歓声に負けないようにか、司会がより声を張り上げる。
「それでは、早速登場していただきましょう! 相棒のリザードンと共に、今もガラルの空を駆け巡る! 十二年間、不敗の王座を守り続けた伝説の男! 本日のチャレンジャーにして元チャンピオン、ダンデェェェ───ッ!」
司会の絶叫と共に、私達から見て左側のゲートから一人の男が姿を現した。一目見て場馴れしていると分かる堂々とした足取りでフィールドまでゆっくりと進み、くるくる回って例の決めポーズ。歓声が二段ほど大きくなり、私も声を張り上げる。
「対するは! 九年前にその伝説を打ち破り、さらにはガラル崩壊の危機を二度も救った英雄! エースバーンを友として、舞うようなバトルスタイルで今日まで勝ち抜いてきました! 現チャンピオン、マサルゥゥゥ───ッ!」
今度は右側のゲートから男が現れた。元チャンピオン───ダンデさんとは対照的に、軽やかにフィールドに駆けていき、ダンデさんの前で急ブレーキをかける。ほんの一瞬ものすごく嫌そうな顔をしてから、両足を揃え、右手を握って胸の前で構える。そして何かが吹っ切れたかのように笑い、握った拳を開いて勢いよく空へと突き出す。今日一番の歓声がスタジアム中に轟いた。
右手を上げたままなぜか居心地悪そうにしているマサルさんの姿を見て、隣に座るユウリさんが堪えきれないというふうに吹き出した。
「ど……どうしたんですかいきなり」
「ふふ、くくく……ご、ごめんね。マサルのあの顔が面白すぎて……」
「確かになんかすごく渋い顔になってましたけど」
「……あれね、キバナさん達が昨日決めたポーズなの。朝出発する直前まで、すごーく暗い顔してたんだよ」
「えぇ!? き、昨日!?」
笑い転げながらこくこくと頷くユウリさんと、ポーズを解いたマサルさんを交互に見る。確かに昨日帰ってきてからずっと暗いオーラが出ていた気がしたが、このことで悩んでいたのかと納得する。そんな私達をよそに、フィールドではようやくマイクを持った司会によるルール説明が始まっていた。
「───それでは、本日のルールをご説明しましょう! バトル形式はシングルバトル! 両選手の登録ポケモン六匹のうち三匹を、バトルメンバーとして選出していただきます!」
その言葉と同時に、スタジアムのモニターに二人の手持ちポケモン達が映し出される。どれも強そうなポケモン達ばかりだ。
「先に相手のバトルメンバー三匹を戦闘不能にした選手の勝利となります! 試合中のポケモンの交代は自由ですが、戦闘不能となったポケモンに、げんきのかけらなどを使用して再出撃させることは認められません! また、切り札であるダイマックスは両選手、試合中一度のみ使用可能となります!」
フィールドでは元・現チャンピオンの二人がスマホロトムを操作している。バトルに出すポケモン達を選出しているのだろう。二人の操作が終わるのを確認すると、司会は結局マイクを手放してしまい、レフェリーとして両手を上げる。
「以上のルールで、バトルを開始致しましょう! お二人とも、準備はよろしいですかな!?」
「あぁ!」
「……はい!」
それぞれ短く答え、ボールを構える。
「それでは…………バトル、開始ぃっ!」
レフェリーが両腕を振り下ろし、二人が最初に選んだポケモンの名を叫ぶ──────
───
「マオはマサルのバトル見るの、今日が初めてだったっけ」
試合後の興奮冷めやらぬスタジアムを何とか抜け出した、その帰り道。まだ
「……はい。ホップさんとかダンデさんと、家のバトルコートで練習してたのは見てましたけど……今日のはなんていうか、その……」
上手く言葉が出てこない。数分前まで行われていた、初めて観戦する二人のバトルは、強烈な鮮やかさと共に私の脳に刻み込まれていた。だがそれを言語化するのが難しい。何もかも捨てて、たった一言で表すなら───
「すごかったでしょ」
ユウリさんがどこか自慢げな笑みとともに私の内心を代弁した。
「……すごかった……です。マサルさん達の指示とか、それにすぐ応えるポケモン達とか、それにキョダイマックスまで見れて……まだなんか、頭がくらくらしてます」
「そっか、キョダイマックスも初めてだったのか。マサルのニーバ、かっこよかったでしょー。帰ってきたらいっぱい褒めてあげてね」
「わ、私なんかよりユウリさんとかマサルさんの方が……」
「だーめ、だってあの子、私よりマオに懐いてるもん。そのかわり私はバラヒメちゃん褒めるもんねー。……あと……」
そこでくるりと振り返り、ユウリさんが私の頭にそっと手を置く。
「……なんか、って言っちゃだめ。マオもちゃんと私達の家族なんだよ。あの子達もちゃんと分かってるんだから」
優しく私の頭を撫で、さらにウィンクを一つしてユウリさんは再び背を向けて歩き始める。顔が熱くなっているのを感じながら、口を尖らせて彼女の背中に向かって抗議する。
「……私、もう十五歳なんだけど」
「何歳になったってマオは可愛いんだよー。むしろ昔より可愛さがアップしてるかも……」
「や、やめてくださいよ! ほらもう着きますよ、マサルさんお迎えする準備しないと!」
そう言って私が駆け出そうとすると、反対側でふよふよと浮いてついてきていたノクスがいきなり片方の腕を頭に擦り付けてきた。
「ノ、ノクス? どうしたの?」
「ラァン」
私達の声に振り返ったユウリさんがその様子を見て、いきなり笑いを堪えるような顔をした。
「ユウリさんまで……なんなんですかいきなり」
「だ、だって……マオ、分からないの? ……ノクス、あなたの頭撫でてるんだよ」
そこでついにダムが決壊したらしく、道端で大笑いを始めるユウリさん。一方私はさっきよりもっと熱くなった顔を、ノクスに向けて睨みつける。
「ノークースー……?」
「……ラ、ララァン!」
「あ、こら待て!」
次の瞬間、ノクスがしんそくでも使ったのかと思うような速度で逃げ出した。慌てて後を追いかけ、まだ笑っているユウリさんを抜き去って道を走る。
そんなことをしながら、私の心の中で一つの決心が固まりつつあった。一瞬で飛んでいってしまったノクスを追うのを諦め、ようやく笑いを収めたユウリさんの方へ振り返る。
「……ユウリさん。一個お願いがあるんですけど」
「ん、なぁに?」
まるで私が何を言おうとしているか分かっているかのように微笑むユウリさんに、胸の中で形になりつつあった決意を口にする。
「………………私、ジムチャレンジやってみたい」
「うん、いいよ」
即答だった。ぽかんと口を開けてユウリさんを見ていると、その顔がおかしかったのかまたくすくすと笑い始める。
「……さっきから笑いすぎですよユウリさん」
「だって、『こんなすぐオーケー貰えると思いませんでした』って顔に書いてあるんだもん。私は大賛成だよ。ガラルの色んなとこ見る機会になるし、何よりマオがやりたいことなら何でもして欲しいから。マサルも同じこと言うと思うよ」
「じゃあ、推薦も?」
「もちろん。帰ってきたら言ってごらん、きっと大喜びして推薦状書くよ」
「……ありがとう、ございます」
思わず頭を下げていた。慌てたようにユウリさんが駆け寄ってくる。
「ちょちょちょ、なんで急にそんなかしこまっちゃうの。ほら顔上げる上げる!」
そう言われつつも、私は顔を上げることができなかった。嬉しさ、感謝、その他の色々な感情が一気に押し寄せてくる。そんなものでぐちゃぐちゃになった顔を、ユウリさんに見せたくなかった。もう一度、さっきよりもっと優しく頭を撫でられる。今度は何も言わず、その柔らかい手の感触を受け入れた。ただその温かさを感じながら、どんどんと大きくなっていく期待に身を任せた。
───
───一ヶ月後。私とユウリさんはソファに座り、じりじりしながら、マサルさんがどうしてもやると譲らず始めた荷物点検を眺めていた。
「えーと、推薦状はちゃんと書いたし、エンジンシティまでの切符もある、着替えとかも……」
「ねーマサル、そんなとこまで見なくていいでしょ。マオだって年頃の女の子なんだよ? そーいうの、今はセクハラになりまーす」
「そ、そうだよね。でも不安になっちゃって……」
「ならやっぱ推薦取り消す?」
「それはない」
息の合った漫才を繰り広げる二人の間を、暇を持て余したノクスがぐるぐると周っている。それを目で追うのも疲れ、私もじれったくなって声を上げる。
「マサルさん、まだですかー? 列車遅れちゃうんですけどー!」
「ごめん、もうちょっとだから! えっと、モンスターボールにおこづかい……あ、キズぐすりもないと……!」
「全部昨日の夜にもらいましたー! 朝心配しないようにってマサルさんが準備したんですよ!? おこづかいだって、こんなにいらないって何度も言ったのに……」
そう呟く私の財布には、五万円もの大金が収められていた。何だか妙にカバンが重く感じられる。
「ほんとなら倍は入れたかったけど……」
「絶対、い、や、で、す! マサルさん過保護すぎ!」
「……マオちゃんがそう言うんだもんなぁ……」
泣き出しそうな顔でそう呟く目の前の男の人と、一ヶ月前に見たあのチャンピオンが同じ人だとは、とても信じられなかった。実は影武者だったんじゃないか、などと失礼なことを考えていると、隣でユウリさんが口を開いた。
「別の人だったんじゃ、とか思ってるでしょ」
「……ユウリさんってエスパータイプだったりします?」
「マサルとマオ限定だけどねー。九年も一緒に住んでたら、大抵のことは分かるってもんよ」
そう言って得意げな顔をするユウリさんと二人で笑いあっていると、ようやく満足したらしいマサルさんが腰に手を当てて立ち上がった。
「……まぁ、こんなもんかな」
「終わりました!?」
ソファから飛び降り、結局少し大きめのリュック一つに収まった荷物を背負う。考えてみれば、足りなくなった道具やキズぐすりなどは旅先で買い足せばいいのだ。それでも念を入れて確認してくれたマサルさんに感謝し、玄関へ向かう。
だが、ドアノブに手をかけようとしたところで私は凍りついた。靴の裏に接着剤でも塗られたかのように足が動かず、腕も鉛のように重い。別れの挨拶をして扉を開けるだけなのに、体が全く言うことを聞かない。
徐々に目の前の扉が変形し、一本の長い道へと姿を変えていく。温かな色の壁や天井は白く濁った空へと変わり、冷たい風が体を叩いていく──────
「……ラァン……?」
目の前にノクスの顔が現れた。一瞬で幻は消え去り、体の硬直も少し和らぐ。振り返ると、マサルさんとユウリさんが後ろから近づいてきてくれていた。
「……マオ……?」
「大丈夫、マオちゃん……?」
皆に心配をかけまいと、笑みを顔に貼りつけて必死に頷く。
「は……はい、大丈夫です。ちょっと、緊張しちゃって」
私のその言葉に二人と一匹は顔を見合わせ、少し考えるふうにしてから全く予想できない行動に出た。
まずノクスが私の胸の前で浮遊する。次にユウリさんが、まだ凍ったままの私の体をノクスごとそっと抱き締める。ミルクのような甘い香りに思わずドキッとすると、今度はマサルさんが、私の背後から全員を抱き締めてきた。
「ちょ……ちょっと、みんな……」
ユウリさんの胸とノクスの頭をぽかぽか叩いて抗議するが、誰も
しばらくそのままでいると、ユウリさんが優しい声で話し始めた。
「……大丈夫。あなたは一人じゃないよ。私達がいつも、ここで待ってる」
「帰りたくなったらいつでも帰っておいで。僕もユウリも必ず君を守るから」
ユウリさんと、それに続くマサルさんの優しい声を聞いて、思わず感情が溢れそうになる。そうだ、昔とは違う。今の私には、いつでも帰ってこられる家がある。そこで、優しい人達がいつも待ってくれている。溢れかけた涙を見られないよう慌てて手を伸ばし、ユウリさんの体を抱き締めてその胸に顔を埋める。
時間にすればほんの十秒やそこらだったのだろうけど、私にとっては永遠のように感じられた。やがてさっきとは逆の順で皆が離れ、ノクスは私の隣に浮き、マサルさんとユウリさんが私の前に並ぶ。
今のことへの感謝ともうひとつかふたつ、みっつくらいは何か言いたかったが、気を抜くと目から溢れそうになる感情の波を抑えるのに必死で、とてもそんな余裕はなかった。かわりに顔いっぱいの笑顔を浮かべ、手を上げる。
「…………いってきます!」
私のその言葉に、マサルさんとユウリさんもにっこりと笑い、
「「いってらっしゃい!」」
と声を揃えて言ってくれた。
今度こそ扉を開け、ゆっくりと外の地面を踏み締める。扉が閉まるその時まで、二人は笑ってくれていた。暖かな光と温度を届けてくる太陽をちらりと見て、私は深呼吸してリュックを背負い直した。
「……よーし、いこっか、ノクス!」
「ラララァン!」
楽しそうにくるくると回転するノクスと共に、私はジムチャレンジャーの最初の一歩を踏み出した。
いかがでしたでしょうか
剣盾をプレイしてからずっと止まらなかった妄想を形にするべく、このような形式で投稿してみました
何やら複雑な過去がありそうな主人公のマオちゃんですが、果たして小説のあらすじ通り過去と向き合うことはできるのでしょうか。…向き合ってくれないと困るなぁ