正体不明な拾った少女が実は闇堕ちした推しヒロインだってことを俺はまだ知らない〜「ごめん、俺は聖女が好きなんだ」「……それ、私ですよ?」〜   作:水葉わいん

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第10話 終焉の魔女は一緒に出張に行きたい。

 

 

「おはようございます、アスタさん。今日もいい天気ですね」

 

 翌朝、珍しくリアの方が早く起きていた。

 

「珍しいな、いつもなら一緒に寝た翌朝は俺の背中に抱きついたままなかなか起きないのに……」

 

「た、たまにはちゃんと起きますよ……! 私だって、子供じゃないんですから」

 

「……? 子供だと思うけど?」

 

「うっ……そ、そうなんですけど……」

 

 リアは言いづらそうに言葉を濁らせる。

 もしかして、大人扱いしてほしいのだろうか。

 

 なるほどな、そういうお年頃か。

 

「アスタさん? なんですか、その温かい目線は……!」

 

「いやぁ? なんでもないよ?」

 

「もうっ……!」

 

 リアはぷりぷりと怒る。

 その姿もなんとも子供っぽいというか……。

 

「そ、それよりも早くご飯にしますよ!」

 

「はいはい」

 

 怒ったリアはキッチンの奥の方へ消えていく。

 

 そんな子供っぽいリアの姿を見て、俺は、つい微笑ましく思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで、好きな人が居るって言われてから、こんなにモヤモヤするんでしょうか……」

 

 キッチンの奥で、リアは小さく呟いた。

 

 

 ――◇――◇――◇――

 

 

「副ギルマス、おはようございます!」

 

「ああ、シアさん、おはよう」

 

 ギルドでしばらく仕事していると、シアさんが出勤してきた。

 

「今日もお仕事、頑張りましょうね!」

 

「そうだね、昨日はシアさんのお陰で久しぶりに早く帰れたから、本当に助かったよ」

 

「ふふっ、なら良かったです」

 

「ほんと、感謝してもし切れないよ。おかげでリアの機嫌も良かったし……あっ」

 

 ――しまった。

 ついリアの名前が……!

 

「リア?」

 

 シアさんは不思議そうに首を傾げる。

 

「あ〜……じ、実はさ、親戚の子をしばらく預かっててさ。あ、他の人に知られたら面倒になりそうだから、秘密にして欲しいな」

 

「ええ、勿論です……! でも、リアちゃんについて、私、話が聞きたいですっ!」

 

 シアさんは机に身を乗り出し、興味津々で距離を詰めてくる。

 

「まあ……他の人もいないからいいか」

 

「やった……! じゃあ、副ギルマスはリアちゃんのことを、ど(・)う(・)思(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ん(・)で(・)す(・)か(・)?(・)」

 

「へ?」

 

 てっきり、『リアは何歳なのか』、『どんな子なのか』とか訊かれると思ってただけに驚いていた。

 

「ど、どうって……リアは10歳くらいだからなぁ……普通に娘みたいに思っているというか……守るべき対象というか……」

 

「……へえ、娘ですか」

 

 明らかに、つまらなそうな口調だった。

 

 あ、相手は10歳くらいの子供だぞ!?

 一体、何を期待しているんだ……?

 

 すると、シアさんは少し覚悟を決めるように深呼吸を挟み――

 

「――じゃあ、もしも7年後のリアちゃんが現れたとしたら結婚できます?」

 

「へ?」

 

 あまりにも予想外の質問だった。

 

「ど、どうして7年後……?」

 

「それは……何となくです。それよりも、どうなんですか? 副ギルマス!」

 

 シアは期待に満ちた瞳で俺を見つめていた。

 

「……そ、そうだなぁ……7年後のリアはさぞかし美人なんだろうし、料理も上手くて気遣いもできる優しい子だから良いお嫁さんになってくれるだろうからなぁ……」

 

「っ〜〜〜!? ふ、ふぅん? じゃあ――」

 

「――でも、結婚は出来ないよ」

 

「え……」

 

 シアさんの表情は凍りついていた。

 

「いや、別にリアが悪いとかじゃないよ? リアは最高のお嫁さんになるだろうけど――俺には心に決めた人がいるんだよ」

 

「……そう、なんですか……じゃあ、その人以外なら誰であっても付き合う気はない……ってことですか?」

 

「まあね。馬鹿だと思うけど……俺さ、ずっと引きずってるんだよ。叶うはずのない恋だから、絶対に諦めた方が早いんだけどね……」

 

 俺は窓の外を見つめながら、想いに耽る。

 

 聖女アリシアは……今は一体、何をしているのだろうか。

 主人公と幸せにイチャコラやっているかなぁ。

 

 だったら……良いな。

 まあ、少し悔しいけれど。

 

「……そうですか、凄く……一途な人なんですね」

 

「まあ、そうなのかも。……って、シアさん?」

 

 俺はシアさんに視線を戻すと……彼女は下唇を噛みながら、瞳に涙を浮かべていた。

 

「あっ、いや、これは……ご、ゴミが目に入っちゃっただけですから……っ! あ、洗ってきますね」

 

 シアさんは静かに席を立つと、背を向けて手洗いの方へ去っていった。

 

 ……傷つけてしまったのだろうか。

 

 もしも、シアさんが俺に好意を持ってくれていたのだとしたら……悪いことをしたな。

 

 俺は自己嫌悪で小さくため息をこぼした。

 

 

 ――◇――◇――◇――

 

 

「――出張!?」

 

 お昼休みの後。

 

 俺は予想外の言葉をミーナから聞いて、目を見開いた。

 

「なんか、ギルマスが副ギルマスに頼みたいって言ってましたよ……? 詳しい話は直接聞けばわかると思いますけど……」

 

「ええ……絶対にギルマスが面倒臭がってるだけじゃん」

 

「あはは……大変ですね、副ギルマスって……」

 

 ミーナは憐れむような視線を送ってくる。

 

「でも、ギルマスは副ギルマスともう一人、出張に同行させたいって言ってましたね」

 

「へえ……そうなのか」

 

 俺はミーナに視線を移す。

 

「いや、私は嫌ですよ? これは私を誘わないで欲しいって話です。私、夫と離れたくないですし」

 

「ですよねー……はあ……じゃあ、テキトーに誰か暇そうな人間を道連れにするか……」

 

 そう言ってギルド内を見渡すと、途端に全員が目を逸らした。

 おい、俺を一人にするな……!

 

 俺が諦めて一人で出張に行こうと思った時。

 

「――なら、私が一緒に行きたいです……!」

 

 そう言ったのは、俺の隣の席の少女。

 ――シアさんだった。

 

 彼女は、覚悟を決めたように真っ直ぐな視線を向けている。

 

「し、シアさん……? 良いのか?」

 

「はいっ! 出張ってどんなものか知りたいですし……副ギルマスと一緒なら良いかなって……」

 

「おお、そりゃあ嬉しいことを言ってくれるね。でも……いいのか? 仕事だからそれなりに大変だぞ?」

 

「大丈夫です! やる気ならあります!」

 

 シアさんは意気揚々と返事をした。

 

「じゃあ、お願いしようかな……! 仕事も早くて優秀なシアさんが同行してくれるなんて、助かるよ。よろしくね」

 

「はいっ! よろしくお願いしますっ!」

 

 

 

 そうして、俺とシアさんは一緒に出張に行くことになった。

 

 

 ちなみに後日、ギルマスから聞いた出張場所は港湾都市――『カイロス』。

 ――次のゲームのイベントの舞台だった。

 

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