何処かの世界のあり得たかもしれない少女達の日常物語   作:タク-F

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2次選考の前に彼女達の光景を……


重なる声と弾ける光

 写真館では1人の青年……黒森龍樹が台車を押しながら注文の品を受け渡していた。

 

「んじゃあコレが1次選考のフォトブックです。100件分個別の仕立てなんで大分かさばりますけど大丈夫ですか?」

 

「ありがとうございます。後は私達が運びますので」

 

「本当にこちらの車出さなくて良かったんですか?」

 

「良いんです。私達が届けてあげたいからやってる事なので」

 

「まぁこちらは楽なので良いんですけどキツイですよ?」

 

「「私達は鍛えているので」」

 

 龍樹は彼女達に品物を引き渡す。受け取っていたのは【風鳴瑠璃】と【出水輪】……そして【天命メラ】の3人。

 

「それにお姉ちゃんやクリスに届けるのは……なんか私じゃないと嫌なんですよね……」

 

「だからって瑠璃さん達にさせる程っすかねぇ」

 

「はいはいボヤかない龍樹……言われた仕事は片付ける」

 

 奥の作業場から出てきた鏡香が龍樹を咎める。そんな時に輪が鏡香へと問いかける。

 

「そういえば鏡香さん……先日の選考でちょっと面倒な気配がありまして……」

 

「…………聞かせて」

 

「もしかしてその為に……」

 

 鏡香と龍樹の気配が輪達の言葉を聞くために変化する。

 

「事情を識ってる私達と当時学園にいなかった1年を除いた上級生の雰囲気が妙だったんです。あの日響ちゃんが歌っていた姿は確かに鏡香さんを彷彿とさせました。でも……」

 

「ッ!? まさか響に鏡香さんの姿を投影したのか!? 一体どのくらいの人数が……」

 

 龍樹の血相を変えた発言に驚きつつメラが口を開く。

 

「上級生の大半……です。中には響ちゃんを鏡香さんの代わりって話してる生徒もいます」

 

「…………わかった。こっちで手を打つ。でもその為に3人にも……そしてあと何人か協力者が欲しい。私達でも心当たりを当たるから万が一に備えて……コレに目を通して欲しい」

 

「…………楽譜と……CD?」

 

 メラ達は渡されたモノを開封する。そこには楽譜が記されている。

 

「その曲はあの人が考えてくれた在校生への贈り物。今私も練習してるけどもしも在校生の心があの日に囚われているなら使わないといけない。そんな事態になって欲しくは……ないけど念の為に……」

 

「でもなんでそんなモノを……?」

 

 鏡香は顔を伏せて答える。

 

「私には本来資格は無い。だから立てないけどそれで未練が断てるなら……」

 

「だから私達に……」

 

「元々瑠璃さん達から切り出さなきゃ奏さんから打診するつもりらしいです。でも話聞く限り必要かもしれないんでその時は……」

 

「じゃあなんで私も……?」

 

 メラの疑問に龍樹が答える。

 

「虹の旋律……この歌は7色の声が重なる時最高の輝きを放つって奏さんが言ってました。現在コレをサプライズできるのはエントリーしてない3人だけ……頼めますか?」

 

「…………わかりました。やれる限りやってみます!」

 

「ありがとうね瑠璃……輪……メラちゃん……」

 

 鏡香は巻き込んだ事を申し訳なく思いつつも協力を仰ぐ。その瞳に映した未来は果たして……

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立リディアン音楽院の大ホール。1次選考の熱狂から一転、2次選考【トリオ・アンサンブル審査】の会場には、張り詰めた緊張感が漂っていた。

 

「──2次選考を始めます。問われるのは個の歌唱力のみにあらず。大舞台『フロンティアライブ』に立ちうる連携力と、他者と高め合う表現の相互作用です」

 

 審査員席の教務主任の声が冷徹に響く。30名の狭き門をくぐり抜けた精鋭たちが、3人1組のトリオとしてステージに挑む。しかし合否はあくまで個(・)人(・)単(・)位(・)であり、全10組のパフォーマンスを経て、3次選考へ進めるのはわずか【上位の9名】のみというあまりにも苛烈な生存競争だった。

 

「それでは第5グループの3名……ステージへ」

 

 最初の選考に現れたのは、1次選考でホール全体を自身の「独壇場」に変えてみせたのは、アイドル科のダークホース──堕落ツカサのグループだった。

 

「さあ皆様にお見せするのは女王のステージ……お立ち台へいらしてください! 私の最高のバックダンサーの皆様!」

 

 スポットライトを浴びたツカサは、眩いばかりのショッキングピンクのオーラを纏い、課題曲のイントロと共に艶やかに舞い始めた。

 

「っ! 課題曲をセルフプロデュースに仕立てたのか!?」

 

 舞台裏でクリスが驚愕した現象……それは1(・)人(・)を(・)際(・)立(・)た(・)せ(・)る(・)為(・)の(・)演(・)出(・)であり、実質的に上級生を切り捨てる行為だからだ。

 

「でもこの完成度……なんて恐ろしい……」

 

 ツカサが選択したのは、完璧な自己プロデュースによる『支配』のアンサンブル。組まされた2名の上級生を、一切の妥協なく立ち位置から視線、コーラスのタイミングまで完璧に仕込み上げ、あたかも「トップアイドルと彼女を引き立てるバックバンド」のような完成されたショーを作り上げたのだ。その完成度は翼でさえも驚く程……少なくとも当時の翼の年齢を超える才能を示していた。

 

「もっと私を引き立てる光栄を! その歌声に乗せてください!」

 

 指先ひとつ、首の角度ひとつで客席と審査員の視線を釘付けにしていく。上級生たちの歌声はツカサの主旋律を支える完璧な土台となり、ホールは一瞬にして「堕落ツカサのワンマンライブ」へと変貌を遂げた。

 

「すごい……! 私と同じ1年生なのに、ホール全体を自分の色に染めてる……!」

 

 舞台袖で見守る響の口から息が漏れる。審査員たちも感嘆の吐息を漏らし、ツカサの欄には破格の高得点を書き走らせていた。

 

【第3グループ:孤高の不協和音】

 

 続いてステージに上がったのは、雪音クリスを擁する第3グループだった。

 

 イントロが流れた瞬間、クリスの放った第一音は、雷鳴のようにホールを突き穿った。

 

「あたし様について来い!!!」

 

 

 圧倒的な声量、寸分の狂いもないピッチ。技術の精度においては間違いなく今大会トップクラス。しかし──その歌声はあまりにも鋭く、孤高すぎた。

 

「雪音さん、早すぎるわ!」

 

「アタシに遅れてんじゃねえ! ついてこいッ!」

 

 組まれた上級生2名との声の重なりは、調和ではなく激しい『衝突』を生んでいた。しかしチームメイトすらも糧とするほどの執念は先のツカサとも異なる獰猛さだ。

 

 

 クリスの胸中に渦巻くのは、1次選考で見た「響の歌」への激しい焦りと、上級生たちから「鏡香の代わり」と評価された噂への嫌悪感。完璧に歌おうと焦れば焦るほど、彼女の旋律は優しさを失い、刃のように研ぎ澄まされていく。

 

(なんで……なんでアタシの歌は、誰とも重ならねえんだよ……っ!)

 

 完璧なソロパフォーマンスでありながら、トリオとしての『連携』は壊滅的。歌い終えたクリスは、万雷の拍手の中でも険しい顔を崩さず、上級生たちと目を合わせることもなく舞台を後にした。

 

【第9グループ:1年A組の明暗】

 

 中盤に登場したのは、1年A組の仲良しトリオ──安藤創世、寺島詩織、板場由美の第9グループだった。

 

「いくよ創世! 詩織!」

 

「うん、楽しんでいこう!」

 

 上級生のような圧倒的な技術はない。けれど、日頃の学校生活で培われた抜群のコンビネーションが、観客の心を和ませていく。3人は顔を見合わせ、弾けるような笑顔で声を重ね合わせた。特に中央の安藤創世は、持ち前の高い歌唱技術と表情豊かな表現力で、グループ全体の歌声を力強く牽引していく。

 

『──輝く未来へ、手を伸ばして!』

 

 創世の伸びやかなハイトーンがホールに響き渡り、詩織と由美が優しいコーラスでそれを支える。技術の拙さを補って余りある「等身大の調和」に、客席からは温かな拍手が送られた。

 

【第7グループ:太陽と陽だまりの旋律】

 

 そして終盤、運命の第7グループ(立花響、小日向未来、青崎雫)がステージ中央へと進み出た。そして響は胸元を強く握りしめていた。

 

「私は私……お願いします!」

 

 1次選考で耳にした「鏡香の妹だから」「代わりになってほしい」という上級生たちの不条理な声。服の下の傷痕が痛むような恐怖。私自身の歌なんて、誰も見ていないんじゃないかという冷たい絶望。

 

「だけどお姉ちゃんと私は違う!」

 

 そして隣に立つ小日向未来が、そっと響の手に自身のスリーブを重ねた。

 

(大丈夫……私には未来がいる。未来が、私の歌を信じてくれてる……!)

 

 前奏が終わり、未来が最初に声を紡ぐ。

 

『──木漏れ日の下、君の足音を聞いている』

 

 未来の歌声は、清らかな泉のように温かく、深く、響の傷ついた心を優しく包み込んでいく。

 その包容力に導かれるように、響は深呼吸をし、胸の奥から溢れ出す想いをマイクへとぶつけた。

 

『──繋ぐ手と手! 温もりは消えない!!』

 

 瞬間、ホール全体が眩い太陽の光で満たされたかのような錯覚に包まれた。

 それは鏡香の模倣でも、誰かの代用品でもない。過去の悲しみも、拒絶も、周囲の身勝手な投影すらもすべて抱きしめて前に進もうとする──『立花響』だけの、生きた歌声だった。

 

「なっ……!?」

 

 舞台袖で見ていたクリスが目を見開く。審査員席の教務主任の手が止まる。響の突き抜けるような圧倒的な光と、それを完璧なバランスで支え、引き立てる未来の『陽だまり』のハーモニー。その二人の純粋な熱量に引っ張られ、組まれた雫もまた、今まで出せたこともないような晴れやかな声を重ね合わせていく。

 

(この娘の輝きは鏡香先輩を……ッ!)

 

『──離さないよ、君の手を! どこまでも一緒に行こう!!』

 

 3人の声が完全な1つの旋律となり、大ホールの天井を突き破らんばかりに響き渡る。曲が終わった瞬間、客席からは割れんばかりの歓声と、スタンディングオベーションが巻き起こった。

 

【審査結果発表】

 

 全10組の演目が終了し、緊張が極限に達する中、舞台上の巨大モニターに【2次選考通過者・9名】の名前が一気に刻まれた。

『──2次選考通過者(全9名)』

 * 風鳴 翼(第1グループ)

 * 雪音 クリス(第3グループ)

 * 堕落 ツカサ(第5グループ)

 * 立花 響(第7グループ)

 * 安藤 創世(第9グループ)

 

 

「入ってる……! 響!通ったよ……!」

 

「未来……っ! 私……歌えるんだね……!」

 

 ステージ裏で、響は自身の通過に涙を流した。だが現実は未来の落選を告げる。そしてその傍らでは、明暗が分かれた第9グループの姿があった。

 

「創世……すごいよ! 受かったじゃん!」

 

「詩織……由美……私……っ」

 

 自分の名前だけが画面に残り、抱きついて祝福してくれる詩織と由美を前に、創世はボロボロと涙をこぼした。

 

「2人の分まで……私、3次選考で絶対に全力出すから……ッ!」

 

「当たり前でしょ! アタシたちの分まで暴れてきなさいよ!」

 

 友の想いを背負い、涙を拭う安藤創世。

 

「あれがあの娘の歌……鏡香のそれとは違う優しい歌ね……」

 

「この調和力……確かに選考の趣旨に則してる。少なくとも彼女こそがダークホース……」

 

 一方で、通過者リストの「立花響」の名前を睨みつけるクリスと、優雅に口元を歪めるツカサ……そして響を見始めている風鳴翼。残された者はわずか9名。舞台はついに、それぞれの覚悟と世界観が激突する【3次選考:ソロ・セルフプロデュース審査】へと踏み出していく。

 

 




次回は3次選考!響の応援ぜひお願いします!

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