僕のヒーローアカデミア 〜メダル使いの規格外ヒーローライフ〜 作:アルフアルフ
雄英高校ヒーロー科、実技試験会場。
周囲の受験生たちが緊張の面持ちで精神統一をする中、鳳映二(おおとり えいじ)は、ゲートの前で一人だけ異様な熱量を放っている小柄な少年を発見した。
紫色の、ぶどうのような球体が頭にいくつも生えた少年だ。
「うおおお女子の体操服……! 雄英に入れば、毎日あんな可愛い女子たちと波乱万丈な青春を送れるのかァァ!! 俺は絶対に合格して、モテモテのチェリー色ヒーローライフを掴み取るんだーーーっ!!」
お下がりのような中学校のジャージを着て、鼻血が出そうなほどの勢いで拳を突き上げる少年。周囲の受験生たちが「なんだあいつ……」とサッと引いていく中、映二だけは不敵に笑った。
「(なんだあいつ、めちゃくちゃ面白いな……)」
その時、突如として重厚なゲートが凄まじい音を立てて開き始めた。
カウントダウンも、心の準備を促すような合図も一切ない。スピーカーからプレゼント・マイクの「スタート!!」という声が、唐突に響き渡る。
「……え? あ、あれ?」
「カウントダウンは……!?」
周囲の受験生たちが一瞬割然と立ち尽くす中、映二の耳にマイクの追撃のアナウンスが届く。
『どうしたぁ!? 実戦にカウントダウンなんてねえぞ! ダイ・ラン(大疾走)だぁ! もう始まってんぞ!』
「よし、まずは俺もポイント稼ぎにいくか!」
誰よりも早く状況を理解した映二は、迷わず腰のベルトに、あらかじめ用意していた【父・ビーストメダル】をカチリと装填した。
瞬間、映二の脚部が頑強な毛並みに覆われ、野生の獣さながらの強靭な筋肉へと変貌する。個性の部分武装だ。
ドッ!! と爆発的な跳躍力で地面を蹴り飛ばした映二は、出遅れる受験生たちを置き去りにして一番乗りで模擬市街地へと流れ込んだ。ビルからビルへと四足獣のように縦横無尽に飛び回り、襲いかかる仮想ヴィラン(ロボ)の頭部を野生の怪力で次々と叩き潰していく。
「3ポイント! これで42ポイントか!」
ふと下を見下ろすと、先ほどの紫頭の少年が必死に立ち回っていた。
少年は頭から「もぎもぎ」をむしり取ると、迫り来るロボのキャタピラや関節部分にペタペタと超高速で貼り付けていく。粘着球によって駆動部をガチガチに固定されたロボたちは、次々とショートして機能停止していった。
「(あいつ、ただのバカじゃねえ。あの泥臭い個性で、ロボの弱点を完璧に完封してやがる……!)」
映二が少年の合理的な戦い方に感心した、その時だった。
ズズズズズズズン!!!!!
地響きと共に、模擬市街地のビル群を薙ぎ倒して、山のような巨体が出現した。
実技試験のギミックにして最大の障害――0ポイントの超巨大仮想ヴィラン(ギガントロボ)だ。
あまりの圧倒的な威圧感に、受験生たちは「逃げろ!」「あんなの勝てるわけねえ!」と悲鳴を上げて一斉にクモの子を散らすように逃げ出していく。もちろん、紫頭の少年も「ひええええーーーっ! 補給、補給だァァ!!」と涙目で爆走して逃げていく。
だが、逃げる群衆の真ん中で、映二だけは足を止め、不敵にニィッと口角を上げた。
「へえ、いいデカさじゃん。合格ラインのポイントはもう稼いだし……ちょっと新技のテストに付き合ってもらうか!」
映二はベルトのレバーを引き、手元にあった【父・ビーストメダル】を、限界を超えて3枚連続でスロットへと装填した。まだ開発途中の、ベルトに無理な負荷をかける最大出力モード。
オースキャナーを激しくスラッシュした瞬間、猛烈な野生のエネルギーが映二の全身を包み込み、一時的に完全に獣化した咆哮の装甲(ヒーロー形態・ビーストモード)へと変貌を遂げる。
「イクゾ、デカブツ……!」
ギガントロボが、映二を潰そうと巨大な鉄の拳を振り下ろしてくる。
映二は深く足を地面に踏み込み、周囲の空気を全て吸い込むかのように、その胸を大きく膨らませた。
そして――。
「オオオオオオオーーーーーーーッッッ!!!!!」
天をも引き裂き、試験会場全体の空間を激しく歪ませるほどの、特大の咆哮衝撃波(ビーストロア)が放たれた。
ドゴォォォォン!!!!!
凄まじい風圧と衝撃波の直撃を受け、超巨大ロボは装甲を木端微塵に粉砕され、内部の電子回路を全て吹き飛ばされてその場で大爆発。文字通り、一撃で跡形もなく粉砕された。
が、同時に、空気をビリビリと震わせる本物の『怪獣』のようなあまりの咆哮の恐ろしさに、試験会場の空気が一瞬で凍りつく。
「ひっ……!? な、なんだ今の声……!?」
「ヴィラン……!? 本物の化け物が紛れ込んでるんじゃ……っ」
直撃を免れた周囲の受験生たちは、あまりの本能的な恐怖に、逃げる足すらガタガタと震わせてその場にへたり込んでしまう。近くで爆走して逃げていた紫頭の少年も、背後から響いたあまりに恐ろしい獣の咆哮に「ひぎぃっ!?」と短い悲鳴を上げ、腰が抜けたように地面をごろごろと無様に転がり、頭を抱えて縮こまっていた。
別室のモニター室でこの会場の映像を見ていた試験官のプロヒーローたちすらも、「な、なんだあの受験生は……」「あの咆哮の圧、ただの個性じゃないぞ……」と、肌を刺すような戦慄に背筋を凍らせて画面を凝視する。アナウンス席のプレゼント・マイクも、まさかの光景と本能に響く大咆哮に、驚愕のあまり完全に言葉を失っていた。
爆風が吹き荒れ、ようやく静寂が戻った試験会場。恐る恐る振り返った紫頭の少年が、白煙の向こうで0ポイントロボが鉄屑になっているのを見て「す、すげえ……」とガタガタ震えながら言葉を失う中、映二の変身がシュン……と強制解除された。
だが、その直後。
「……あ、アカン。めちゃくちゃ腹減った……生命の危機レベルで餓死する……。腹……減った……」
『ビーストロア』は一瞬で数万キロカロリーを消費する、恐ろしく燃費の悪い大技だった。
映二の顔面はみるみるうちに真っ青になり、お腹から「グゥゥゥゥーーーッ!!」と雷のような大音量が響き渡る。さっきまでの威圧感はどこへやら、そのまま目がぐるぐる巻きになり、映二は地面に行き倒れた。
「おい大丈夫かお前ーーーッ!?」
さっきまでビビり散らかしていた紫頭の少年が、今度は別の意味で大慌てになり、頭の「もぎもぎ」を揺らしながらスライディングで駆け寄ってくる。
「おい、死ぬな! すげえ技だったけど、なんで急にガリガリの干からびた行き倒れみたいになってんだよ!! しっかりしろ! おい!!」
これが、鳳映二と峰田実の、最悪で最高の出会い。
そして合格後、1年A組のクラス発表掲示板の前で再会して初めてお互いの名前を名乗り合うことになる。
入学した映二は、個性の燃費が悪すぎるせいで、漫画に出てくる大食漢のように両手に肉を持って豪快にバクバク平らげる超大食いキャラとして、クラスの騒がしい名物となっていくのだった。