何処かの世界のあり得たかもしれない少女達の日常物語 作:タク-F
フロンティアライブ2日目。前日のF.I.S学園の歌姫達の刻んだボルテージの余韻が会場を包む中でこの日は幕を開けた。
「昨日のライブ……凄かったね」
「生きるための歌」「守り合うための絆」を全身全霊で叩きつけて去っていったF.I.S学園の少女たち。その圧倒的な熱量と完成度に、観客たちのボルテージは上限を振り切れ、異様な興奮の渦がドームを包み込んでいる。
「私達も負けていられないわね立花」
「翼さん……はい!」
舞台袖の影で、立花響は力強くマイクを握りしめ、溢れ出る吐息を整えていた。
(すごい……調ちゃんたちも、マリアさんも……自分の大切な想いを全部、歌に乗せてる……!)
1次選考で「姉・鏡香の影」と吐き捨てられ、自分自身の存在意義すら見失いかけたあの日。けれど今、響の胸にあるのは恐怖でも惑いでもなかった。未来が隣で歌い、鏡香が背中を押し、自分の足でルナ・ステージを勝ち抜いて掴み取った、「立花響の歌」の熱量だけだった。
「──さあ、続いての登場は! リディアン音楽院が誇る精鋭たち! 個性の全く違う3つの光が、世界へ自分たちの歌を叩きつける──風鳴翼、雪音クリス、立花響のステージです!!」
ドーム全体を覆っていた照明が一瞬で暗転し、地鳴りのような歓声が上がった。モニターに映る言葉は学園での彼女を識る者には重く深く突き刺さる。
『風鳴翼……孤高の片翼から「仲間と共に立つ歌姫」へ至る【天羽々斬】!』
鋭く気高きイントロが、アリーナの空気を一刀両断するように切り裂いた。暗闇から解き放たれた青いスポットライトの中に立ったのは、風鳴翼だった。
「見せて貰おうじゃない。ステージに立つ彼女達の歌の底力を」
「昨日の私達が残した余韻を彼女達がどう捉えるか……注目ですね」
マリアとセレナがステージを見据える。切歌と調も続き彼女達に習う。
『──幾千の夜を越えて 我が
第一音から放たれる圧倒的な気品と、研ぎ澄まされた刃のごときボーカル。かつて「孤高の片翼」として一人で全てを背負い込もうとし、奏の事故や親友・鏡香の離脱に心を縛られていた彼女はもういない。
「やはりフランメの時から感じていたけど彼女はあの中でも別格ね。私かセレナが一騎打ちに持ち込む必要があるかもしれないわ」
「あたし達じゃあ……役不足デスか?」
「そうではありません。お2人のコンビネーションはそもそも最高峰……私達F.I.S学園が勝つならば戦略を練らないといけないということです。向こうと違いこのステージに立つ彼女達は少なくとも本物ですから」
「本国の学生よりもレベルが高いのは確か。でも……それだけ」
4人はそれぞれの思いを言葉にしながらステージを見据える。しかしルナ・ステージで過去の罪悪感と向き合い、仲間と共に歌う強さを知った翼の歌声は、会場の空気を一瞬でリディアンの色へと塗り替えていくには充分な爪痕を残す。
「流石お姉ちゃんだね」
「アウェーな雰囲気がリディアン色に染まりましたね翼さん」
客席で観覧する瑠璃と輪もその雰囲気を感じる。
「初日からわかっていたけど翼には逆境にもならない……か。でも寧ろリディアンはこの雰囲気を繋げるか……そこが真価だよ2人共」
「厳しいっすね鏡香さん。流石にヤバいですか?」
「F.I.S学園の昨日のステージを観た後だと不安は拭えないかな。もちろんフロンティアのステージとしては通用してるけど……」
『これが……リディアンの風鳴翼だっ!!』
翼の灯した一撃のシャウトがアリーナの天頂を突き破る。客席から地鳴りのような大歓声が巻き起こった。そしてバトンとマイクは次のクリスへと引き継がれる。モニターが切替わりクリスの姿がディスプレイへと映し出される。
『雪音クリス(孤独なエッジから「誰かのために響かせる叫び」を撃ち上げろ【イチイバル】』
「ハッ! 群れ雀共に聞かせてやるぜあたしの歌を!」
翼が作った張り詰めた緊張感を、一気に爆発的なロックテイストで塗り替えたのは雪音クリスだった。ステージ中央へと勢いよく飛び出したクリスは、愛用のガジェットを掲げ、魂の叫びを全開にして叩きつける。
「アタシの歌は、誰にも真似できない! 聴き逃すなよ、てめえらっ!!」
心に突き刺さる鋭いハイトーン。かつては大人の都合に振り回され、誰も寄せ付けない絶望のエッジを立てていた彼女が、リディアンの仲間や瑠璃からのバトンが繋がったことで得た、圧倒的な爆発力と誇り。それが今ステージに爆発する。
「やるねぇクリス……ルナ・ステージよりも仕上がってる。さてはママに頼んで歌唱指導して貰ったね?」
「ガチで勝ちに来てるねクリス。それでこそって所を見せてくれそうだね」
瑠璃と輪もクリスの影での努力を想起して笑顔を見せる。翼から託されたボルテージは確かに繋がれている。
「ここまで来たなら響にも続いて欲しいね」
銃弾のように繰り出される魂のシャウトが、観客たちの胸を文字通り撃ち抜いていく。舞台袖で見守るF.I.Sのマリアも、クリスが放つ生のエネルギーに目を見張っていた。
『立花響(すべてを包み込む「太陽の光」と全員の共鳴を繋ぐガングニール』
翼の凛とした気高さ、クリスの爆発的な熱量を背中で受け止め、最後にステージ中央へ躍り出たのは立花響だった。
響は深呼吸をし、胸の服の上から、過去の傷痕をたしかめるように優しく手を当てた。
(私は……誰かを打ち負かすために歌うんじゃない。誰かと手をつなぐために……みんなと一緒に笑うために歌うんだ!)
響が声を張り上げた瞬間、技術や洗練された統率力とは違う、聴く者すべての心を丸ごと抱きしめるような「太陽の光」がドーム全体を包み込んだ。
『──負けないよ! 私たちの歌は、ここにあるから……!!』
「素晴らしいわね。これがリディアンの撃槍……ね」
「………………チッ!」
「月読さん?」
響のステージを観て……調は響への敵意を剥き出しにしていた。
「偽善者。あの人の歌は偽善……人の痛みも知らずに手を繋ぐなんて……」
調の反応に反して響のまっすぐな熱量に引き寄せられるように、翼とクリスが響の左右へと並び立つ。3人の異なる個性がぶつかり合い、化学反応を起こしながら重なり合う圧倒的なユニゾンは会場のボルテージを作り替えた。
「私は認めない……あんな歌が認められて良い訳がない!」
F.I.S学園の切歌や調、セレナたちも「技術や統率力とは違う、あの真っ直ぐな熱量は一体何なの……!?」と驚愕し、会場全体が文字通り一つの巨大なうねりとなって歓喜の声を上げていた。ステージが終わり、割れんばかりの歓声と拍手が降り注ぐ中、やりきった表情で肩を寄せ合う響、翼、クリスの3人。会場のボルテージを引き上げてステージは幕を降ろす。
「お疲れ様3人共。良い写真が撮れたって優斗さんから伝言だよ」
「っ! お姉ちゃん! 見ててくれたの!? ありがとう!」
ステージを終えた控室には今回の撮影に関わった鏡香・龍樹・優斗が報告に、瑠璃と輪が翼・クリスへの激励に訪れていた。しかしそこで悲劇が起こる。
「貴女達のステージは観た。学園の名を背負うに足る実力は認める。それでも尚私は貴女に言いたい事がある」
「えっと貴女はF.I.S学園の……」
「月読調。覚えても覚えなくても貴女との関わりはフロンティアライブの間だけ。だからはっきり言ってあげる」
調は息を整えて言葉を紡いだ。
「偽善者。この世の中には貴女のような偽善者伝言溢れてる。人の痛みを識らない貴女が手を繋ぐ? 馬鹿にしないで」
「え……?」
調の言葉にフリーズする響と凍りつく控室。その中で1つの影が調を組み伏せた。
「痛い! 何なの貴女! コレは私とあの人の問題! 割り込まないで!」
「調! 今すぐ止めて謝罪しなさい! じゃないと……」
マリアの叫びも虚しく影に姿が追いつき調を押さえた人間に視線が集まる。その正体は……鏡香だった。
「お前さ……何様? 響が偽善者? 殺すよ?」
「っ!」
F.I.S学園では関わる筈が無かった物……殺気。その純度の高い殺気が今まさに調に向けられている。しかし不幸中の幸いその先の悲劇は止められた。
「鏡香さん! 馬鹿な事はやめてください! わかります! 気持ちはわかりますが駄目です!」
「離して龍樹! コイツは殺す! 私は響を侮辱したコイツを許せない!」
「落ち着けこの馬鹿! お前! その先をすればどうなるか識ってる筈だ! 瑠璃! 輪! この馬鹿を止めろ! 悲劇を起こさせるな!」
「わっ……わかりました!」
「止めます!」
瑠璃と輪も加わり鏡香を羽交い締めにする。緊迫した雰囲気の中で控室の扉が開く。
「…………セレナから話を聞き急ぎ駆けつけましたが……手遅れでしたか。はじめましてリディアン音楽院の代表者の方……私の名はナスターシャ。F.I.S学園で理事長をしています。この度は我が学園の生徒の失言を先に謝罪させてください。申し訳ありません」
入って来た車椅子の女性……ナスターシャの言葉で状況は張り詰める。しかしナスターシャの言葉は止まらない。
「切歌……先に言いますが調に同調・擁護をするつもりであれば無意味です。その際は貴女にも連帯して責任を取って貰います」
「マム!」
「暁さん!」
セレナの叫びも間に合わ無かった。そしてナスターシャは頭を抱えて呟く。
「主催に明日のプログラム変更を依頼します。リディアンの皆様……申し訳ありませんが我々に1日時間をください。このケジメは必ずつけさせます」
ナスターシャの言葉に優斗が前に出る。
「失礼……Ms.ナスターシャ。我々の従業員が貴校の生徒への暴行未遂……申し訳ありません」
「Mr.優斗……それには及びません。此度の問題は我々の失態です。監督責任は我々の領分です。そうですよねウェル教頭?」
「……返す言葉もありません。紛れもない僕達の監督責任です」
ナスターシャと共に現れたウェルもナスターシャの言葉を肯定する。
「ひとまず僕は主催への説明と謝罪に向かいます。一足先に失礼します」
そう告げてウェルは一足先に控室を出て行った。しかしその口元が僅かに綻んでいた事に気付いた者はまだ誰もいない。
調の暴言は原作通り……じゃあ不味いですはい。
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