何処かの世界のあり得たかもしれない少女達の日常物語   作:タク-F

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ようやくここまで……これた


揺れる鏡に映る涙

『G-eraフロンティアライブ』第4日目——ドームアリーナを揺るがす熱狂は、風鳴翼、雪音クリス、月読調、暁切歌の4人による『ORBITAL BEAT』の衝撃的なユニゾンによって、もはや臨界点に達しようとしていた。

 

「ようやく……持ち直せたわね。私達は遅れをとってるけどまだ巻き返せるわ」

 

「そうですねマリア姉さん」

 

 リディアン音楽院とF.I.S学園。かつては背負うものの違いから擦れ違い、ぶつかり合ってきた少女たちが、ステージの上で互いの熱量を認め合い、一つの巨大な旋律として共鳴する。観客席を埋め尽くした数万人の叫びは地鳴りとなって足元を揺らし、ドームの空気が物理的な熱を帯びて皮膚にまとわりつくほどだった。だが、ライブの真のクライマックスは、誰もが予想しなかった瞬間に訪れた。

 

「Rei shen shou jing rei zizzl(鏡に映る、光も闇も何もかも)〜」

 

 曲のラストノートがドームの天頂へ抜け、四方に張り巡らされた照明が一斉に暗転した。

 嵐のような歓声の只中、突如としてF.I.S学園側の特設ステージへと、一束の鋭い白銀のスポットライトが垂直に突き刺さる。光の輪の中心に立っていたのは、小日向未来だった。

 

「え……? 未来……っ!?」

 

 舞台袖で肩で息を吐いていた響が、信じられないものを見るように目を見開いた。F.I.S学園の制服に身を包み、マイクを両手で強く握りしめた未来の姿。いつもなら響の隣で彼女の暴走を止め、傷ついた心を温かく包み込む「陽だまり」として微笑んでいたはずの少女が、今全世界の視線を一身に集める舞台の真ん中に立っている。

 

「未来……どうしてあそこに……?」

 

「Mr.ウェル! どういうつもり! 何故彼女があの場所に……の陣営として立っているの!」

 

 翼とクリスも驚きに息を呑み、F.I.S側の舞台袖で見守るマリアやセレナたちは静かに……否、翼達以上の絶句を余儀なくされていた。

 

「どうもこうも無いだろうマリア? 君達があまりにも不甲斐ないから僕がお膳立てしてやったのさ。2人を焚きつけてでもこちらの勢いとしたかったのに、あのババアと来たらあいつらを謹慎にさせてぶち壊してさぁ……もう面倒何だよ」

 

「ウェル教頭! こんなのは横暴です! 私達の学園の品位に泥を塗り「煩いんだよ!」きゃあ!」

 

「セレナ!」

 

 ウェルを咎めようとするセレナへウェルが平手打ちを加える。混乱する2人を前にウェルは更に饒舌と化して言葉を続ける。

 

「ババアもババアさ! 大人しく隠居してればこっちも楽なのに……わざわざ出張って目の上のたんこぶってやつさ! 僕達は勝つ為にここに来てるんだ! 勝てなきゃお前達に価値なんざねェって言ってんだよ!」

 

 ウェルの矛先はセレナを庇おうとするマリアへと向いていた。

 

「悪いが……そこまでにしてもらおう。ステージに立つ被写体の顔に傷を付けられるのはコチラとしても迷惑だ。まったく……嫌な予感がしてこっちに様子を見に来て良かったぜ」

 

「セレナ……控室に行こう。小さな傷だけどそれでも君を放っては行けないよ」

 

 現れた優斗と蒼汰がウェルと2人の前に立つ。

 

「はぁ? 部外者はすっこんでろ! こっちは身内の話をしてんだよ!」

 

「部外者じゃなくてビジネスですよMr.ウェル。彼女達があくまでもステージに立つアイドルである以上、撮影する僕達にも関わる話です。その手のトラブルが分からない貴方ではない筈です」

 

「言ってくれるじゃないか優男! 大体なぁ……僕は君みたいな薄っぺらい男が大っ嫌いなんだよ!」

 

 なおも悪態の止まらないウェルにマリアとセレナも絶句する。しかし舞台の様子もまた止める事は出来ない。

 

「悪いけど立花響……貴女はステージに向かいなさいな。経緯はどうあれここはステージ……貴女を待つ人達がいるのよ?」

 

「ここは優斗さん達に任せて。大丈夫……貴女のお姉さんを救った人を信じなさい」

 

「ツカサちゃん……メラちゃん……」

 

 ツカサとメラに付き添われ響はステージへと立つ事になる。

 

 

 

 

 

 

「ゴメンね響……私はそれでもね……」

 

 ステージの上で未来は深く息を吸い込んだ。胸の奥に溜め込んだ葛藤・覚悟……そしてたった1人への愛おしさをすべて吐き出すように。1次選考の時に響の姉である「鏡香の影」として揶揄され苦しんでいた響を支えながら、未来はずっと自問自答していた。

 

「私は響と共に歌いたい気持ちは嘘じゃないよ? でもね……私だって響に挑みたい。ウェルさんは私にその機会をくれた。利用されているとしても……私は響と対峙したいよ」

 

 自分はただ待つだけの存在でいいのか。響の背中を追うのではなく、本当の意味で隣に並び立つためには自分自身の歌を、自らの足でこの過酷な光の中に解き放たなければならないのではないか。

 

「だから来て響……」

 

 未来がマイクを口元へと引き寄せた。

 

『閃光 始マル世界 漆黒……終ワル世界』

 

 重厚で重々しい、けれどどこか透きとおった哀愁を帯びたイントロが、熱狂の渦の中にあったアリーナを瞬時に静寂へと突き落とした。

 

『殲滅……帰ル場所ヲ 陽ダマル場所ヲ』

 

 第一音が放たれた瞬間、客席からどよめきすら上がらなかった。息をすることさえ忘れるほどの気迫が包んでいく。未来が奏でたのは、美しくも切ない狂おしさを秘めた楽曲 だった。普段の穏やかな小日向未来からは想像もつかない、鋭く研ぎ澄まされたハイトーン。それは、響へのどこまでも純粋な愛であり、同時に「私を置いていかないで」「あなたの光に追いつきたい」という、内に秘めていた切実な執着の叫びでもあった。

 

「未来……」

 

『指をすり抜けるキミの左手 私だって君を守りたいんだ』

 

「小日向……貴女にはこれほどの激情を抱えていたと言うの!?」

 

「じゃあなんでアイツはあの場所に……あの立場で歌ってんだよ!」

 

 控室の翼とクリスすらも未来の豹変に動揺している。鏡に映る自分は、いつだって響の光を反射するだけの存在だったかもしれない。けれど、歪んだ鏡の奥に隠していた本当の自分を、泥臭いまでの熱量を、未来はこの大舞台で全開にして叩きつけていた。

 

「未来……こんな歌……私、知らなかった……っ」

 

 ステージで両手を胸の前で強く握りしめ、響の瞳からポロポロと涙が溢れ出していた。響には伝わっていた。未来がどれほどの覚悟を持ってこのステージに上がり、どれほど深く自分を想い、そしてどれほどの孤独と戦いながらこの歌を完成させたのかが。技術や計算ではない。魂を削って放たれる未来の歌声が、アリーナの空気全体を紫紺の光で染め上げていく。

 

『あの懐かしのメモリア 2人を紡ぐメロディを』

 

 未来は歌い切ると、乱れる息をそのままに、まっすぐ舞台袖の響を見つめた。

 マイクを通さず、口惑だけで告げる。

 

『こんなに好きだよ ねえ……大好きだよ』

 

(──来て響。私の歌を、受け止めて)

 

「ククク……素晴らしい。流石はリディアンの生徒……急ごしらえでもここまでやれるとはね……」

 

 未来が残した『歪鏡』の圧巻の余韻。アリーナを支配する重厚な緊張感と痛切なまでの愛の余熱にウェルは興奮する。

 

「さぁ……響の歌を聞かせて?」

 

 そんな中で立花響はゆっくりと、けれど一歩一歩踏みしめるようにステージ中央へと歩み出た。そして客席からの視線が響に集中する。響は胸の服の上から、過去の傷痕がある場所を手で優しく押さえた。1次選考での挫折、鏡香の幻影に怯えた日々、未来に与えてしまった心配。そのすべてが今の自分を形作っている。

 

(未来……。私に追いつくために、そんなに強い歌を歌ってくれたんだね。私を試すためじゃなく私と本当の対等になるために……!)

 

 響はぐっと顎を引き、マイクを握りしめた。瞳に宿るのは、かつての惑いではない。すべてを包み込み、引き受ける決意の光だった。

 

(未来が闇を……歪みを歌うなら私は、それを全部抱きしめる太陽になる!)

 

 溢れ出る情熱とともに、響が第一声を解き放つ。

 

『幾億の歴史を越えて この胸の問いかけに 応えよShine』

 

 奏でられたのは、彼女の原点であり、圧倒的な肯定のエネルギーに満ちた楽曲 。響の声がドームに響き渡った瞬間、未来が作り出した緊張と切なさの空間が、一瞬にして温かく眩い「太陽の光」によって塗り替えられていった。

 

『最速で 最短で 一直線に 』

 

 それは、相手を叩きのめすための歌ではない。傷ついた者、泣いている者、そして自分に向けて刃を立てる愛しい存在すらも、丸ごと胸の中に抱きしめて笑いかけるための歌。

 

『響け 伝え 歌え 全力で 「一人じゃない」と届けたい』

 

 未来が『歪鏡』で描いた切なく重い愛の影を、響の歌が7色の虹となって包み込み、鮮やかな花々に変えていく。

 

「すごい……! なんて真っ直ぐな歌なの……!」

 

「2人とも……歌で、魂で殴り合いながら、抱き合ってる……っ!?」

 

「これが彼女達の……」

 

「絆の歌だと言うのデスか」

 

「あの2人の絆は……対峙して尚も輝くのね」

 

「共にステージに立つのがアイツで……なんだか安心出来る」

 

 客席の観客たちだけではない。F.I.S学園のマリア、セレナ、調、切歌……そしてリディアンの翼やクリスまでもが、2人の対峙に息を飲み、心を揺さぶられていた。対峙する未来と響……特設ステージの未来と、メインステージの響。距離を隔てて立つ二人の視線が、旋律の渦の中で固く交差する。

 

「生憎おれ達の幼馴染はこんな逆境にへこたれる事は無い。そうでしょ鏡香さん?」

 

「ん……寧ろ響を揺さぶりたいなら失敗だよ。響は自分の為よりも誰かの為に歌う時の方が輝くんだから」

 

 未来の瞳に溜まっていた涙が、響の歌声を受けて頬を伝い落ちた。響は最高の笑顔を浮かべながら、未来へ向かって手を差し伸べるように歌い続ける。

 

「いっちゃえ響……ハートのゼンブで……」

 

 言葉を超えた対話。歪んだ鏡に映る切なさを、虹色の花束で答える最高のアンサンブル。2人の異なる光がぶつかり合い、混ざり合い、フロンティアライブの歴史に刻まれる最高のクライマックスを描き出していくのだった。

 

 

 




フロンティアライブもラスト1日!ここから最終日です!

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