わたしのともしび   作:お宮舞り

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 ポケモン剣盾二次創作第二話です
 あと一話、pixivで公開されているところまで同時投稿しています


セレモニーにて

 フェリーを乗り継ぐこと数日。ようやく降り立ったガラル地方で、到着次第研究を開始しようと考えていた俺は、なぜかリーグ職員の案内を受けながらエンジンシティという街の大通りを歩いていた。

 石造りの建物が立ち並び、そこかしこに()い回る配管からは白い蒸気が絶えることなく立ち上っている。俺が住んでいたカロスの町とは随分違う、雑然とした雰囲気が街中に溢れていた。道を歩く人の数も多く、足元には彼らに連れられたポケモン達が行き交っていた。

 俺の右隣では、相棒のアブソル───アルバも、真っ白な体毛を輝かせて歩きながら、興味深そうに辺りを見回している。

「……ググゥ……」『……このような賑やかな場所は初めて来ました……』

「……そうだね、凄く活気のある街だ」

 何度経験しても妙な違和感の残る、ポケモンの鳴き声と話していることが同時に聞こえてくる感覚を受け止めながら答える。

「おや、ユウマさんはポケモンと会話ができるのですか」

 前を歩く案内役が振り返って聞いてくる。

「いえ……研究の過程で、少しばかり学びまして」

「そうでしたか。ユウマさんは確か……九年前のブラックナイトについて研究するため、ガラルに来られたのでしたね」

「…………えぇ、その通りです」

 九年前、という単語に胸がズキリと痛む。別の地方に移ってからも、あの日の事はそう簡単には忘れられない。

『……主……』

 心配そうに頭を擦り付けてくるアルバを撫でてやる。その様子を不思議そうに見ていた案内役だったが、すぐに笑顔で話を再開した。

「では、ジムチャレンジについてはご存知ですか?」

「……まぁ、一応。俺の住んでいる地方でも似たような挑戦はありますし」

「えぇ、ユウマさんのいらしたカロスと、基本的なルールは変わりません。各地のジムを巡り、ジムリーダーに認められたトレーナーがチャンピオンを目指す───という仕組みですね。他地方ではいつでも挑戦できるようですが、ガラルでは一年ごとにシーズンを決めてチャレンジが行われています。ただ……」

 そこで言葉を濁し、少し迷うような顔をした後に続きを口にする。

「九年前の事件以降、運営体制が大きく変わりまして」

「……ローズ元委員長の件ですね」

「ご存知でしたか」

「ブラックナイトについて調べる上で、避けては通れない名前でしたから」

 俺がそう答えると、顔に浮かべていた笑みを苦笑に変え、案内役は首を振った。

「そうでしょうね。……彼が(おのれ)所業(しょぎょう)(おおやけ)にした後、一時はジムチャレンジの存続を危ぶむ声も多かったのです。ですが、後任として推薦されたリンデン委員長のもと、リーグの体制が再編され、今ではジムチャレンジに関しては以前とほぼ変わらない形で運営されています」

「……ほぼ、ですか?」

 表情を引き締めた案内役の話はまだ俺が調べきれていない事柄で、興味を惹かれて先を促す。

「えぇ。細かな規則や運営方法はかなり変わりましたね。以前は委員長一人に権限が集中していたのですが、今ではチャンピオンや各地のジムリーダー達の意見が積極的に取り入れられるようになりました。研究者やユウマさんのような留学生の受け入れも、その頃から整えられていった制度のひとつです。ソニア博士がお住まいのブラッシータウンには、毎日かなりの数の研究者が集まっていますよ」

「……なるほど……」

 ようやく、自分が到着早々街中を散歩させられている理由が見えてきた気がした。

「そして……実は、先程お話したジムチャレンジが明日から開始されるのです。ここエンジンシティでは、その開幕を告げるオープニングセレモニーが予定されています」

「明日?」

 オウム返しに聞き返す俺に、案内役はニヤッと笑って話す。

「えぇ、運がいいですよユウマさんは。せっかくですし、セレモニーをご覧になってから研究を開始されては? ジムリーダーとチャレンジャーのバトルではダイマックスというガラル特有の現象も使用されます。研究の題材にもなるのではないでしょうか」

「……それは……確かに」

 なんだか上手く丸め込まれているような気がしなくもないが、研究の役に立つのは事実だろう。フィールド───ここではワイルドエリアと呼ばれているらしい───に出て研究を開始するのはその後でも構わないだろう。

「……分かりました。ではせっかくですし、拝見しようと思います」

「おぉ、それは嬉しい。研究学生さん用のホテルをこちらで手配しておりますので、今日はそちらでお休み下さい。研究滞在の手続きが全て終わり次第、またご連絡致します」

 そう言って頭を下げる案内役と別れ、俺は大きく伸びをした。アルバが若干不満そうな目をして俺のことを見上げてくる。

『……主、本当に良いのですか。遊びに来た訳ではないのでしょう』

「大丈夫だよ。毎日ジムやスタジアムに入り浸るわけじゃないし、ダイマックスは一度この目で見てみたかったし。この子達も休ませてあげなきゃ」

 腰に付けたモンスターボールを見る。その中には、学校から借りた研究支援用のポケモン達が収められている。その表面を軽く撫でながら、俺はアルバに笑いかけた。

「……それに、何かあってもアルバが守ってくれるだろ?」

『何かないよう(つと)めるのは主の役目です。……まぁ、主がそう決めたのならば構いませんが……』

「よし、じゃあ決定だな。荷物を置いて、ご飯でも食べに行くか。皆お腹空いただろ」

 ボールの中から賛同の声を上げるポケモン達と笑い合いながら、俺はアルバと共にホテルに向かって歩き出した。

 

 ───

 

 翌日。支度をして向かったエンジンシティのスタジアムは、外からでも分かるほどの異様な熱気に包まれていた。入口には絶えることなく人やポケモン達が飲み込まれ、スタジアム内からは人々の話し声や歓声が大きな波となって聞こえてくる。

『……体調は大丈夫ですか、主』

「……あぁ、なんとかね……ここまで人が多いとは思わなかったな……」

 カロスではそれほど人の多くない町に住んでいたため、ここまで密集することはなかった。軽い目眩(めまい)を感じつつも、人の波に逆らわず入口のゲートへと入っていく。

 広いスタジアムの観客席は、既にとてつもない数の人々で埋め尽くされていた。何とか席を見つけ、アルバと共に腰を下ろす。

 久しぶりの人混みで既に疲れ気味だが、頭を振って疲労を追い出す。せっかく見に来たのだから相応の収穫がないと損というものだ。

 しばらくして、観客席が完全に埋まってしまい、通路で立ち見する客まで現れ始めた頃。フィールドの四方に設けられたゲートから人が大勢進み出てきた。皆一様に白いユニフォームを着て、それぞれ背中に番号が割り振られている。あれがジムチャレンジャー達なのだろう。

 フィールドにチャレンジャー達が集まった後、一人の男性が歩いてきた。

 四、五十代くらいだろうか。少し白髪の混じる整えられた髪と、細身だが背筋のピンと伸びた体つき。濃い色のスーツを隙なく着こなし、華美な装飾品はどこにもない。そんな風貌でも不思議と地味だとは感じず、一見して周囲のまとめ役だと分かるような男だった。フィールドの中央まで進み、渡されたマイクを持って話し始める。

「皆様、お集まりいただきありがとうございます。ガラルポケモンリーグ委員長、リンデンと申します」

 そこで言葉を区切り、四方へ腰を折って礼をする。

「……話に聞いていたローズ元委員長とは随分違うな」

『そうなのですか?』

「うん、ローズ元委員長はもっと自己主張の強い人だったらしいけどね。あの人はだいぶ真逆みたいだ」

 俺とアルバが話している間にも、男───リンデン委員長の穏やかな声は続く。

「───本日この場に集まって下さった皆様、そしてこれからガラル各地へ旅立つチャレンジャー達を、心より歓迎致します───」

 続く口上を聞き流しつつ何気なくチャレンジャー達を見ていた視線が、ある一点でぴたりと止まる。

 フィールドのトレーナー達は、皆相棒と呼ぶべきポケモンを連れている。その中で、ランプラーを連れた一人の少女だけがやけに気になった。なぜか記憶の隅がちくちくと刺激され、その少女から目が離せなくなる。

 長く伸ばした、陽光を反射してキラキラと輝く茶色の髪。立ち居振る舞い。顔はこちらに背を向けていて見えないが、なぜこの二つの情報だけでこんなにも彼女が気になるのだろう。まさか背格好だけで惚れてしまったというわけでもあるまいし───

 その時、傍らに浮遊していたランプラーが彼女の背後に回った。何やらじゃれつくような様子を見せ、それに少女が反応して振り返る。

 顔立ちにも特に変わったところはない。だがその顔を見て、逆に俺の目は少女しか映さなくなった。

 目の色。鼻の形。顎のライン。情報が追加され、それに応じて記憶を刺激する感覚がどんどん強くなっていく。

 

 俺はあの子を、見たことがある。

 

 だがどこで。ガラルに来てから明確に会話をしたのは、フェリー乗り場の受付と昨日の案内役、それからレストランのウェイトレスくらいだ。少女の顔はその誰とも一致しない。

 では今通っている学校? だが級友の中にあのような子は見たことがないし、今年ガラルに行くのは俺だけだったはずだ。

 ならば───もっと昔。記憶の奥底に沈んでいた、あの出来事よりも前? 

 そこまで考えた時、最大の衝撃が頭を打つ。視野が狭窄(きょうさく)し、笑う少女の姿しか見えなくなる。

「………………まお…………?」

 思わずあの子の名前が口から零れていた。同時に、あの日の事が記憶の底から溢れ出してくる。

 砂場で遊ぶあの子の笑顔。両親が迎えに来て別れることになって、少し寂しそうにしていた。明日も会えるからと俺は笑って、まだ寂しそうな顔をしているあの子と指切りをして別れた。そして、その帰り道──────

『───るじっ! 主っ! どうしたのです!』

「おいおい兄ちゃん、何しようってんだよ!?」

 両側から聞こえてくる声にはっとして顔を上げる。

 気づくと俺は、前の席に乗り出そうとしてアルバに止められていた。右側では隣に座っていた男性が俺の腕を掴み、心配そうな表情をしている。

 正気に戻ったところでアルバに引き戻され、席に座らされる。鼓動の音が頭の中に響き、呼吸が荒くなっていた。思わずアルバの体を強く抱き締め、深呼吸を繰り返す。

『あ、主……?』

「あれ、見て……」

 と俺が指で示す先をアルバが追う。その対象を捉えたアルバの目が見開かれる。

『……あの子は……』

「似てる。すごく、マオに。そうだろ」

「なんだ、知り合いでもいたのか?」

 先程俺を止めてくれた男性の問いに、少しずつ呼吸を落ち着けながら答える。

「……はい……長らく会えてない、知り合いが……」

「……そうか、それはいいな。運命の出会いってやつか? セレモニーが終わったら声かけてあげな。……にしてもびっくりしたぜ、兄ちゃんいきなりフィールドに向かって走ってこうとしたんだから」

「……す、すみません……ご迷惑をおかけしました」

 男性と周りの客達に頭を下げ、席に深く座り込む。騒ぎの中心だった俺が静かになったのを確認して、観客達は再びリンデン委員長の話に集中していった。

 そんな中でアルバが頭を寄せ、小さな声で話してくる。

『……確かにあの時、彼女の姿は私も見たと思います。ですが……九年も経っているのです。確証などありません』

「わかってる……でも、あれは……」

『セレモニーが終わったら彼女を追いかけましょう。私も協力します』

「……頼む……」

 顔を手で覆い、指の隙間から少女の姿を見続ける。やはり何度見ても、九年間もう二度と会えはしないと思っていた、あの子の顔にしか見えない。

 もしかしたらまだどこかにいるのかもしれない。最初こそそんな淡い期待を抱いていたが、時が経つにつれその期待は諦めへと変わっていった。カロスに移り住んでからはあの事は新聞などでもほとんど見なかったし、情報はほぼ皆無というような状況だったのだ。まして小さな女の子の情報など、載っているはずもなかった。

「………………生きてたのか……? マオ…………」

 そう俺が呟く中、セレモニーは終わりを迎えようとしていた。

「それでは……チャレンジャー達の成功を祈って! ただ今より、ガラルジムチャレンジを開始致します!」

 小さく呻き続ける俺を除き、スタジアム中の観客が歓声を上げ、建物が大きく揺れたような気がした。




 いかがでしたでしょうか
 ユウマのポケモンの声が聞こえる力の表記は、初登場のポケモンの鳴き声は鳴き声と同時に表記、以降は『』で囲われた文をユウマに聞こえているポケモンの声として表記しようと思います
 読みづらいことがあるかもしれませんが、ご理解いただけますと幸いです
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