幻想郷。
それは幻想となった者が集う場所である。
人間、妖怪、鬼、幽霊・・・様々な『幻想』が、ここで一つに暮らしている。
そして、この幻想郷を創り、そして守ってきた妖怪がいた。
名を、八雲紫。
どんな妖怪でも無く、ただ八雲紫という妖怪で、長い間幻想郷の管理者としてそこに居る。
そしてこれは、八雲紫と幻想郷の、最期の物語。
「・・・様」
「?」
「紫様」
目を覚ますと、なんともいえない心地よい自然の香りが漂っていた。
起こしに来たのは藍だった。
「あら・・・おはよう。今日はどの位寝ていたかしら」
「19時間と37分です、紫様」
「そう、ありがとう」
私がここまで長く寝ているのには、理由がある。
理由と言っても、そんなに形式ばった事ではないが。
私は生まれた時から、殆ど眠る事は無かった。
まだとても小さかった頃は、毎晩親を起こし困らせたと言う。
だけども、それから私は徐々に、眠るようになっていった。
人間でいう平均睡眠時間、約6時間になったのは500年後位だった。
「お茶を淹れましょうか?」
「ありがとう、頂くわ」
「承知しました、少々お待ち下さいね」
しかしそれからも、眠る時間がそのままになるような事は無かった。
少しずつ、少しずつと眠る時間が増えていっている。
確か異変が立て続けに起こった頃には、半日は眠るようになっていたか。
「今日はいい天気ね。橙は?」
「そうですね。結界にほつれが出来そう、と朝から飛び出していきましたよ」
「仕事熱心な子に育ったわね」
「いえそんな・・・まだまだ、これからですよ」
「あら、厳しい」
今では、19時間。確実に、時間が伸びていっている。
・・・この時間が24時間になった時、私はどうなってしまうのだろう。
最近になって、そう考えるようになった。
「年のせいかしらね」
「?」
「ああ、失礼。昔を思い出しちゃってね」
「昔、と言いますと?」
「・・・博麗霊夢が居た時代。」
「確かに、私も印象に残りますね」
博麗霊夢。ああ、なんて懐かしい。
あれから何人もの博麗の巫女を見てきた。
だけれども、あれほどに印象に残った巫女は居ない。
「少し、散歩に出てくるわね」
「ご一緒しましょうか?」
「ありがとう、でも今日は一人で行きたい気分ね」
「承知しました、お気をつけて。」
こんな事を考えていたら、無性にそこへ行きたくなってきた。
博麗神社。今もまだ、変わらずそこに存在している。
そして同じく変わらず、一人の巫女がそこで暮らしている。
「おはよう」
「・・・紫ね。」
「あら、バレた?」
「真後ろから急に話しかけて来るなんて、アンタ位しかいないわよ」
「それもそうね」
彼女が今の博麗の巫女、博麗霊奈。
先代に劣らず、負けん気な性格だ。
「何の用?」
「特に用は無いの」
「じゃあ何なのよ」
「急に見たくなってね、その紅白の巫女服が」
「訳分からないわ」
「分からなくていいのよ。」
時代は流れたが、あの巫女服だけは変わっていない。
やはり、いつ見てもいい物だ。
「霊奈」
「何?」
「デートしない?」
「・・・何を企んでるのよ」
「いいじゃない。どうせ暇なんでしょ?団子奢ってあげるから」
「しょうがないわね」
ゲンキンな所も先代譲り、と言った所か。
「どこに行きたいの?」
「そうね。妖怪の山なんか、どうかしら?」
「中々の悪趣味じゃない、乗った」
「嬉しいわ」
勿論、普通のデートなどする理由はない。
これからしにいくのは、妖怪の山への殴りこみである。
偶にはこうして体を動かさないと、幻想郷の管理者としての力も鈍ってしまう。
「で、目標は」
「守矢神社、でどう?」
「いいわね。私も結構強くなったの、見せてあげるわよ」
「あらあら、それは楽しみ。」