そうして、智絵は最重要な目的。連絡先の交換を達成した。
「いいの?」
「いいんだ?」
「いいけど?」
三者三様に言った。智絵はそんな即答で?と。りおは、まぁそうなるとは思ったと。猫は何も考えていなかった。
猫宮は、ファミチキを平らげて、ペロリと指を舐めてから手を拭いた。智絵はドキリとした。今、かわいいだけじゃなくて艶っぽく感じたのだ。
「えー、とスマホは、投げ捨ててないからこの辺に」
猫宮は、ベッドサイドの本辺りを探してスマホを発掘した。ちなみに昨日退学ニート宣言の後に帰って機内モードにしてから今まで触れられてすらいなかった。
「はい、電話番号とメールアドレス」
「えーと、LINEは?アカウント消してたけど」
「アプリごと消したよ」
「あはは、猫ちゃん最高!男子高生のやる事じゃないっしょ!」
「もう男子高生じゃないしね」
爆笑するりおに、論点のズレた反論をする猫宮。だが、これが猫である。
「いや、まだ退学手続き済んでないっしょ。まぁいいや私とも連絡先交換しよ」
そうして、猫宮はりおとも連絡先を交換した。
「やた!じゃあ私、夜中に病んでポエム、猫ちゃんに連投しちゃうから!」
「構わないけど、俺、特に感想は返さないけど」
無論、冗談である。りおはメンヘラではない。ただのポジティブギャルである。
最も智絵達は、現代っ子の感覚でスマホに繋がれば、いつでも相手と繋がると思っているのだろうが、猫宮相手には少々見通しが甘い。こいつは万年機内モードでスマホを放置している奴なのだ。
まぁ、猫宮とて、リアルタイムで連絡には気付かないが、二日にいっぺんくらいはスマホチェックしない事もないだろう。その時連絡が入っていればちゃんと返信なりするだろう。
多分。
猫宮はポテトとファミチキを平らげて美味しそうにモンスターエナジーを流し込んだ。
「猫宮くん、ちゃんと食べてる?」
「食べてるよ、今食べたじゃない?」
智絵は心配していた事を口にする。
「今日朝ごはん、昼ごはんは何食べたの?」
「んーん。食べてないよ?お水だけ」
眠たげな眼で猫宮は答える。つまりこの猫は少なくとも今日の初めての食事がファミチキとポテトとモンスターエナジーだったのだ。
やっぱり智絵の心配した通りだった。この猫は摂食がめちゃくちゃだ。
「猫ちゃん、それ早死にするよ?」
「かもねぇ」
流石に呆れたように言うりおに、猫宮は他人事のように返す。
智絵は思った。この猫は他人に興味がない以前に自分に興味がないのだ。
頼むからちゃんと食べて。
と、言いそうになった所を、智絵はりおに肘を軽く当てられて静止した。
りおは、眼で言っていた。深刻に受け止めて、余計なお節介をしたら、この猫は離れていく。
何となく智絵が親友が何を言いたいか読み取った。まさにツーカーの仲である。
「……猫宮くん甘いものは好き?」
堪えて、智絵はそう尋ねた。
「好きではないけど嫌いじゃないよ。カロリー摂取効率がいいから割と食べる」
甘いものはカロリーが高い。だからエネルギー源として優秀。この猫は食糧をカロリー摂取としか捉えていない。
と、思いきや、一方、のり弁やファミチキを美味しく食べる。捉えどころがなかった。
「これ、あげる。お腹空いたら食べて」
智絵はカバンから板チョコを三枚取り出して渡した。手土産として持ってきたものだった。
「わーい、ありがとう」
受け取った猫宮は早速一枚、銀紙を破ってぱきりと一口齧った。今し方食べたばかりだったが、何だかんだお腹が空いていたのかも知れない。いちいちかわいい奴だった。智絵はドキリとさせられる。
「ねー、ともっち」
「……何?」
「私飼っていい?この子」
「だめ」
「?」
二人のやり取りを、猫宮はチョコを食べながら、小首を傾げて見ていた。猫は自分を誰が飼うかなんてどうでもいいのだ。猫だから。
だが、心なしか彼はご機嫌そうだった。ロクに食べてなかった所にホットスナックとチョコレートで体温が上がり始めていた。
基本的に猫宮はロクに動かずに、大して食べない省エネの猫だった。よく遊ぶ若い猫というより、無駄な動きがない老猫のような雰囲気があった。
「ともっち。そろそろ帰ろう」
りおは自然と耳打ちした。
「なんで?」
「勘。猫は構いすぎると不機嫌になるっしょ」
りおの注意に、智絵も一理あると頷いた。引き際は潔く。それは猫に好かれる鉄則だ。
「猫宮くん、そろそろ帰るよ。また来てもいいかな?」
「いいよ」
智絵のが立ち上がりながら言うと、二つ返事で猫宮は答える。智絵は猫相手に上手くやっていた。
「じゃあ私ら帰るねー、猫ちゃんまた遊ぼうねー」
「ばいばい」
「またねー」
退室する二人に、猫宮は機嫌良く手を振って答えた。
りおと智絵は家を出て、一息吐く。
「何というか……」
「うん、なんか」
「あの武器。単なる中二病だから集めてるとかじゃないよね。猫ちゃんガチの人っしょ。なんかやってる」
「みたいだね」
「後、案の定生活能力が崩壊してたっしょ」
「あれ、生活能力というより、生存能力が欠如しているって言わないかな?」
「いえてる!なんかほっといたら、本の山の中で死んじゃいそう」
「りお、それ笑えない」
二人は帰路を歩きながら、話し合った。
「ご両親は〜って流石に聞きにくかったなぁ、この私でも」
「……」
確かに、あの破天荒な猫はちゃんと面倒みてくれている親はいるのだろうか?愛してもらえているのか?猫宮がロクに食事を取らずにいても、ストッパーになる存在はいないのだろうか?考えだすと、今、猫宮は不憫な環境にいるのではないだろうか、と二人は思った。
なお、実際には猫宮は母親は居ないが、心配してくれている父親はいる。ただ、その父親ではコントロールが完全に不可能なだけである。
「ねぇ、りお。やっぱり放っておけないよ。猫宮くん」
「うんまぁ、私も、惚れた腫れたとか抜きにしても、あれは放っておけないっしょ」
「よし、決めた!」
智絵は宣告した。
「私、毎日ご飯とかお世話しに行く!」
こうして、智絵は変態ストーカー改め、猫の主人となった。猫自身の預かり知らぬ所で。