何処かの世界のあり得たかもしれない少女達の日常物語   作:タク-F

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貴女達へのプレゼント

 選考の熱狂から一夜明けた、リディアン音楽院の大講堂。

 

「私達……本当に選考に通ったんですね。今でも実感が沸かないです」

 

「まっ……それについてはあたしも同じだ。なにせ弟が珍しく連絡入れて来てな」

 

「弟……? 瑠璃の話ではあまり聞かない子ね。いるとは聞いていたけど……そう」

 

 この日は、苛烈な【ルナ・ステージプロジェクト】を最後まで戦い抜いたすべての生徒を称え、そして本選である『フロンティアライブ』へ挑む代表者3名(翼・クリス・響)を全校で送り出すための「壮行セレモニー」が開催されていた。壇上に並ぶトップ3の少女たち。

 

「まっ……やることは変わらない。そうだろ?」

 

『また、今回のフロンティアライブ参加に合わせ彼女達3人にそれぞれ称号を贈ります』

 

 翼に送られた称号は天羽々斬……刀の如き鋭さを表現した称号だった。

 続くクリスに送られた称号はイチイバル……全てを撃ち抜く銃爪の称号。

 そして最後に立花響はガングニール……本来は鏡香が引き継ぐ予定だった奏の称号。それを次代の期待を込めて彼女に送られる。

 

「あはは……肩書きなんて凄いもの貰っちゃいましたね……」

 

「貰って損はねぇな。俄然燃えるね」

 

「称号に恥じない歌を歌えば問題無いわ」

 

 客席からは、惜しみない拍手と声援が送られている。その最前列には、誇らしげに響へ手を振る小日向未来や、腕を組んで不敵に微笑む堕落ツカサ、涙を拭う安藤創世たちの姿があった。

 

「──では最後に、本プロジェクトの締めくくりとして、特別ゲストによる祝賀パフォーマンスを行います」

 

 教務主任のアナウンスと共に、講堂の照明がすっと落ちる。

 

「……え? 特別ゲスト……?」

 

 響が首をかしげたその時、ステージの左右から、二つの対照的な光(スポットライト)が照射された。

 上手(かみて)からは──柔らかな淡い月光のような光に包まれ、静かに息をひそめるように立ち現れたのは、過去の傷を抱え、今は舞台の陰から優しく見守る姿勢を貫く立花 鏡香。

 下手(しもて)からは──眩いばかりの純白の光を纏って颯爽と歩み出てきたのは、圧倒的な熱量とカリスマ性で観客を惹きつける、太陽のごとき天羽 奏。

 

「えっ!? お姉ちゃん……!? 」

 

「奏!? 聞いてないわよ!?」

 

 響が息をのむ。翼もまた、目を見開いて二人を見つめていた。

 

『やあ、後輩諸君。そして……選ばれた3人の歌姫』

 

 下手の奏がマイクを握り、軽快で破格の存在感を解き放つような笑みを客席に投げかける。

 

『過酷な選考、本当にお疲れ様! 袖で観てたけど熱かったな! 特にそこの新入生……いや立花響ちゃん。最高の歌だったぜ! こういう言い方はアレだがお前はあの時の鏡香を超えてた。アタシが保障してやるさ!』

 

「奏さん……っ」

 

『今日はな……頑張ったみんなへのご褒美さ。そしてこれから本当の大舞台へ飛び立っていく3人の背中を、でっかく押してあげるために……ちょっとだけ無理言って、歌わせてもらうことになったんだ』

 

 鏡香の言葉に会場に期待の熱が灯る。伝説になった2人の歌姫の帰還……それだけで会場の熱は大きくなる。奏が上手へ視線を送ると、上手の陰に佇む鏡香も静かに頷き、マイクを口元へ寄せた。

 

『響……翼にクリスも本当におめでとう。今のあなたたちの歌声は、私たちが憧れたどんな光よりも眩しいよ』

 

 鏡香の声はどこまでも深く、透明で、静かな静寂のようにホールを満たしていく。1次選考で響を苦しめた「鏡香の幻影」という言葉。けれど今上手に立つ本物の鏡香は、自分を「表舞台を退いた影」として引きながらも、妹である響を「まばゆい光を放つ一人の歌い手」として真っ直ぐに認め、愛おしそうに見つめていた。

 

「コレがリディアンでの……お姉ちゃん……」

 

「風鳴翼の隣に立つ光の『双翼』は奏さん……だけど!」

 

 鏡香は上手の位置から、下手の奏、そして壇上の三人へと温かな眼差しを向けた。

 

『今日、この特別な一日だけ……表舞台を退いた私が、奏さんの放つ圧倒的な光に影として寄り添って──私たち2人で、1(・)日(・)限(・)り(・)の(・)双(・)翼(・)として歌います!』

 

 重厚なピアノとストリングスのイントロが鳴り響く。

 

『まずはコイツで会場を温めるぞ!』

 

 最初に選ばれたのは──『ORBITAL BEAT』。あ(・)の(・)日(・)歌(・)え(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)曲(・)だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)この場の生徒へ届ける歌。

 

『幾千億の祈りも』

 

『柔らかな光でさえも』

 

「この……歌は……」

 

 響の胸が熱くなる。憧れていたアイドルのステージの姿。そして大好きな姉が楽しそうな笑顔で憧れの人の隣で歌っている。

 

「鏡香先輩……ずりぃっすよ……」

 

「奏……もぅ……」

 

 三者三様……しかしそのエールが胸に響き渡る。そしてコレはまだ序章……波が動く。

 

『『この闇を超えて』』

 

 会場のボルテージが上がっていく。それでも歌は続いていく。

 

『とぎれとぎれオルゴールのように』

 

『孤独のシリウスをただ見つめてる』

 

『『この闇を超えて』』

 

「終わっちゃった……はぁ……凄い! 凄い凄い!」

 

 まるで2年前のように興奮する響だがそれを咎められる人間はこの会場にはいない。

 

『ここで終わらねぇ! アタシ達はまだ飛べる! ついて来いお前達!』

 

『私達は止まらないよ! せっかくの奇跡……まだまだ楽しんで!』

 

 下手の奏から放たれるのは、軌道を揺るがすような熱く疾走感あふれるボーカル。上手の鏡香から紡がれるのは、その激しい脈動に寄り添い、優しく解きほぐす完璧なハーモニー。そして間髪いれずに疾走するビートが跳ねる。

 

 2曲目──『双翼のウィングビート』のフレーズが流れる。

 

『惨劇の痛みの消えない記憶は』

 

『夢でも呻くほど胸を刺すように』

 

「今度はウィングビート!? 鏡香は本当に仕上げて来たのね! それにしても……鏡香が私のパートを……ね。あの日までは奏のパートを担おうとしたのに……」

 

『色の違う砂時計』

 

『「なぜ」と空を仰ぐ』

 

 2人はかつて、同じ事故で心と体に深い傷を負った。理由は違うが一線から退くことを余儀なくされ、歌えなくなる恐怖と戦ってきた2人だが今、このステージの上にいる彼女達に悲壮感など微塵もなかった。

 

「少し悔しいわ……奏の復帰は嬉しいけどその相方が鏡香なのはやはり複雑よ」

 

「ハッ……その割に顔が綻んでるぜ先輩」

 

 奏が光として、鏡香が影として──対照的な2人の歌声が完璧な調和を生み出し、過去の痛みをすべて抱きしめた上でこれから未来へ挑む若き翼たちをどこまでも高く押し上げていく。

 

『運命なんて』

 

『ないことを』

 

『『この奇跡で示せ』』

 

「すごい……! 奏さんの光と、お姉ちゃんの歌が……ッ!」

 

 響の目から涙が溢れ出す。だが鏡香の歌の中に、自分の「影」を探す者などもういない。上手の鏡香は、響が放つ太陽の光のようにどこまでも優しく引き立てる「あたたかな陰」そのものだった。

 

「……フン、年甲斐もなく熱くなって……鏡香先輩らしく……ねぇっすよ……」

 

「雪音も泣いてるじゃない……私もだけどね」

 

 クリスはそう吐き捨てながらも、奏と鏡香が放つ圧倒的なコントラストに、身体中の血が沸き立つのを感じていた。そしてそれは翼も同じ。もう2度と聞くことは無いと思っていた歌が聞ける……それだけで胸を熱くする。

 

「奏……鏡香……」

 

 翼は唇を噛み締め、下手の奏と上手の鏡香の姿を見つめていた。かつて自分を導いてくれた相棒と、自分と並び立つ予定だった2人が今、自分たちの『時代』を祝福し、未来を託してくれているのだと、痛いほど伝わってきた。

 

「受け取ったよお姉ちゃん……私が……私達がそのバトンを繋ぐから!」

 

『お前達! 次で双翼の曲は最後だ……わかるな? あの曲だ!』

 

 そしてラストには万感の想いを乗せて放たれる伝説の始まりの歌──『逆光のフリューゲル』のイントロが流れる。

 

『聞こえますか激情奏でるムジーク』

 

『天に』

 

『『解き放て』』

 

 奏の絶叫のようなハイトーンと、それを優しく受け止める鏡香の美しいコーラスが講堂の天井を突き破らんばかりに響き渡り、最高潮のクライマックスを迎える。

 

「フリューゲル……コレだよ! この曲だよ! やっぱりこの曲が始まり何だよ!」

 

「そうね。奏と私の……私達を象徴する曲ね」

 

「贅沢が過ぎますよ鏡香先輩……」

 

「クリスちゃん……泣いてるの?」

 

「っせぇ!」

 

「仕方無いわよ……だって私ですら涙が零れそうだもの」

 

 3人の瞳には涙が溜まっている。それほどまでにこのサプライズは自分達の……そして会場の生徒達を熱狂させていく。

 

『その右手に添えよう』

 

『僕のチカラも』

 

『『2人でなら翼になれるSinging heart』』

 

 一瞬の静寂の後──講堂全体が割れんばかりの歓声と、スタンディングオベーションに包まれた。

 

『『ありがとう!!』』

 

『このステージに立てて』

 

『歌えて』

 

『『私達は幸せだよ!』』

 

 奏と鏡香がステージ中央へと歩み寄り、ガシッと強いハイタッチを交わす。1日限りの、けれど誰の記憶にも永遠に刻まれる「特別な双翼」の演舞が終わった。

 ステージを降りてくる二人を、響、翼、クリスの三人が迎える。

 

「奏さん、お姉ちゃん…… 私……私っ!」

 

 言葉にならない響を、鏡香は両腕で優しく抱きしめた。服越しに触れ合う二人の胸元の傷。

 

「響……もう大丈夫だね。響は影の中にいた私を置いて、自分だけの太陽の歌を見つけている」

 

「うん……! うん……ッ!」

 

 そして下手の奏は、翼の肩をポンと強く叩き、不敵に笑ってみせた。

 

「翼。ルナ・ステージの本選……あんなもんじゃ足りねえぞ。クリスと響ちゃんを引き連れて、会場ごと全部吹き飛ばして来い!」

 

「……ええ。言われなくてもよ。 私たちの歌で、新たな時代を切り拓いてみせるわ!」

 

 風鳴翼の力強い誓い。

 

「クリス……響を頼んだよ。大丈夫……クリスなら心配してないから」

 

「敵わねぇっすね……相変わらず」 

 

 2人は不敵に微笑みマイクを持ち直し再びステージへと上がる。

 

『──ありがとう! でもねみんな……これで終わりじゃないよ!』

 

 鳴り止まない手拍子の中、下手の奏がマイクを握り、いたずらっぽくニッと笑った。上手の鏡香も優しく目を細めて頷く。

 

『この素晴らしいルナ・ステージプロジェクトを一緒に作り上げた、すべての仲間たち……そして、これから本選へと羽ばたく未来を繋ぐ者たちへ! 最後に……最高のプレゼントを贈るよ!』

 

 その言葉を合図に、大講堂の照明が、一度スッと完全に落とされた。

 

「暗転!?」

 

「奏……貴女は何を……」

 

 深い静寂と暗闇が場を支配する。そんな時……客席の生徒たちが息を飲む中でステージ中央に一筋の眩いスポットライトが照射される。

 

 最初に光の中に浮かび上がったのは、下手の天羽 奏と、上手の立花 鏡香。

 

「何のための暗転……?」

 

「いや……こっちもか!」

 

 クリスの視線の先ではステージ右脇から柔らかな光が広がり、新たな人影が歩み出てきた。

 

「待ってクリスちゃん! 左側もライトアップしてる!」

 

 右の光の先にいたのは風鳴……否、今日この日の彼女は雪音瑠璃。

 左の光の先にいたのは出水輪。

 

「瑠璃姉ちゃん!?」

 

「輪も!?」

 

 2人が驚く中で更に光がステージに戻る。

 

「えっ!? どうしてそこにいるの未来!?」

 

 次に現れたのは小日向未来……2次選考で落ちた彼女だが昨日の選考まで響の隣にはいなかった。やるべき事があると言っていた事を響は思い出す。

 

『クリス! 良い歌だったよ!』

 

『翼さん! 流石でした!』

 

『響……待たせてゴメンね』

 

『おっと……まだ終わりじゃないぜ!』

 

 そして──ステージ最奥、一段高いバックグラウンドタワーから、色鮮やかなゴールドと白の光を背負って登場したのは、堕落ツカサと天命メラ……敗れてなお折れることのない「女王」とその相方としての圧倒的なオーラを纏い、ツカサは不敵で最高に美しい笑みを浮かべて、ゆっくりと階段を降りてくる。

 

『貴女達を送り出す為に今回は最高のステージにしてあげるわ!』

 

『そう……このステージこそが私達からの贈り物!』

 

 かつての双翼や、彼女達を支え続けた仲間やそして高め合ったライバルたちがそのステージに立っている。

 

『フリューゲルは光輝く……逆光を超えて虹色に至る! コレがアタシ達の最後のプレゼントだ!』

 

『コレが本当のラストソング……曲名は虹色のフリューゲル!』

 

「フリューゲル!? どういう事なの奏!?」

 

 再び流れるフリューゲルのイントロ……しかし今度のフリューゲルは先程とは違うと奏は告げた。

 

『聞こえますか』

 

『奏で広がるムジーク』

 

『天に』

 

『『『解き放て』』』

 

 最初にマイクを握ったのは鏡香。そして輪、瑠璃へとパートが引き継がれる。

 

「ッ! 歌詞が違う!」

 

「どうして姉ちゃんが歌えるんだよ……っまさか!」

 

「輪……もぅ……それが貴女達からのサプライズなのね」

 

 3人が驚愕したこのフリューゲルの歌詞……それは双翼時代のものとは異なる。だが奏はそのフリューゲルを歌うと言った。その意味を翼は考えていた。

 

『聞こえますか』

 

『イノチ始まる脈動』

 

『愛を』

 

『『『突き上げて!』』』

 

「「「ッ!」」」

 

 次に奏でられたのはツカサとメラ……そして未来の歌声だった。

 

「堕落ツカサ……貴女は昨日まで選考を受けていたのに一晩で仕上げたの!?」

 

「アイツの相方……どうしてこんな奴が選考に出てねぇってぐらいすげぇじゃねぇか!」

 

「未来! 凄いよ未来!」

 

 盛り上がる会場の中で曲が進行する。そしていよいよサビに入りクライマックスへ至ろうとしていた。

 

『『『『『『『見たことない世界の果てへ! yes Just believe』』』』』』』

 

「来るわよ」

 

「はい」

 

「最高の波だな」

 

『『『『『『『神様も知らないヒカリで歴史を作ろう』』』』』』』

 

 これ以上になく燃える会場……その熱波はもはや言葉には言い尽くせないいほどの熱量へと至っていく。そんなタイミングだった

 

『いつの日にかわかる時が来るから』

 

「あっ……あぁ……」

 

「ここで奏さんの……」

 

「ソロパートかよ……もぅわかんねぇよ……胸の温かさしか感じねぇよ……」

 

 コーラスの後に入る奏のソロパートに3人の胸の疼きは尚も高まっていく。この熱量はもはや止まらない

 

『『『『『『『鳥のようにはためきあうよsinging hart』』』』』』』

 

 曲が終わりを告げた。その熱量はステージや客席では収まらないほどの大きさと化していた。

 

「良い顔して歌うじゃねぇか鏡香」

 

「そりゃそうですよ。鏡香さんは歌が大好きなんです。自分で叶える夢を諦めただけで逃げた訳じゃない。だから眩しいんです」

 

「最高の1枚を収めるぞ」

 

「はい!」

 

 会場の端でこの光景を優斗と龍樹は写真に収めた。この光景ならば誰もが幸せを感じられる……そんな最高の1枚へと至った。そしてここにルナ・ステージプロジェクトの全ての物語が、いまステージの上に集結した。

 

『フロンティアでのライブ……楽しみにしてるぜ!』

 

 光と歓声の渦の中、風鳴翼が、雪音クリスが、そして立花響が、晴れやかな顔で頷き合う。

 過去から未来へ、影から光へ。虹色の羽を託された少女たち。1日限りの双翼や仲間達から次世代を担う3人の歌者へ。

 

『最高のステージを見せてね!』

 

 絆と誇りのタスキは、今完全に受け継がれた。満ちていく月の光の下、少女たちは最高の笑みを浮かべ、ついに『フロンティアライブ』という本物の戦場へと踏み出していく──。今度こそ本当の大舞台──『フロンティアライブ』へ……無限の空へと飛び立っていく。

 

 

 

 




大団円の無印編ですが実は後1話だけ続きます。最後は彼女達の物語です!

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