何処かの世界のあり得たかもしれない少女達の日常物語 作:タク-F
「今日から始まったわね……フロンティアライブ」
「ツカサは見に行かなくて良かったの?」
「えぇ……今は愚直でも鍛錬あるのみよ。目指す高みへの距離を識ったなら私は駆け上がるわ」
「流石ツカサ……あのステージで吹っ切れてたから立ち上がるとは思っていたけど速いね」
「それに……2年もあれば私は間違いなく頂点は狙えるわ。その時立花響には借りを返させて貰うとしましょう」
堕落ツカサは既に再起していた。その身に味わった敗北を糧にして彼女は立ち上がる。そんな決意をした時だった。
「会いたかったよ堕落ツカサ……予定時刻よりも速いのは流石だね」
「聞いているわ白銀零士さん……貴方が私に会いたがっていると伝えられたもの」
ツカサの前にたった男は白銀零士。先日より優斗の写真館で仕事を始めたのもツカサと接触をする為だった。
「それでもどうして……回りくどい事を? ファンとして会いたいならファンレターでも出せばツカサは対応しますよ?」
「ファン……ね。確かに僕は君のファンだ。たが君の活躍を支えたいのも本音だ。そしてそれを伝えるならば正面から……ツカサちゃんの覇道ならこちらの方が好みだろう?」
「わかっているじゃない……気に入ったわ」
「ちなみにツカサちゃんは次の目標は決めてるのかな?」
「当面は風鳴翼を超える事。でも現実的には立花響を超えるところから……かしらね」
「彼女達のライブは見に行かないのかい?」
「私自身の魅力がまだ引き出せるわ。今はその為のレッスンを続けていきたいの」
「随分とストイックな女王様だ」
ツカサと
『G-eraフロンティアライブ』初日……ドームアリーナの空気を焼き尽くした、マリアと翼による伝説的なコラボレーション──『不死鳥のフランメ』の熱狂の余韻は、未だに数万人の観客の胸を激しく揺さぶり続けていた。リディアン音楽院とF.I.S学園、その双方が見せつけたトップ同士の圧倒的な実力差と絆の深さは、この世界大会がいかに次元の違う戦場であるかを証明していた。
「お疲れ様ですマリア姉さん。今の熱気は私達が更に押し上げて見せます」
「マリア! 後はアタシ達に任せるデス」
「ここからは私達の時間……今年学園を去るマムの為にも私達は負けられない」
「期待してるわよ3人共」
興奮の冷めやらぬ舞台の裏で、次なる幕を開けようとする少女たちは、すでにそれぞれの闘志を研ぎ澄ませていた。
「翼さん! お疲れ様です!」
「ステージでやり合ってどう感じたんだ先輩?」
「えぇ……マリアは強敵ね。最初のステージでもわかっていたけれど後ろの娘達も相当な手練れよ。気を抜けば私達は彼女達の前座にされてしまうわ。いえ……恐らく今日は彼女達のステージね。まずは相手の力量を見定めるところから始めましょう」
「……えらく弱気だな。臆したのか先輩?」
「強がるのは良いけど侮るのはお勧めしないわ」
「クリスちゃん! 翼さん! 私達が争ったら駄目ですよ!」
張り詰める翼とクリスの雰囲気に響が割って入る。しかし2人の視線は既にステージを向いていた。
「違うのよ立花……私達は彼女達に呑まれない為に己に喝を入れてるの。そうでもしないと……」
「あいつらにビビって気持ちで負けたくねぇんだよ」
2人の闘志は既に燃えていた。
「──次のブロックは、F.I.S学園が誇る次世代のニューウェーブ! 月読調・暁切歌のお2人です!」
司会者のアナウンスがアリーナに響き渡ると同時に、客席から地鳴りのような歓声が巻き起こる。暗転したステージの中心、ピンクと緑のサイバーなレーザー光線が交差する中から姿を現したのは、息の合ったコンビネーションを誇る月読調と暁切歌の2人。
「いくよ、切ちゃん!」
「あい了解デス! アタシ達の全力を叩きつけてやるデース!」
調の繰り出す鋭く疾走感のあるビートパフォーマンスと、切歌の変幻自在な重低音のグルーヴが噛み合う。歌われるのは、F.I.S学園の過酷な環境と過剰なまでの訓練の中で培われた、命を削り合うような絆のナンバ──―『Edge Works of Goddess ZABABA』
『──切り刻んであげるデス! アタシたちの愛の
『マリアの作った熱気は絶やさない!』
調のスピードアクションに合わせて切歌が光の軌跡を描き、音楽の弾幕となってアリーナの空間を切り裂いていく。
「控えていたあの娘達……ここまで!」
「学園代表の肩書は伊達じゃないって訳だ。こいつは中々厄介だねぇ……この余韻でやり合うのは」
「それでも私達は立ち向かうのよ。学園の名を背負っているのは同じなのだから」
「私も……マリアさん達には負けません!」
彼女たちが歌に込めているのは、「互いを守り、決して離れないための生存の歌」。過酷な運命をくぐり抜けてきたF.I.Sの少女たちだからこそ出せる、生々しいまでの切なさと、絶対に折れない強さが、観客たちの心を容赦なく掴んで離さない。だが舞台袖のモニターでそのステージを見つめながら、立花響は自分の胸にそっと手を当てていた。
「すごい……! 調ちゃんたち、あんなに息の合った、力強い歌を……!」
だがそれでも響の心に彼女達の歌が響く。そして脳裏によみがえるのは、自分自身が歩んできた道のりだった。1次選考で味わった「姉の影」という絶望。それを乗り越えるために未来と手を取り合い、ルナ・ステージで自分の歌を見つけたこと。F.I.Sの少女たちが歌う「互いの手を繋ぎ、一緒に生きるための強さ」は、響が未来と誓い合った想いと、鮮やかに共鳴していた。
「──感心してる場合じゃないわよ、立花」
翼からどこか熱を帯びた声が飛んできた。振り返るとクリスが愛用のガジェットを構え、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「あっちのチビどもが、あんな派手な花火を打ち上げてやがる。……明日はアタシたちの出番だってのに、客を全部持ってかれたままで終われるわけないだろ?」
「うん……! クリスちゃん行こう!」
F.I.S学園の圧倒的なステージが終わり、割れんばかりの拍手と歓声が鳴りやまない中で初日のプログラムは全て終了した。
「私達も負けていられないわね」
リディアン音楽院代表としての次なるステージへ向かうため、響とクリスはゆっくりと、しかし力強い足取りで舞台袖の階段を登っていった。
リディアンの箱庭を出て、世界という巨大な舞台で初めてぶつかる「本物の他者」。
「見せてみなさいリディアン学園の代表の歌を……」
F.I.S学園の示す「守り合うための絆の歌」に対し、リディアンの響とクリスが磨き上げてきた歌とは何なのか。──正面からの、魂のぶつかり合いが、今まさに始まろうとしていた。
次回は……特別編です。本編は31日に投稿します。その時ほ響とクリスのターンです!
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