僕のヒーローアカデミア 〜メダル使いの規格外ヒーローライフ〜 作:アルフアルフ
主人公は、個性を解析してメダルにする能力を持っていますが、個性の燃費が悪くて普段から大食漢な男の子です。
このプロローグでは、彼がまだ小さな少年だった頃の、すべての始まりの物語を描きます。トガちゃん(トガヒミコ)は、原作とは異なり映二に救われ、雄英高校の1年先輩(保健委員&リカバリーガールの弟子)として真っ直ぐ育っています。楽しんでいただければ幸いです!
鳳映二(おおとり えいじ)の『本棚』の一等地には、一冊の古いルーズリーフが飾られている。
表紙には少し掠れた字で『おれのこせいノート』と書かれており、その最初のページに記されているのは、実の両親の能力ではない。『トガちゃん(トガヒミコ)の個性:血(※まだ研究中)。すごく優しくて、かわいい女の子』 すべては、まだ映二が小さな少年で、彼女が孤独な少女だったあの雨の日に始まった。
「……おねがいだから、普通になって。どうして、どうしてそんなに気味が悪いの」
夕暮れの公園。激しい雨の音に混じって、そんな悲痛な叫びが聞こえた。
傘もささずに立ち尽くす大人ふたり――トガの両親が、地面に座り込んで泣いている少女を見下ろしていた。少女の口元には、うっすらと赤い液体が滲んでいる。
「私、ただ、好きな人を格好いいって思っただけなのに……っ。その人の全部になりたかっただけなのに……!」
少女――トガヒミコは、自分の『血を愛着する個性』を異常だと罵られ、実の親から拒絶されていた。
両親の目は恐怖に染まっている。自分たちの娘が、理解できない化け物になってしまったかのような絶望。今にも彼女を置いて逃げ出してしまいそうな空気が、その場を支配していた。
そこに、たまたま雨宿りで通りかかった同い年ほどの少年――鳳映二が、怪訝そうな顔で割って入った。
「おいおいおい! 何やってんだよおじさんにおばさん! そんなとこで突っ立ってたら風邪ひくだろ! ……って, そっちの女の子、口から血が出てんじゃん! 大丈夫か!?」
場違いなほど明るい大声に、両親がビクリと肩を揺らす。
父親は、映二を遠ざけるように忌々しげに吐き捨てた。
「君には関係のないことだ、あっちへ行きなさい! その子は……その子は異常なんだ! 雀の血をストローで啜るような、そんな狂った真似を……っ」
父親の言葉に、女の子はびくっと身体を震わせ、さらに深く顔を伏せて激しく泣きじゃくった。 だが、その「血を啜る」という言葉を聞いた瞬間、映二の目がカッと見開かれた。自身の燃費の悪い大食い個性のせいで、日頃から「身体の栄養バランス」についてノートに書いて研究していた映二の頭脳が、一瞬で一つの答えを導き出したのだ。
「……待て。血を吸うと安心するのか? それって狂ってるとかじゃなくて……君さ、普段からなんかすっごく身体がだるかったり、立ちくらみがしたりしねえか!?」
「……え……? う、うん……いつも、なんか、クラクラして……冷たくて……」
「やっぱりな! お前、血を吸いたいんじゃなくて、体内の鉄分が圧倒的に足りてねえんだよ! 個性の燃費が最悪なせいで、身体が極限の貧血状態になってんだ! ――ちょっと待ってろ!!」 言うが早いか、映二は雨の中を猛スピードで反転。公園のすぐ近くにあるコンビニへと弾丸のように走り去っていった。
残された両親とトガちゃんが呆然とする中、わずか数分後、映二は息を切らせて両手に大きなコンビニ袋を抱え、再び公園へと突っ込んってきた。袋の中には、レジ横の温かい焼き鳥レバー、惣菜のレバー炒め、鉄分補給の飲むヨーグルトがこれでもかと詰め込まれている。
「ハァ、ハァ……! ほら、これ食え! 今すぐ鉄分をブチ込むんだ!」
映二はパックを無理やりこじ開け、トガちゃんの口元にレバーを突きつけた。トガちゃんが戸惑いながらもそれをパクリと口に含むと、濃厚な鉄分の旨味が身体に染み渡り、いつも冷え切っていた指先がじんわりと温かくなっていく。
「な、何を勝手なことを! そんなものでその子の異常が治るわけが――」
「異常じゃねえよ! ただの『個性』だろ!」
父親の言葉を、映二は胸ぐらを掴むかのような熱い眼光で遮り、吠えた。
「見た目が獣の人もいれば、背中に羽が生えている人もいる。その人達は異常なのか? 違うだろ! この子も一緒だ! ただ血が好きなだけだ! それを親が怖がってどうすんだよ!」「……っ!」
「おじさんたちさ、娘が怖くて普通を押し付けてるだけだろ。そんなの、この子の個性を『ヴィランの個性』だって、親が決めてるのと同じじゃねえか!」
少年の、しかし魂を揺さぶるような力強い正論に、両親が言葉を詰まらせる。
映二は再びトガちゃんに向き直り、満面の笑顔を浮かべた。
「なあ、君の個性、めちゃくちゃ凄そうじゃん。血を摂取して発動するってことはさ、もしかしたらプロヒーローのブラドキングみたいに、自分の血や他人の血を自在に操れるようになるんじゃないか? それがもし『医療』とか『救急』の方向に向いたら、世界中の大怪我した人を誰よりも早く救える、最高にかっこいいヒーローになれるぜ。……あ、俺は鳳映二! 君の名前は?」
「……ひみこ、トガヒミコです……。ひー、ろー……? 私が……?」
「おう、ヒミコちゃん! あ、ごめん。いきなり意味わかんねえよな。実は俺、人の個性を解析して『メダル』にする個性を持ってんだ。この腰のベルトにそのメダルを入れると、俺もその個性が使えるようになる。だからさ、ヒミコちゃん。君の個性が一体どんなものなのか、俺が一緒に研究して、誰かを救うための正しい使い方を証明してみせるから……まずはその個性の可能性、俺のベルトで試させてくれないか? 俺たちの絆を、メダルにさせてよ」
映二が腰の初期型ベルトをトントン、と指で叩いて分かりやすく説明する。
突拍子もない話だったが、自分のドロドロした個性を「誰かを救うためのもの」として必死に肯定し、真剣に研究しようとしてくれる映二の瞳に、嘘偽りはなかった。
トガちゃんの目から、今度は拒絶への恐怖ではなく、救われたことへの大粒の嬉し涙が溢れ出した。
「……うん……っ! 私の全部、映二くんに解析してほしいです……!」
その瞬間、トガちゃんの純粋な愛と、映二への絶対的な信頼が空間を圧し、映二のベルトのスロットから一本の光の柱が立ち昇った。
光が収まった手のひらには、鮮やかな赤色のメダルが、カランと音を立てて実体化していた。『トガ・血(ブラッド)メダル(絆:★☆☆)』
それを見たトガの両親も、涙を流して崩れ落ちた。自分たちが娘を孤独に追い詰めていたことに、ようやく気付いたのだ。両親はトガちゃんを強く抱きしめ、何度も「ごめんね、ごめんね」と謝り続けた。
数年後。トガちゃんは、「血への愛着がちょっと強めで、映二くんにベタ惚れなだけの、明るく可愛い女の子」として真っ直ぐに育った。
彼女は自分の個性を医療の道へと昇華させるため、一足先に雄英高校へ進学し、リカバリーガールの弟子(2年生・保健委員)として、白衣の天使への道を歩み始めていた。
「映二くん! 今日も特製の超高カロリーレバー肉団子弁当、作ってきましたよぉ!」 これが、鳳映二の『本棚』の、すべての始まりの物語である。